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プロフィール
HN:
麻咲
年齢:
41
性別:
女性
誕生日:
1983/05/03
職業:
フリーター
趣味:
ライブ、乙女ゲーム、カラオケ
自己紹介:
好きなバンド
janne Da Arc
Angelo
犬神サーカス団
シド
Sound Schedule
PIERROT
angela
GRANRODEO
Acid Black Cherry 他
好きな乙女ゲームとひいきキャラ
アンジェリークシリーズ(チャーリー)
遙かなる時空の中でシリーズ(無印・橘友雅、2.藤原幸鷹、3.平知盛、4・サザキ)
金色のコルダシリーズ(1&2・王崎信武、3・榊大地、氷渡貴史)
ネオアンジェリーク(ジェット)
フルハウスキス(羽倉麻生)
ときめきメモリアルGSシリーズ(1・葉月珪、2・若王子貴文)
幕末恋華シリーズ(大石鍬次郎、陸奥陽之助)
花宵ロマネスク(紫陽)
Vitaminシリーズ(X→七瀬瞬、真田正輝、永田智也 Z→方丈慧、不破千聖、加賀美蘭丸)
僕と私の恋愛事情(シグルド)
ラスト・エスコート2(天祢一星)
アラビアンズ・ロスト(ロベルト=クロムウェル)
魔法使いとご主人様(セラス=ドラグーン)
危険なマイ★アイドル(日下部浩次)
ラブマジ(双薔冬也)
星空のコミックガーデン(轟木圭吾)
リトルアンカー(フェンネル=ヨーク)
暗闇の果てで君を待つ(風野太郎)
ラブΦサミット(ジャン=マリー)
妄想彼氏学園(神崎鷹也) 他
バイト先→某損保系コールセンター
janne Da Arc
Angelo
犬神サーカス団
シド
Sound Schedule
PIERROT
angela
GRANRODEO
Acid Black Cherry 他
好きな乙女ゲームとひいきキャラ
アンジェリークシリーズ(チャーリー)
遙かなる時空の中でシリーズ(無印・橘友雅、2.藤原幸鷹、3.平知盛、4・サザキ)
金色のコルダシリーズ(1&2・王崎信武、3・榊大地、氷渡貴史)
ネオアンジェリーク(ジェット)
フルハウスキス(羽倉麻生)
ときめきメモリアルGSシリーズ(1・葉月珪、2・若王子貴文)
幕末恋華シリーズ(大石鍬次郎、陸奥陽之助)
花宵ロマネスク(紫陽)
Vitaminシリーズ(X→七瀬瞬、真田正輝、永田智也 Z→方丈慧、不破千聖、加賀美蘭丸)
僕と私の恋愛事情(シグルド)
ラスト・エスコート2(天祢一星)
アラビアンズ・ロスト(ロベルト=クロムウェル)
魔法使いとご主人様(セラス=ドラグーン)
危険なマイ★アイドル(日下部浩次)
ラブマジ(双薔冬也)
星空のコミックガーデン(轟木圭吾)
リトルアンカー(フェンネル=ヨーク)
暗闇の果てで君を待つ(風野太郎)
ラブΦサミット(ジャン=マリー)
妄想彼氏学園(神崎鷹也) 他
バイト先→某損保系コールセンター
アクセス解析
2007/11/01 (Thu)
一次創作関連
「若い、って羨ましいと思いません?」
「……君は私よりは随分若いと思うが」
「いやいや……もうね、いくら人生をリセットしようとしてもやり直せるような年やないですからね、僕も」
指先でもてあそんでいた林檎の意匠の指輪をピンと弾くと、高く上がったそれはくるくる回転しながら床に落ちた。
それは先ほど彼が「恋人」から返却されたもの。
今となっては不要になってしまった虚しい飾り。
「袖にされたのが堪えたのか?」
「まあ……それなりに。でも、あの時ほどやないかなあ」
「……あの時、とは?」
「水無子にフラれた時ですよ……」
《第10章 吸血鬼 -baptize-》【2】
「やっぱり気付いてなかったですか?
