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プロフィール
HN:
麻咲
年齢:
41
性別:
女性
誕生日:
1983/05/03
職業:
フリーター
趣味:
ライブ、乙女ゲーム、カラオケ
自己紹介:
好きなバンド
janne Da Arc
Angelo
犬神サーカス団
シド
Sound Schedule
PIERROT
angela
GRANRODEO
Acid Black Cherry 他
好きな乙女ゲームとひいきキャラ
アンジェリークシリーズ(チャーリー)
遙かなる時空の中でシリーズ(無印・橘友雅、2.藤原幸鷹、3.平知盛、4・サザキ)
金色のコルダシリーズ(1&2・王崎信武、3・榊大地、氷渡貴史)
ネオアンジェリーク(ジェット)
フルハウスキス(羽倉麻生)
ときめきメモリアルGSシリーズ(1・葉月珪、2・若王子貴文)
幕末恋華シリーズ(大石鍬次郎、陸奥陽之助)
花宵ロマネスク(紫陽)
Vitaminシリーズ(X→七瀬瞬、真田正輝、永田智也 Z→方丈慧、不破千聖、加賀美蘭丸)
僕と私の恋愛事情(シグルド)
ラスト・エスコート2(天祢一星)
アラビアンズ・ロスト(ロベルト=クロムウェル)
魔法使いとご主人様(セラス=ドラグーン)
危険なマイ★アイドル(日下部浩次)
ラブマジ(双薔冬也)
星空のコミックガーデン(轟木圭吾)
リトルアンカー(フェンネル=ヨーク)
暗闇の果てで君を待つ(風野太郎)
ラブΦサミット(ジャン=マリー)
妄想彼氏学園(神崎鷹也) 他
バイト先→某損保系コールセンター
janne Da Arc
Angelo
犬神サーカス団
シド
Sound Schedule
PIERROT
angela
GRANRODEO
Acid Black Cherry 他
好きな乙女ゲームとひいきキャラ
アンジェリークシリーズ(チャーリー)
遙かなる時空の中でシリーズ(無印・橘友雅、2.藤原幸鷹、3.平知盛、4・サザキ)
金色のコルダシリーズ(1&2・王崎信武、3・榊大地、氷渡貴史)
ネオアンジェリーク(ジェット)
フルハウスキス(羽倉麻生)
ときめきメモリアルGSシリーズ(1・葉月珪、2・若王子貴文)
幕末恋華シリーズ(大石鍬次郎、陸奥陽之助)
花宵ロマネスク(紫陽)
Vitaminシリーズ(X→七瀬瞬、真田正輝、永田智也 Z→方丈慧、不破千聖、加賀美蘭丸)
僕と私の恋愛事情(シグルド)
ラスト・エスコート2(天祢一星)
アラビアンズ・ロスト(ロベルト=クロムウェル)
魔法使いとご主人様(セラス=ドラグーン)
危険なマイ★アイドル(日下部浩次)
ラブマジ(双薔冬也)
星空のコミックガーデン(轟木圭吾)
リトルアンカー(フェンネル=ヨーク)
暗闇の果てで君を待つ(風野太郎)
ラブΦサミット(ジャン=マリー)
妄想彼氏学園(神崎鷹也) 他
バイト先→某損保系コールセンター
アクセス解析
2008/01/20 (Sun)
一次創作関連
「やっぱりここにいらっしゃいましたのね」
舞い落ちる粉雪の中で、探していた後ろ姿を見つけた。
「……前に一度来ておいてよかったですわ」
降り積もった雪に淡く白く染め上げられ、耳鳴りがするほどの静寂に覆われた、小さな霊園。
並び立つ墓石の1つの前で、彼は立ち尽くしていた。
初恋の人が静かに眠る場所だ。
深紅の髪にも、灰色のダッフルコートにも白が降り積もりつつあったが、そんなことも気にならない様子だった。
そっと歩み寄る日向子を振り向こうともしない。
まるっきりぼんやりしていて、知らない振りではなく、本当に日向子の存在に気付いていないようだった。
近付くほどに、寒さのためかその傷を負った心故か、青白く正気のない顔が痛々しく思えた。
「お風邪を召されますわ」
傍らに立ち、そっと傘を差しかけた。
「紅朱様……」
《第12章 君に光が射すように -Love Songs-》【1】
どれくらいそうしていただろうか。
もうすっかり、えんじ色の傘の上にも雪が積もってしまっている。
紗の墓の前から動こうとせず、一言も声を発してくれない紅朱の隣に、日向子はずっと寄り添っていた。
ブーツと手袋の甲斐もないほど、爪先と指先がじんじんかじかんでいる。
灰色の空と白い地上の狭間で、今時計が何時を回ったのかもわからず、無限の静寂に飲み込まれてしまいそうだった。
それでもここを一人で立ち去ることはできない。
紅朱を東京へ、仲間たちの元へ連れて帰らなくてはいけない。
「紅朱様……」
震える声で呼び続ける。
答えはない。
自分の声では届かないのだろうか?
