住めば都の花柳館 第九回 純白のドレスに誓う純愛の巻

　「富山弥兵衛」。

　今回の史実系キャラの中でも知名度が断トツで低いであろう彼。

　実は発売前の段階では、すごく苦手な印象を持ってました。
　不気味、というか気持ち悪い、というか。底知れない不安をかきたてられてしまったんです。

　でもいざプレイしてみたら……このシナリオも実に素晴らしくて、富山のことも愛しく感じるようになりました。

　純愛。まさに純愛なんですよ……！！


　キーワードは、


「大久保一蔵」

「御陵衛士」

「近藤勇襲撃事件」


　あたりにしときますか。

　ではネタバレレビューは下の→リンクからどうぞ！

　富山弥兵衛(トミヤマ・ヤヘエ)。
　今回の攻略キャラでは大石に次ぐ「奇人」かもしれません。
　いつもおっとりした笑顔を浮かべていて、人当たりがよく、誰に対しても丁寧口調で語りかけますが、彼には「意志」がありません。
　人から頼み事をされると、それがなんであれ絶対に断らない。
　その反面、自身は何も望まず、好き嫌いを言うことすらなく、ほとんど無感情です。
　そして頭があまりよくないので、すぐに人から利用されてしまうのですが、全くお構いなしといったふう。
　
　何故そうなってしまったかははっきり語られず、ただ「なんでも人の命令に従え」と言われて育ったということしかわかりません。私は薩摩が秘密裏に開発した人造人間じゃないかと疑っています。笑。

　それは冗談にしても、長身にも関わらず、戦闘において人間離れした動きをすることも併せて、どこかロボット的な印象がありますね。

　元々薩摩藩士である富山は、その性格が災いしたか、他藩と問題を起こして故郷を追われます。
　同じく薩摩の中村によって庵に託された富山は、結局庵の意向によって新撰組に入ることになります。

　新撰組と険悪な薩摩の人間ということでその入隊には賛否がありましたが、彼が酔った三木の飲み代を用立ててあげたことから、恩義に感じた伊東の推薦によって決まります。

　新撰組に入った後も、「居心地がいい」という理由でしばしば花柳館を訪れる三木は、花柳ファミリーとしても溶けこんでいきます。

　その一方で、薩摩のミスター黒幕・大久保一蔵は富山に間者として新撰組の内情を報告するように命じていました。
　もちろん富山は断りません。


　命令さえされれば、人を斬ることにすら何の躊躇いもなく、命を奪うことの意味が理解できない富山の姿にヒロインは胸を痛めます。

　ヒロインは富山に、人を殺すことはその人の人生を奪うことだと教えます。
　新撰組にいる以上、人を斬るのは仕方がないが、無感情に斬ってほしくはないと語るヒロインに、富山は少しですが、理解を示します。

　その様子を見ていた才谷は「褒美」だと言ってヒロインに異国の婚礼衣装を着せます。
　純白のドレスを着たヒロインを見て、富山は「綺麗だ」と呟き、才谷からこんなヒロインを斬れるかと聞かれると、「斬れない」と答えます。

　才谷はそんな富山にも男性の婚礼衣装を着せて(これが超似合っててかっこいい！)二人を向かい合わせ、こんな綺麗な格好をしたヒロインをもっと見たくないかと問います。

「……見たいです」

　戸惑いながらも、彼は「望み」を口にします。
　富山の自我がゆっくりと芽をふいた瞬間ですね。


　富山の心に働き掛けた人間がもう一人、新撰組参謀・伊東甲子太郎です。
　富山のことを大切な友人だと言い、御陵衛士の仲間として一緒に新撰組を出ようと誘います。
　伊東が自分を必要としてくれたこと、そして「もう人を斬らなくていい」と言ってくれたこと。
　ヒロインの言葉を受けて殺人に消極的になっていた富山は、喜んで伊東と行動を供にします。

　それは間者として新撰組の内情を報告しろという大久保の命令を無視する行為でした。

　御陵衛士となってから、どんどん人間らしい感情を抱くようになり、ヒロインの前で心からの明るい笑顔さえ見せるようになった富山でしたが、呪縛は終わりません。

　大久保は富山を呼び出し、ある書状を京都見廻り組に渡すように命じます。
　伊東たちへの支援を断ち切るという脅しに屈した富山は断りきれず、ヒロインに相談しようと花柳館に向かう途中で書状を大石に奪われてしまいます。

　書状には潜伏中の才谷の居場所が書かれており、ほどなく才谷は大石の手によって葬られ、新撰組を才谷の仇と取った御陵衛士は彼等に不信感を抱くようになってしまいます。

　間接的に才谷の死を招いてしまったことに、一人苦悩する富山に追い討ちをかけるように、敬愛する伊東が殺され、数名の仲間たちが命を散らす。

　自分が意志を持って何かを望んでいたせいで大切な人たちが死んでしまった……大石を憎むことも、大久保を憎むこともできず、ただ自分を憎んでしまった富山は再び深く心を閉ざし、偽りの笑顔すら忘れて無表情になってしまいます。

