マザーコンプレックス

　母の誕生日だったので、実家に長電話。
　ついさっきまで喋ってました。


　私にとって母は世界の中心のような人なので、大好きだし、ずっと憧れてるんです。

　普通に、子どもの頃はうちのお母さんは世界一可愛いと思ってた。

　世界一優しいし、世界一強いと思ってた。

　小言は言うけど手を上げたりしないし、若くてセンスがよくて、家事が得意で、キラキラしてた。

　お母さんをみんなに自慢したかったし、私もお母さんに自慢してほしかったから、いい子でいたかった。


　そして、母にだけは絶対に秘密を作らない代わりに、私だけを見ていてほしいと強く願ってもいた。

　だからお母さんが外に働きに行くなんて絶対に嫌だったし、新しいお父さんも兄弟も欲しくなかった。

　母は実際、在宅の仕事しかしなかったし、再婚もしなかった。

　それは私のためだろうと思ってたけど、本当はまだ「待って」いたんだとわかってから、私は母の弱さを知るようになった。




　大人になって、私が少しずつ母に秘密を持ち始めた頃から、母は私にひとつひとつ秘密を打ち明けてくれるようになった。


　12歳を迎えるまで死んだと聞かされていた「最も近くて」「最も遠い」あの人が、どんな人で、どういう恋愛をして、いかにして別れたのか。

　それがどれほど愛しくて、どれほど切ない思い出なのか。


　さっきも電話で話してくれた。

　23歳の誕生日に、年の数の薔薇を買ってほしいとおねだりしたこと。

　それを何故か姑経由で手渡されたというシュールな思い出。……大喧嘩になったらしい(それが離婚の原因じゃないから！一応　笑)

　24年も前に別れた人のこと、面白そうに話す。

　そんな時、私は母のことをやっぱり世界一可愛い人だな、と思うんです。


　私は生まれてからずっと寄り添って来た母ではなく、物の考え方も嗜好も癖も、爪の形も父に似てしまったらしく、昔はそれが嫌で仕方なかったんだけど、今はそうでもないかな。

　私は、母の一番愛した人に似ているのです。

　その人のかわりに母の側にいて守るために、神様的な何かが私をそうしたのでしょう。


　楽観的で図太い性格に育ったのは、神経質で心配性なあなたをフォローするためです。

　お喋りなあなたの言葉を残らず拾うために聞き上手になったんです。

　私は、あなたの嫌いな猫と抹茶アイスが好きだから、猫と抹茶アイスが襲って来ても、助けてあげられますよ。

　……何言ってんのかわかんなくなってきた。

　とりあえず、あなたが襲われる前に、これからあなたの敵をひとつ片付けるとしましょうか。

　50歳リーチ、おめ。私のお姫様★