危険なマイ★アイドル【まあ、この際だから燈夜もいっとくか的な】

　書きました。栗栖燈夜クリスマスＳＳ。

　これで本家、胸キュンと合わせれば全員分だ～、と自分の中ではすごく満足しています。笑。

　日下部には及ばなかったけど、伶一のＳＳもたくさんの方が読んで下さったみたいで、感想も頂けて嬉しかったです。


　本家に倣って微エロ要素を入れようと頑張ってはみるものの、あんまり得意じゃないんでエロくなくてすいません。汗。


　自分で読み返すと、なんか端々にＳっ気が滲み出てて(笑)、趣味がもろバレです。
　うちのさつきちゃん、もれなくＳです。多分。

　燈夜編はもう、直球ですよ。直球。笑。



　正直、いかがわしいです。爆。



　あまりにも趣味に走った内容なので、引かれてもしょうがないなあと思いつつも、今回も感想は謹んでお待ちしております。

　いつものようにグッドエンドの後日談になるので、ネタバレの可能性があります。
　まだ燈夜と結ばれたことのない方はご注意下さい。


　それでは、どうぞごらんあれ↓↓

《聖夜の御使い》






「ねえ、さつきさん……これ、やっぱり変じゃないかな……」

「そんなことないわよ、とっても似合ってる……こんな素敵なトナカイさん、見たことないわ」

「それって……複雑な褒め言葉……」

　困惑した表情を浮かべながら、鏡に映る自分の姿を彼はもう一度凝視する。


　アイドルとしてデビューして以来、色々な舞台、色々なスタジオで、色々な衣装に袖を通してきた彼にとっても、今日のそれはちょっと奇抜なものだった。


　長い金色の角のカチューシャ。
　チョコレート色のつなぎに、蹄みたいなミトンの手袋。

　今日の燈夜くんは可愛いトナカイ。

　まあ、本人はちょっと恥ずかしいみたいだけど。

「着ぐるみよりは動きやすいでしょう？」

「うん……でも、ちょっと子どもっぽくないかな」

「燈夜くんなら大丈夫よ」

「あ、ひどい……僕のこと子ども扱いするんだ……」

　おっと。いけない、いけない。失言だったわ。

「燈夜くんなら何を着てもカッコいいから大丈夫、ってことよ」

「……なんか、ちょっと、嘘っぽいけど」

　燈夜くんはわざと大袈裟にいじけたように呟いて、でもすぐにその顔を引き締めた。

「でも僕、頑張るから」

　衣装はどうであれ、やる気は十分。

　それもその筈、この仕事をやりたいと言ったのは燈夜くんだったから。

　12月24日、クリスマスチャリティーイベント。
　数社の中小規模のアイドル事務所が合同で毎年開催している、小さなお子さん連れの親子を対象にした恒例のイベント。
　入場料は全て、養護施設に寄付されることになっている。

　イベントのメインは、所属アイドルの代表がそれぞれクリスマスソングを唄うコンサートで、テレビカメラも入る。ＣＳ放送で全国に生中継されるのよね。

　ピクシスからは、一昨年は晴人さん、去年は輝哉くんが参加した。

　そして今年。
　誰が出るかをみんなで会議したんだけど……まさかそこで燈夜くんが立候補するなんて、正直予想してなかった。
　燈夜くんはまだ歌の仕事は全くやったことがなかったし、本人もあまり興味はなさそうだったから。
　もちろん私がそういう仕事を取ってきたら、それはそれで全力で取り組んでくれるんだろうけど、自分から歌いたいなんて言うとは思わなかった。

