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プロフィール
HN:
麻咲
年齢:
41
性別:
女性
誕生日:
1983/05/03
職業:
フリーター
趣味:
ライブ、乙女ゲーム、カラオケ
自己紹介:
好きなバンド
janne Da Arc
Angelo
犬神サーカス団
シド
Sound Schedule
PIERROT
angela
GRANRODEO
Acid Black Cherry 他
好きな乙女ゲームとひいきキャラ
アンジェリークシリーズ(チャーリー)
遙かなる時空の中でシリーズ(無印・橘友雅、2.藤原幸鷹、3.平知盛、4・サザキ)
金色のコルダシリーズ(1&2・王崎信武、3・榊大地、氷渡貴史)
ネオアンジェリーク(ジェット)
フルハウスキス(羽倉麻生)
ときめきメモリアルGSシリーズ(1・葉月珪、2・若王子貴文)
幕末恋華シリーズ(大石鍬次郎、陸奥陽之助)
花宵ロマネスク(紫陽)
Vitaminシリーズ(X→七瀬瞬、真田正輝、永田智也 Z→方丈慧、不破千聖、加賀美蘭丸)
僕と私の恋愛事情(シグルド)
ラスト・エスコート2(天祢一星)
アラビアンズ・ロスト(ロベルト=クロムウェル)
魔法使いとご主人様(セラス=ドラグーン)
危険なマイ★アイドル(日下部浩次)
ラブマジ(双薔冬也)
星空のコミックガーデン(轟木圭吾)
リトルアンカー(フェンネル=ヨーク)
暗闇の果てで君を待つ(風野太郎)
ラブΦサミット(ジャン=マリー)
妄想彼氏学園(神崎鷹也) 他
バイト先→某損保系コールセンター
janne Da Arc
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犬神サーカス団
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PIERROT
angela
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遙かなる時空の中でシリーズ(無印・橘友雅、2.藤原幸鷹、3.平知盛、4・サザキ)
金色のコルダシリーズ(1&2・王崎信武、3・榊大地、氷渡貴史)
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ときめきメモリアルGSシリーズ(1・葉月珪、2・若王子貴文)
幕末恋華シリーズ(大石鍬次郎、陸奥陽之助)
花宵ロマネスク(紫陽)
Vitaminシリーズ(X→七瀬瞬、真田正輝、永田智也 Z→方丈慧、不破千聖、加賀美蘭丸)
僕と私の恋愛事情(シグルド)
ラスト・エスコート2(天祢一星)
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魔法使いとご主人様(セラス=ドラグーン)
危険なマイ★アイドル(日下部浩次)
ラブマジ(双薔冬也)
星空のコミックガーデン(轟木圭吾)
リトルアンカー(フェンネル=ヨーク)
暗闇の果てで君を待つ(風野太郎)
ラブΦサミット(ジャン=マリー)
妄想彼氏学園(神崎鷹也) 他
バイト先→某損保系コールセンター
アクセス解析
2007/06/01 (Fri)
一次創作関連
これちゃんと本編作んないと(別にゲームじゃなくてSSでもいいから)、流石に自分の中で消化不良だよな。笑。
今回は一応紅朱がメインだけど、この人、あんまりツッコむとネタバレしまくるから当たり障りなくしか書けんのよ。
紅朱、名前の響きに名残があるんだけど、元々は「コードギアス」のルルーシュをイメージしたキャラだった。
本名が「錦」なのも、第一期エンディング曲の「勇侠青春謳」の歌詞からの引用だしね。
ちなみに「綾」は「錦」と対っていうことで後から決めた名前。
じゃあ玄鳥がスザクで、日向子はユーフェミアか。いや、そこまでは別に考えてなかったわ。笑。
ただ最終的には他のキャラとの兼ね合いとかで、だいぶ別物になったんだけど、別に頭良くないし、育ちもよくないし。
ただ「勇侠青春謳」は未だに私の中では紅朱のテーマソングだけど。
別にアリプロ好きなわけじゃないけど、この曲はすごく好きなんだよねぇ。
紅朱、顔の造りは玄鳥にそっくりだけど、性格を反映してちょっとキツイ顔付き。
ただ前にも書いたように身長は負けている。
むしろバンド内で一番小柄。
これは私がボーカリストは小柄でよく動き回ってなんぼだと思っているから。笑。
ちなみに有砂がでかいのは、そのほうがドラムセットで顔が隠れなさそうだから。笑。
トレードマークは真っ赤なロングヘア。座る時気を付けないとおしりで踏んじゃう長さ。
サイドはちょっと短めで後ろだけ長い。
メンバーの髪色は、紅朱→赤、玄鳥→黒(白メッシュ)、万楼→ピンクがかった白金、蝉→オレンジ、有砂→赤紫。
太陽バンドだから暖色系で統一して、玄鳥は「黒点」。
色の系統がバラバラだと戦隊もんみたいで並びがダサいような気がするしね。
さてその紅朱が回想シーンで険悪に話していた人。
これがシークレット、バラしてしまうと「高山獅貴(タカヤマ・シキ)」という人。
乙女ゲー攻略キャラなのに実は40代。笑。
見た目はずっと若く見えるんだけどね。
紅朱との関係は年齢設定から推し測れなくもないと思うけど、一応因縁浅からぬ仲とだけ。笑。
ギャルゲーではわりとよくある設定なのに、乙女ゲームではあんまりないなぁと思ったから是非出したかった。
職業はミュージシャン兼音楽プロデューサー。
すでに日本中にその名前を知らないもののない超大物。最盛期の小室哲哉みたいなもん??
熱心なファンからは「伯爵(カウント)」と呼ばれている。
本人も言っていたようにサドで、鬼畜系。笑。
立ち居振る舞いは「伯爵」の名にふさわしく貴族的で優雅。美形です。
普段は銀縁眼鏡愛用。
巷では今「鬼畜眼鏡」というBLゲームが話題沸騰だけど、獅貴も相当なんで。
モチーフは吸血鬼なんだけど、実は他に具体的なモデルがいる。
昔、バイト先のスーパーに毎夜のごとく来ていたホストのお兄さん。笑。
私がその人に心の中で伯爵(カウント)っていうあだ名を勝手につけていた。
特に後輩?をおともに連れてきてる時とか、引き立て役(ひでぇ)のおかげですごくかっこよく見えた。
こういう人になら貢ぐ人がいても仕方ないと思ってた。今はどこで何してんだろ。
あ、この人が鬼畜かどうかは知らないけどね。笑。
そしてヒロインの森久保日向子(モリクボ・ヒナコ)。濃いねぇ。
前に悪女キャラにしたいと言ったけど、悪女っていうよりは小悪魔で落ち着いた。
モチーフは「マリー・アントワネット」。
お察しの通り令嬢です。
やっぱりちょっとユーフェミア入ってるかもしれない。爆。
そのうち「heliodorの皆さん、死んでいただけますか?」とか言って銃を乱射しかねない……(違)。
日向子は伯爵(カウント)の熱狂的信者なんだけど、ファンとして、だけではなくて、一応高山獅貴とは面識がある。
ただのファンにしちゃうと、一般的な感覚ではちょっと痛々しいからね。笑。
一応美少女なんだけど、高山獅貴命な上に女子校育ちの箱入りだから、男の人と付き合ったことがなかったり。
実は「森久保」はライターとしてのペンネームで、本名は違う。
本名がキーポイントのひとつなんで。
日向子と一緒にいたのは同じ編集部の先輩、「井上美々(イノウエ・ミミ)」
お姉さま。あねごです。
コーネリアのポジションか??(しつこい)
粋と並ぶ重要なサブ女子キャラ。とあるメンバーと因縁有。
ここまで設定作っておいて、本編を封印するのはやっぱり私的に許し難い……。笑。
ちなみに全然話は違うけど、蝉が有砂を呼ぶ時の「よっちん」の公式なイントネーションは「木琴」と一緒。
まあ、どうでもいいんだけどね。
SSのご感想や気になるキャラクターなどありましたら、是非ご意見をお聞かせください。
今回は一応紅朱がメインだけど、この人、あんまりツッコむとネタバレしまくるから当たり障りなくしか書けんのよ。
紅朱、名前の響きに名残があるんだけど、元々は「コードギアス」のルルーシュをイメージしたキャラだった。
本名が「錦」なのも、第一期エンディング曲の「勇侠青春謳」の歌詞からの引用だしね。
ちなみに「綾」は「錦」と対っていうことで後から決めた名前。
じゃあ玄鳥がスザクで、日向子はユーフェミアか。いや、そこまでは別に考えてなかったわ。笑。
ただ最終的には他のキャラとの兼ね合いとかで、だいぶ別物になったんだけど、別に頭良くないし、育ちもよくないし。
ただ「勇侠青春謳」は未だに私の中では紅朱のテーマソングだけど。
別にアリプロ好きなわけじゃないけど、この曲はすごく好きなんだよねぇ。
紅朱、顔の造りは玄鳥にそっくりだけど、性格を反映してちょっとキツイ顔付き。
ただ前にも書いたように身長は負けている。
むしろバンド内で一番小柄。
これは私がボーカリストは小柄でよく動き回ってなんぼだと思っているから。笑。
ちなみに有砂がでかいのは、そのほうがドラムセットで顔が隠れなさそうだから。笑。
トレードマークは真っ赤なロングヘア。座る時気を付けないとおしりで踏んじゃう長さ。
サイドはちょっと短めで後ろだけ長い。
メンバーの髪色は、紅朱→赤、玄鳥→黒(白メッシュ)、万楼→ピンクがかった白金、蝉→オレンジ、有砂→赤紫。
太陽バンドだから暖色系で統一して、玄鳥は「黒点」。
色の系統がバラバラだと戦隊もんみたいで並びがダサいような気がするしね。
さてその紅朱が回想シーンで険悪に話していた人。
これがシークレット、バラしてしまうと「高山獅貴(タカヤマ・シキ)」という人。
乙女ゲー攻略キャラなのに実は40代。笑。
見た目はずっと若く見えるんだけどね。
紅朱との関係は年齢設定から推し測れなくもないと思うけど、一応因縁浅からぬ仲とだけ。笑。
ギャルゲーではわりとよくある設定なのに、乙女ゲームではあんまりないなぁと思ったから是非出したかった。
職業はミュージシャン兼音楽プロデューサー。
すでに日本中にその名前を知らないもののない超大物。最盛期の小室哲哉みたいなもん??
