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プロフィール
HN:
麻咲
年齢:
41
性別:
女性
誕生日:
1983/05/03
職業:
フリーター
趣味:
ライブ、乙女ゲーム、カラオケ
自己紹介:
好きなバンド
janne Da Arc
Angelo
犬神サーカス団
シド
Sound Schedule
PIERROT
angela
GRANRODEO
Acid Black Cherry 他
好きな乙女ゲームとひいきキャラ
アンジェリークシリーズ(チャーリー)
遙かなる時空の中でシリーズ(無印・橘友雅、2.藤原幸鷹、3.平知盛、4・サザキ)
金色のコルダシリーズ(1&2・王崎信武、3・榊大地、氷渡貴史)
ネオアンジェリーク(ジェット)
フルハウスキス(羽倉麻生)
ときめきメモリアルGSシリーズ(1・葉月珪、2・若王子貴文)
幕末恋華シリーズ(大石鍬次郎、陸奥陽之助)
花宵ロマネスク(紫陽)
Vitaminシリーズ(X→七瀬瞬、真田正輝、永田智也 Z→方丈慧、不破千聖、加賀美蘭丸)
僕と私の恋愛事情(シグルド)
ラスト・エスコート2(天祢一星)
アラビアンズ・ロスト(ロベルト=クロムウェル)
魔法使いとご主人様(セラス=ドラグーン)
危険なマイ★アイドル(日下部浩次)
ラブマジ(双薔冬也)
星空のコミックガーデン(轟木圭吾)
リトルアンカー(フェンネル=ヨーク)
暗闇の果てで君を待つ(風野太郎)
ラブΦサミット(ジャン=マリー)
妄想彼氏学園(神崎鷹也) 他
バイト先→某損保系コールセンター
janne Da Arc
Angelo
犬神サーカス団
シド
Sound Schedule
PIERROT
angela
GRANRODEO
Acid Black Cherry 他
好きな乙女ゲームとひいきキャラ
アンジェリークシリーズ(チャーリー)
遙かなる時空の中でシリーズ(無印・橘友雅、2.藤原幸鷹、3.平知盛、4・サザキ)
金色のコルダシリーズ(1&2・王崎信武、3・榊大地、氷渡貴史)
ネオアンジェリーク(ジェット)
フルハウスキス(羽倉麻生)
ときめきメモリアルGSシリーズ(1・葉月珪、2・若王子貴文)
幕末恋華シリーズ(大石鍬次郎、陸奥陽之助)
花宵ロマネスク(紫陽)
Vitaminシリーズ(X→七瀬瞬、真田正輝、永田智也 Z→方丈慧、不破千聖、加賀美蘭丸)
僕と私の恋愛事情(シグルド)
ラスト・エスコート2(天祢一星)
アラビアンズ・ロスト(ロベルト=クロムウェル)
魔法使いとご主人様(セラス=ドラグーン)
危険なマイ★アイドル(日下部浩次)
ラブマジ(双薔冬也)
星空のコミックガーデン(轟木圭吾)
リトルアンカー(フェンネル=ヨーク)
暗闇の果てで君を待つ(風野太郎)
ラブΦサミット(ジャン=マリー)
妄想彼氏学園(神崎鷹也) 他
バイト先→某損保系コールセンター
アクセス解析
2007/05/25 (Fri)
一次創作関連
結局書いてしまった。オリジナル乙女ゲーSS。
一応一人一人をフィーチャーしながら、ヒロインと出会う前の物語を書いていこうかと。
第一段はベースの万楼くん。最初なんで電波っぷりは一応抑えめで。
「ねえ。100円、頂戴」
なれなれしく肩を叩いてきた赤の他人。
「100円足りないんだ」
その赤の他人からのぶしつけな要求が、
「……100円?」
問答無用に黙殺されずに済んだのは、
「うん。412円と、あとはもうおっきいのしかないんだ」
単純に彼の笑顔が、可愛かったからだ。
「100円玉、キミは持っていないかな」
