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プロフィール
HN:
麻咲
年齢:
41
性別:
女性
誕生日:
1983/05/03
職業:
フリーター
趣味:
ライブ、乙女ゲーム、カラオケ
自己紹介:
好きなバンド
janne Da Arc
Angelo
犬神サーカス団
シド
Sound Schedule
PIERROT
angela
GRANRODEO
Acid Black Cherry 他
好きな乙女ゲームとひいきキャラ
アンジェリークシリーズ(チャーリー)
遙かなる時空の中でシリーズ(無印・橘友雅、2.藤原幸鷹、3.平知盛、4・サザキ)
金色のコルダシリーズ(1&2・王崎信武、3・榊大地、氷渡貴史)
ネオアンジェリーク(ジェット)
フルハウスキス(羽倉麻生)
ときめきメモリアルGSシリーズ(1・葉月珪、2・若王子貴文)
幕末恋華シリーズ(大石鍬次郎、陸奥陽之助)
花宵ロマネスク(紫陽)
Vitaminシリーズ(X→七瀬瞬、真田正輝、永田智也 Z→方丈慧、不破千聖、加賀美蘭丸)
僕と私の恋愛事情(シグルド)
ラスト・エスコート2(天祢一星)
アラビアンズ・ロスト(ロベルト=クロムウェル)
魔法使いとご主人様(セラス=ドラグーン)
危険なマイ★アイドル(日下部浩次)
ラブマジ(双薔冬也)
星空のコミックガーデン(轟木圭吾)
リトルアンカー(フェンネル=ヨーク)
暗闇の果てで君を待つ(風野太郎)
ラブΦサミット(ジャン=マリー)
妄想彼氏学園(神崎鷹也) 他
バイト先→某損保系コールセンター
janne Da Arc
Angelo
犬神サーカス団
シド
Sound Schedule
PIERROT
angela
GRANRODEO
Acid Black Cherry 他
好きな乙女ゲームとひいきキャラ
アンジェリークシリーズ(チャーリー)
遙かなる時空の中でシリーズ(無印・橘友雅、2.藤原幸鷹、3.平知盛、4・サザキ)
金色のコルダシリーズ(1&2・王崎信武、3・榊大地、氷渡貴史)
ネオアンジェリーク(ジェット)
フルハウスキス(羽倉麻生)
ときめきメモリアルGSシリーズ(1・葉月珪、2・若王子貴文)
幕末恋華シリーズ(大石鍬次郎、陸奥陽之助)
花宵ロマネスク(紫陽)
Vitaminシリーズ(X→七瀬瞬、真田正輝、永田智也 Z→方丈慧、不破千聖、加賀美蘭丸)
僕と私の恋愛事情(シグルド)
ラスト・エスコート2(天祢一星)
アラビアンズ・ロスト(ロベルト=クロムウェル)
魔法使いとご主人様(セラス=ドラグーン)
危険なマイ★アイドル(日下部浩次)
ラブマジ(双薔冬也)
星空のコミックガーデン(轟木圭吾)
リトルアンカー(フェンネル=ヨーク)
暗闇の果てで君を待つ(風野太郎)
ラブΦサミット(ジャン=マリー)
妄想彼氏学園(神崎鷹也) 他
バイト先→某損保系コールセンター
アクセス解析
2010/03/23 (Tue)
二次創作関連
前回の記事で、サラーッと書いたんですけど。
もしかすると、冗談だと思われたかもしれないんですけど。
カッとなって書いてしまいました。
私の「金色のコルダ3」初2次創作です。
一応、本編ネタバレ注意で。
OKな方は「つづき」からどうぞ。
このカプに需要はないが
このカプを書いてはいけない理由もない
自分でも…何故書いてしまったのか
わからないからな…
もしかすると、冗談だと思われたかもしれないんですけど。
カッとなって書いてしまいました。