紅朱の心の中に響かないのだろうか。
寒さでだんだん頭が痺れてくるような気がする。
傘を持つ手の感覚もわからなくなっていって。
全てが真っ白になっていく。
そんな中で、何故か日向子はheliodorのステージを思い出していた。
五人を照らし出す白色のライト。
「……いつか……解けていくよ」
震える声で、記憶の中の紅朱の歌声をなぞる。
《いつか解けていくよ
哀しい夢も
繰り返した過ちも
愚かな執着も》
たどたどしい、不安定なメロディが静寂に微かな穴を開ける。
《目覚めたら 冬が逝く
微かな傷痕だけを残して》
サビの最後のフレーズが終わったその直後、気を付けなければ聞き逃してしまいそうな、ごくごく微かな呟きが空気を震わせた。
「……下手くそ」
日向子ははっと我に返って、紅朱を見つめる。
初めて紅朱の目が日向子の姿を映していた。
日向子の歌声は拙いものだったが、どうにかその心に触れることができたらしかった。
やはり彼はミュージシャンであり、heliodorのボーカリストなのだ。
どんなに心を閉ざそうとしても、音楽にだけは素直に反応してしまう。
「紅朱様……あ」
瞬間、日向子の手からパサリと傘が落下した。
そして傘を握っていた手はより大きな、だがやはり同じように体温を失った手で包まれ、そのまま抱き締められていた。
「……日向子……」
息苦しいくらいしっかりと両腕にかき抱かれ、息が止まってしまうかもしれないと思った。
日向子の肩越しに、塞き止めていたものを全てあふれさせるように、紅朱は叫んだ。
「……俺はっ……どうすりゃよかったんだ……なんでいつもこうなっちまうんだよ!!
守ろうとすれば守ろうとするほど、大事なものは俺から離れていくんだ……!!」
ほとばしる激情を全て受け止めながら、日向子は手を伸ばし、すっかり凍てついた紅朱の深紅の髪を撫でた。
「あなたにひどいことを言います」
前置きをして告げた。
「……それでも唄うのを止めないで下さい。唄い続けて下さい」
「……なんのために……?」
「何の為でもでもいいです……唄い続けて下さい。そうすればまた唄うことの喜びを思い出すことができます……きっと」
紅朱は日向子の肩口に顎を押し付けたまま口を開く。
「だけどこんな俺に誰がついて来てくれる? ……俺は綾の兄貴としても、バンドのリーダーとしても力不足だった。
heliodorのファンにも辛い思いさせちまったしな……今更誰にも会わす顔がねェ」
「だからご実家にも帰れず、東京にもいられず……ここへ来てしまったのですわね」
「……笑うなよ」
確かに日向子は少し笑みを浮かべていた。
「……紅朱様をばかにして笑っているわけではありませんわ」
「それでも笑うな」
紅朱は少しムキになったように念を押した。
「紅朱様は本当に何でも抱え込んでおしまいになりますのね……少なくともheliodorの皆様は、誰もあなたを責めたりするわけはないでしょう?」
「……」
「このまま独りで逃げておしまいになるなら、保証は致しかねますけど」
少しだけ冗談めかして言ってみた。
「……あいつらはまだやりたいって言ってんのか?」
「当たり前ですわ」
今度は自信に満ちた口調でキッパリ言い放つ。
「万楼様も、蝉様も、有砂様も諦めないと約束して下さいましたから。もちろんわたくしだって諦めたりしませんわ……だから」
紅朱のかじかんで真っ赤な耳元に、囁きかける。
「玄鳥様を連れ戻しましょう?」
「!」
驚いて顔を上げ、紅朱は日向子を近距離から見つめた。
「……連れ戻す、ってお前……玄鳥は自分の意思で脱退したんだぞ?
