金色のコルダ３・ＳＳ【芹沢×かなで★その３】

　おはようございます、休日なのに無意味に早く目が覚めて久々に「夢色パティシエール」を、見てしまった麻咲です。

　たまにしか見ないけど、意外に侮れない作品ですわ。これはお菓子界の金色のコルダですよ。笑。

　夢パティが乙女ゲーム化したら、安堂一本釣りですが、今日はうっかり樫野に萌えた……。ごちそうさまです。



　まあそんなことはいいとして、ＳＳの話に入る前に、ちょっと久々に氷渡ネタ話していいっすか。笑。

　前に、メモリアルブックについて書いた時に、氷渡に花持たせるなら何か……って話をちょっとしたんですが、ぴったりな花があったことに最近気づきました。

　アジサイです、アジサイ。

　アジサイって英語では、「Hydrangea(ヒドランジア、ハイドランジア)」っていうんですよね。

　装飾花(ガク)でそれっぽく見せてるけど、実際の花はすごく小さいところもそれっぽいし、花期が６～７月だから、８月にはもう終わってる……っていうのが、何かを暗示してる感じ。笑。

　そして極めつけの理由がこちら。

　何しろ誕生花でした。

　じゃあしょうがないわ。笑。

　偶然なのか、狙った設定なのか、どちらにしても面白い。


　ちなみに花言葉は上のサイトにも少し出てますが、かなり色々あって、移り気、高慢、無情、あなたは美しいが冷淡だ(←ちょっと吹いた　笑)とか、非情に氷渡らしい(笑)ネガティブなものが多いんですけど、辛抱強い愛情、っていうのもあった。

　惚れたら一途なんですよ、きっと……！！


　……あー、すいません、妄想が過ぎました。笑。


　気を取り直して、芹沢×かなでです。


　今回はちゃんと予告通り、【恋の音:♪♪～♪♪♪】のイベントを想定したＳＳです。


　シチュエーション的には、またある本編のイベントをベースにしていますが、このイベントはどうしても芹沢×かなででやりたかったから、氷渡×かなでではやらずにとっておいた、という経緯があります。笑。