熱心なファンからは「伯爵(カウント)」と呼ばれている。
本人も言っていたようにサドで、鬼畜系。笑。
立ち居振る舞いは「伯爵」の名にふさわしく貴族的で優雅。美形です。
普段は銀縁眼鏡愛用。
巷では今「鬼畜眼鏡」というBLゲームが話題沸騰だけど、獅貴も相当なんで。
モチーフは吸血鬼なんだけど、実は他に具体的なモデルがいる。
昔、バイト先のスーパーに毎夜のごとく来ていたホストのお兄さん。笑。
私がその人に心の中で伯爵(カウント)っていうあだ名を勝手につけていた。
特に後輩?をおともに連れてきてる時とか、引き立て役(ひでぇ)のおかげですごくかっこよく見えた。
こういう人になら貢ぐ人がいても仕方ないと思ってた。今はどこで何してんだろ。
あ、この人が鬼畜かどうかは知らないけどね。笑。
そしてヒロインの森久保日向子(モリクボ・ヒナコ)。濃いねぇ。
前に悪女キャラにしたいと言ったけど、悪女っていうよりは小悪魔で落ち着いた。
モチーフは「マリー・アントワネット」。
お察しの通り令嬢です。
やっぱりちょっとユーフェミア入ってるかもしれない。爆。
そのうち「heliodorの皆さん、死んでいただけますか?」とか言って銃を乱射しかねない……(違)。
日向子は伯爵(カウント)の熱狂的信者なんだけど、ファンとして、だけではなくて、一応高山獅貴とは面識がある。
ただのファンにしちゃうと、一般的な感覚ではちょっと痛々しいからね。笑。
一応美少女なんだけど、高山獅貴命な上に女子校育ちの箱入りだから、男の人と付き合ったことがなかったり。
実は「森久保」はライターとしてのペンネームで、本名は違う。
本名がキーポイントのひとつなんで。
日向子と一緒にいたのは同じ編集部の先輩、「井上美々(イノウエ・ミミ)」
お姉さま。あねごです。
コーネリアのポジションか??(しつこい)
粋と並ぶ重要なサブ女子キャラ。とあるメンバーと因縁有。
ここまで設定作っておいて、本編を封印するのはやっぱり私的に許し難い……。笑。
ちなみに全然話は違うけど、蝉が有砂を呼ぶ時の「よっちん」の公式なイントネーションは「木琴」と一緒。
まあ、どうでもいいんだけどね。
SSのご感想や気になるキャラクターなどありましたら、是非ご意見をお聞かせください。
2007/06/01 (Fri)
一次創作関連
一応今回がラスト? リーダーでボーカルの紅朱(コウシュ)がメイン。
最後なので全メンバーに加え、シークレットのキャラ、更にヒロインも出てきてみたりとか。
先に断っておくけれど、ヒロインのキャラは恐ろしく濃ゆいよ。笑。
一部のメンバーが特定の相手から、本名や愛称で呼ばれてるので、前の話を読んだ方なら多分大丈夫だと思うけど混乱しないといいなぁ。
絞り出すような震えた声で言った。
「……どうしてわざわざ俺にそれを教えに来やがった」
もしも知らなければ。
何も知らなければ。
疑うこともなく。
いつまでもいられたのかもしれない。
偽りだったとしても。
それを、真実と信じて。
「……お前が苦しんであがくところが見たいんだ。俺はサディストだからな」
「……っ」
投げつけた質素な花束が、肩口に当たって、花弁を散らしながら落ちたが、男は構わずに冷笑する。
「お前の前に道は二つしかない。音楽を捨てて俺から逃げるか、音楽で俺を越えてみせるか、だ。さあ、どうする? ……錦(ニシキ)」
金色の太陽が、世界をあまねく照らす時がきたら。
吸血鬼は灰に還るのだろうか。
#5・【紅朱 ―2007・春―】
「ねえ、リーダー」
「なんだ?」
「今日でボクは一年目だ」
「……ああ、そういうことか」
万楼(マロウ)と名乗る風変わりな少年が、遠く四国からやって来た日。
heliodorのベーシストになりたい。
いや、ならなくてはいけないと少年は言った。
「リーダーは、とりあえず一年間ボクを使ってくれると言った。ボクは、どうだった?」
紅朱と万楼が二人きりになることは普段ほとんどない。
ただミーティングにはいつも真っ先に来て待っている玄鳥(クロト)が珍しく遅れ気味で、その次に早い二人が先に待ち合わせのカフェにいたというだけ。
この二人が二人きりになるという状況は、少なくとも紅朱には気まずいものだった。
「……まあまあだな」
自分の言葉に、棘があることには気付いていた。
いつも万楼に対してはこうなってしまう。
「……もうしばらくは使ってやってもいい」
「……よかった」
笑顔で胸を撫で下ろす万楼は、本当は傷付いているのだろうか。
「……ボクはまだここにいていいんだ」
メンバーも、ファンも、同業者すらも、今や万楼の力を認めている。
認められないのはリーダー……紅朱(コウシュ)だけだった。
認めてやりたいと思っているのに、いつも突き放してしまう。
真っ直ぐ向き合うことができない。
決着をつけられない。
別れすらも告げられず、理由も知らされずに終わってしまった絆が縛る。
右手にギターを。
左手に、彼女を。
あの日々はもう、過去になってしまったのに。
それでもこのまま忘れてしまうことは、何か大きなものを手放すようで恐ろしい。
心の奥の大切な部分が、うつろになってしまったら……遠い昔に立てた誓いすらも崩れてしまいそうで。
「リーダーって、強い人だね」
しかし紅朱が思い知ったのと逆のことを、万楼はあっさりと口にした。
「きっと忘れてしまえば楽になるのに、ずっと忘れないでいるんだよね」
まだ水とおしぼりしか置かれていないテーブルの上に、万楼はそっとポケットから取り出したものを乗せた。
「この子は忘れてしまった。きっと、覚えていることが怖かったから、忘れることにしたんだ」
サブウインドウの欠け落ちた、錆びと傷だらけのシルバーの「携帯電話」。
「そしてボクも……」
「記憶の欠落はお前のせいじゃねェだろ……それに、携帯はもう直らねェけど、お前はそうじゃねェからな」
「うん。ボク、頑張って思い出すよ。だから……もう少しだけボクをここにいさせてね」
紅朱は舌打ちした。万楼に対してではなく自分自身に。
フォローのつもりで口にした言葉すら所詮は利己的なものだった。
こうしてこれからも利用していくつもりのか。
鮮やかな粋の面影を持つ都合のよいベーシストとして。
いつか粋を取り戻すための、重要な手掛りとして。
万楼は一度もそれに不満をもらしたことなどなかった。
だが本当は万楼とて一人の仲間としてバンドに受け入れてほしいと思わない筈がない。
いつまでも形だけの正式メンバーでいいわけがない。
万楼はそれ以上その話題には触れず、メニューを広げて、にこにこしながらスイーツの品定めを始めた。
「有砂(アリサ)は、今日も遅いかな。有砂が来る前にパフェ食べておこうかなぁ」
「……残念やったな、今すぐそのページは閉じてもらうで」
欠伸をしながら現れた有砂が、万楼の隣に座るや否やスイーツのページをめくって隠してしまう。
「あ。なんだ今日は早いね」
実際には30分近く遅刻しているのだが、有砂にしては確かに早かった。
だがそれよりも入ってくるタイミングが良すぎる。
案外二人が話しているのを見て、一段落する頃を見計らって入ってきたのかもしれない。
個人主義者のような顔をしているが、案外周りの空気には敏感な男だ。
「有砂、甘いものが嫌いだなんて人生を半分損してると思うよ」
「ジブンこそせいぜい糖尿病には気ぃつけることやな」
「あは、心配してくれてありがとう」
「……あのなぁ」
少々わかりにくい態度をとってはいるが、有砂は万楼を可愛がっている。
バンドのリーダーとして有砂を五年間見てきた紅朱にはよくわかる。
「じゃあやっぱりメロンソーダかなあ」
楽しそうにメニューを眺める万楼を横で見ている姿は、まるで面倒見のいい兄のようですらある。
「うぁ、ラブラブ~。おれちょっとジェラシーなんだケド」
「……アホか。どんな第一声や」
続いてやって来た蝉(ゼン) が他の客には若干迷惑であろうテンションで、紅朱の隣に座った。
「よっちん、万楼ばっか構うしさ~、長年育んだおれとの愛はどこいっちゃったのって感じ??」
「しかし、玄鳥が遅刻とは、今年の夏も異常気象確定やな」
「え、普通にスルー?」
「ああ……妙だな」
「ねえ……誰かツッコんでよ」
「とりあえずオーダーしようよ。ボク、やっぱりメロンソーダ!!」
「しくしく」
「ごめんなさい!!」
玄鳥がカフェに到着した頃には、テーブルの上のコーラと、メロンソーダと、ブレンドコーヒーと、オレンジジュースが半分以上減った頃だった。
「ホントにすいません!」
気の毒なくらい慌てながらぺこぺこ頭を下げる玄鳥だったが、遅刻を責めようとする者はいなかった。
待ち惚けしたメンバーのうち二人は常習犯、他の二人も、ことがイレギュラー過ぎたので腹を立てるよりも心配や好奇心が先に立つ。
「何かあったのか?」
代表して問う実兄に、弟は苦笑いする。
「……ごめん。えっと……寝坊」
「綾(アヤ)」
少し口調を硬質なものに転じる。
「別に遅刻はいい。でも下手な嘘をつくのは気にいらねェ」
その瞬間、玄鳥の顔に明らかな動揺が走った。
全員がそれを黙って見守る。
紅朱が指摘するまでもない。玄鳥はheliodorで一番嘘をつくのが苦手な男だ。
「正直に言えねェような理由か?」
更に問いつめた。
いつもの玄鳥ならここで諦めて、本当のことを打ち明けるのだが、
「……対した理由じゃないよ……遅れたのはホントにごめんなさい。ミーティング、始めましょう」
「……綾?」
もう一度問おうとした紅朱から、玄鳥はさりげなく目をそらした。
「ま、いんじゃない?」
あっけらかんとした口調で蝉が間に入ってきた。
「玄鳥だっていい大人なんだし、さ。紅朱だって、弟に言えないことの一つや二つあるっしょ?」
「っ」
目の前に、あの景色が広がった気がした。
強風が砂埃を舞いあげて、灰色にくすんだ小さな墓地の風景。
舞い散る花びらと。
嘲笑う声。
「……綾は、そのこと知ってんのかよ」
「……もちろん知らないだろう。別に俺が教えてやってもいいが」
ざりっ……と砂利を踏みしめた。
「……言うな。言ったらお前を殺してやる。絶対に殺す……」
誰かに対してこんなに怒りを燃やしたことは今までなかった。
「浅川錦」の人生を、今まで、と、これから、に分けた風の午後。
「殺せないさ。……俺は吸血鬼だから」
「……兄貴?」
自分とほとんど同じ造りの顔が、自分には絶対にできそうもない表情で顔をのぞきこむ。
「ごめん……あの……そのうち、話すよ」
記憶に捕まって沈黙してしまったのを、気分を害したからだと受け取ったのだろう。
「いや、もういい。早く座れよ」
言えないことの一つや二つ。
確かにある。
玄鳥に隠していることが、紅朱には二つあった。