無理矢理連れ戻したって……」
「もちろん無理矢理などではありませんわ、玄鳥様がご自分で『heliodorに戻りたい』と思うようにするのです」
日向子はそんなことなんでもないことのように、微笑んだ。
そして驚くべき提案を口にしたのだった。
「『BLA-ICA』と勝負しましょう!!」
「『BLA-ICA』と……勝負??」
「『heliodor』のほうがずっとすごいバンドだと、玄鳥様や伯爵様に思い知らせて差し上げましょう」
かつてない好戦的で凶悪な言葉を楽しげに口にする日向子に、紅朱は……。
「……ああ。悪くねェかもな」
ほんの微かにだが、口の端を持ち上げて応えた。
気が付けば、雪はもう止んでいた。
「《heliodor》、解散したって噂があるみたいだけど」
漆黒の毛並のあどけない仔猫の首に黒いレースのリボンを飾りつけながら、抑揚のない声でゴシックロリータの少女が囁いた。
そのすぐ側で弦を張り替えていた、やはりゴシックな衣装をまとったギタリストは、
「解散なんかしないよ」
あっさりと答えた。
本当に100パーセント混じりけのない純粋な否定の言葉だった。
「あの人がついてるからね」
「釘宮のお嬢様ね」
「確かに、今や彼女はheliodorの女神様みたいなもんらしいからな」
対になった揃いの中性的なジャケット姿のリズム隊が口々に言う。
特にもはや美青年にしか見えない凛々しい女性ベーシストは、少し含みのある笑みを浮かべた。
「お前にとってもそうなんだろう? 玄鳥」
「だとしても」
ゴシックロリータの美声が問掛けられた本人より先に答えた。
「道が分かれたのだから、それまでよね」
それきり奇妙な沈黙が訪れたリハーサルスタジオに、やがて静かにもう一人のメンバー……プロデューサー兼キーボーディストが入って来た。
構わず猫を撫でている一人を除いて、全員がなんとはなしに姿勢を正して彼を迎える。
若いメンバーたちに、年齢差以上のはるかな格差を感じさせる、優美な物腰で四人を見渡したかと思うと、その熱を感じさせない瞳をギタリストに向けて一度静止させた。
「デビュー前の多忙な時期だが……とあるアマチュアバンドがどうしても、《BLA-ICA》と対バンさせろと言っている。
どうするかね? リーダー」
「っ」
リーダー、と呼ばれた玄鳥ははっと目を見開き、伯爵を凝視した。
とあるアマチュアバンド……などと持って回った言い方をする必要などありはしない。
まだ世間に公開されていないバンドを名指しで対バン相手に指名できるアマチュアバンドなど1組しかない。
「《heliodor》が……?」
玄鳥はまだ弦の足りないギターのネックを無意識に強く握っていた。
メンバーたちが見守る中、玄鳥はゆっくりとその面に笑みを浮かび上がらせた。
彼の兄を思わせる、攻撃的な笑い方だった。
「……受けて立ちましょう」
「先方からは受けて立つ、と」
パイプ役を担った日向子からの報告に、ようやく四人揃っていつものカフェに集まったheliodorの残留メンバーたちは四者四様の表情を浮かべた。
「よし、一歩ステップアップ。とりあえずドン底からは這上がったね」
万楼はほんの少し安堵を滲ませた笑みを浮かべる。
「ただしここで負けたら一気にゲームオーバーだけどね……」
蝉は少し緊張した面持ちで苦笑を見せた。
「……勝負の前に課題は山積みやで。ギターは? 曲は?」
有砂は溜め息をつき、難しい顔で他のメンバーを見やる。
「……ギターは俺が弾く」
これ以上ないほどに真剣な顔付きで紅朱は宣言した。
日向子を含む全員が、紅朱の顔を凝視した。
三年前にheliodorが最初の危機を迎えた時、封印されてしまった筈の紅朱のギター。
理由が怪我のせいではないことを誰もが察していたが、誰も触れることができなかった。
それを紅朱自らが解き放つと、今まさに告げたのだ。
「紅朱様……大丈夫、なのですか?」
思わず不安を口にする日向子に、紅朱は少し微笑んで見せる。
「ああ……実は少し前から練習を始めてたんだ。
……前に綾と喧嘩になっちまったことがあったろ? あの後くらいからな」
メンバーの誰一人として知らなかった事実だった。
「……どんどん成長していくあいつや……急速に変わっていく他のメンバーに気付いた時に、このままじゃまずいと思った。
俺ばかり過去に立ち止まっちゃいられねェってな」
紅朱の言葉に、他のメンバー三人は互いの顔を見合わせ、誰からともなく笑みを溢した。
日向子もそんな彼らを見て微笑まずにはいられなかった。
出会ったばかりの頃の彼らは、ステージの上での圧倒的なまでの輝きとは裏腹に、それぞれの闇を抱えていた。