その笑顔に捕まった、彼女は重たくマスカラを重ねた睫毛を一瞬しばたかせた。
「え……えっと」
彼女がポケットに押し込んだコインケースの中身を思い出すよりも早く、
「はい100円!!」
前後左右から銀色のコインを乗せた掌が彼の前に差し出された。
合計四枚。
その持ち主たちはみんな「美少年と仲良くなる突然の大チャンス」に目がぎらついている。
「はは、東京の女の子ってみんな優しいんだな」
その美少年は、いよいよ嬉しそうに顔をほころばせた。
「どうもありがとう」
4枚の100円玉を、集めて握り締める。
そこにもう一枚、100円玉が差し出された。
肩を叩かれた彼女だった。
「よ、よかったら……」
美少年はそれも遠慮なく受け取ると、他の四枚と合わせてぎゅっと握った。
「やった。ドリンク代、浮いた」
「円」で「縁」を買った女の子たちは、さっと彼を取り囲んだ。
「ねえねえ、《東京の》、ってことはお兄さん遠征組?? このイベ」
「どのバンド見に来たの? あたしはねぇ、3ば」
「そのチケ、Bチケ? 前のほう場所とっといてあげるから一緒に見ない? 上手側のほ」
「ねえねえ、せっかくだからメアド交換しな~い? 赤外せ」
「あの、あたし、リサ。あなたは?」
聖徳太子のアビリティは身に付けていない美少年は、唯一聞き取れた最後の質問にだけ、ゆっくりと、答えた。質問者は、最初の少女だった。
「ボクの、名前? ……万楼(マロウ)、って呼んで」
#1・【万楼 ―2006・春―】
「あれ、帰るの? リサ」
「ううん。目当てのバンド終わったから、残りは後ろで見ようかなって」
「そうなんだ」
「……万楼、ライブハウスってあんまり慣れてない?」
「初めてなんだ」
開場時間まで万楼を質問ぜめにしていた「バンギャ」たちは、前方の似たような集団の中にめいめいに潜り込んで、もう薄闇の中でなくても見分けがつきそうになかった。
一方。機材の入れ換えを行う暗転したステージを、壁に寄りかかりながら見つめる万楼の、中性的で整った横顔は、すれ違う人をいつも少し振り向かせた。
リサは少しだけ得意気に、そんな万楼の隣に立った。
「高松から来たって言ってたよね」
「うん。飛行機で」
「万楼はリッチだね。あたしは金沢から。高速バスの夜行で」
「遠征、っていうんだっけ」
「うん。当たり前みたいにうちらは使うけど、改めて言われるとなんか仰々しい言葉だよね」
「カッコいいと思うよ」
万楼はそう言って、サラサラした直毛の髪をサイドかき上げる。
長い前髪の隙間からのぞく大きな瞳は、正面からではきっと直視できないほど眩く煌めく。
「ねえところで、携帯、ホントに持ってないの?」
「持ってないんだ。携帯もパソコンも」
「不便じゃないの?」
「なぜ? 昔はそんなものなかったのに、みんな平気だったよ」
「……万楼って、だいぶ変わってるね」
「そうかな」
「うん。変」
「変かぁ」
リサの言いようにも特に気を悪くするでもなく、万楼は、
「リサは東京のバンド、詳しいのかな」
ふと話題を変えてきた。
「《heliodor(ヘリオドール)》っていうバンド、知ってる?」
「ヘリオドール?」
シャン、とステージの上でセッティング中のシンバルが鳴った。
「ボクは本当はそのバンドを探しているんだ。だけど」
万楼の大きな瞳が微かに揺れた。
「ずっと前に活動休止して、行方がわからないって言われたんだ」
溜め息を吐いて、一瞬、唇を噛む。
彼が初めて見せたうかない表情だった。
「だけど、今日のイベントに出るバンドの、サポートギターの人が、heliodorのメンバーによく似てるから見てみたら?って言われたから」
「紅朱(コウシュ)に、似てるんだよね」