私の「金色のコルダ3」初2次創作です。
一応、本編ネタバレ注意で。
OKな方は「つづき」からどうぞ。
このカプに需要はないが
このカプを書いてはいけない理由もない
自分でも…何故書いてしまったのか
わからないからな…
この世界から、すべての「音」が消えて無くなってしまえばいい。
音楽なんて、いらない。
誰の声も、聞きたくない。
【 Primary need 】
薄汚れた廃ビルの、ひび割れたコンクリート壁に頭をもたれるようにして、氷渡貴史はしゃがみ込んでいた。
氷渡の真っ白な制服の上下は、塵と鉄錆でところどころ灰茶に汚れ、擦りきれた箇所がある。
やり場のない感情をそこら中にあるガラクタをぶつけて、粉々に砕いて、踏みつけて、わめいて、泣いて、何もかも吐き出した後には、虚ろな脱け殻のような身体だけが残っていた。
冥加玲士が小日向かなでを連れてこの場所を去った後、呆然と夜の市街をふらついて、気づいたらまた戻って来ていた。
理由は簡単だった。氷渡には他に行く場所がない。
元々大してメモリーも入っていなかった携帯電話なら、そこで2つに折れている。
天音に入るために、氷渡は「すべて」を捨てて来た。
そしてその天音にはもう居場所が、ない。
いや、今となってはもともと自分の居場所だったのかどうかも、わからない。
汚れなく、崇高で、誇り高い「白」など、きっと最初から似合わなかった。
ここに座り込んで、どれだけの時間が経ったのか。時間の感覚などまるでない。
疲れているのに、眠気も空腹感も感じない。
だが什器で半分塞がれた窓から、微かに光が差し込んで来ている。
いつのまにか、夜が明けたようだ。
不意に、カタンと小さな物音がした。
氷渡は反射的に、壁から頭を離し、音のほうを見た。
カラカラと無機質な音を立てて、折れた木片が床を転がり、埃が舞い上がる。
キラキラと朝日に光る粒子の向こう側から、ゆっくりと近づいて来る……足音。
転がった廃材を避けながら、危なっかしい足取りで、それはこちらへやって来る。
氷渡は、目深に被った帽子と長い前髪の隙間から、それを呆然と眺めていた。
「あの」
それ、が口を開く。
「……おはよう」
少し眠そうな、腫れた瞼をこすりながら、それ、が微笑する。
「……あんた……何で、ここに……?」
渇き切った喉から声を絞る。
それ、は昨夜、冥王に連れられてここから出て行った筈の「小日向かなで」だった。
誘拐監禁事件の被害者が、一晩の後に加害者のところへ舞い戻って来た。
しかも。
「おにぎり、好き?」
大事そうにランチバスケットなんてものを抱えている。
「もっとちゃんとしたの作りたかったんだけど、寝坊しちゃって、あんまり時間が……」
「……俺の質問を聞いてるのか……。なんでここに来た……?」
「氷渡くんが他にどういうところに行くのか、全然わからなかったから……」
小日向かなでは、少し困ったような苦笑いを浮かべる。
「犯人は、犯行現場に戻って来る……ってなんかのドラマで言ってたし」
「……は?」
すでに何も残っていないと思っていた身体から、一気に力が抜けていくのがわかった。
小日向かなでは、そんな氷渡の心境を知ってか知らずか、微笑みを浮かべたまま、バスケットの中身を氷渡に見せる。
「左から、梅干し、鮭、昆布、あと超オススメのスパイシーおにぎり。どれにする?」
「……」
「じゃあスパイシーおにぎりね。騙されたと思って食べて?ね??」
はい、と手渡されて、なんとなく受け取ってしまったそれをどうしたらいいのかわからなくて、氷渡は途方に暮れていた。
一体これはどういう状況なのか?