昔から色恋沙汰だけは疎かったですもんねぇ、先生は……」
ホテルの地下にある静かなバーのカウンターで、世界的に有名なピアニストと、世界的に有名なデザイナー兼ブランドオーナーが肩を並べてグラスを傾けていた。
「水無子にね、もっと自由な場所で幸せにしたるから、僕と逃げようてゆうたったんですわ。
けど……水無子はなんぼしんどくても先生とおりたかったみたいですよ」
高槻は神妙な顔付きで、黙って秀人の顔を見やった。
秀人は年のわりに無邪気な印象を与える、彼独特の笑みを浮かべる。
「ま、僕としては軽い屈辱を感じるんですけど……水無子は高槻先生の妻として死ねたこと、満足なんと違いますかね」
高槻は相変わらず黙っていたが、秀人は構わずに更に続けた。
「日向子はええ子に育ちましたね。水無子に似て情が深くて、先生に似て芯が強い。あの子がうちのんと一緒んなってくれたら僕はホンマに嬉しいです。
……けど」
「……けど?」
「あの子は、どんな男と結ばれても、どんな生き方を選んでも……絶対に幸せを掴めると思いますよ。心配ご無用です」
「……私が過保護だと言いたいのかね?」
「……そうですねぇ、僕は無責任なくらい放任でしたけど、みんな案外まともに育ってたみたいなんで。
もう少し気楽に構えても大丈夫でしょ」
高槻は、いつもの気難しい顔で沈黙したきりだった。
ややあって、秀人が空気を変えるように明るいトーンでまた話し始める。
「そうそう、さっき小原さんとこのお嬢さんを見かけましたよ。何て名前でしたっけね……」
華やかなドレスからカジュアルなワンピースとコートに着替えた日向子は、少し早足でホテルの裏手で待っている筈の車へと急いだ。
てっきり玄鳥か有砂の車が待っているのかと思っていたが、日向子の姿を見付けて、ライトの明滅でサインを示してきたのは釘宮家の所有する黒塗りの高級車だった。
自然に、日向子の足はより一層早くなる。
日向子が車のすぐ側まで辿り着くと、ゆっくりと運転席のドアが開いて、降りて来た人物は慣れた仕草で後部座席のドアを開き、恭しく頭を垂れた。
「どうぞお乗り下さい、お嬢様」
「あ……」
日向子は思わず彼の顔をじっと見つめてしまう。
「いかがなさいました? お急ぎでいらっしゃるのではないのですか」
「え、ええ……」
戸惑いながらもとりあえず車に乗り込んだ。
丁寧にドアを閉めて、改めて運転席についた青年の顔を斜め後ろから見つめる。
眼鏡をかけた顔を見るのはいつ以来だっただろうか……?
「……雪、乃……?」
戸惑いを拭えないまま、そっと呼び掛ける。
「はい」
すぐに返事が返ってくる。
日向子は静かに問う。
「……本当の自分を偽る必要はもうなくなったのに、まだ続けるの……?」
日向子が「雪乃」と呼んで接してきた、この口数が少なく、冷静沈着に構えた青年は、彼が演じていた偽りの姿。
本来の彼は、「蝉」としてバンドの仲間といる時のような、明るく賑やかでよく喋り、コロコロと表情を変える青年の筈だ。
「もしお嬢様がご不快に感じるのでしたら、やめますが……」
彼はいたって真面目な口調で答える。
「私はあなたに『雪乃』と呼ばれてきたこの『私』を、今はとても愛しく思います。
あなたは、どの私も大切だと言って下さいましたから……私の中で『雪乃』はもう偽りではなくなったような気がしています」
「雪乃……」
今度はためらわずに呼ぶことができた。
今ここにいるのは間違いなく「雪乃」なのだ。
雪乃は少し目を伏せて、
「……お嬢様に、お返ししなければならないものがあります」
と告げ、少し身を屈めると、サイドシートの下から何かを取り出し、両の手で丁重に抱え、それを日向子に差し出した。
「……これは……」
日向子は目を丸くした。
それは先日、処分されたとばかり思っていたビロードの表紙のアルバム数冊。
そっくりそのまま、一冊も欠けることなく揃っていた。
「どうしてですの……?」
受け取って、思わず胸にきつく抱き締めながら問う。
雪乃はどこか苦しげな表情を浮かべた。
「……実際、処分するつもりで持ち出したのですが……結局どうしても出来ず、ここに隠していました。
お嬢様を悲しませてしまい、本当に申し訳ございませんでした」
「……あなたにとっても釘宮家での思い出は何の価値もないものではなかったのね……」
「……はい」
どこかにまだくすぶっていた哀しみも不安も、全て一瞬にして消え去った気がした。
「……お嬢様を、深く傷付けて、悲しませてしまったこと……どう詫びたらよろしいでしょうか」
いたたまれない顔をしている雪乃にそっと微笑みかける。
「いいえ、いいのです。あの時のあなたはそうしなければ自分自身を保てなかったのでしょう……?
