突発ＳＳ【VitaminZ・加賀美×真奈美】

　そんなわけで、以前チラッと予告したVitaminZのＳＳをとうとう書いてしまいました。笑。

　実はVitaminシリーズ通しての処女作になります(我ながら意外にも)。

　しょっぱなから加賀美×真奈美という、需要があるのかないのかサッパリわからん、よくわかんないカプですいません。笑。

　最初なので内容はかなり軽めになっています。

　反響があろうがなかろうが、次は天童×真奈美を書く予定です。笑。

　Ｒ＋中心の「VitaminRシリーズ」にするのもいいかも！

　……などとひとりで息巻きながら、ＳＳを投下致します。

　つづきからどうぞ★

《放課後ランマール・クリニック》





「ヘイユー、今なんつった？」

「あの……ですから、ギターをですね……教えてもらえないかな、って」

　授業(ライブ)が終わってすぐに、音楽室で加賀美先生を捕まえた。

　職員室に戻ってからだと、他の２人が出て来て、ゆっくり話せなくなるかもしれなかったから。あと、光りそうだし……。

「オマエがギターなんか覚えてどうすんだＹＯ　んなヒマあったらもっとやることあんだろ！？
多智花の補習はどうなってんだ？」

「それなんですけど……」

　大体予想通りのリアクションだった。
　だけどもちろん私だって、遊びで頼んでるわけじゃない。

「八雲くんの好きなものといえば歌だし、加賀美先生の授業(ライブ)みたいに、補習に音楽を取り入れたら楽しくなるかな……って思ったんです」

　残念ながら私には歌は向いてないみたいなので、歌以外の方法……じゃあ「楽器」かなって思った時、思い出したのが加賀美先生の授業風景だった。

「だから加賀美先生を、先輩と見込んでお願いしたいんです」

「せっ……！？」

　加賀美先生は一瞬目を見開いて口をパクパクさせたかと思うと、コホンと大袈裟に咳をした

「な、なるほどな。ＯＫ、オマエの言い分はわかったぜ」

「じゃあギター教えてくれるんですか？」

「いや、そいつはムリだな」

　加賀美先生はあっさりと首を横に振る。

「オレは教育主任の仕事が忙しくて、オマエに付き合ってやる時間はねーんだよ」

「そうですか……」

　確かにもう秋も終わりのこの時期、どの先生方も受験・進路相談絡みで何かと忙しい。
　ＧＴＲのような役付きの方々なら尚更のことだろう……。

「そうですよね……無理なお願いしてすいません。失礼しま……」


「ギターなら、オレが教えてやってもいい」


　突然後ろから聞こえて来た別の声に、私と加賀美先生はびっくりして同時にそちらを見やった。

　音楽室の入り口の戸に背を預けるようにして、七瀬先生が立っていた。

「ヘイ、七瀬っ、テメいつの間にいやがった！？」

「北森先生を探しに来たところだ。今日はこれから桐丘先生とサラダ油の特売に並ぶ予定だが、一緒にどうかと思ったんだが」

「サラダ油ですかー……行きたいところなんですけど、まだ仕事が残ってるんですよね……」

「そうか。それは残念だな」

「ヘイ！ヘイ！ヘイ！オレをシカトすんな！節約友の会っっ！！」

　叫びながらギターをジャジャジャンとかき鳴らす加賀美先生を見てはっと我に返る。

　そういえば、今はサラダ油の特売よりももうちょっと大事な話をするべき場面だった。

「あの、七瀬先生、さっきギター教えてくれるって言いました？」

「ああ、言ったな」

　七瀬先生は端正なお顔を上下させる。

「でも七瀬先生はヴィスコンティではベース担当じゃ……」

「ベーシストだからと言ってベースしか弾かないわけじゃない。大方の楽器は扱える。ギターは曲作りにも使うしな。
あまり人に手解きすることはないが、北森先生になら、教えてやってもいい」