どちらもこのまま墓まで持っていくつもりの秘密だ。
だがもしかしたらこの時。
もう少し強く玄鳥を問いつめていたら、数ヵ月後に発生するあの事件は起きなかったかもしれないが……。
太陽の光は強まるほどに、濃い影を生む。
「欠落感」という影。
「劣等感」という影。
「孤独感」という影。
「焦燥感」という影。
そして、
「執着心」という影。
白昼にあっても、そこには宵闇の王が棲んでいるのかもしれない。
その暗黒に光を投じる者がやがて現れることに、彼らはまだ気付いていない。。
そして彼女もまた……。
「美々(ミミ)お姉様、わたくし、とうとう念願の独り暮らしを始めましてよ」
紅朱たちの席の対角線上にある、最も遠い席では呑気で優雅なティータイムが繰り広げられていた。
「えッ、ホントに? よかったじゃない。よくパパさんからオッケー出たね」
「ふふふ。わたくしの熱意に、お父様もとうとう根負けされましたの。これで気兼ねなくベッドルームにもダイニングにもリビングにも好きなだけ伯爵(カウント)様のポスターを貼ることができるというものですわ!」
「はいはい、まったく……あんたはなんでも高山獅貴(タカヤマ・シキ)のことばっかなんだから……。折角独り暮らしするんだから、もっと身近な男の子でも捕まえて部屋連れ込んじゃえば?」
「まあ……美々お姉さま、何をおっしゃるの? わたくしは幼少の頃より生涯伯爵様をお慕いすると決めておりましてよ。他の殿方など考えられませんわ」
「……これだもんなぁ。まったくもう。ある意味羨ましいお嬢様だよね……日向子(ヒナコ)は」
咲き誇る薔薇のような微笑を浮かべて、彼女は左手首の月の意匠のシルバーブレスをそっと撫でた。
「……愛しの伯爵様……わたくしとの約束を覚えていらっしゃいますか……?」
彼女と彼らの運命はまだ交わらない。
しかしその日は、何の前ぶれもなく、やがてやってくるのだ……。
《END》
最後なので全メンバーに加え、シークレットのキャラ、更にヒロインも出てきてみたりとか。
先に断っておくけれど、ヒロインのキャラは恐ろしく濃ゆいよ。笑。
一部のメンバーが特定の相手から、本名や愛称で呼ばれてるので、前の話を読んだ方なら多分大丈夫だと思うけど混乱しないといいなぁ。
絞り出すような震えた声で言った。
「……どうしてわざわざ俺にそれを教えに来やがった」
もしも知らなければ。
何も知らなければ。
疑うこともなく。
いつまでもいられたのかもしれない。
偽りだったとしても。
それを、真実と信じて。
「……お前が苦しんであがくところが見たいんだ。俺はサディストだからな」
「……っ」
投げつけた質素な花束が、肩口に当たって、花弁を散らしながら落ちたが、男は構わずに冷笑する。
「お前の前に道は二つしかない。音楽を捨てて俺から逃げるか、音楽で俺を越えてみせるか、だ。さあ、どうする? ……錦(ニシキ)」
金色の太陽が、世界をあまねく照らす時がきたら。
吸血鬼は灰に還るのだろうか。
#5・【紅朱 ―2007・春―】
「ねえ、リーダー」
「なんだ?」
「今日でボクは一年目だ」
「……ああ、そういうことか」
万楼(マロウ)と名乗る風変わりな少年が、遠く四国からやって来た日。
heliodorのベーシストになりたい。
いや、ならなくてはいけないと少年は言った。
「リーダーは、とりあえず一年間ボクを使ってくれると言った。ボクは、どうだった?」
紅朱と万楼が二人きりになることは普段ほとんどない。
ただミーティングにはいつも真っ先に来て待っている玄鳥(クロト)が珍しく遅れ気味で、その次に早い二人が先に待ち合わせのカフェにいたというだけ。
この二人が二人きりになるという状況は、少なくとも紅朱には気まずいものだった。
「……まあまあだな」
自分の言葉に、棘があることには気付いていた。
いつも万楼に対してはこうなってしまう。
「……もうしばらくは使ってやってもいい」
「……よかった」
笑顔で胸を撫で下ろす万楼は、本当は傷付いているのだろうか。
「……ボクはまだここにいていいんだ」
メンバーも、ファンも、同業者すらも、今や万楼の力を認めている。
認められないのはリーダー……紅朱(コウシュ)だけだった。
認めてやりたいと思っているのに、いつも突き放してしまう。
真っ直ぐ向き合うことができない。
決着をつけられない。
別れすらも告げられず、理由も知らされずに終わってしまった絆が縛る。
右手にギターを。
左手に、彼女を。
あの日々はもう、過去になってしまったのに。
それでもこのまま忘れてしまうことは、何か大きなものを手放すようで恐ろしい。
心の奥の大切な部分が、うつろになってしまったら……遠い昔に立てた誓いすらも崩れてしまいそうで。
「リーダーって、強い人だね」
しかし紅朱が思い知ったのと逆のことを、万楼はあっさりと口にした。
「きっと忘れてしまえば楽になるのに、ずっと忘れないでいるんだよね」
まだ水とおしぼりしか置かれていないテーブルの上に、万楼はそっとポケットから取り出したものを乗せた。
「この子は忘れてしまった。きっと、覚えていることが怖かったから、忘れることにしたんだ」
サブウインドウの欠け落ちた、錆びと傷だらけのシルバーの「携帯電話」。
「そしてボクも……」
「記憶の欠落はお前のせいじゃねェだろ……それに、携帯はもう直らねェけど、お前はそうじゃねェからな」
「うん。ボク、頑張って思い出すよ。だから……もう少しだけボクをここにいさせてね」
紅朱は舌打ちした。万楼に対してではなく自分自身に。
フォローのつもりで口にした言葉すら所詮は利己的なものだった。
こうしてこれからも利用していくつもりのか。
鮮やかな粋の面影を持つ都合のよいベーシストとして。
いつか粋を取り戻すための、重要な手掛りとして。
万楼は一度もそれに不満をもらしたことなどなかった。
だが本当は万楼とて一人の仲間としてバンドに受け入れてほしいと思わない筈がない。
いつまでも形だけの正式メンバーでいいわけがない。
万楼はそれ以上その話題には触れず、メニューを広げて、にこにこしながらスイーツの品定めを始めた。
「有砂(アリサ)は、今日も遅いかな。有砂が来る前にパフェ食べておこうかなぁ」
「……残念やったな、今すぐそのページは閉じてもらうで」
欠伸をしながら現れた有砂が、万楼の隣に座るや否やスイーツのページをめくって隠してしまう。
「あ。なんだ今日は早いね」
実際には30分近く遅刻しているのだが、有砂にしては確かに早かった。
だがそれよりも入ってくるタイミングが良すぎる。
案外二人が話しているのを見て、一段落する頃を見計らって入ってきたのかもしれない。
個人主義者のような顔をしているが、案外周りの空気には敏感な男だ。
「有砂、甘いものが嫌いだなんて人生を半分損してると思うよ」
「ジブンこそせいぜい糖尿病には気ぃつけることやな」
「あは、心配してくれてありがとう」
「……あのなぁ」
少々わかりにくい態度をとってはいるが、有砂は万楼を可愛がっている。
バンドのリーダーとして有砂を五年間見てきた紅朱にはよくわかる。
「じゃあやっぱりメロンソーダかなあ」
楽しそうにメニューを眺める万楼を横で見ている姿は、まるで面倒見のいい兄のようですらある。
「うぁ、ラブラブ~。おれちょっとジェラシーなんだケド」
「……アホか。どんな第一声や」
続いてやって来た蝉(ゼン) が他の客には若干迷惑であろうテンションで、紅朱の隣に座った。
「よっちん、万楼ばっか構うしさ~、長年育んだおれとの愛はどこいっちゃったのって感じ??」
「しかし、玄鳥が遅刻とは、今年の夏も異常気象確定やな」
「え、普通にスルー?」
「ああ……妙だな」
「ねえ……誰かツッコんでよ」
「とりあえずオーダーしようよ。ボク、やっぱりメロンソーダ!!」
「しくしく」
「ごめんなさい!!」
玄鳥がカフェに到着した頃には、テーブルの上のコーラと、メロンソーダと、ブレンドコーヒーと、オレンジジュースが半分以上減った頃だった。
「ホントにすいません!」
気の毒なくらい慌てながらぺこぺこ頭を下げる玄鳥だったが、遅刻を責めようとする者はいなかった。
待ち惚けしたメンバーのうち二人は常習犯、他の二人も、ことがイレギュラー過ぎたので腹を立てるよりも心配や好奇心が先に立つ。
「何かあったのか?」
代表して問う実兄に、弟は苦笑いする。
「……ごめん。えっと……寝坊」
「綾(アヤ)」
少し口調を硬質なものに転じる。
「別に遅刻はいい。でも下手な嘘をつくのは気にいらねェ」
その瞬間、玄鳥の顔に明らかな動揺が走った。
全員がそれを黙って見守る。
紅朱が指摘するまでもない。玄鳥はheliodorで一番嘘をつくのが苦手な男だ。
「正直に言えねェような理由か?」
更に問いつめた。
いつもの玄鳥ならここで諦めて、本当のことを打ち明けるのだが、
「……対した理由じゃないよ……遅れたのはホントにごめんなさい。ミーティング、始めましょう」
「……綾?」
もう一度問おうとした紅朱から、玄鳥はさりげなく目をそらした。
「ま、いんじゃない?」
あっけらかんとした口調で蝉が間に入ってきた。
「玄鳥だっていい大人なんだし、さ。紅朱だって、弟に言えないことの一つや二つあるっしょ?」
「っ」
目の前に、あの景色が広がった気がした。
強風が砂埃を舞いあげて、灰色にくすんだ小さな墓地の風景。
舞い散る花びらと。
嘲笑う声。
「……綾は、そのこと知ってんのかよ」
「……もちろん知らないだろう。別に俺が教えてやってもいいが」
ざりっ……と砂利を踏みしめた。
「……言うな。言ったらお前を殺してやる。絶対に殺す……」
誰かに対してこんなに怒りを燃やしたことは今までなかった。
「浅川錦」の人生を、今まで、と、これから、に分けた風の午後。
「殺せないさ。……俺は吸血鬼だから」
「……兄貴?」
自分とほとんど同じ造りの顔が、自分には絶対にできそうもない表情で顔をのぞきこむ。
「ごめん……あの……そのうち、話すよ」
記憶に捕まって沈黙してしまったのを、気分を害したからだと受け取ったのだろう。
「いや、もういい。早く座れよ」
言えないことの一つや二つ。
確かにある。
玄鳥に隠していることが、紅朱には二つあった。
どちらもこのまま墓まで持っていくつもりの秘密だ。
だがもしかしたらこの時。
もう少し強く玄鳥を問いつめていたら、数ヵ月後に発生するあの事件は起きなかったかもしれないが……。
太陽の光は強まるほどに、濃い影を生む。
「欠落感」という影。
「劣等感」という影。
「孤独感」という影。
「焦燥感」という影。
そして、
「執着心」という影。
白昼にあっても、そこには宵闇の王が棲んでいるのかもしれない。
その暗黒に光を投じる者がやがて現れることに、彼らはまだ気付いていない。。