嘘をついたあなたは、きっとわたくし以上に辛かった筈ですわ」
「……あなたが諦めてくれたなら、私を軽蔑し、憎んでくれたなら……最後の躊躇いを断ち切れると思いました。
けれどあなたは、私のごとき小者の思い通りになるような方ではありませんでしたね」
つい先日、秀人に似たようなことを言われたばかりのような気がして、日向子は思わず首を傾げた。
「……思い通りにならない、というのは誉め言葉ですの?」
「……そうは聞こえませんでしたか?」
「よくわかりませんわ」
「では言い方を変えましょう」
雪乃はわずかに、ほんのわずかに微笑した。
「……お手を拝借致します」
日向子は一旦アルバムを横において、言われるがままに片手を差し出した。
雪乃は恭しくその手を取り、真摯な眼差しを日向子に向けた。
「……あなたは、美しい人です。心も身体も、全てに魅了されずにいられないほど」
予想を遥かに越えた直球の賛美に、日向子の心臓は激しく反応を示す。
体温が上がっていくのがはっきりとわかる。
「……雪乃……」
「……再びここに誓いを立てましょう。
いつか本当にあなたが誰かを選び、旅立つその日まで……この私があなたを守り通します」
そっと指先に唇が触れた。
誓いの口付け。
その手を離した後、雪乃はまるで何事もなかったようにハンドルを握り、車を出した。
日向子はいつものように目的地に着くまで他愛ないおしゃべりをし、雪乃は適度に相槌を打つ。
けれど互いの胸の高鳴りは、しばらくおさまることなく続いていた。
突発クリスマスパーティーは、heliodorメンバーと日向子、うづみ、後から誘った美々の八人で行われることになった。
ちなみに秀人もかなり参加に意欲的だったのだが、全員一致で却下となり、いじけながら高槻と飲みに行った次第だ。
パーティーの会場は話し合った結果、日向子のマンションに決まった。
理由は単純に一番広いからだったが、誰より強く主張したのは万楼で、どうやらheliodorの中で自分一人が日向子の部屋に入ったことがないのを密かに不満に感じていたようだ。
一度解散し、各自分担した買い出しを行い、約束の時間に日向子のマンションに集合することとなった。
「何をぼーっとつっ立っとんねん。邪魔臭い」
「あ……うん……ごめん」
有砂とシェアする部屋に久々に足を踏み入れた「蝉」は、着替えながらあちらこちらへ視線を向けた。
出て行く前と何も変わっていない。
何も変わっていない、ということは放置されていたということではない。
維持されていたということだ。
「……ねえ、おれの部屋も掃除とかしてくれてたの……?」
同居人に呼び掛ける。返事はない。
「……あ」
ベッドの枕の上に、蝉が捨てた筈のオレンジのウイッグと携帯電話が並べて置かれている。
「ねえ、拾ってくれたの……?」
懲りずに呼び掛ける。今度は返事があった。
「燃えるゴミのゴミ箱にほってあったやろ? ……いらんのやったら分別してもっかいほっとけ」
「……いつも分別しないのそっちじゃん……おれがいっつも後で直して、さあ……」
感極まって目の端に熱いものが込み上げてくる。
「……いらないわけないじゃん……っ」
この部屋ごと切り捨てようとした「蝉」。
全てが、ここで待っていてくれた。
「……っ」
今まで殺してきた分、一気にあふれ出した感情がとめどなく、流れる。
「……っ、うぁぁーあん、よっちぃぃーん……っ!!」
たまらなくなり、キッチンで冷蔵庫の中のミネラルウォーターを取り出そうとしていた有砂の背中に駆け寄り、おもいっきり抱きついた。
「な、なんや……!」
勢いで少し屈んだ姿勢のまま前のめり、頭を思いきり上段のドアにぶつけた有砂は後ろに首をひねり、抗議の目を向ける。
「……アホ、いきなり何すんねん」
しかし当の蝉はそれに気付いていない様子で、ひしと有砂の細身な胴体にしがみついている。
「よっちぃん……ごめんねぇぇ……っ」
「キショいっちゅうねん……離せ」
「っふぇえん……っ、よっちぃぃん……!」
「泣くなっ、鬱陶しい……」
ひどく久々に用いた「よっちん」という彼しか使わない呼称。
それを繰り返し呟きながら、ついに背中に頭を押し付けて号泣しだした蝉に、有砂は不機嫌な顔で舌打ちし、溜め息をついた。
「……まったく……難儀な親友やな」
蝉がより一層、火がついたように泣き出したことは言うまでもない。
さながら季節を間違えて鳴くセミのように……蝉はしばらくの間そのまま泣いていた。