どうして小日向かなでは、自分を恐ろしい目に遭わせた相手に自主的に会いに来た上に、手ずから作った朝食を振る舞っているのか。
自分はこの女から、親しげにされる謂れはない。
いや、むしろ逆の感情を向けられるべきで。
恐怖されるべきで。
嫌悪されるべきで。
軽蔑されるべきで。
拒絶されるべきで。
それとも、復讐として毒でも盛ろうとしているのだろうか。
戸惑う氷渡の目の前で、広げたハンカチの上にペタッと座り込んだ小日向かなでは、もくもく梅干しおにぎりを食している。
なんだかもうなんでもよくなって、氷渡はスパイシーおにぎりとやらを、口に運んだ。
ツン、と香辛料の香りを漂わせる、名の通りスパイシーなおにぎりを、氷渡ももくもくと食べる。
ひとたび胃に物が入って来ると、忘れていた空腹感がにわかに甦る。
思えば、アンサンブルメンバーから外された時から、まともな食事を取るのを忘れていたような気がする。
「全部食べていいよ」
バカみたいにニコニコしている小日向かなでに見つめられながら、氷渡は結局、残りの2つをも平らげていた。
食べ終わってしまうと、またどうしていいのかわからなくなってきた。
どうしていいかわからないので、小日向かなでが次に何をするのか待ってみることにした。
やがて小日向かなでは、おもむろに立ち上がり、
「じゃあ、私はこれで」
あっさりとそう言い放って、空になったランチバスケットを抱えた。
氷渡は思わず身を乗り出していた。
「……これで、って……あんたわざわざ朝メシの差し入れするためにここに来たのか……?」
「そういうわけじゃなかったんだけど、必要なさそうだから……」
「何が……?」
小日向かなでは、静かにある一点を指差した。
その白い指先が示す場所には、放り出されたまま埃を被ったチェロのケースがある。
「傷、ついてなかったから」
言われてみれば、昨夜、半分気が触れたようになって、手当たり次第、何もかも壊してしまった筈が、ただひとつ……チェロケースだけは変わりなく、そこに鎮座している。
本当なら真っ先に壊してしまうべきだったのに。
なぜ、しなかった?
氷渡は困惑する。
「……出来たらチェロ、止めないで、って言いに来たの。だけど……」
小日向かなでは、笑う。とても嬉しそうに。
「氷渡くん、チェロ好きなんだね。七海くんと一緒だね」
「……七海、だと……? あんな奴と一緒にするな……」
「氷渡くん……」
「……俺とあいつが一緒だって言うなら、なんで俺じゃなくて、あいつが選ばれるんだ……!」
一年のくせに。
格下のくせに。
自分の居場所を奪っていった七海宗介。
散々いいように使われていたのだから、きっと今頃は、冥加玲士の隣で、いい気味だと嘲笑っているに違いないのに。
この女も同じだ。
冥加玲士に認められた演奏家。
心臓、と呼んで、自分を盾にしてまで守った相手。
この女は自分を哀れんでいるんだ。
だから、呑気な顔をして、優しい言葉なんか掛けて来られるんだ。
空っぽになった筈の心に、また、真っ黒な渦か巻き起こる。凶暴な感情が押し寄せる。
飛び掛かって首を締め上げてやりたいとすら思う。
唇を噛んで睨み付ける氷渡を、小日向かなでは、どこまでも穏やかな顔で見つめる。
「悔しい、よね」
小さく、呟かれる言葉。
「ホント……なんでなんだろう……」
キラリ、と光ったもの。
それは涙だった。
小日向かなでの頬を涙が伝って落ちた。
圧倒的優位から自分を見下ろしていると思った相手が、急に、小さくか弱いものに変わってしまったようで、氷渡は面食らう。
「小日向……?」
本当に、どうしてこうなってしまったのか。
ふと気付けは、氷渡の隣には小日向かなでが膝を抱えて座っていた。