　言いながら七瀬先生は、フッと口角を吊り上げる。

「安くしておくぞ」

　ああ、やっぱり受講料は……受講料は発生するんですね、七瀬先生……！！

　わかってはいたけど、思わず引き吊った笑みが浮かんでしまう。

「ど……どうしようかな……」


「だったらさー、オレが教えてあげてもいいよ」


「っ、えっ？」

　またしても別な人物の声が割って入る。
　今度は３人で振り返ってしまう。

　七瀬先生の後ろからひょっこり顔を出したのはＰ２の弟くん……那智くんだった。

「オレもギターはわりと弾けるからさ。基本くらい教えられると思うよ」

「で、でも今生徒会って聖帝祭の準備とか忙しいんじゃ……」

　那智くんは屈託のない笑顔で、私の前に歩み出て来る。

「オレは別に、慧が頑張ってくれてるから大して忙しくないよ。……むしろちょっと退屈してたぐらいなんだ」

　言いながら、さりげない仕草で私の手を握ってくる。

「な、那智くん！？」

「ね、オレにしなよ。真奈美先生？」

　パチンとウインクされて、思わず固まってしまう。

「コーラ！何してやがんだテメーは！！」

　加賀美先生が高く上げた右腕を振り下ろして、断ち切るようにして私と那智くんの手を離れさせる。

　那智くんはわざとらしいくらい可愛らしい、キョトンとした表情で小首を傾げて私を見る。

「別にこんなのいつものスキンシップだよねー、真奈美先生」

「那智くん……！」

「普通にハグとかするもんねー？」

「そうなのか？」

「……えーっと……七瀬先生、これはその……」

　確かにそうなんだけど！ いくらなんでも先生方の前でそれはちょっと……！！

　赤くなったり青くなったりしている私の横で、加賀美先生のギターの弦が一本、バチンと音を立てて弾けた。

「……サノバビッチ！！ とっととオレの神聖なライブ会場から出て行けってのっ！！」

　加賀美先生は猛烈な勢いで那智くんと、ついでに七瀬先生も音楽室から押し出して行く。

「まだ北森先生との受講料の交渉が……」

「え～？真奈美先生はオレが……」

「シャラップ！！　北森は『先輩』を頼って来たんだろーが！『先輩』のこのオレをだっ！！　だから北森にギター教えんのはこのオレだーーー！！」

　え？ 教える？ギターを？
　加賀美先生が？？

　あまりにも意外な言葉に、ツッコミもスルーもできずに立ち尽くす私の目の前で音楽室の扉が、音を立てて閉ざされた。

　私に背中を向けたまま、叫び過ぎたのか、扉に手をついてぜいぜい肩で息をしていた加賀美先生は、ややあってからゆっくり振り返った。

　でも視線はそっぽを向いたまま。オレンジ色の髪に指をつっこんで、バツが悪そうな顔をしている。

「……ま、そーゆーコトだ……」

「……そーゆーコト、ですか……」

　つまり、加賀美先生がギターを教えてくれるってことなのよね……これは。

　微妙に気まずい沈黙を払うように、加賀美先生がため息を吐き出す。

「……ちょっとその辺座っとけよ。切れた弦張り替えっから……」

「あ、はい……」

　私はたくさんある席のひとつに腰を下ろす。

　こうして生徒の座る椅子に座って、生徒と同じ視線で見回すと、何か新鮮な気持ちがする。

　そんな私には目もくれず、加賀美先生は、ピアノの椅子に座って、さっき切れたギターの弦を手際よく外して、新しいものに張り替えていく。

　それが、何百回(何千回だったりするのかな)と繰り返して来た作業だということは、ちょっと見ただけでわかる。

　実際加賀美先生は、高校時代にはすでにアマチュアバンドに所属してたって聞いたことがあるし……。

　新しい弦を張り終えると、その具合を確かめるように、加賀美先生は指弾きでシンプルなメロディを奏でる。

　加賀美先生のギターの音はほとんど毎日聞いてるような気がするけど、そういえば弾いてる姿をまじまじ見たことはなくて、音を生み出す両の手が、どれほど器用にしなやかに、そして複雑に動くのかをたった今知った。