「そうですか、じゃあ蝉さんが帰ってきて、日向子も当分寿退社はなしってことで、めでたしめでたしな感じですね」
今日の出来事を聞いた美々はかなり呑気に感想を口にした。
「めでたしめでたし……なんですかねえ」
玄鳥はめでたくない顔でハンドルを握っている。
助手席に美々を、後ろに万楼と、買い込んだ大量の食材を乗せて日向子のマンションへと向かう道すがら、彼のテンションはじりじり下降していく。
「……なんか最近、いつも俺、蚊帳の外なんですよね……」
「何言ってるの? ボクもリーダーもそうだったでしょう?」
「まあ……そうなんだけど、何ていうか」
玄鳥は進行方向を見つめたまま、少しその瞳をすがめた。
「俺は蝉さんみたいに昔から一緒にいたわけでも、有砂さんみたいに家族ぐるみで関係があるわけでもない……二人とも、なんかズルいよな……」
「玄鳥さんって、本当に日向子が好きなんですね~」
しみじみと評する美々に、玄鳥は今更顔を赤くする。
それに美々は笑って、少し抑えた声で囁いた。
「……だったら覚悟して下さいね」
「はい??」
「……うちの日向子を傷付けたら、もう明日は来ないと思って下さい♪」
冗談めいた口調と裏腹に、きらりと鋭く光る美々の眼差しに、玄鳥と万楼はただただ苦笑いをするしかなかった。
《つづく》
「……君は私よりは随分若いと思うが」
「いやいや……もうね、いくら人生をリセットしようとしてもやり直せるような年やないですからね、僕も」
指先でもてあそんでいた林檎の意匠の指輪をピンと弾くと、高く上がったそれはくるくる回転しながら床に落ちた。
それは先ほど彼が「恋人」から返却されたもの。
今となっては不要になってしまった虚しい飾り。
「袖にされたのが堪えたのか?」
「まあ……それなりに。でも、あの時ほどやないかなあ」
「……あの時、とは?」
「水無子にフラれた時ですよ……」
《第10章 吸血鬼 -baptize-》【2】
「やっぱり気付いてなかったですか?
昔から色恋沙汰だけは疎かったですもんねぇ、先生は……」
ホテルの地下にある静かなバーのカウンターで、世界的に有名なピアニストと、世界的に有名なデザイナー兼ブランドオーナーが肩を並べてグラスを傾けていた。
「水無子にね、もっと自由な場所で幸せにしたるから、僕と逃げようてゆうたったんですわ。
けど……水無子はなんぼしんどくても先生とおりたかったみたいですよ」
高槻は神妙な顔付きで、黙って秀人の顔を見やった。
秀人は年のわりに無邪気な印象を与える、彼独特の笑みを浮かべる。
「ま、僕としては軽い屈辱を感じるんですけど……水無子は高槻先生の妻として死ねたこと、満足なんと違いますかね」
高槻は相変わらず黙っていたが、秀人は構わずに更に続けた。
「日向子はええ子に育ちましたね。水無子に似て情が深くて、先生に似て芯が強い。あの子がうちのんと一緒んなってくれたら僕はホンマに嬉しいです。
……けど」
「……けど?」
「あの子は、どんな男と結ばれても、どんな生き方を選んでも……絶対に幸せを掴めると思いますよ。心配ご無用です」
「……私が過保護だと言いたいのかね?」
「……そうですねぇ、僕は無責任なくらい放任でしたけど、みんな案外まともに育ってたみたいなんで。
もう少し気楽に構えても大丈夫でしょ」
高槻は、いつもの気難しい顔で沈黙したきりだった。
ややあって、秀人が空気を変えるように明るいトーンでまた話し始める。
「そうそう、さっき小原さんとこのお嬢さんを見かけましたよ。何て名前でしたっけね……」
華やかなドレスからカジュアルなワンピースとコートに着替えた日向子は、少し早足でホテルの裏手で待っている筈の車へと急いだ。
てっきり玄鳥か有砂の車が待っているのかと思っていたが、日向子の姿を見付けて、ライトの明滅でサインを示してきたのは釘宮家の所有する黒塗りの高級車だった。
自然に、日向子の足はより一層早くなる。
日向子が車のすぐ側まで辿り着くと、ゆっくりと運転席のドアが開いて、降りて来た人物は慣れた仕草で後部座席のドアを開き、恭しく頭を垂れた。
「どうぞお乗り下さい、お嬢様」
「あ……」
日向子は思わず彼の顔をじっと見つめてしまう。
「いかがなさいました? お急ぎでいらっしゃるのではないのですか」
「え、ええ……」
戸惑いながらもとりあえず車に乗り込んだ。
丁寧にドアを閉めて、改めて運転席についた青年の顔を斜め後ろから見つめる。
眼鏡をかけた顔を見るのはいつ以来だっただろうか……?