小日向かなでは、とつとつと、ゆっくり、言葉を紡ぐ。
セミファイナルで、如月律の代わりに1stを弾くことになったこと。
そのことで、アンサンブルメンバーの間に微妙に波風が立ってしまっていること。
対戦相手から、自分の演奏を「花がない」と一蹴されてしまったこと。
自分に何かが足りないのはわかっているが、 まだそれが何なのか掴めずにいること。
このままでは自分のせいで勝てないかもしれないのだ、と言う。
おおよそ他人の悩み事など聞いてやっている余裕などない筈の氷渡は、何故か黙って耳を傾けていた。
一通り話し終わると、
「ごめんね……思わず独りで愚痴っちゃって。なんか恥ずかしいね……」
まだ涙の跡を残した顔で、小日向かなではまた笑って見せる。
「……自分のことでこんななにいっぱいいっぱいなのに、さっきは偉そうなこと言っちゃったね……でも」
「……でも?」
ひとつ呼吸を置いて、小日向かなでは、真っ直ぐ氷渡を見つめて言った。
「……あなたは、こんなところで、終わって、いいの?」
一音一音区切って、まるで慎重に聖書の一説をなぞるように紡がれた言葉。
こんなところで。
本当に、嫌になるくらい自分に似合っている、居心地のいい、静かな、暗いところ。
確かにこんなところに辿り着くために天音に入ったわけではなかった。
チェロを始めたわけではなかった。
「けど……今更どうしろって言うんだよ……あの人にも見限られたし……もう天音にはいられねえ」
「違うよ、氷渡くん。冥加さんの言葉ちゃんと聞いてた? 冥加さんの心を動かしたかったら音楽で示すように、って言ってたでしょ? まだチャンスはあるってことだよ」
小日向かなでは能天気な笑顔で、腹が立つくらい前向きな言葉で、正論をぶつけてくる。
「まだ大丈夫……絶対、大丈夫だよ。あきらめさえしなかったら……ね?」
しかしそれは、半分自分に言い聞かせているようで。
ほんのささいなきっかけで決壊してしまうくらい、なみなみと内側に満ちている、不安や焦りに必死に対抗しているようで。
「弱さ」が透けて見えることで、かえってこの小さなヴァイオリニストの「強さ」を感じた。
今ようやく、冥加玲士が小日向かなでにこだわる理由がわかったような気がした。
「……あんた、大したもんだな」
思わずそう呟いていた。
「ふふ、初めて氷渡くんに誉められちゃった」
そう言って小日向かなでは、ここに来てから一番の眩しい笑顔を見せた。
「っ……俺なんかに誉められたくらいで嬉しそうにするなよっ」
わけのわからない動揺を覚えて、思わず目をそらした。
視界の外側で、小日向かなでがわざとらしいくらい大きな溜め息をつく。
「その俺なんか、って言い方……やっぱり氷渡くんと七海くんって似てるのかも」
「……だから……一緒にすんなって」
さっきのような暗い感情が生まれることはなかったが、何故か面白くなかった。
「……そうだよね。七海くんは七海くん、氷渡くんには氷渡くんの音があるもんね……そうだ! 今度一緒に練習しようよ。
今やってるセミファイナルの課題曲はね、モーツァルトの……」
上機嫌で一方的に喋り続ける小日向かなでの横で、氷渡は段々目蓋が重くなってくるのを感じていた。
もうひとつの麻痺した感覚が、ゆっくり戻ってきて、意識がどんどん沈む。
凛として華やかなヴァイオリンの音色のような少女の声は、静寂よりも心地良い。
自分がいるのは、まだ「こんなところ」で、失ったものは何ひとつ戻って来ていなくて。先は全く見えなくて。
けれど、まだチェロは……音楽は、ここにある。
「……きゃっ」
小日向かなでは思わず短く悲鳴を上げ、「いけない」と今更ながら両手で口を覆った。