そして彼女もまた……。
「美々(ミミ)お姉様、わたくし、とうとう念願の独り暮らしを始めましてよ」
紅朱たちの席の対角線上にある、最も遠い席では呑気で優雅なティータイムが繰り広げられていた。
「えッ、ホントに? よかったじゃない。よくパパさんからオッケー出たね」
「ふふふ。わたくしの熱意に、お父様もとうとう根負けされましたの。これで気兼ねなくベッドルームにもダイニングにもリビングにも好きなだけ伯爵(カウント)様のポスターを貼ることができるというものですわ!」
「はいはい、まったく……あんたはなんでも高山獅貴(タカヤマ・シキ)のことばっかなんだから……。折角独り暮らしするんだから、もっと身近な男の子でも捕まえて部屋連れ込んじゃえば?」
「まあ……美々お姉さま、何をおっしゃるの? わたくしは幼少の頃より生涯伯爵様をお慕いすると決めておりましてよ。他の殿方など考えられませんわ」
「……これだもんなぁ。まったくもう。ある意味羨ましいお嬢様だよね……日向子(ヒナコ)は」
咲き誇る薔薇のような微笑を浮かべて、彼女は左手首の月の意匠のシルバーブレスをそっと撫でた。
「……愛しの伯爵様……わたくしとの約束を覚えていらっしゃいますか……?」
彼女と彼らの運命はまだ交わらない。
しかしその日は、何の前ぶれもなく、やがてやってくるのだ……。
《END》
2007/05/28 (Mon)
一次創作関連
#4のネタバレ蛇足話。
今回のこれがheliodor誕生の瞬間なんで、蝉は一応最初期からのメンバーになるんだよね。
おまけ扱いだけど。笑。
結局蝉の二面性ネタを出す暇がなかった。笑。
今回は今までで一番文字数ギリギリだったからね。
このエピソードでは蝉は18歳。
粋も赤いの(もちろん紅朱)もタメだから18歳。
粋は違和感あるな。その年で何をそんなに達観しているんだろうね。精神年齢いくつなんだろうか。
ちなみにこの頃万楼はまだ小学生だからね。そう思うと結構な年齢差なんだなぁ。
紅朱と玄鳥、粋と万楼、蝉と有砂がそれぞれ、対のキャラクターになっているんだけど、ことに蝉と有砂の対比は肝だね。
立ち止まることを知らない男と、立ち止まったままの男。
未来に縛られる男と、過去に戒められる男。
前の蛇足でも書いたように同級生であり、ルームメイトでもあるんだけど、二人は何から何まで正反対な感じで。
赤いの(紅朱)はなんかかっこつけて登場したけど、実は粋より背が低いという。笑。
しかも実は、この時は粋が女だっていうことに気付いていない……。
言ってることは完全にプロポーズなんだけどね。
道玄坂プロポーズ事件、だから道玄坂のライブハウスなんだけど、どれがそうかはご想像にお任せしたい。
次回は真打ち、赤いのがメインのお話。
今回のこれがheliodor誕生の瞬間なんで、蝉は一応最初期からのメンバーになるんだよね。
おまけ扱いだけど。笑。
結局蝉の二面性ネタを出す暇がなかった。笑。
今回は今までで一番文字数ギリギリだったからね。
このエピソードでは蝉は18歳。
粋も赤いの(もちろん紅朱)もタメだから18歳。
粋は違和感あるな。その年で何をそんなに達観しているんだろうね。精神年齢いくつなんだろうか。
ちなみにこの頃万楼はまだ小学生だからね。そう思うと結構な年齢差なんだなぁ。
紅朱と玄鳥、粋と万楼、蝉と有砂がそれぞれ、対のキャラクターになっているんだけど、ことに蝉と有砂の対比は肝だね。
立ち止まることを知らない男と、立ち止まったままの男。
未来に縛られる男と、過去に戒められる男。
前の蛇足でも書いたように同級生であり、ルームメイトでもあるんだけど、二人は何から何まで正反対な感じで。
赤いの(紅朱)はなんかかっこつけて登場したけど、実は粋より背が低いという。笑。
しかも実は、この時は粋が女だっていうことに気付いていない……。
言ってることは完全にプロポーズなんだけどね。
道玄坂プロポーズ事件、だから道玄坂のライブハウスなんだけど、どれがそうかはご想像にお任せしたい。
次回は真打ち、赤いのがメインのお話。
2007/05/28 (Mon)
一次創作関連
SS#4。蝉編。
ここまで読んでくれてる人ならわかってくれているとは思うけど、一応。
釘宮漸(クギミヤ・ゼン)=蝉(ゼン)なのでよろしくっス。
道玄坂プロポーズ事件。
これを知っているか知らないかで、heliodor(ヘリオドール) のファンは新規と古株に分けられると言われる。
そしてこれは偶然にもその歴史的現場に居合わせてしまった男の物語。
東京の空を初雪が舞った、その寒い夜。
釘宮漸(クギミヤ・ゼン)はまだ蝉(ゼン)ではなかった。
#4・【蝉 ―2000・冬―】
「クギミヤ? 釘宮漸……って名前だったのか、お前」
ああ、また聞かれるかな? と思った。
「ピアニストの釘宮高槻(クギミヤ・タカツキ)の親戚か何かか?」
漸はいつも通り、
「……違いますよ♪」
と軽く返事した。心の中で「今はまだね」と付け足しながら。
「そうか、よくある名字ではないからもしかしてと思ったが」
「よく聞かれるんですケド、そんなわけないじゃないっスか」
「まあな……」
今日のクリスマスイベントのトリを飾るバンド・《foi(フォア)》は、たった今リハを終えたところだった。
このバンドの正式メンバーではない漸ではあったが、まさか本番当日まで名前を覚えてもらっていないとは思わなかった。
もっとも中抜けして入ったこのファーストフード店でこうして向かい合わせでハンバーガーにかじりつくまで、まともにメンバーと食事をしたことすらなかったのだが。
「大体お前は付き合いが悪すぎる。ミーティングにも滅多に参加しないし、練習が終わればあっという間に消える」
「それはその~、おれってばいつも予定ぎっちりなんですよ……だから~」
「苦手なら無理に敬語を使うな。タメなんだろ」
「え、いいの? サンキュ☆粋ちゃん」
「ちゃん、はやめろ。ちゃん、は」
見た目も中身も男前ではあったが、《foi》のベーシスト・粋(スイ)は女だった。
四人編制のバンドの中で女なのは粋ただ一人で、他のメンバーと行動をともにせず、何故か彼女はいつも一人だった。
だから漸も思わず、こうして誘ってしまったのだが。
昔から、群れからはみだしてぽつんとしている人間を見つけると構いたくなる性分なのだ。
お節介だとはねのけられることも少なくなかったが、それでも漸のクセは直らなかった。
幸い粋は漸を疎むことはなかった。
「お前、いくつ掛け持ちしてるんだ」
「13……かなぁ」
「13……? 全部サポートなんだろ?」
「そう」
「1つのバンドに腰をすえる予定はないのか?」
これもまた、よく投げ掛けられる質問だった。
「おれは……そんなにマジでやってるカンジじゃないし……」
「マジでやってるカンジ、になってみたらどうだ。お前はなかなかいいぞ」
この寒いのにLサイズのコーラを飲みながら、粋は半分説教でもするように言った。
「技術はまあまあだし、少なくとも、うちの男どもよりはずっと面白いプレイをする」
「そんなこと言っちゃっていいの?」
「ああ。嘘を言っても仕方がないだろ。お前だってそう思っているんじゃないか?」
「……ぶっちゃけ」
「だろ」
粋は深く溜め息をついた。
「見た目ばかり気にする奴らだ。私のことも、客寄せパンダ程度にしか思っていない」
「いくらなんでもそれはないんじゃない? ……みんな粋の腕を見込んでメンバーにしたんじゃ……」
「この間なんて面と向かって、ボーカルに転向しないかと聞かれたぞ。お前が前に出たほうが客が呼べるからだそうだが?」
流石の漸も頭痛がしそうだった。
「……あのさ。なんで、そんな奴らと組んでんの?」
「好きで組んでいるわけじゃない。何度か見所のある連中に打診したこともある。だが」
粋は自嘲的な微笑を浮かべた。
「女はいらない、と」
「そんな……」
「仕方ないだろ。真剣にやってるバンドなら無用なトラブルを抱えたがらないの当然だ」
確かに、女が入ることで恋愛絡みのイザコザが起きて分裂したりするバンドも少なくはない。
もっと単純な偏見もあるのかもしれないが。
「なめられないようにはしているつもりだがな……半分諦めている」
「いっそギャルバンでも組んだらどうよ?」
「そうだな……それもまあ、いいかな……」
本気かどうかよくわからない返答をしながら粋はまたコーラをすする。
「……降ってきたな。天気予報が当たった」
言われて窓の外を見ると、ちらほらと白いものが降りてきていた。
「おお、ムードあるじゃん、いいねいいね♪」
「そうか? 私は雪は嫌いだ。引退したら余生は雪の降らない街で暮らしたいもんだな」
「余生って……いっくらなんでも今からそんなこと考えなくていいじゃん」
「お前が言うのか?」
「え?」
粋が目を細める。
「自分のキャパシティをオーバーするほどのバンドを掛け持ちして、毎日毎日弾き続けて、お前は何か生き急いで見える。余命宣告でもされているのか?」
「それは……」
「まあ、どうするかはお前の勝手だが」
「……どうするか……って」
どうするかは決めている。
というか、決まっている。
約束は守らなければいけないから。
だから、もう。
時間は限られている。
立ち止まっている暇はない。
しかし。
本当にそれで、いいのだろうか……?
イベント本番はつつがなく進行し、foiの演奏も残すところ一曲となった。
ボーカルの長いMCの間、粋はタオルで汗を拭きながらキーボードのところへ下がってきた。
「……お前、演奏中はバカに見えないな」
「えぇ~、それじゃ普段おれがバカみたいじゃん」
「それはボケか? ツッコんでほしいのか?」
「いいんだケドさぁ……」
粋が近くにいると、オーディエンスの視線が自分のほうに集まってくるような気がする。
ボーカルの大して中身のないMCなどみんなどうでもいいのだろうか。
誰もが感覚的にわかっているのだろう。このステージの主役が誰なのか。
他愛ない話をしている間に、ボーカルの長話は終わろうとしていた。
「さて、戻るか」
粋がポジションに戻っていくのを目で追っていると、漸は客席に妙なものを見つけた。
「……なんだあれ。あの赤いの」
漸や粋のいる下手側の壁際からなんだかすごい目付きでステージを睨んでいる赤い長髪の男がいる。
客の99パーセントが女しかいないせいもあり、やたらと目立って見えた。
「ちょっと待ってくれ、私は聞いてないぞ」
粋の声で意識をステージに引き戻された。
気が付けばなんだか客席全体がキャーキャーうるさいことになっている。
赤いの、に気をとられていたとはいえ、それに一瞬気付かなかったとは自分で信じられないほどのお祭りぶりだった。
一体、何が起きた??