「知ってるの?」
「heliodorは、有名だからね。人気あったし」
「紅朱って人が、ギタリスト?」
「紅朱はボーカルだよ。ギタボ。でも」
リサはなぜか申し訳なさそうに声をひそめた。
「私は事故に遭って死んだって聞いたけど」
「……」
万楼はリサを振り返り、緩慢な動きで首を左右した。
「それは、困る」
「困るって言われても……あ」
「どうしたの?」
「多分、あの人がそうだよ。サポートギターの人。確かに顔は紅朱そっくりだから、ネットでも話題になってる」
リサはステージの上手を指差した。
なんとはなしに、オーディエンスにも波のようなどよめきがあったようだった。
ギターのチューニングをしているのは、20代前半くらいの細身の青年だった。
黒と思われる短い髪に、一部白いメッシュを入れている。
他のメンバーと同じようなカジュアルな黒いジャケットを羽織っていた。
「ペンギンみたいだ」
万楼がボソッと評した。
「ペンギンって……」
ほどなくしてステージを照明が照らし出し、人の塊がだっと前方に押し寄せる。SEと黄色い歓声がフェードインし、そしてアウトした。
鳴り出した演奏の音に負けないように万楼は少し声のトーンをあげる。
「紅朱って人とは本当に違うの?」
「……違うと思う」
「どうして?」
「紅朱より、ずっと巧いから」
「全っ然動かない」
「終演後のドリンクカウンターは混むからね」
「覚えておくよ」
ドリンクチケットを指先でもてあそびながら、万楼は小さく笑った。
一方通行の人波に揉まれながら、渋滞するロビーで立ち往生する二人は、やはりなんとなく注目を集めている気がした。
「リサ、あのペンギンさんと話をするにはどうしたらいいのかな?」
「う~ん……噂だと《待ち》しても、ほとんどスルーらしいからね」
「話せないの?」
「難しいかな。でも、万楼は男の子だし、警戒されにくいから、少しくらいなら聞いてくれるかもしれないよ」
「本当に!?」
久々に明るい表情に戻った万楼に、リサも笑った。そしてそっと手を差しのべた。
「ドリンクチケット、貸して。私が引き換えるから、万楼は先に行って待ってなよ。このハコなら多分、正面に向かって右奥の入り口からメンが出入りする筈だから、そこにいるといいんじゃないかな」
「いいの?」
「ペンギンさんと話せるといいね」
「ありがとう……!!」
お互いに今日一番の笑顔を浮かべた。
万楼からリサへ、ラミ加工された小さなチケットが渡される。
「メロンソーダにして」
「OK」
「お疲れ、玄鳥(クロト)」
「お疲れ様です。今日はありがとうございました」
右手に持ったプラスチックカップに入ったビールが傾いて、危うく溢れそうなくらい深く一礼する。
「勉強させてもらいました」
「何言ってんだ、こっちはお前に食われないかハラハラもんだったぜ」
「そんな」
「だな。お前はちゃんと自分の存在感を演出しながら、メインを引き立てるコツを得てる。大したギタリストだよ」
「……褒め過ぎですって」
いきなり手放しに称賛されて、玄鳥と呼ばれた青年は照れ臭そうに白メッシュの頭をかいた。
「……なんだか、紅朱が照れてるみたいでキモイな」
「……」
それに関してはノーコメントで、玄鳥はビールを口に運んだ。
「なあ、玄鳥」
同じようにビールをあおりながら、つい先刻同じステージに上がったボーカリストは、少し改まった声で問うた。
「heliodorはまだ動かないのか?」
玄鳥は吊り気味のアーモンド型の眼をすがめた。
「まだです。肝心のベースが……」
「やっぱり、《粋(スイ)》ほどのベーシストの代わりが務まる人間はそうはいないか」