　また、芹沢くんに関して、あるちょっとした冒険を試みているのですが、それがどういう反応になるのか大変気になっています。

　このまま「こっちのほうがいい」のか。

　やっぱり「いつも通りがいい」のか。


　他の芹沢×かなで二次作家さんは一体どうしてるんだろう……。

　というか芹沢くんを愛する全ての皆様に広く問い掛けたいところではあります。笑。

　ぜひぜひ拍手、コメントなどでご意見をお聞かせ下さいませ。

　今回もシリーズ既読前提、本編ネタバレ大有りですので、オッケーな方のみ、「つづき」へどうぞ。



　反省会は今夜やります★

「……小日向さん、俺と一度、デートをしてみませんか？」

　そう言った瞬間、大きな目をますます大きく、丸くして彼女はじっと見つめて来た。

「……デート……私と？」

　その瞬間、行方知れずになっていた理性が、素知らぬ顔で舞い戻り、一気に自分の脈拍が上がるのがわかった。

　何をつまらないことを口走っているのだろう。

　それこそ「迂闊」ではないか。

　東金や土岐の言った言葉、そしてかなでの示した態度に、まるで「男として未熟」だと侮られた思いがして、少し、カッとなった。それだけのこと。

　恐らくただ、デート、という言葉にかなでが動揺するところが見たかったのだ。

　だが実際目の当たりにすると、満足感とは対極の感情が押し寄せ、冷や汗すら滲む。

「あ、いえ……今の言葉は」

　聞かなかったことにしてほしい、と告げるつもりだった。

　だが、まるで間に合わなかった。

「……じゃあさ、芹沢くん」

　破顔したかなでは、この上なく恐ろしい提案を無邪気に口にする。


「明日もしも東金さんが優勝したら、記念にデートしようよ」










【 うるわしきもの 】









「遅くなってごめん、待った？」

「いいえ……今、来たところです」

　待ち合わせ場所に５分遅れで姿を現した小日向かなでは、少し息を弾ませながら、けれどとてもいい笑顔を見せた。

「今日は、デート、だよね？」

「まあ……そうなりますね」

　東金千秋と冥加玲士が共に優勝を果たした、その２日の後、夏祭りの夜。
　「瑞島神社」の鳥居の前に２人はいた。

　箱根の時の地味な浴衣とはうって変わった、華やかな薄紅色に小花柄の浴衣で、髪も結い上げたかなでは、

「あ、浴衣じゃない」

　と、芹沢のいつも通りの制服姿を非難めいた眼差しで凝視する。

「え？　いけませんでしたか？」

「だって、せっかくのお祭だし……」

　かなでは少ししゅんとした様子だったが、すぐに立ち直りを見せ、おまけに、またこちらが予想だにしない提案をぶつけてきた。


「じゃあ、罰として今日１日敬語禁止で」

「……は？」

　何故浴衣を着て来なかっただけで罰が下るのか、そして何故罰の内容が「敬語禁止」なのか、サッパリ理解できない。

「……小日向さん、一体何を言い出すんです？」

「敬語はダメ」

「ですが」

「ダメったらダメ」

「……」

　なんだってこんなどうでもいいことで子どものようにムキになるのだろう。面倒な人だ。

　だがそう思う一方で、こんな程度のわがままなど、東金や土岐のそれと比べれば可愛いものだとも思えた。

　芹沢はコホン、とわざとらしく大きな咳払いをした。

「……わかった。これでいいのか？」

「……うん！！」

　だから何故、そこでそんなに嬉しそうにするのだろう。
　前にも、同学年の相手に敬語はよそよそしいから改めろと言われたことがあったが、そんなに気になっていたのだろうか。