「……雪、乃……?」
戸惑いを拭えないまま、そっと呼び掛ける。
「はい」
すぐに返事が返ってくる。
日向子は静かに問う。
「……本当の自分を偽る必要はもうなくなったのに、まだ続けるの……?」
日向子が「雪乃」と呼んで接してきた、この口数が少なく、冷静沈着に構えた青年は、彼が演じていた偽りの姿。
本来の彼は、「蝉」としてバンドの仲間といる時のような、明るく賑やかでよく喋り、コロコロと表情を変える青年の筈だ。
「もしお嬢様がご不快に感じるのでしたら、やめますが……」
彼はいたって真面目な口調で答える。
「私はあなたに『雪乃』と呼ばれてきたこの『私』を、今はとても愛しく思います。
あなたは、どの私も大切だと言って下さいましたから……私の中で『雪乃』はもう偽りではなくなったような気がしています」
「雪乃……」
今度はためらわずに呼ぶことができた。
今ここにいるのは間違いなく「雪乃」なのだ。
雪乃は少し目を伏せて、
「……お嬢様に、お返ししなければならないものがあります」
と告げ、少し身を屈めると、サイドシートの下から何かを取り出し、両の手で丁重に抱え、それを日向子に差し出した。
「……これは……」
日向子は目を丸くした。
それは先日、処分されたとばかり思っていたビロードの表紙のアルバム数冊。
そっくりそのまま、一冊も欠けることなく揃っていた。
「どうしてですの……?」
受け取って、思わず胸にきつく抱き締めながら問う。
雪乃はどこか苦しげな表情を浮かべた。
「……実際、処分するつもりで持ち出したのですが……結局どうしても出来ず、ここに隠していました。
お嬢様を悲しませてしまい、本当に申し訳ございませんでした」
「……あなたにとっても釘宮家での思い出は何の価値もないものではなかったのね……」
「……はい」
どこかにまだくすぶっていた哀しみも不安も、全て一瞬にして消え去った気がした。
「……お嬢様を、深く傷付けて、悲しませてしまったこと……どう詫びたらよろしいでしょうか」
いたたまれない顔をしている雪乃にそっと微笑みかける。
「いいえ、いいのです。あの時のあなたはそうしなければ自分自身を保てなかったのでしょう……?
嘘をついたあなたは、きっとわたくし以上に辛かった筈ですわ」
「……あなたが諦めてくれたなら、私を軽蔑し、憎んでくれたなら……最後の躊躇いを断ち切れると思いました。
けれどあなたは、私のごとき小者の思い通りになるような方ではありませんでしたね」
つい先日、秀人に似たようなことを言われたばかりのような気がして、日向子は思わず首を傾げた。
「……思い通りにならない、というのは誉め言葉ですの?」
「……そうは聞こえませんでしたか?」
「よくわかりませんわ」
「では言い方を変えましょう」
雪乃はわずかに、ほんのわずかに微笑した。
「……お手を拝借致します」
日向子は一旦アルバムを横において、言われるがままに片手を差し出した。
雪乃は恭しくその手を取り、真摯な眼差しを日向子に向けた。
「……あなたは、美しい人です。心も身体も、全てに魅了されずにいられないほど」
予想を遥かに越えた直球の賛美に、日向子の心臓は激しく反応を示す。
体温が上がっていくのがはっきりとわかる。
「……雪乃……」
「……再びここに誓いを立てましょう。
いつか本当にあなたが誰かを選び、旅立つその日まで……この私があなたを守り通します」
そっと指先に唇が触れた。
誓いの口付け。
その手を離した後、雪乃はまるで何事もなかったようにハンドルを握り、車を出した。
日向子はいつものように目的地に着くまで他愛ないおしゃべりをし、雪乃は適度に相槌を打つ。
けれど互いの胸の高鳴りは、しばらくおさまることなく続いていた。
突発クリスマスパーティーは、heliodorメンバーと日向子、うづみ、後から誘った美々の八人で行われることになった。
ちなみに秀人もかなり参加に意欲的だったのだが、全員一致で却下となり、いじけながら高槻と飲みに行った次第だ。
パーティーの会場は話し合った結果、日向子のマンションに決まった。