　それに日本の伝統芸能を継承する特殊なお家で育った燈夜くんとクリスマスっていうのもなんだか不思議な組み合わせだし。


　理由を尋ねると、燈夜くんは少し照れたように、

「……だってもしオフだったら、さつきさんの家で暁夜と寛貴も一緒にクリスマスパーティーでしょ？
……だったらいっそ仕事のほうがさつきさんを独り占めできるかなって」

　……なんてこっちが赤面しちゃうようなことを言ったかと思うと、

「まあ、それだけでもないんだけど……」

　なんて意味深に微笑んで、それ以上はなかなか教えてくれなかった。

　もちろん理由はなんであれ本人が熱意を持って仕事をするなら、きっといい結果が出る。
　そう信じて、私は社長に燈夜くんを推薦した。

　それからは時間のない中ボイストレーニングを重ねて、一生懸命練習した。
　曲目は「赤鼻のトナカイ」と「きよしこの夜」。

　燈夜くんのイメージに合わせて、ちょっとだけ和風のアレンジを効かせた編曲に仕上がった。


　そうして瞬く間に当日を迎え、もうすぐ本番が始まろうとしている。
　控え室でリハーサルの反省をして、衣装とメイクもバッチリ完了。

　お互いに心地よい緊張感を感じながら、その時を待つ。

「そろそろ教えてくれてもいいんじゃない？」

　いつの間にか２人っきりの控え室。
　聞くなら今しかないかな、と思った。

「どうしてこの仕事、やりたいと思ったの？」

　椅子に深く腰かけて、姿勢良く座っている燈夜くんトナカイのすぐ向かいに座って、じーっと真っ直ぐ見つめながら問い掛けた。

　黒目がちな大きい瞳に、長い睫毛が優しい影を落とす。
　まるでオニキスのような、吸い込まれそうに深い黒微かに揺らめいた。

「栗栖の家では、クリスマスのお祝いはしないんだ」

「あ、やっぱりそうなんだ」

「うん……パーティーなんてしたことがないし、小さい時からサンタも来たことがなかったから……僕にはクリスマスってよくわからなくて」

「クリスマスが、わからない……？」

「もちろん、世間一般でどういうことをして過ごす日なのかはわかってるよ。ただクリスマスだから何が特別なのか……クリスチャンでもないのに祝ったりするのに何の意義があるのか……それをね、よく考えてた」

　クリスマスの何が特別なのか？　クリスマスの意義？？
　そんなことを真剣に考える人はこの国にはあんまりいないと思う……。

「答えは出た？」

「うん……答え、と言っていいのかはよくわからないけど」

　控え目な物言いをしながら、燈夜くんのふたつの黒い宝石はキラキラ輝いている。

「……クリスマスは、贈り物をする日」

　そう言って燈夜くんは微笑を浮かべた。

「人が人を幸せに出来る日なのかもしれないな、って」

　初めて会った頃は、いつもどこか不安そうにうつむいていた燈夜くんが、はっきりした口調で自分の想いを語ってくれている。

「僕はさつきさんにスカウトしてもらえたおかげでアイドルになれた……だから……まだまだ新人で、半人前かもしれないけど、それでも普通の人よりはたくさんの人を幸せにできるかもしれない。
僕の歌で喜んでもらえるかどうかはわからないけど、今夜くらいはみんなに幸せを届けたいな、って……そう思う」

　不覚にも泣きそうなくらい感動してた。

　私の熱意に根負けするようにアイドルの道に進んで、私の期待に応えようと頑張ってくれていた燈夜くん。
　色々な仕事に挑むうちに、俳優という仕事にやり甲斐を見出だしてくれたけど、彼の情熱はどちらかというと内側に向かうタイプのものだった。
　それがいつの間にか、外に向かった視点でアイドルとしての役割を考えられるくらいに成長していたんだ……。

「大丈夫、きっと燈夜くんの気持ちはみんなに届くから」

　私には自信を持ってそう言ってあげることができた。

　コンプレックスを抱えて、いつも泣いてたトナカイさんは、キラキラ光るものをたくさん持っていたんだもの。

「……燈夜くん、なんだか急に大人になっちゃったみたい」

　思わずそんなことを呟いてしまった私に、

「……ふふ」

　燈夜くんは笑う。

「……さつきさんでしょ？　僕を大人にしたのは」


　椅子から立ち上がって、テーブルに身を乗り出すようにして、燈夜くんは私に顔を近づけてきた。

「ん……」

　触れて来た柔らかい唇は、蜂蜜の味。
　さっき差し入れしたのど飴の味……。

「さつきさん……愛してるよ……」

　熱っぽい囁き。

　甘えるような眼差し。

「ねえ……早くもっと、大人にして……」

　すっかり大人びているようで、まだまだ未成熟な少年のような……不思議な恋人。

　繊細で、大胆で。

　戸惑っているうちにどんどん変わっていってしまう……万華鏡ように。

　だから目が離せなくなるの……。

「好き……大好きよ……燈夜くん……」

　甘い唇の熱も、サラサラした髪が頬をくすぐるのも、全部気持ち良くて離れがたかったけど、残念ながらいつまでもこうしているわけにはいかない。

　名残惜しく思いながらも、ゆっくりと離れる。

　私を見つめる彼の瞳にも、「残念」としっかり浮かび上がっている。


「……そろそろ時間だね」

「……ええ、そうね」

「……僕、頑張ってくるから」

「……うん。無事に終わったら打ち上げしないとね」

「……２人きりで？」

「……２人きりで」



　今夜あなたが、みんなに幸せを届ける御使いになるのなら。

　私はそんなあなたに、幸せをあげる。

　あなただけに、贈り物。

　私の胸に今あふれているこの幸せが、そのままあなたに届きますように……。







《聖夜の御使い・END》