　ヒロインはそんな富山に、自分を許せないなら私があなたを許します、と訴え、どんなことでもいいから力になりたいと涙ながらに懇願します。
　富山はそんなヒロインの姿に心を揺さぶられるのを感じ、「俺はあなたが好きなのでしょうか？」とヒロインに問います。

　ヒロインの反応は「そんなこと私に聞かないでください」。もっともですね。笑。


　富山は同士である篠原に命じられ、近藤勇を狙撃してしまいますが、深い後悔を抱きます。

　もう絶対に人を傷付けたくないと感じた富山は、戦場に借り出されるようになってからも戦うことを躊躇い、三木はそんな富山を理解して後ろに退くように言います。

　戦場で背中に銃弾を受けて療養することになった富山をヒロインは訪ねていきますが、会ってもらえません。
　中村から、自分のことは忘れて幸せになるように、との伝言をうけてうちひしがれます。

　しばらくの後、傷の癒えた富山ですが、戦場に出ることを拒んだため、別の任務を受けることになります。
　敵のテリトリーである越後の出雲崎への潜入調査です。

　出雲崎に入った富山はあっという間に敵に囲まれてしまいますが、もう人を傷付けたくない、と抵抗もせずに捕まってしまいます。

　執拗な拷問で傷だらけになりながらも口を割らない富山。

　尋問の係の男の一人が、風変わりな富山に少し興味を引かれて話しかけると、富山は男にふと、

「相談に乗ってもらえますか？」

　富山……。笑。

　自分を拷問している相手にまったり口調で相談を持ちかけるって……どんなだよ！

　あまりにも富山らしくて、おかしいと同時にせつなくなってきちゃいました。

　男は富山の話を聞いて、「その女は間違いなくお前に惚れてるぞ」と答えます。
　「あの人が俺を……？」と戸惑う富山。
　
　思わず和やかに話し込んでしまっていた男を他の男が叱咤し、また拷問が始まろうとしたせつな、驚くべき情報が飛込んできます。

　腰に刀を差した怪しい女が、向かいの宿に泊まっている。


　それはつのる思いを押さえきれず、単身富山を追ってきたヒロインに他なりません。

　ヒロインを捕える、という敵の言葉を聞き、富山は豹変。
　戒めを引き千切って抜け出し、ヒロインを連れて逃げようとします。

　二人は追っ手から逃げながら古寺に飛び込みます。
　いつかはここも見付かってしまう……と予感しつつ、二人は一夜を過ごすことにします。

　ヒロインのことを考えると胸が苦しくて辛いので、いっそもう死んでしまえばいいと思っていた富山。
　ヒロインは、それは恋だと言い、自分も同じ気持ちであることを明かします。

　そして京都から大切に抱えてきたもの……才谷の遺品とも言うべき、あのウエディングドレスを着て「私をあなたの妻にして下さい」とプロポーズし、富山も喜んで受け入れます。

　夫婦の誓いを交しても敬語で話そうとする富山(彼は敬語をつかうべき相手と、つかわなくていい相手の判別が出来ないから誰にでも敬語だった)に注意したりして、二人はその夜を幸せを噛み締めながら過ごします。


　翌朝「昨夜はまるで夢のようだった」と呟く富山。


　深読みしたくなる言葉ですが、既成事実があったかどうかはプレイヤー判断って感じですね。笑。



　まだ眠っているヒロインに笑顔で別れを告げて、富山は寺を出て行きます。

　自分が囮として出て行けば、ヒロインが死なずに済むと信じて。


　目を覚ましたヒロインは富山がいないことに気付き、後を追います。

　途中で立ちはだかったのは、昨夜富山の恋愛相談に応じていた男でした。

　富山の思いを無駄にしないように逃げろ、と示唆する男でしたが、ヒロインの決意が固いのを知ると、道を開けて富山のところへ行かせてくれます。


　周囲を敵に囲まれた富山は、ヒロインを見付けて「来てしまったか」と呟き、微笑します。

　「逃げろ」「君の夫としての最後の命令だ」……そうきっぱりと「意志」を示した富山の身体を何本もの剣が貫きます。何度も、何度も。

　しかし富山は倒れません。敵を睨み、「彼女に手を出すなら死んでやらんぞ」と凄みます。
　その凄まじい有り様に感服した敵もまた富山を「剛の者」と称え、ヒロインに手出ししないことを約束します。

　富山はヒロインに「俺は君を愛している」とはっきりと伝え、全身50箇所余りを貫かれながら、ついに微笑んで立ち尽くしたまま絶命します。

　富山の強い想いによって守り抜かれたヒロインもまた、富山をずっと愛し続けると心に誓うのでした。






　卑怯ですよね。泣。
　そんなんされたら普通に泣くやんけ。

　富山がラストで死ぬであろうことは史実からも明らかでしたが、覚悟してても……ねえ。

　シリアスな展開の連続なのに、富山の天然ボケが要所要所炸裂するもんだから、一瞬気が緩んでしまうんですよ。
　気が緩んだところにまたせつない展開がくる、という……とにかく卑怯なんですよ、もう！

　幕末を生き抜くには純粋過ぎてしまった富山の悲劇。
　純愛、という言葉が一番似合うシナリオだったと思います。



　さて次は「中村半次郎」ですよ。この人は……難しいなあ。どうまとめたもんか……。