右肩の重みと、首元に触れた金属の冷たさに心臓が跳ねる。
どうしよう。
動けないや。
よりによって自分に頭を預ける格好で熟睡してしまった氷渡を、どうすることもできず、かなでは固まるしかない。
ひどく落ち着かない状況だが、別に嫌な感じはしなかった。
暗い廃ビルに、割れた窓から差し込む光はどんどん強く、明るくなってきている。
《END》
音楽なんて、いらない。
誰の声も、聞きたくない。
【 Primary need 】
薄汚れた廃ビルの、ひび割れたコンクリート壁に頭をもたれるようにして、氷渡貴史はしゃがみ込んでいた。
氷渡の真っ白な制服の上下は、塵と鉄錆でところどころ灰茶に汚れ、擦りきれた箇所がある。
やり場のない感情をそこら中にあるガラクタをぶつけて、粉々に砕いて、踏みつけて、わめいて、泣いて、何もかも吐き出した後には、虚ろな脱け殻のような身体だけが残っていた。
冥加玲士が小日向かなでを連れてこの場所を去った後、呆然と夜の市街をふらついて、気づいたらまた戻って来ていた。
理由は簡単だった。氷渡には他に行く場所がない。
元々大してメモリーも入っていなかった携帯電話なら、そこで2つに折れている。
天音に入るために、氷渡は「すべて」を捨てて来た。
そしてその天音にはもう居場所が、ない。
いや、今となってはもともと自分の居場所だったのかどうかも、わからない。
汚れなく、崇高で、誇り高い「白」など、きっと最初から似合わなかった。
ここに座り込んで、どれだけの時間が経ったのか。時間の感覚などまるでない。
疲れているのに、眠気も空腹感も感じない。
だが什器で半分塞がれた窓から、微かに光が差し込んで来ている。
いつのまにか、夜が明けたようだ。
不意に、カタンと小さな物音がした。
氷渡は反射的に、壁から頭を離し、音のほうを見た。
カラカラと無機質な音を立てて、折れた木片が床を転がり、埃が舞い上がる。
キラキラと朝日に光る粒子の向こう側から、ゆっくりと近づいて来る……足音。
転がった廃材を避けながら、危なっかしい足取りで、それはこちらへやって来る。
氷渡は、目深に被った帽子と長い前髪の隙間から、それを呆然と眺めていた。
「あの」
それ、が口を開く。
「……おはよう」
少し眠そうな、腫れた瞼をこすりながら、それ、が微笑する。
「……あんた……何で、ここに……?」
渇き切った喉から声を絞る。
それ、は昨夜、冥王に連れられてここから出て行った筈の「小日向かなで」だった。
誘拐監禁事件の被害者が、一晩の後に加害者のところへ舞い戻って来た。
しかも。
「おにぎり、好き?」
大事そうにランチバスケットなんてものを抱えている。
「もっとちゃんとしたの作りたかったんだけど、寝坊しちゃって、あんまり時間が……」
「……俺の質問を聞いてるのか……。なんでここに来た……?」
「氷渡くんが他にどういうところに行くのか、全然わからなかったから……」
小日向かなでは、少し困ったような苦笑いを浮かべる。
「犯人は、犯行現場に戻って来る……ってなんかのドラマで言ってたし」
「……は?」
すでに何も残っていないと思っていた身体から、一気に力が抜けていくのがわかった。
小日向かなでは、そんな氷渡の心境を知ってか知らずか、微笑みを浮かべたまま、バスケットの中身を氷渡に見せる。
「左から、梅干し、鮭、昆布、あと超オススメのスパイシーおにぎり。どれにする?」
「……」
「じゃあスパイシーおにぎりね。騙されたと思って食べて?ね??」
はい、と手渡されて、なんとなく受け取ってしまったそれをどうしたらいいのかわからなくて、氷渡は途方に暮れていた。
一体これはどういう状況なのか?