その闇を乗り越えて来た彼らは、今また大きな苦悩を乗り越えて、ここに集まっている。
戦うために。
諦めきれない夢のために。
日向子は彼らを心の底から素敵だと思った。カッコいいと思った。
そして。
「次に曲だが……」
紅朱は神妙な顔付きで新たにそう切り出した。
「果たして……お前たちが賛成してくれるかどうか……」
《BLA-ICA》との直接対決に向けた初のミーティングはとりあえず終了し、heliodorはサポートメンバーを入れることなく、紅朱のギターボーカルを中心とした四人で挑むことが決まった。
演奏する曲については、紅朱の思いがけない意見に、はじめこそどよめきが走ったが、結局みんな賛同し、その意見を採用することとなった。
そうと決まればすぐにでもスタジオを押さえて練習しよう、とメンバーたちは店を出たが、日向子だけは次号の記事について少しまとめてから行くと言って、一人その場に残っていた。
だがそれは実際は口実に過ぎなかった。
対バンを申し込むために、プライベートナンバーで獅貴に連絡した際、日向子はメンバーに内緒で、もう一つだけ獅貴に頼んでみたのだ。
一度だけ。
一度だけで構わないから話がしたいと。
約束の時間ちょうどに、真面目で几帳面な彼はカフェのドアをくぐり、姿を現した。
「……少しだけお久しぶりですね……お元気そうで、よかった」
玄鳥だった。
日向子の願いを聞き入れて、玄鳥が姿を現した……。
《つづく》
舞い落ちる粉雪の中で、探していた後ろ姿を見つけた。
「……前に一度来ておいてよかったですわ」
降り積もった雪に淡く白く染め上げられ、耳鳴りがするほどの静寂に覆われた、小さな霊園。
並び立つ墓石の1つの前で、彼は立ち尽くしていた。
初恋の人が静かに眠る場所だ。
深紅の髪にも、灰色のダッフルコートにも白が降り積もりつつあったが、そんなことも気にならない様子だった。
そっと歩み寄る日向子を振り向こうともしない。
まるっきりぼんやりしていて、知らない振りではなく、本当に日向子の存在に気付いていないようだった。
近付くほどに、寒さのためかその傷を負った心故か、青白く正気のない顔が痛々しく思えた。
「お風邪を召されますわ」
傍らに立ち、そっと傘を差しかけた。
「紅朱様……」
《第12章 君に光が射すように -Love Songs-》【1】
どれくらいそうしていただろうか。
もうすっかり、えんじ色の傘の上にも雪が積もってしまっている。
紗の墓の前から動こうとせず、一言も声を発してくれない紅朱の隣に、日向子はずっと寄り添っていた。
ブーツと手袋の甲斐もないほど、爪先と指先がじんじんかじかんでいる。
灰色の空と白い地上の狭間で、今時計が何時を回ったのかもわからず、無限の静寂に飲み込まれてしまいそうだった。
それでもここを一人で立ち去ることはできない。
紅朱を東京へ、仲間たちの元へ連れて帰らなくてはいけない。
「紅朱様……」
震える声で呼び続ける。
答えはない。
自分の声では届かないのだろうか?
紅朱の心の中に響かないのだろうか。
寒さでだんだん頭が痺れてくるような気がする。
傘を持つ手の感覚もわからなくなっていって。
全てが真っ白になっていく。
そんな中で、何故か日向子はheliodorのステージを思い出していた。
五人を照らし出す白色のライト。
「……いつか……解けていくよ」
震える声で、記憶の中の紅朱の歌声をなぞる。
《いつか解けていくよ
哀しい夢も
繰り返した過ちも
愚かな執着も》
たどたどしい、不安定なメロディが静寂に微かな穴を開ける。
《目覚めたら 冬が逝く
微かな傷痕だけを残して》
サビの最後のフレーズが終わったその直後、気を付けなければ聞き逃してしまいそうな、ごくごく微かな呟きが空気を震わせた。
「……下手くそ」
日向子ははっと我に返って、紅朱を見つめる。
初めて紅朱の目が日向子の姿を映していた。
日向子の歌声は拙いものだったが、どうにかその心に触れることができたらしかった。
やはり彼はミュージシャンであり、heliodorのボーカリストなのだ。
どんなに心を閉ざそうとしても、音楽にだけは素直に反応してしまう。
「紅朱様……あ」
瞬間、日向子の手からパサリと傘が落下した。
そして傘を握っていた手はより大きな、だがやはり同じように体温を失った手で包まれ、そのまま抱き締められていた。
「……日向子……」
息苦しいくらいしっかりと両腕にかき抱かれ、息が止まってしまうかもしれないと思った。
日向子の肩越しに、塞き止めていたものを全てあふれさせるように、紅朱は叫んだ。
「……俺はっ……どうすりゃよかったんだ……なんでいつもこうなっちまうんだよ!!