理由は単純に一番広いからだったが、誰より強く主張したのは万楼で、どうやらheliodorの中で自分一人が日向子の部屋に入ったことがないのを密かに不満に感じていたようだ。
一度解散し、各自分担した買い出しを行い、約束の時間に日向子のマンションに集合することとなった。
「何をぼーっとつっ立っとんねん。邪魔臭い」
「あ……うん……ごめん」
有砂とシェアする部屋に久々に足を踏み入れた「蝉」は、着替えながらあちらこちらへ視線を向けた。
出て行く前と何も変わっていない。
何も変わっていない、ということは放置されていたということではない。
維持されていたということだ。
「……ねえ、おれの部屋も掃除とかしてくれてたの……?」
同居人に呼び掛ける。返事はない。
「……あ」
ベッドの枕の上に、蝉が捨てた筈のオレンジのウイッグと携帯電話が並べて置かれている。
「ねえ、拾ってくれたの……?」
懲りずに呼び掛ける。今度は返事があった。
「燃えるゴミのゴミ箱にほってあったやろ? ……いらんのやったら分別してもっかいほっとけ」
「……いつも分別しないのそっちじゃん……おれがいっつも後で直して、さあ……」
感極まって目の端に熱いものが込み上げてくる。
「……いらないわけないじゃん……っ」
この部屋ごと切り捨てようとした「蝉」。
全てが、ここで待っていてくれた。
「……っ」
今まで殺してきた分、一気にあふれ出した感情がとめどなく、流れる。
「……っ、うぁぁーあん、よっちぃぃーん……っ!!」
たまらなくなり、キッチンで冷蔵庫の中のミネラルウォーターを取り出そうとしていた有砂の背中に駆け寄り、おもいっきり抱きついた。
「な、なんや……!」
勢いで少し屈んだ姿勢のまま前のめり、頭を思いきり上段のドアにぶつけた有砂は後ろに首をひねり、抗議の目を向ける。
「……アホ、いきなり何すんねん」
しかし当の蝉はそれに気付いていない様子で、ひしと有砂の細身な胴体にしがみついている。
「よっちぃん……ごめんねぇぇ……っ」
「キショいっちゅうねん……離せ」
「っふぇえん……っ、よっちぃぃん……!」
「泣くなっ、鬱陶しい……」
ひどく久々に用いた「よっちん」という彼しか使わない呼称。
それを繰り返し呟きながら、ついに背中に頭を押し付けて号泣しだした蝉に、有砂は不機嫌な顔で舌打ちし、溜め息をついた。
「……まったく……難儀な親友やな」
蝉がより一層、火がついたように泣き出したことは言うまでもない。
さながら季節を間違えて鳴くセミのように……蝉はしばらくの間そのまま泣いていた。
「そうですか、じゃあ蝉さんが帰ってきて、日向子も当分寿退社はなしってことで、めでたしめでたしな感じですね」
今日の出来事を聞いた美々はかなり呑気に感想を口にした。
「めでたしめでたし……なんですかねえ」
玄鳥はめでたくない顔でハンドルを握っている。
助手席に美々を、後ろに万楼と、買い込んだ大量の食材を乗せて日向子のマンションへと向かう道すがら、彼のテンションはじりじり下降していく。
「……なんか最近、いつも俺、蚊帳の外なんですよね……」
「何言ってるの? ボクもリーダーもそうだったでしょう?」
「まあ……そうなんだけど、何ていうか」
玄鳥は進行方向を見つめたまま、少しその瞳をすがめた。
「俺は蝉さんみたいに昔から一緒にいたわけでも、有砂さんみたいに家族ぐるみで関係があるわけでもない……二人とも、なんかズルいよな……」
「玄鳥さんって、本当に日向子が好きなんですね~」
しみじみと評する美々に、玄鳥は今更顔を赤くする。
それに美々は笑って、少し抑えた声で囁いた。
「……だったら覚悟して下さいね」
「はい??」
「……うちの日向子を傷付けたら、もう明日は来ないと思って下さい♪」
冗談めいた口調と裏腹に、きらりと鋭く光る美々の眼差しに、玄鳥と万楼はただただ苦笑いをするしかなかった。
《つづく》
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