どうして小日向かなでは、自分を恐ろしい目に遭わせた相手に自主的に会いに来た上に、手ずから作った朝食を振る舞っているのか。
自分はこの女から、親しげにされる謂れはない。
いや、むしろ逆の感情を向けられるべきで。
恐怖されるべきで。
嫌悪されるべきで。
軽蔑されるべきで。
拒絶されるべきで。
それとも、復讐として毒でも盛ろうとしているのだろうか。
戸惑う氷渡の目の前で、広げたハンカチの上にペタッと座り込んだ小日向かなでは、もくもく梅干しおにぎりを食している。
なんだかもうなんでもよくなって、氷渡はスパイシーおにぎりとやらを、口に運んだ。
ツン、と香辛料の香りを漂わせる、名の通りスパイシーなおにぎりを、氷渡ももくもくと食べる。
ひとたび胃に物が入って来ると、忘れていた空腹感がにわかに甦る。
思えば、アンサンブルメンバーから外された時から、まともな食事を取るのを忘れていたような気がする。
「全部食べていいよ」
バカみたいにニコニコしている小日向かなでに見つめられながら、氷渡は結局、残りの2つをも平らげていた。
食べ終わってしまうと、またどうしていいのかわからなくなってきた。
どうしていいかわからないので、小日向かなでが次に何をするのか待ってみることにした。
やがて小日向かなでは、おもむろに立ち上がり、
「じゃあ、私はこれで」
あっさりとそう言い放って、空になったランチバスケットを抱えた。
氷渡は思わず身を乗り出していた。
「……これで、って……あんたわざわざ朝メシの差し入れするためにここに来たのか……?」
「そういうわけじゃなかったんだけど、必要なさそうだから……」
「何が……?」
小日向かなでは、静かにある一点を指差した。
その白い指先が示す場所には、放り出されたまま埃を被ったチェロのケースがある。
「傷、ついてなかったから」
言われてみれば、昨夜、半分気が触れたようになって、手当たり次第、何もかも壊してしまった筈が、ただひとつ……チェロケースだけは変わりなく、そこに鎮座している。
本当なら真っ先に壊してしまうべきだったのに。
なぜ、しなかった?
氷渡は困惑する。
「……出来たらチェロ、止めないで、って言いに来たの。だけど……」
小日向かなでは、笑う。とても嬉しそうに。
「氷渡くん、チェロ好きなんだね。七海くんと一緒だね」
「……七海、だと……? あんな奴と一緒にするな……」
「氷渡くん……」
「……俺とあいつが一緒だって言うなら、なんで俺じゃなくて、あいつが選ばれるんだ……!」
一年のくせに。
格下のくせに。
自分の居場所を奪っていった七海宗介。
散々いいように使われていたのだから、きっと今頃は、冥加玲士の隣で、いい気味だと嘲笑っているに違いないのに。
この女も同じだ。
冥加玲士に認められた演奏家。
心臓、と呼んで、自分を盾にしてまで守った相手。
この女は自分を哀れんでいるんだ。
だから、呑気な顔をして、優しい言葉なんか掛けて来られるんだ。
空っぽになった筈の心に、また、真っ黒な渦か巻き起こる。凶暴な感情が押し寄せる。
飛び掛かって首を締め上げてやりたいとすら思う。
唇を噛んで睨み付ける氷渡を、小日向かなでは、どこまでも穏やかな顔で見つめる。
「悔しい、よね」
小さく、呟かれる言葉。
「ホント……なんでなんだろう……」
キラリ、と光ったもの。
それは涙だった。
小日向かなでの頬を涙が伝って落ちた。
圧倒的優位から自分を見下ろしていると思った相手が、急に、小さくか弱いものに変わってしまったようで、氷渡は面食らう。
「小日向……?」
本当に、どうしてこうなってしまったのか。
ふと気付けは、氷渡の隣には小日向かなでが膝を抱えて座っていた。
小日向かなでは、とつとつと、ゆっくり、言葉を紡ぐ。
セミファイナルで、如月律の代わりに1stを弾くことになったこと。
そのことで、アンサンブルメンバーの間に微妙に波風が立ってしまっていること。