「ほら~、みんな粋の唄聞きたいって言ってるから」
「嫌だ。誰が唄うか。私はベーシストだ」
無理矢理マイクを押し付けようとするボーカルと、拒絶する粋のやりとりで、漸はついさっき粋が話していたことを思い出した。
「……信じらんない……接待カラオケじゃないっての……」
漸は思わず小声で吐き捨てて、前に出ようとした。
が。それより先にずんずん前に出てくる奴がいた。客席から、ステージに向かって。人垣を押し退けるようにして。
それはあの、赤いの、だった。
「マイクとギターをよこせ。俺が唄う」
何故か、よく通るいい声だな、などと思ってしまった。
実際はそんな呑気な状況ではない。
なんだかよくわからない奴が勝手にステージに上がってきているは、客席はドン引きして静まり返っているは、メンバーは殺気立ってくるは、もうどうあがいても平穏にイベントが終了してくれるとは思えなかった。
「あんたは……?」
あの粋ですら完全に面食らっている。
「自己紹介は後でしてやるよ。とりあえずどアタマにやった曲、もっかいやれ。ギターとボーカルは俺がやってやる」
「やってやる、って、出来るのか??」
「寝惚けたこと言ってんじゃねェ。わざわざ恥をかきにこんなとこまで出てくる奴がいるかよ」
赤いの、はfoiのギタリストに掴みかかる勢いでギターを略取する。やりたい放題だ。
ハコのスタッフは一体何をやっているのだろう?
と思ったが、どうやらこれが意図された「演出」なのかどうか計りかねているらしい。
それくらい現実離れした出来事だし、なにしろ今日はクリスマス。
多少のサプライズはあってもおかしくはなかった。
まあこれが、多少、かどうかは怪しいところだったが。
「ちょっと待てよぉ部外者がなにしてんだよ」
ボーカルの男が食ってかかる。
赤いの、はさっきステージを見ていたのと同じ目付きでボーカルを睨んだ。
「うっせェな、耳障りな卑しい声でわーわー言ってんじゃねェよ。お前こそとっとと消えて無くなれ」
赤いの、が粋の腕を、掴んだ。
「このベーシストは俺が連れていく」
どよめきが広がる。
赤いの、は粋へ振り返った。
「心配するな。きっとすぐにお前は俺について来てよかったと思う筈だ」
「……」
呆然としていた粋は、しばらくしてから苦笑に転じた。
「私を拐いに来たのか?」
「そうだ。俺について来いよ。絶対に後悔はさせないから」
何故か客席から黄色い悲鳴が上がった。
「疲れた……マジ疲れた……」
楽屋に戻るなり漸は椅子にへたり込んだ。
結局一曲どころか時間ギリギリまでアンコールを四回も繰り返した。
もちろんあの赤いの、がボーカルをとった。
歌詞は半分以上適当だったが、メロディは完璧に再現していた……いや、完全に自分のものにして昇華していたと言うべきか。
オーディエンスは完全に、赤いの、を受け入れていた。
それは漸も同じ。
そして……。
「俺と、来るよな?」
「……ああ。拐われてやってもいい」
あんなに楽しそうな粋を見たのは誰もが初めてだったに違いない。
二人がステージで握手をした瞬間は、誰もが思わず拍手していた。
しかし、一緒になって呑気に拍手をしていた漸に、いきなり赤いの、が振り返ったのは思いがけないことだった。
「おい。お前も来たかったら来ていい。どうする?」
「え?」
二人は真っ直ぐに漸を見つめて、答えを待っていた。そして漸は……。
「……俺も、行きたい……かも」
その瞬間を思い出して、漸は一人で笑ってしまった。
道は決まっている筈なのに、なぜあんなふうに答えてしまったのか。
自分でもよくわらない。
わからないが、多分それは本心だった。
「……もうちょっと……もうちょっとだけ寄り道、いいかな……お義父さん」
夜明けを待っていた。
今、待ちかねた太陽が地平線からようやく姿を見せた。
日が昇る。
新しい時代が、ここから始まる。
《END》
ここまで読んでくれてる人ならわかってくれているとは思うけど、一応。
釘宮漸(クギミヤ・ゼン)=蝉(ゼン)なのでよろしくっス。
道玄坂プロポーズ事件。
これを知っているか知らないかで、heliodor(ヘリオドール) のファンは新規と古株に分けられると言われる。
そしてこれは偶然にもその歴史的現場に居合わせてしまった男の物語。
東京の空を初雪が舞った、その寒い夜。
釘宮漸(クギミヤ・ゼン)はまだ蝉(ゼン)ではなかった。
#4・【蝉 ―2000・冬―】
「クギミヤ? 釘宮漸……って名前だったのか、お前」
ああ、また聞かれるかな? と思った。
「ピアニストの釘宮高槻(クギミヤ・タカツキ)の親戚か何かか?」
漸はいつも通り、
「……違いますよ♪」
と軽く返事した。心の中で「今はまだね」と付け足しながら。
「そうか、よくある名字ではないからもしかしてと思ったが」
「よく聞かれるんですケド、そんなわけないじゃないっスか」
「まあな……」
今日のクリスマスイベントのトリを飾るバンド・《foi(フォア)》は、たった今リハを終えたところだった。
このバンドの正式メンバーではない漸ではあったが、まさか本番当日まで名前を覚えてもらっていないとは思わなかった。
もっとも中抜けして入ったこのファーストフード店でこうして向かい合わせでハンバーガーにかじりつくまで、まともにメンバーと食事をしたことすらなかったのだが。
「大体お前は付き合いが悪すぎる。ミーティングにも滅多に参加しないし、練習が終わればあっという間に消える」
「それはその~、おれってばいつも予定ぎっちりなんですよ……だから~」
「苦手なら無理に敬語を使うな。タメなんだろ」
「え、いいの? サンキュ☆粋ちゃん」
「ちゃん、はやめろ。ちゃん、は」
見た目も中身も男前ではあったが、《foi》のベーシスト・粋(スイ)は女だった。
四人編制のバンドの中で女なのは粋ただ一人で、他のメンバーと行動をともにせず、何故か彼女はいつも一人だった。
だから漸も思わず、こうして誘ってしまったのだが。
昔から、群れからはみだしてぽつんとしている人間を見つけると構いたくなる性分なのだ。
お節介だとはねのけられることも少なくなかったが、それでも漸のクセは直らなかった。
幸い粋は漸を疎むことはなかった。
「お前、いくつ掛け持ちしてるんだ」
「13……かなぁ」
「13……? 全部サポートなんだろ?」
「そう」
「1つのバンドに腰をすえる予定はないのか?」
これもまた、よく投げ掛けられる質問だった。
「おれは……そんなにマジでやってるカンジじゃないし……」
「マジでやってるカンジ、になってみたらどうだ。お前はなかなかいいぞ」
この寒いのにLサイズのコーラを飲みながら、粋は半分説教でもするように言った。
「技術はまあまあだし、少なくとも、うちの男どもよりはずっと面白いプレイをする」
「そんなこと言っちゃっていいの?」
「ああ。嘘を言っても仕方がないだろ。お前だってそう思っているんじゃないか?」
「……ぶっちゃけ」
「だろ」
粋は深く溜め息をついた。
「見た目ばかり気にする奴らだ。私のことも、客寄せパンダ程度にしか思っていない」
「いくらなんでもそれはないんじゃない? ……みんな粋の腕を見込んでメンバーにしたんじゃ……」
「この間なんて面と向かって、ボーカルに転向しないかと聞かれたぞ。お前が前に出たほうが客が呼べるからだそうだが?」
流石の漸も頭痛がしそうだった。
「……あのさ。なんで、そんな奴らと組んでんの?」
「好きで組んでいるわけじゃない。何度か見所のある連中に打診したこともある。だが」
粋は自嘲的な微笑を浮かべた。
「女はいらない、と」
「そんな……」
「仕方ないだろ。真剣にやってるバンドなら無用なトラブルを抱えたがらないの当然だ」
確かに、女が入ることで恋愛絡みのイザコザが起きて分裂したりするバンドも少なくはない。
もっと単純な偏見もあるのかもしれないが。
「なめられないようにはしているつもりだがな……半分諦めている」
「いっそギャルバンでも組んだらどうよ?」
「そうだな……それもまあ、いいかな……」
本気かどうかよくわからない返答をしながら粋はまたコーラをすする。
「……降ってきたな。天気予報が当たった」
言われて窓の外を見ると、ちらほらと白いものが降りてきていた。
「おお、ムードあるじゃん、いいねいいね♪」
「そうか? 私は雪は嫌いだ。引退したら余生は雪の降らない街で暮らしたいもんだな」
「余生って……いっくらなんでも今からそんなこと考えなくていいじゃん」
「お前が言うのか?」
「え?」
粋が目を細める。
「自分のキャパシティをオーバーするほどのバンドを掛け持ちして、毎日毎日弾き続けて、お前は何か生き急いで見える。余命宣告でもされているのか?」
「それは……」
「まあ、どうするかはお前の勝手だが」
「……どうするか……って」
どうするかは決めている。
というか、決まっている。
約束は守らなければいけないから。
だから、もう。
時間は限られている。
立ち止まっている暇はない。
しかし。
本当にそれで、いいのだろうか……?
イベント本番はつつがなく進行し、foiの演奏も残すところ一曲となった。
ボーカルの長いMCの間、粋はタオルで汗を拭きながらキーボードのところへ下がってきた。
「……お前、演奏中はバカに見えないな」
「えぇ~、それじゃ普段おれがバカみたいじゃん」
「それはボケか? ツッコんでほしいのか?」
「いいんだケドさぁ……」
粋が近くにいると、オーディエンスの視線が自分のほうに集まってくるような気がする。
ボーカルの大して中身のないMCなどみんなどうでもいいのだろうか。
誰もが感覚的にわかっているのだろう。このステージの主役が誰なのか。
他愛ない話をしている間に、ボーカルの長話は終わろうとしていた。
「さて、戻るか」
粋がポジションに戻っていくのを目で追っていると、漸は客席に妙なものを見つけた。
「……なんだあれ。あの赤いの」
漸や粋のいる下手側の壁際からなんだかすごい目付きでステージを睨んでいる赤い長髪の男がいる。
客の99パーセントが女しかいないせいもあり、やたらと目立って見えた。
「ちょっと待ってくれ、私は聞いてないぞ」
粋の声で意識をステージに引き戻された。
気が付けばなんだか客席全体がキャーキャーうるさいことになっている。
赤いの、に気をとられていたとはいえ、それに一瞬気付かなかったとは自分で信じられないほどのお祭りぶりだった。
一体、何が起きた??