　窓の外から射し込む茜色の光に照らし出されるそれを、綺麗だな……と思う。

　やがてその指の動きが止まり、メロディが止まる。

　加賀美先生は立ち上がって、「……んじゃ、こっちに座れよ」と今の今まで自分が座っていたピアノの椅子に私を導いた。

　確かに机のある席では、ギターを弾くには邪魔になりそうだった。

　加賀美先生は、なんとなく借りて来た猫みたいに小さくなってちょこんと腰かけた私の頭の上から、愛用のギターのストラップをくぐらせる。

　私は、壊れ物を扱うようにそっとギターを受け取り、隅々まで眺める。

　これが加賀美先生のギターなんだ……。

「ホラよ」

　ぶっきらぼうな言葉とともに膝の上にポトリと落とされたのは、花びらみたいな形をした白いピックだった。

　私はそのピックを手に取って、弦に添わせる。

「ちげーよ、持ち方。それじゃ変なトコロに力入んだろ。こうだ、こう」

　別のピックを持って実演してみせてくれるんだけど……わかるような、わからないような……。

「え？　こうですか？」

「そうじゃねーって……だから」

　加賀美先生は苛立ったように私の右手を取ると、ギュッと握ってその形を変える。そして、

「こう持つ」

　正しい形で私の指にピックを挟み込む。

「あ、そうか。わかりました」

　確かにこうやって持ったほうが弾きやすそう。

「で、左手はどうすればいいんですか？」

「……」

「加賀美先生？」

　加賀美先生は黙ったまま、私の右手を凝視している。

「あの、まだどこか変ですか？」

「あ……いや……な、なんでもねーよ。ひ、左手だな……左手は～」


　加賀美先生は時々謎のフリーズ現象を起こしながらも一時間近く私に付き合ってくれた。








　職員室に戻った私は、残っていた仕事を終わらせにかかっていた。
　動かしたことのない動かし方をした左手が、さっきからちょっとだけ痛む。

　弦を押さえるのって、意外と力がいるし、関節とかも柔らかくないとダメなんだな……。

　左手を見つめながら、グーパーしたり、ブラブラさせたりしてると、

「いっ」

　いきなり頭の上に異物がストンと落ちて来た。

　柔らかくて痛くはなかったけど、びっくりして手に取ったそれは、ほどよく温まったおしぼり……？

　振り返ると、帰宅した筈の加賀美先生が立っていた(とは言っても、加賀美先生の家は学校の上にあるわけだけれど……)。

「ヘイユー、それであっためてほぐしとけ、ＯＫ？」

　あ、そうか。私のためにこれを持って来てくれたんだ……。

「あ、ありがとうございます。……えっと、今日は本当にお世話になりました。今度お礼にクッキーでも焼いて来ますね」

「……んなもん、別にいらねーよ。クッキーなんか作ってるヒマあったら、コードでも覚えな」

　態度は相変わらずだけど、今日は何となく優しく感じられてしまうのが不思議だ。

「あの、また時間がある時にレッスンしてもらえますか……？」

「ま、時間がある時には、な」

「はい。じゃあ、加賀美先生が忙しい時には七瀬先生や那智くんに相談しますね」

「なっ、それはっダメだ！！」

　突然大声を出されて、ビクッとなってしまう。

「え？ダメなんですか？」

「あ、イヤ……それは、だからっ……えっと」

　加賀美先生は視線を右へ左へ泳がせながら頭をかきむしっていたかと思うと、

「ホラ、オマエはオレのギターで練習してっから。他のヤツのギターでやっても多分、やりにくいんじゃねーの！？　いや、確実にやりにくいな。絶対にやりにくい！！」

　赤い顔でまくしたて、そしてこう続けた。

「だから……講師はオレだけにしとけってこった。……ＯＫ？」

「……はあ、えっと」

　なんだかよくわからない。よくわからないけど……加賀美先生って、ちょっと可愛い、かも……？

「……ＯＫ、です♪」

　左手を包むおしぼりよりも、温かい気持ちが、私の中に生まれつつあった。










【つづく……？？】