対戦相手から、自分の演奏を「花がない」と一蹴されてしまったこと。
自分に何かが足りないのはわかっているが、 まだそれが何なのか掴めずにいること。
このままでは自分のせいで勝てないかもしれないのだ、と言う。
おおよそ他人の悩み事など聞いてやっている余裕などない筈の氷渡は、何故か黙って耳を傾けていた。
一通り話し終わると、
「ごめんね……思わず独りで愚痴っちゃって。なんか恥ずかしいね……」
まだ涙の跡を残した顔で、小日向かなではまた笑って見せる。
「……自分のことでこんななにいっぱいいっぱいなのに、さっきは偉そうなこと言っちゃったね……でも」
「……でも?」
ひとつ呼吸を置いて、小日向かなでは、真っ直ぐ氷渡を見つめて言った。
「……あなたは、こんなところで、終わって、いいの?」
一音一音区切って、まるで慎重に聖書の一説をなぞるように紡がれた言葉。
こんなところで。
本当に、嫌になるくらい自分に似合っている、居心地のいい、静かな、暗いところ。
確かにこんなところに辿り着くために天音に入ったわけではなかった。
チェロを始めたわけではなかった。
「けど……今更どうしろって言うんだよ……あの人にも見限られたし……もう天音にはいられねえ」
「違うよ、氷渡くん。冥加さんの言葉ちゃんと聞いてた? 冥加さんの心を動かしたかったら音楽で示すように、って言ってたでしょ? まだチャンスはあるってことだよ」
小日向かなでは能天気な笑顔で、腹が立つくらい前向きな言葉で、正論をぶつけてくる。
「まだ大丈夫……絶対、大丈夫だよ。あきらめさえしなかったら……ね?」
しかしそれは、半分自分に言い聞かせているようで。
ほんのささいなきっかけで決壊してしまうくらい、なみなみと内側に満ちている、不安や焦りに必死に対抗しているようで。
「弱さ」が透けて見えることで、かえってこの小さなヴァイオリニストの「強さ」を感じた。
今ようやく、冥加玲士が小日向かなでにこだわる理由がわかったような気がした。
「……あんた、大したもんだな」
思わずそう呟いていた。
「ふふ、初めて氷渡くんに誉められちゃった」
そう言って小日向かなでは、ここに来てから一番の眩しい笑顔を見せた。
「っ……俺なんかに誉められたくらいで嬉しそうにするなよっ」
わけのわからない動揺を覚えて、思わず目をそらした。
視界の外側で、小日向かなでがわざとらしいくらい大きな溜め息をつく。
「その俺なんか、って言い方……やっぱり氷渡くんと七海くんって似てるのかも」
「……だから……一緒にすんなって」
さっきのような暗い感情が生まれることはなかったが、何故か面白くなかった。
「……そうだよね。七海くんは七海くん、氷渡くんには氷渡くんの音があるもんね……そうだ! 今度一緒に練習しようよ。
今やってるセミファイナルの課題曲はね、モーツァルトの……」
上機嫌で一方的に喋り続ける小日向かなでの横で、氷渡は段々目蓋が重くなってくるのを感じていた。
もうひとつの麻痺した感覚が、ゆっくり戻ってきて、意識がどんどん沈む。
凛として華やかなヴァイオリンの音色のような少女の声は、静寂よりも心地良い。
自分がいるのは、まだ「こんなところ」で、失ったものは何ひとつ戻って来ていなくて。先は全く見えなくて。
けれど、まだチェロは……音楽は、ここにある。
「……きゃっ」
小日向かなでは思わず短く悲鳴を上げ、「いけない」と今更ながら両手で口を覆った。
右肩の重みと、首元に触れた金属の冷たさに心臓が跳ねる。
どうしよう。
動けないや。
よりによって自分に頭を預ける格好で熟睡してしまった氷渡を、どうすることもできず、かなでは固まるしかない。
ひどく落ち着かない状況だが、別に嫌な感じはしなかった。
暗い廃ビルに、割れた窓から差し込む光はどんどん強く、明るくなってきている。
《END》
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