守ろうとすれば守ろうとするほど、大事なものは俺から離れていくんだ……!!」
ほとばしる激情を全て受け止めながら、日向子は手を伸ばし、すっかり凍てついた紅朱の深紅の髪を撫でた。
「あなたにひどいことを言います」
前置きをして告げた。
「……それでも唄うのを止めないで下さい。唄い続けて下さい」
「……なんのために……?」
「何の為でもでもいいです……唄い続けて下さい。そうすればまた唄うことの喜びを思い出すことができます……きっと」
紅朱は日向子の肩口に顎を押し付けたまま口を開く。
「だけどこんな俺に誰がついて来てくれる? ……俺は綾の兄貴としても、バンドのリーダーとしても力不足だった。
heliodorのファンにも辛い思いさせちまったしな……今更誰にも会わす顔がねェ」
「だからご実家にも帰れず、東京にもいられず……ここへ来てしまったのですわね」
「……笑うなよ」
確かに日向子は少し笑みを浮かべていた。
「……紅朱様をばかにして笑っているわけではありませんわ」
「それでも笑うな」
紅朱は少しムキになったように念を押した。
「紅朱様は本当に何でも抱え込んでおしまいになりますのね……少なくともheliodorの皆様は、誰もあなたを責めたりするわけはないでしょう?」
「……」
「このまま独りで逃げておしまいになるなら、保証は致しかねますけど」
少しだけ冗談めかして言ってみた。
「……あいつらはまだやりたいって言ってんのか?」
「当たり前ですわ」
今度は自信に満ちた口調でキッパリ言い放つ。
「万楼様も、蝉様も、有砂様も諦めないと約束して下さいましたから。もちろんわたくしだって諦めたりしませんわ……だから」
紅朱のかじかんで真っ赤な耳元に、囁きかける。
「玄鳥様を連れ戻しましょう?」
「!」
驚いて顔を上げ、紅朱は日向子を近距離から見つめた。
「……連れ戻す、ってお前……玄鳥は自分の意思で脱退したんだぞ?
無理矢理連れ戻したって……」
「もちろん無理矢理などではありませんわ、玄鳥様がご自分で『heliodorに戻りたい』と思うようにするのです」
日向子はそんなことなんでもないことのように、微笑んだ。
そして驚くべき提案を口にしたのだった。
「『BLA-ICA』と勝負しましょう!!」
「『BLA-ICA』と……勝負??」
「『heliodor』のほうがずっとすごいバンドだと、玄鳥様や伯爵様に思い知らせて差し上げましょう」
かつてない好戦的で凶悪な言葉を楽しげに口にする日向子に、紅朱は……。
「……ああ。悪くねェかもな」
ほんの微かにだが、口の端を持ち上げて応えた。
気が付けば、雪はもう止んでいた。
「《heliodor》、解散したって噂があるみたいだけど」
漆黒の毛並のあどけない仔猫の首に黒いレースのリボンを飾りつけながら、抑揚のない声でゴシックロリータの少女が囁いた。
そのすぐ側で弦を張り替えていた、やはりゴシックな衣装をまとったギタリストは、
「解散なんかしないよ」
あっさりと答えた。
本当に100パーセント混じりけのない純粋な否定の言葉だった。
「あの人がついてるからね」
「釘宮のお嬢様ね」
「確かに、今や彼女はheliodorの女神様みたいなもんらしいからな」
対になった揃いの中性的なジャケット姿のリズム隊が口々に言う。
特にもはや美青年にしか見えない凛々しい女性ベーシストは、少し含みのある笑みを浮かべた。
「お前にとってもそうなんだろう? 玄鳥」
「だとしても」
ゴシックロリータの美声が問掛けられた本人より先に答えた。
「道が分かれたのだから、それまでよね」
それきり奇妙な沈黙が訪れたリハーサルスタジオに、やがて静かにもう一人のメンバー……プロデューサー兼キーボーディストが入って来た。
構わず猫を撫でている一人を除いて、全員がなんとはなしに姿勢を正して彼を迎える。
若いメンバーたちに、年齢差以上のはるかな格差を感じさせる、優美な物腰で四人を見渡したかと思うと、その熱を感じさせない瞳をギタリストに向けて一度静止させた。