「ほら~、みんな粋の唄聞きたいって言ってるから」
「嫌だ。誰が唄うか。私はベーシストだ」
無理矢理マイクを押し付けようとするボーカルと、拒絶する粋のやりとりで、漸はついさっき粋が話していたことを思い出した。
「……信じらんない……接待カラオケじゃないっての……」
漸は思わず小声で吐き捨てて、前に出ようとした。
が。それより先にずんずん前に出てくる奴がいた。客席から、ステージに向かって。人垣を押し退けるようにして。
それはあの、赤いの、だった。
「マイクとギターをよこせ。俺が唄う」
何故か、よく通るいい声だな、などと思ってしまった。
実際はそんな呑気な状況ではない。
なんだかよくわからない奴が勝手にステージに上がってきているは、客席はドン引きして静まり返っているは、メンバーは殺気立ってくるは、もうどうあがいても平穏にイベントが終了してくれるとは思えなかった。
「あんたは……?」
あの粋ですら完全に面食らっている。
「自己紹介は後でしてやるよ。とりあえずどアタマにやった曲、もっかいやれ。ギターとボーカルは俺がやってやる」
「やってやる、って、出来るのか??」
「寝惚けたこと言ってんじゃねェ。わざわざ恥をかきにこんなとこまで出てくる奴がいるかよ」
赤いの、はfoiのギタリストに掴みかかる勢いでギターを略取する。やりたい放題だ。
ハコのスタッフは一体何をやっているのだろう?
と思ったが、どうやらこれが意図された「演出」なのかどうか計りかねているらしい。
それくらい現実離れした出来事だし、なにしろ今日はクリスマス。
多少のサプライズはあってもおかしくはなかった。
まあこれが、多少、かどうかは怪しいところだったが。
「ちょっと待てよぉ部外者がなにしてんだよ」
ボーカルの男が食ってかかる。
赤いの、はさっきステージを見ていたのと同じ目付きでボーカルを睨んだ。
「うっせェな、耳障りな卑しい声でわーわー言ってんじゃねェよ。お前こそとっとと消えて無くなれ」
赤いの、が粋の腕を、掴んだ。
「このベーシストは俺が連れていく」
どよめきが広がる。
赤いの、は粋へ振り返った。
「心配するな。きっとすぐにお前は俺について来てよかったと思う筈だ」
「……」
呆然としていた粋は、しばらくしてから苦笑に転じた。
「私を拐いに来たのか?」
「そうだ。俺について来いよ。絶対に後悔はさせないから」
何故か客席から黄色い悲鳴が上がった。
「疲れた……マジ疲れた……」
楽屋に戻るなり漸は椅子にへたり込んだ。
結局一曲どころか時間ギリギリまでアンコールを四回も繰り返した。
もちろんあの赤いの、がボーカルをとった。
歌詞は半分以上適当だったが、メロディは完璧に再現していた……いや、完全に自分のものにして昇華していたと言うべきか。
オーディエンスは完全に、赤いの、を受け入れていた。
それは漸も同じ。
そして……。
「俺と、来るよな?」
「……ああ。拐われてやってもいい」
あんなに楽しそうな粋を見たのは誰もが初めてだったに違いない。
二人がステージで握手をした瞬間は、誰もが思わず拍手していた。
しかし、一緒になって呑気に拍手をしていた漸に、いきなり赤いの、が振り返ったのは思いがけないことだった。
「おい。お前も来たかったら来ていい。どうする?」
「え?」
二人は真っ直ぐに漸を見つめて、答えを待っていた。そして漸は……。
「……俺も、行きたい……かも」
その瞬間を思い出して、漸は一人で笑ってしまった。
道は決まっている筈なのに、なぜあんなふうに答えてしまったのか。
自分でもよくわらない。
わからないが、多分それは本心だった。
「……もうちょっと……もうちょっとだけ寄り道、いいかな……お義父さん」
夜明けを待っていた。
今、待ちかねた太陽が地平線からようやく姿を見せた。
日が昇る。
新しい時代が、ここから始まる。
《END》
2007/05/27 (Sun)
一次創作関連
さてさて#3のネタバレまとめっス。
今回は有砂をメインにしつつ、キーボードの蝉と、あと先代ベーシストの粋嬢が登場。
有砂はheliodor最年長にして、一番の問題児。
こと女性関係にはかなりルーズな男。
遊んでる、というよりは経験豊富なお姉さまにすり寄って遊んでもらってる感じ?
本質的にかなりの寂しがり屋さんと思われる。
蝉とは高校の同級生なんだけど、実は有砂のほうが諸事情で一年遅く入学してるから、1才年上。
今回のエピソードの時点では、21歳。
まあ、すでに初々しさの欠片もないけどね。笑。
見た目は、バンドの中で一番の長身(180センチくらい) 、ゆる~いウエーブのかかった短目の髪は、本編では赤紫色(今回の話ではまだ暗めな茶髪くらい)。
他のメンバーよりかなり大人っぽい雰囲気。
基本的にカフェイン中毒だからコーヒーばっかり飲んでるけど、お酒も強い(わっか)。
ただし甘いお菓子は臭いをかぐだけで拒否反応。
ちなみにまだ未成年の万楼を除くと、お酒飲めない設定は紅朱だけ。
玄鳥も強くないけど付き合い程度なら飲める感じ。
ごらんの通りのドライな男なんで(少なくとも表向きは)、逆にオチてからのギャップが面白いタイプのキャラクターだね。
ちなみにheliodorのメンバーになってから今日に到るまでずっと蝉とルームシェアをするハメになっている。
自堕落な生活を改めさせるためなんだけど、前回の通り彼の愛車があんな具合なのであんまり効力はないのかもしれない。笑。
キーボードの蝉はギャル男風で軽いキャラだけど、実は面倒見がよくて芯の強いところもある。
今回のエピソードでは出てこなかったけど、「二面性」のあるキャラクターでもあるので、そのあたりも今後出していければと。
今回は有砂をメインにしつつ、キーボードの蝉と、あと先代ベーシストの粋嬢が登場。
有砂はheliodor最年長にして、一番の問題児。
こと女性関係にはかなりルーズな男。
遊んでる、というよりは経験豊富なお姉さまにすり寄って遊んでもらってる感じ?
本質的にかなりの寂しがり屋さんと思われる。
蝉とは高校の同級生なんだけど、実は有砂のほうが諸事情で一年遅く入学してるから、1才年上。
今回のエピソードの時点では、21歳。
まあ、すでに初々しさの欠片もないけどね。笑。
見た目は、バンドの中で一番の長身(180センチくらい) 、ゆる~いウエーブのかかった短目の髪は、本編では赤紫色(今回の話ではまだ暗めな茶髪くらい)。
他のメンバーよりかなり大人っぽい雰囲気。
基本的にカフェイン中毒だからコーヒーばっかり飲んでるけど、お酒も強い(わっか)。
ただし甘いお菓子は臭いをかぐだけで拒否反応。
ちなみにまだ未成年の万楼を除くと、お酒飲めない設定は紅朱だけ。
玄鳥も強くないけど付き合い程度なら飲める感じ。
ごらんの通りのドライな男なんで(少なくとも表向きは)、逆にオチてからのギャップが面白いタイプのキャラクターだね。
ちなみにheliodorのメンバーになってから今日に到るまでずっと蝉とルームシェアをするハメになっている。
自堕落な生活を改めさせるためなんだけど、前回の通り彼の愛車があんな具合なのであんまり効力はないのかもしれない。笑。
キーボードの蝉はギャル男風で軽いキャラだけど、実は面倒見がよくて芯の強いところもある。
今回のエピソードでは出てこなかったけど、「二面性」のあるキャラクターでもあるので、そのあたりも今後出していければと。
2007/05/27 (Sun)
一次創作関連
わりといいペースで製作できているSSシリーズ、今回は#3。
ドラムの有砂(アリサ)氏がメインのお話。
今回も本名で出てきてるので、一応確認。
沢城佳人(サワシロ・ヨシヒト)=有砂(アリサ)
釘宮漸(クギミヤ・ゼン)=蝉(ゼン)
あと#1に名前だけ出てきた重要なサブキャラが出てくるんで、そこのところよろしくどうぞ(?)。
「ふふ……ちょっとくすぐったい……」
「……ごめん……もうちょっとやから」
「……うん、早くね」
「……ん」
一度淡い菫色に染まった不規則なタイルのような爪先に、更に鮮やかに二度目を重ねる。
湯上がりの、少しほてった桜色のくるぶしのあたりに手を添えて、元から先へと緻密に丁寧に染めていく。
一番最後まで終わると、そのまま甲に唇を落とす。
「あっ」
不意打ちに驚いた足先が暴れて、頬をしゅっとかすめる。
「……もう、佳人(ヨシヒト)ったら」
まだ乾いていなかったペディキュアは、佳人の頬に一筋、傷跡のようにその色を残した。
「やり直す……?」
「……もういいわよ、しょうがないわね……佳人は」
頬を彩る菫色を、柔らかい指先が辿る。
「……わたしももう待てないわ……夜が明けてしまうじゃない」
そのまま誘うように唇に触れた指先。佳人はその手首を取って、彼女をそのまま真新しいシーツの上に横倒し、バスローブごと背中から抱き締めた。
「……ふふふっ……やぁね……こどもみたい」
「オレはお子様やから……お人形が一緒やないと眠れへん………」
しゅるしゅると、布と布が擦れ合う音がした。
「……あら、男の子が、着せかえ人形遊びをするの?」
「……いや。オレは、脱がすだけ……」
#3・【有砂 ―2002・夏―】
「ありがとう、この辺でいいわ」
「……ん。ほなね」
「バイバイ。佳人」
着飾った彼女が角の向こうへと消えてから、そういえば名前を聞かなかったな、と思った。
もっとも、もう会うこともないだろうから別に構わないのだか。
なぜかそんなことをふと思い巡らせてしまったのだ。
そんな、運命の悪戯のような一瞬の間がなければ、
「よっちん!!」
この、偶然の再会は起こり得なかったのだろうか。
「やっぱよっちんじゃん♪ おれだよ、おれおれおれ☆」
その時はまだその手の詐欺が流行する前だったが、車に駆け寄ってきて飽きっぱなしだったウインドウに顔を寄せて「おれおれ」わめく男は、極めて胡散臭かった。
しかも頭の色はねっこから先まで綺麗なオレンジ色。それを長く伸ばして、かなり高い位置で黒いリボンで結わえている。
服装はラフなTシャツにブラックジーンズとはいえ、身体中にじゃらじゃらシルバーをぶら下げていたりと、かなりインパクトのある風貌だ。
もし先に佳人に「よっちん」と呼び掛けていなかったら、佳人は無言でウインドウを閉めて走り去っていたに違いなかった。
「……釘宮(クギミヤ)……?」
色のついたメガネの奥の人懐っこい笑顔は、確かに記憶の引き出しにあった。忘れたくても忘れられなかった、というほうが適当だろうか。
「よっ、久しぶり☆ 卒業式以来じゃんかぁ。よっちんてば全っ然変わってないし、超ウケんなぁ、ははは」