　よくわからない。

　そもそも、条件らしきものが形式上あったとはいえ、彼女は何故デートを拒まなかったのだろう。

　芹沢がここへ来た理由は、自分の言葉の責任を果たすためだった。

　では小日向かなでは、どんなつもりでここに来たのだろう？

「じゃあ、早速出店巡りしちゃおっか。どこから行くー？」

「順番に端から見ていけばいいんじゃないか」

「そだね！」

　頷きながらかなでは、おもむろに、巾着を持っていない左手をこちらに差し出して来た。

　思いがけない行動だったために、すぐ反応出来ずにいると、

「……ダメ、かな？」

「……え？」

「……はぐれちゃうと、困るから」

　言わんとしていることは、わかった。

　芹沢はほんの一瞬躊躇した後で、その手を取った。

「……これでいいのか？」

「……うん！！」


　タメ口を強要されて、手まで繋がされて……もうこうなってくると、開き直りに近い感情が芽生える。

　この際、せいぜいデートらしくなるよう徹して、この状況を受け入れるべきなのかもしれない。

　それに。

　今握っている左手。

　その指先に出来た、まだ新しいヴァイオリンダコのカサカサした感触。

　それはこの夏、彼女が過ごして来た、そして明日からもまだ続く努力と苦難の日々を物語るものだった。

　せめて今日くらいは、コンクールのことを忘れて、楽しませてあげてもいいのではないか？

　すべて彼女の望むように、合わせてあげてもいいのではないか？

「あ、クレープ食べたいな」

　かなでは数メートル先にある、薄茶色のひさしの店を指指す。

「芹沢くんも、食べ……キャッ」

　不意な出来事。
　通行人の肩に弾かれて、よろめいたかなでが、胸に飛び込むような格好でぶつかり、勢い繋いだ手をほどき、正面から抱き留める状態になってしまう。

　相変わらず手のかかる、危なっかしい人だ。

「大丈夫か？」

「あ、うん、ごめん……ありがと」

　慌てて離れようとするかなでだったが、ちょうど中学生らしき団体がゾロゾロ背後を通過するところで、身動きがとれない有り様だった。


「……もうしばらくじっとしてたほうがいい」

「……そーだね」

「……」

「……」

「……」

「……何か、喋ってくれない？」

　確かにこれでは間がもたない。

　だが何を話すべきだろう。

　少し考えてから、口を開いた。

「……浴衣、だけど」

「うん」

「帯が、少し合ってない気がする」

「え……そう……だった？」

　あからさまにガッカリした様子でガクッとうなだれる。
　実に素直な反応だ。

　思わず、笑ってしまいそうだった。


「ああ、合ってないよ……だけど、髪飾りはいいと思った」

「……ホント？」

　かなではまだ俯いたままで、上目で恐る恐るこちらを見る。

「そんなことで嘘ついてどうするんだよ……それと」

「それと？」

「……髪、俺は上げてるほうが大人っぽくていいと思う」

　かなでは少しだけ驚いた顔をして、それからどこかはにかんだように、伏し目がちに微笑んだ。


「……ありがとう」


　その表情、仕草、声に、思わずはっとさせられる。

　それらがまるで、いつもとは別人のもののように感じたからだ。


　髪型が違うからなのだろうか？

　距離が近いからなのだろうか？


　ひどく艶めいて、美しく見えた。

　一瞬。
　ほんの一瞬だが。
　不覚にも、見とれていた。


「あ、もう大丈夫みたい、よかった……」

　ふっと、のしかかっていた重みが急に離れて、思わず一歩後ずさった。

「さあさあ、クレープクレープ♪」

　かなではといえば、もう一時も待てないとでもいうように、急ぎ足で駆けて行こうとする。

　その手を、急いで掴んだ。ほとんど、反射的に。

「あ」

　びっくりした様子でこちらを振り返ったその顔は、いつもと同じ、あどけない顔だった。

　手のかかる、危なっかしい、少女の顔をしている。

「手、繋ぐんじゃなかったのか？」

　そう問うと、

「……うん！」

　屈託無く笑って、そっと手を握り返して来る。

　かなでの手を引いて、先に立って歩き出しながら、心の中では、誰に対するものなのかよくわからない言い訳を繰り返す。

　これは形式上デートで、便宜上手を繋いではいるが、彼女とは、別になんでもない。

　しいて関係付けるなら、保護者と被保護者……そんなところだ。

　それ以上でも以下でもない。


　そうして言い訳をしていないと、他のことに頭の中を占拠されそうになる。



　彼女は、誘われれば、それが他の誰かでも一緒にここに来たのだろうか。

　人ごみが不安なら手を繋ぐだろうか。

　髪型を誉められたら、あんな顔を見せるのだろうか。

　あるいは、これほどに彼女が無防備なのは、やはり自分を「男」として認識していないことの証明にしかならないのか。


　そんなことを考えたところで答えは出ないし、答えを出したところでどうしようもない。

　そして。

　その問いのすべての解が、仮に「否」だったとしたらどうだというのか。


　そんな不毛な雑念を振り払うために、今はただ言い訳を必要としていた。











「はぁ……歩き過ぎてちょっと疲れちゃった」

「あれだけはしゃげば、まあそうなるだろうな」

「だって、楽しいんだもん……」

　芹沢は、違うのだろうか？

　先程からなんとなく表情がいつも以上に固かった気がするし。

　色々わがままを言い過ぎて呆れてしまったのかもしれない。

　祭の本会場からやや離れた、社の裏手にある少し薄暗い石段に並んで腰かけていると、夜風の涼しさに興奮が冷めていく。

　冷静になると、今まで自分がどれだけ舞い上がっていたのかがよくわかって、急に恥ずかしくなる。

「ごめんね」

　思わず謝っていた。

　芹沢は、うろんげにこちらを見やる。

「どうした？　急に」

「……なんか、私ばっかり楽しんじゃった気がしたから」

　芹沢が何か言おうとしている気配を感じたが、それより先に更に言葉を紡ぐ。

「だけど、誘ってくれて凄く嬉しかった。まだこれ、夢かもって思ってるくらい」

「……随分大袈裟だな」

「大袈裟じゃないよ、浴衣選んだりしてる間もずっと、夢見てる気分だったよ」

　そうまで言っても、芹沢は、まだ信じていない様子だった。

　もう。
　この人ときたら。

「……帯の色だけどね、私のマイブームなの。藍色。なんでかわかる？」

「……さあ」

「お・ま・も・り……って言ったらわかる？」

　ここまでヒントを出しても気付いてもらえなかったらどうしようかと思ったが、

「……まさか、あの時の？」

　わかってくれたらしい。

　箱根神社でゲタの鼻緒が切れた時に、芹沢は藍染めのハンカチを使って助けてくれた。

「あの時のゲタは『お守り』で、藍色はこの夏の『ラッキーカラー』……というより」

　続きは、口にしようかどうか少し悩んだが、この際だから言ってしまおうと思った。

「芹沢くん本人が、一番の『お守り』……かな。
だから、側にいるとすごく『安心』できるの」

　芹沢は、何故かひどく戸惑ったような目をしながら、

「……俺は、別に、そんな大層なものじゃないよ」

　と、小さく呟いた。

　かなでは大きく首を横に振った。

「私にとっては、そうなの……だから、神戸に帰っちゃう前にもう１回芹沢くんと出掛けられて、よかった。

……３度目があるかわからないから、悔いが残らないようにいっぱい甘えて、わがまま言っちゃったけど……最後まで付き合ってくれて、ありがとう」

　よかった。
　一番言いたかったことが言えた。

　だけど。
　どうしよう。
　別に今日でさよならするわけじゃないのに。

　まだもう少し、夏は続くのに。

「……何も、今泣かなくてもいいだろ」

「だって……」

　涙が勝手に出て来るのだからどうしようもない。

　座っている石段の角をギュッと握って、我慢しようとしたけど無理で。

　全然無理で。

　しばらく頑張っているうちに、その手を上から包む温もりがあった。

　芹沢だった。

「大事な手に、傷つけるつもりなのか」

　さっきと同じように首を左右すると、芹沢は小さく息を吐いて、言った。

「俺が『お守り』なら、願でも掛けてみれば？」

「え？」

「……一つくらいなら聞いてやるよ。どうする？」

　その時の芹沢の目があまりにも優しくて、また泣きたくなったが、一生懸命堪えながら、かなでは告げた。

　一つの願いを。


「また、芹沢くんと、デートがしたい……」


　芹沢は、微かに目を細め、微笑した。


「……それは、難しい願いだな」

「……ダメ？」

「ダメではないけど、少し厳しい条件が付く」

「条件？」



「星奏学院が全国優勝したら、記念にデートしよう」










【END】