「デビュー前の多忙な時期だが……とあるアマチュアバンドがどうしても、《BLA-ICA》と対バンさせろと言っている。
どうするかね? リーダー」
「っ」
リーダー、と呼ばれた玄鳥ははっと目を見開き、伯爵を凝視した。
とあるアマチュアバンド……などと持って回った言い方をする必要などありはしない。
まだ世間に公開されていないバンドを名指しで対バン相手に指名できるアマチュアバンドなど1組しかない。
「《heliodor》が……?」
玄鳥はまだ弦の足りないギターのネックを無意識に強く握っていた。
メンバーたちが見守る中、玄鳥はゆっくりとその面に笑みを浮かび上がらせた。
彼の兄を思わせる、攻撃的な笑い方だった。
「……受けて立ちましょう」
「先方からは受けて立つ、と」
パイプ役を担った日向子からの報告に、ようやく四人揃っていつものカフェに集まったheliodorの残留メンバーたちは四者四様の表情を浮かべた。
「よし、一歩ステップアップ。とりあえずドン底からは這上がったね」
万楼はほんの少し安堵を滲ませた笑みを浮かべる。
「ただしここで負けたら一気にゲームオーバーだけどね……」
蝉は少し緊張した面持ちで苦笑を見せた。
「……勝負の前に課題は山積みやで。ギターは? 曲は?」
有砂は溜め息をつき、難しい顔で他のメンバーを見やる。
「……ギターは俺が弾く」
これ以上ないほどに真剣な顔付きで紅朱は宣言した。
日向子を含む全員が、紅朱の顔を凝視した。
三年前にheliodorが最初の危機を迎えた時、封印されてしまった筈の紅朱のギター。
理由が怪我のせいではないことを誰もが察していたが、誰も触れることができなかった。
それを紅朱自らが解き放つと、今まさに告げたのだ。
「紅朱様……大丈夫、なのですか?」
思わず不安を口にする日向子に、紅朱は少し微笑んで見せる。
「ああ……実は少し前から練習を始めてたんだ。
……前に綾と喧嘩になっちまったことがあったろ? あの後くらいからな」
メンバーの誰一人として知らなかった事実だった。
「……どんどん成長していくあいつや……急速に変わっていく他のメンバーに気付いた時に、このままじゃまずいと思った。
俺ばかり過去に立ち止まっちゃいられねェってな」
紅朱の言葉に、他のメンバー三人は互いの顔を見合わせ、誰からともなく笑みを溢した。
日向子もそんな彼らを見て微笑まずにはいられなかった。
出会ったばかりの頃の彼らは、ステージの上での圧倒的なまでの輝きとは裏腹に、それぞれの闇を抱えていた。
その闇を乗り越えて来た彼らは、今また大きな苦悩を乗り越えて、ここに集まっている。
戦うために。
諦めきれない夢のために。
日向子は彼らを心の底から素敵だと思った。カッコいいと思った。
そして。
「次に曲だが……」
紅朱は神妙な顔付きで新たにそう切り出した。
「果たして……お前たちが賛成してくれるかどうか……」
《BLA-ICA》との直接対決に向けた初のミーティングはとりあえず終了し、heliodorはサポートメンバーを入れることなく、紅朱のギターボーカルを中心とした四人で挑むことが決まった。
演奏する曲については、紅朱の思いがけない意見に、はじめこそどよめきが走ったが、結局みんな賛同し、その意見を採用することとなった。
そうと決まればすぐにでもスタジオを押さえて練習しよう、とメンバーたちは店を出たが、日向子だけは次号の記事について少しまとめてから行くと言って、一人その場に残っていた。
だがそれは実際は口実に過ぎなかった。
対バンを申し込むために、プライベートナンバーで獅貴に連絡した際、日向子はメンバーに内緒で、もう一つだけ獅貴に頼んでみたのだ。
一度だけ。
一度だけで構わないから話がしたいと。
約束の時間ちょうどに、真面目で几帳面な彼はカフェのドアをくぐり、姿を現した。
「……少しだけお久しぶりですね……お元気そうで、よかった」
玄鳥だった。
日向子の願いを聞き入れて、玄鳥が姿を現した……。
《つづく》
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