「……そか。ほんならな」
「おお、じゃあまたな~! ……って違うじゃん!! せっかくこうして再会したんだからさぁ、これからメシ行こうよ、メシ。はい、決定!」
「……はぁ??」
「しっかし、よっちんとはつくづく縁があるってゆーか……高校の入学式で発見した時もマジウケたもんなぁ。ははっ」
「……さっきらからウケるウケるってなんやジブン。他の表現はしらんのか」
「そのクールな切り返し、まさによっちん節ってカンジ♪ 懐いなぁ」
ランチメニューのハンバーグセットにがっつきながらハイテンションで一方的に喋りまくる相手を静かに見つめながら、佳人のほうも不本意ながら学生時代の記憶を呼び起こし、重ねていた。
あの頃から釘宮漸(クギミヤゼン)は、けして国語の成績が悪いわけでもないのに、こういう頭の悪い喋り方で、妙に楽しげに馴れ馴れしく話しかけてきた。
むしろそれよりずっと前、初めて会った時から、勝手に「よっちん」などとあだ名をつけてやたらと絡んできていた。全く変わらない男だ。
それからしばらく、付き合いで頼んだ安っぽいアイスコーヒーを飲みながら窓の向こうを眺めて、佳人はマシンガンのような声を右から左へ聞き流していた。
「……ところで、さっきよっちん女の人といたじゃん? あれ、よっちんの彼女?」
「……いや」
「あ、もしかして《有砂》ちゃん!?」
「……っ」
久々に聞かされた名前に、一瞬砂を噛んだような苦さを感じた。
「……あ、悪い。その感じだと……まだ有砂ちゃんとは……」
佳人の表情を読み、流石にトーンダウンする漸。一方の佳人はふっと小さく笑った。
「……もう一生会うことないやろ」
「そんなことないって! 家族なんだからいつかちゃんとわかり合える時がくるって! きっとまた一緒に……」
「……何が家族なんだから、や、ジブンは両親の顔も覚えてへんクセに」
「……それは」
虚をつかれたような顔をした漸を見て、今度は佳人が、
「……悪い」
短く謝罪した。
漸は首を横に振った。
「いや、よっちんの言う通りかもなぁ。マジごめん。おれ、ちょっと無神経だったな……。なあ……新しい家族とは、ちょっとは話とか出来るようになった?」
「……いや。高校出てからはほとんど家には帰ってへんから」
「じゃあ今は独り暮らしかぁ」
「……独り暮らしとは言われへんかなあ……別に、毎晩オンナんトコ泊まったり、車で寝たりしとるだけやから」
「はぁぁあ?? どんな社会人だよ。そんな生活ありえねー」
「ジブンこそどういう社会人や、その浮かれたアタマはなんやねん」
「おれ?」
漸は口の端にデミグラスソースをつけたままにっこり笑った。
「おれはほら、コレもんで」
両手の平をハンバーグの鉄板のほうに向けて、五指をランダムに動かすジェスチャー。
「IT企業にでも就職したか」
わかっていてわざとそう言ってみた。
「ンなわけないじゃん! オレがやってんのはバンド。キーボード弾いてんの。これでも一応プロ目指しててさ~」
「そう思っているなら、練習にはちゃんと参加してもらわないと困るんだがなぁ」
凛としたハスキーボイスがフロア内に響き、まるでリモコンのポーズボタンを押したように漸が静止した。
「す……すぃ」
女、だった。
とはいえ背丈は170以上ありそうな上、メンズかユニセックスと思われる、色気のないタンクトップの下は凹凸の少ないスレンダーな体躯らしく、ともすれば中性的な美男子にも見えなくはない。
しかもこの口調にこの威圧感だ。
「貴様、何度携帯に電話したと思っている。もうとっくに待ち合わせの時間は過ぎているぞ」
「いや、あの……」
テーブルの横に仁王立ちして漸を睨みつけている大迫力の女。その気迫に、バイト店員たちも「他のお客様のご迷惑になりますので」のきっかけを見い出せずにまごまごしている。
「粋(スイ)、あの……これにはワケがあって~」
「何だ。聞いてやる。言ってみろ」
佳人は半ば気圧されながら、二人のやりとりを見守っていた。
漸はおもいっきりうろたえながら慌ただしく目線を泳がせる。
必死に言い訳を検討しているらしかった。
そのうちにぱっと佳人と目が合い、途端ににっこり笑った。
嫌な予感がした。
「実はこいつをスカウトしてたんだ~」
「スカウト?」
佳人は粋と呼ばれた女と綺麗にハモって反芻した。
「そう、こいつ沢城佳人(サワシロ・ヨシヒト)っていって、高校の軽音部時代の仲間で、ドラム担当だったヤツなんだ♪」
「釘みッ……」
「ホントのコトじゃん」
粋は切長の綺麗な目を佳人に向けた。
「そうなのか?」
「まあ……一応」
ただし佳人は半分無理矢理漸に入部させられて、部室に顔を出すこともほとんどない幽霊部員だったのだが。
「粋、固定のドラム欲しいって前から言ってたじゃん。だからさぁ」
「ほう、成程」
「……釘宮、お前何ゆーて」
「それなら早速今日の練習に付き合って貰うか」
「おい!」
当事者の意志を確認することもなく、なんだか勝手に話が進んでいる。
「……いいから! とりあえず付き合って! なっ。おれ会計してくる。コーヒー代出しとくよん♪」
「釘宮っ」
伝票を持って駆けていく漸を追い掛けようと立ち上がったせつな、
「……悪いな、あんた。巻き込んで」
粋がさっきまでとはうって変わった穏やかな声で話しかけてきた。
「……スカウトってのはあいつのデタラメだろ。大方高校の同級生にばったり出くわして、懐かしくて話し込んでしまった。そんなところか」
呆れたような笑みを浮かべる。
「……気付いとったならなんでゆーたらんのです?」
「蝉(ゼン)はバンドの仲間だからな。その友人なら私も興味がある。本当にドラムをやっていたならどれほどのものか聞いてみたいしな」
「……別にただ、あの頃部にドラムを叩けるヤツがほとんどおらんかったから……釘宮がオレに頼んできたってだけですから」
「名指しで頼んだ、ということはあんた……ドラム経験者だったんだろ?」
鋭いツッコミが回り込むようにして佳人を少しずつ追い込む。
「……中学時代にかじっとっただけです。ガキの遊びですよ」
「ウソばっかり。ものすごーくガチでやってたクセに。隠さなくてもいいじゃん」
いつの間にか会計を済ませた漸が、釣り銭をしまいながら戻ってきた。
「スゴい真剣に、でも楽しそうにドラムやってたよっちんを知ってるから、おれは誘ったんだけどな~」
まるで古い日記を他人に無断で紐解かれたような気分を味わいながら、佳人は視線を床に落とした。
「……だとしても昔のことや」
「その情熱はもう冷めてしまった?」
粋が、べりーショートのサイドを少しかき上げながら笑う。
「……私がもう一度惚れさせてやろうか?」
心臓を射すくめるような、眩しい微笑だった。
「今度は一生抜け出せなくしてやるよ」
今まで受けてきたどの口説き台詞より脳髄を痺れさせる、甘く、キツイ毒を含んだ言葉だった。
太陽はもうすぐ南中に昇りつめようとしていた。
それは栄光の時。
束の間の黄金の季節。
もっとも高いところを過ぎ、もっとも暑い時が過ぎたら、そのあとはただ黄昏の闇へと静かに落ちていくしかないということを、まだ人々は忘れている。
《END》
ドラムの有砂(アリサ)氏がメインのお話。
今回も本名で出てきてるので、一応確認。
沢城佳人(サワシロ・ヨシヒト)=有砂(アリサ)
釘宮漸(クギミヤ・ゼン)=蝉(ゼン)
あと#1に名前だけ出てきた重要なサブキャラが出てくるんで、そこのところよろしくどうぞ(?)。
「ふふ……ちょっとくすぐったい……」
「……ごめん……もうちょっとやから」
「……うん、早くね」
「……ん」
一度淡い菫色に染まった不規則なタイルのような爪先に、更に鮮やかに二度目を重ねる。
湯上がりの、少しほてった桜色のくるぶしのあたりに手を添えて、元から先へと緻密に丁寧に染めていく。
一番最後まで終わると、そのまま甲に唇を落とす。
「あっ」
不意打ちに驚いた足先が暴れて、頬をしゅっとかすめる。
「……もう、佳人(ヨシヒト)ったら」
まだ乾いていなかったペディキュアは、佳人の頬に一筋、傷跡のようにその色を残した。
「やり直す……?」
「……もういいわよ、しょうがないわね……佳人は」
頬を彩る菫色を、柔らかい指先が辿る。
「……わたしももう待てないわ……夜が明けてしまうじゃない」
そのまま誘うように唇に触れた指先。佳人はその手首を取って、彼女をそのまま真新しいシーツの上に横倒し、バスローブごと背中から抱き締めた。
「……ふふふっ……やぁね……こどもみたい」
「オレはお子様やから……お人形が一緒やないと眠れへん………」
しゅるしゅると、布と布が擦れ合う音がした。
「……あら、男の子が、着せかえ人形遊びをするの?」
「……いや。オレは、脱がすだけ……」
#3・【有砂 ―2002・夏―】
「ありがとう、この辺でいいわ」
「……ん。ほなね」
「バイバイ。佳人」
着飾った彼女が角の向こうへと消えてから、そういえば名前を聞かなかったな、と思った。
もっとも、もう会うこともないだろうから別に構わないのだか。
なぜかそんなことをふと思い巡らせてしまったのだ。
そんな、運命の悪戯のような一瞬の間がなければ、
「よっちん!!」
この、偶然の再会は起こり得なかったのだろうか。
「やっぱよっちんじゃん♪ おれだよ、おれおれおれ☆」
その時はまだその手の詐欺が流行する前だったが、車に駆け寄ってきて飽きっぱなしだったウインドウに顔を寄せて「おれおれ」わめく男は、極めて胡散臭かった。
しかも頭の色はねっこから先まで綺麗なオレンジ色。それを長く伸ばして、かなり高い位置で黒いリボンで結わえている。
服装はラフなTシャツにブラックジーンズとはいえ、身体中にじゃらじゃらシルバーをぶら下げていたりと、かなりインパクトのある風貌だ。
もし先に佳人に「よっちん」と呼び掛けていなかったら、佳人は無言でウインドウを閉めて走り去っていたに違いなかった。
「……釘宮(クギミヤ)……?」
色のついたメガネの奥の人懐っこい笑顔は、確かに記憶の引き出しにあった。忘れたくても忘れられなかった、というほうが適当だろうか。
「よっ、久しぶり☆ 卒業式以来じゃんかぁ。よっちんてば全っ然変わってないし、超ウケんなぁ、ははは」
「……そか。ほんならな」
「おお、じゃあまたな~! ……って違うじゃん!! せっかくこうして再会したんだからさぁ、これからメシ行こうよ、メシ。はい、決定!」
「……はぁ??」
「しっかし、よっちんとはつくづく縁があるってゆーか……高校の入学式で発見した時もマジウケたもんなぁ。ははっ」
「……さっきらからウケるウケるってなんやジブン。他の表現はしらんのか」
「そのクールな切り返し、まさによっちん節ってカンジ♪ 懐いなぁ」
ランチメニューのハンバーグセットにがっつきながらハイテンションで一方的に喋りまくる相手を静かに見つめながら、佳人のほうも不本意ながら学生時代の記憶を呼び起こし、重ねていた。
あの頃から釘宮漸(クギミヤゼン)は、けして国語の成績が悪いわけでもないのに、こういう頭の悪い喋り方で、妙に楽しげに馴れ馴れしく話しかけてきた。
むしろそれよりずっと前、初めて会った時から、勝手に「よっちん」などとあだ名をつけてやたらと絡んできていた。全く変わらない男だ。
それからしばらく、付き合いで頼んだ安っぽいアイスコーヒーを飲みながら窓の向こうを眺めて、佳人はマシンガンのような声を右から左へ聞き流していた。
「……ところで、さっきよっちん女の人といたじゃん? あれ、よっちんの彼女?」
「……いや」
「あ、もしかして《有砂》ちゃん!?」
「……っ」
久々に聞かされた名前に、一瞬砂を噛んだような苦さを感じた。
「……あ、悪い。その感じだと……まだ有砂ちゃんとは……」
佳人の表情を読み、流石にトーンダウンする漸。一方の佳人はふっと小さく笑った。
「……もう一生会うことないやろ」
「そんなことないって! 家族なんだからいつかちゃんとわかり合える時がくるって! きっとまた一緒に……」
「……何が家族なんだから、や、ジブンは両親の顔も覚えてへんクセに」
「……それは」
虚をつかれたような顔をした漸を見て、今度は佳人が、
「……悪い」
短く謝罪した。
漸は首を横に振った。
「いや、よっちんの言う通りかもなぁ。マジごめん。おれ、ちょっと無神経だったな……。なあ……新しい家族とは、ちょっとは話とか出来るようになった?」
「……いや。高校出てからはほとんど家には帰ってへんから」
「じゃあ今は独り暮らしかぁ」
「……独り暮らしとは言われへんかなあ……別に、毎晩オンナんトコ泊まったり、車で寝たりしとるだけやから」
「はぁぁあ?? どんな社会人だよ。そんな生活ありえねー」
「ジブンこそどういう社会人や、その浮かれたアタマはなんやねん」
「おれ?」
漸は口の端にデミグラスソースをつけたままにっこり笑った。
「おれはほら、コレもんで」
両手の平をハンバーグの鉄板のほうに向けて、五指をランダムに動かすジェスチャー。
「IT企業にでも就職したか」
わかっていてわざとそう言ってみた。
「ンなわけないじゃん! オレがやってんのはバンド。キーボード弾いてんの。これでも一応プロ目指しててさ~」
「そう思っているなら、練習にはちゃんと参加してもらわないと困るんだがなぁ」
凛としたハスキーボイスがフロア内に響き、まるでリモコンのポーズボタンを押したように漸が静止した。
「す……すぃ」
女、だった。
とはいえ背丈は170以上ありそうな上、メンズかユニセックスと思われる、色気のないタンクトップの下は凹凸の少ないスレンダーな体躯らしく、ともすれば中性的な美男子にも見えなくはない。
しかもこの口調にこの威圧感だ。
「貴様、何度携帯に電話したと思っている。もうとっくに待ち合わせの時間は過ぎているぞ」
「いや、あの……」
テーブルの横に仁王立ちして漸を睨みつけている大迫力の女。その気迫に、バイト店員たちも「他のお客様のご迷惑になりますので」のきっかけを見い出せずにまごまごしている。
「粋(スイ)、あの……これにはワケがあって~」
「何だ。聞いてやる。言ってみろ」
佳人は半ば気圧されながら、二人のやりとりを見守っていた。
漸はおもいっきりうろたえながら慌ただしく目線を泳がせる。
必死に言い訳を検討しているらしかった。
そのうちにぱっと佳人と目が合い、途端ににっこり笑った。
嫌な予感がした。
「実はこいつをスカウトしてたんだ~」
「スカウト?」
佳人は粋と呼ばれた女と綺麗にハモって反芻した。
「そう、こいつ沢城佳人(サワシロ・ヨシヒト)っていって、高校の軽音部時代の仲間で、ドラム担当だったヤツなんだ♪」
「釘みッ……」
「ホントのコトじゃん」
粋は切長の綺麗な目を佳人に向けた。
「そうなのか?」
「まあ……一応」
ただし佳人は半分無理矢理漸に入部させられて、部室に顔を出すこともほとんどない幽霊部員だったのだが。
「粋、固定のドラム欲しいって前から言ってたじゃん。だからさぁ」
「ほう、成程」
「……釘宮、お前何ゆーて」
「それなら早速今日の練習に付き合って貰うか」
「おい!」
当事者の意志を確認することもなく、なんだか勝手に話が進んでいる。
「……いいから! とりあえず付き合って! なっ。おれ会計してくる。コーヒー代出しとくよん♪」
「釘宮っ」
伝票を持って駆けていく漸を追い掛けようと立ち上がったせつな、
「……悪いな、あんた。巻き込んで」
粋がさっきまでとはうって変わった穏やかな声で話しかけてきた。
「……スカウトってのはあいつのデタラメだろ。大方高校の同級生にばったり出くわして、懐かしくて話し込んでしまった。そんなところか」
呆れたような笑みを浮かべる。
「……気付いとったならなんでゆーたらんのです?」
「蝉(ゼン)はバンドの仲間だからな。その友人なら私も興味がある。本当にドラムをやっていたならどれほどのものか聞いてみたいしな」
「……別にただ、あの頃部にドラムを叩けるヤツがほとんどおらんかったから……釘宮がオレに頼んできたってだけですから」
「名指しで頼んだ、ということはあんた……ドラム経験者だったんだろ?」
鋭いツッコミが回り込むようにして佳人を少しずつ追い込む。
「……中学時代にかじっとっただけです。ガキの遊びですよ」
「ウソばっかり。ものすごーくガチでやってたクセに。隠さなくてもいいじゃん」
いつの間にか会計を済ませた漸が、釣り銭をしまいながら戻ってきた。
「スゴい真剣に、でも楽しそうにドラムやってたよっちんを知ってるから、おれは誘ったんだけどな~」
まるで古い日記を他人に無断で紐解かれたような気分を味わいながら、佳人は視線を床に落とした。
「……だとしても昔のことや」
「その情熱はもう冷めてしまった?」
粋が、べりーショートのサイドを少しかき上げながら笑う。
「……私がもう一度惚れさせてやろうか?」
心臓を射すくめるような、眩しい微笑だった。
「今度は一生抜け出せなくしてやるよ」
今まで受けてきたどの口説き台詞より脳髄を痺れさせる、甘く、キツイ毒を含んだ言葉だった。
太陽はもうすぐ南中に昇りつめようとしていた。
それは栄光の時。
束の間の黄金の季節。
もっとも高いところを過ぎ、もっとも暑い時が過ぎたら、そのあとはただ黄昏の闇へと静かに落ちていくしかないということを、まだ人々は忘れている。
《END》
2007/05/27 (Sun)
一次創作関連
今回もネタバレ満載なのでお気をつけを。
#1蛇足でいうところの「ヤヲイっぽいプレストーリー」とはつまりこういうののことなわけで。笑。
これだとシチュエーション的にゲストを出すに出せないので、まあしょうがないねぇ。
玄鳥はヒロインと同い年の23歳という設定なので、この話の時点だと20歳かな~(まだ誕生日の設定をしてないからはっきりしないんだけど、多分山羊座あたりだと思う……)。
一応大学生なんだけど、ゲーム本編の時には休学中。
浅川兄弟の実家は、私とおんなじ新潟なんだけど(笑)、玄鳥は新大生かな。優等生なんで。
小学校~高校時代までずっと生徒会に所属したりしてたクチで。
基本的になんでもできるから、文武両道で、一見ヘタレっぽいにも関わらずガチで喧嘩したらメンバーで一番強い……筈。
顔は紅朱とそっくりだけど、玄鳥(二歳年上)のほうがやや背が高い。じわじわ追い抜かれた模様。お約束か。
前回触れたように黒髪短髪で、前髪の左右1束ずつが白メッシュ(ただし今回のSSではまだ真っ黒)。
ちょっと絵をおこしてみたら、なんかウサギ耳が前に垂れてるみたいで変にプリティだった。笑。
あとこの時は、まだ自動車免許持ってないんだけど、ゲーム本編ではマイカー持ち。
玄鳥と有砂は車、紅朱と蝉はバイク、万楼は自転車が主な足(遠くに移動する時は大体玄鳥か有砂の車にちゃっかり同乗する。後部座席で寝っ転がってるイメージだな)。
今回はもう一人、有砂が登場したけど、彼は一言で言うと「ルーズ」。万事ルーズ。きっちりしてるのはドラミングだけなんで。笑。
一応最年長なんだけど、リーダーではない。リーダーなんて無理。むしろリードつけて誰か引っ張ってやってくれ的な。笑笑。
次は当然のように彼がメインで、また新たなメンバーと絡むことになるので、まあ、また読んでやってくだされ。
#1蛇足でいうところの「ヤヲイっぽいプレストーリー」とはつまりこういうののことなわけで。笑。
これだとシチュエーション的にゲストを出すに出せないので、まあしょうがないねぇ。
玄鳥はヒロインと同い年の23歳という設定なので、この話の時点だと20歳かな~(まだ誕生日の設定をしてないからはっきりしないんだけど、多分山羊座あたりだと思う……)。
一応大学生なんだけど、ゲーム本編の時には休学中。
浅川兄弟の実家は、私とおんなじ新潟なんだけど(笑)、玄鳥は新大生かな。優等生なんで。
小学校~高校時代までずっと生徒会に所属したりしてたクチで。
基本的になんでもできるから、文武両道で、一見ヘタレっぽいにも関わらずガチで喧嘩したらメンバーで一番強い……筈。
顔は紅朱とそっくりだけど、玄鳥(二歳年上)のほうがやや背が高い。じわじわ追い抜かれた模様。お約束か。
前回触れたように黒髪短髪で、前髪の左右1束ずつが白メッシュ(ただし今回のSSではまだ真っ黒)。
ちょっと絵をおこしてみたら、なんかウサギ耳が前に垂れてるみたいで変にプリティだった。笑。
あとこの時は、まだ自動車免許持ってないんだけど、ゲーム本編ではマイカー持ち。
玄鳥と有砂は車、紅朱と蝉はバイク、万楼は自転車が主な足(遠くに移動する時は大体玄鳥か有砂の車にちゃっかり同乗する。後部座席で寝っ転がってるイメージだな)。
今回はもう一人、有砂が登場したけど、彼は一言で言うと「ルーズ」。万事ルーズ。きっちりしてるのはドラミングだけなんで。笑。
一応最年長なんだけど、リーダーではない。リーダーなんて無理。むしろリードつけて誰か引っ張ってやってくれ的な。笑笑。
次は当然のように彼がメインで、また新たなメンバーと絡むことになるので、まあ、また読んでやってくだされ。