「ええ……特に、有砂(アリサ)さんがなかなか納得してくれなくて。みんな、毎日日本中を飛び回ってますよ。オレもそうするべきなのかもしれないけど、それより今はこうやって少しでも経験を積みたいと思ってます……オレは兄貴の右腕ですから」
「そう、か」
残念そうに嘆息する先輩ミュージシャンに、玄鳥はカップを握る手に少し力を込めた。
人々は暗黒の空を見上げ、ひざまずいて待望する。
再びこの空に太陽が昇ることを。
「ペンギンさん!」
玄鳥が思わず振り返ってしまったのは、あまりにも呼ばれ慣れない名前だったからだろう。
すぐ側で誰かが吹き出したのがわかった。
「あの……オレ?」
「ペンギンさん、ペンギンさん」
「ペンギンさん」を連呼するとびきりの美少年に唖然としつつも、玄鳥はコホンとベタな咳払いをした。
「あの、オレはペンギンさんじゃ……」
「ペンギンさんは、本当は紅朱さんって人なの?」
直球な問掛けをぶつける美少年は、妙に真剣な顔付きだった。
「ボクは万楼。heliodorでベースを弾くために高松から来たんだよ」
「え……? 君は」
「ある人に、頼まれたんだ。だから……」
「heliodor」の名前を出したことで、ただでも目立っていた二人は一気に周囲の視線を集めていた。
それを察した玄鳥は、とっさに万楼の手首を掴んで引き寄せた。
「君、とりあえず一緒に来て……話を聞くから」
「その人なら、例の紅朱のソックリさんとどっかに行っちゃいましたよ。私もおっかけたんだけど、撒かれちゃった~」
「そう……ですか」
リサは両手にプラスチックのコップを持ったまま、人もまばらになり始めた搬入口に立ち尽くしていた。
「万楼……ペンギンさんと話せたのかな……」
もう一度会ってメロンソーダを渡せなかったのは残念だったが、リサには不思議な予感があった。
万楼にはいつかまた会える気がする。そしてその時彼は、もしかしたら「向こう側」かもしれないと。
どうしてそう思うかと聞かれれば、それは「バンギャの勘」というやつだろうか。
カップの中でたゆたう、透き通った鮮やかな緑の液体を、迷った挙句口に持っていった。
「……少なくとも、二割はあたしのだし」
潮騒の街からやってきたその少年こそが、最後の欠片だった。
一度は完成し、そしてあっけなく瓦解してしまった「太陽の国」を再び形造るための……。
明けない夜はない。
朝日はもうすぐ、世界を照らす。
《END》
一応一人一人をフィーチャーしながら、ヒロインと出会う前の物語を書いていこうかと。
第一段はベースの万楼くん。最初なんで電波っぷりは一応抑えめで。
「ねえ。100円、頂戴」
なれなれしく肩を叩いてきた赤の他人。
「100円足りないんだ」
その赤の他人からのぶしつけな要求が、
「……100円?」
問答無用に黙殺されずに済んだのは、
「うん。412円と、あとはもうおっきいのしかないんだ」
単純に彼の笑顔が、可愛かったからだ。
「100円玉、キミは持っていないかな」
その笑顔に捕まった、彼女は重たくマスカラを重ねた睫毛を一瞬しばたかせた。
「え……えっと」
彼女がポケットに押し込んだコインケースの中身を思い出すよりも早く、
「はい100円!!」
前後左右から銀色のコインを乗せた掌が彼の前に差し出された。
合計四枚。
その持ち主たちはみんな「美少年と仲良くなる突然の大チャンス」に目がぎらついている。
「はは、東京の女の子ってみんな優しいんだな」
その美少年は、いよいよ嬉しそうに顔をほころばせた。
「どうもありがとう」
4枚の100円玉を、集めて握り締める。
そこにもう一枚、100円玉が差し出された。
肩を叩かれた彼女だった。
「よ、よかったら……」
美少年はそれも遠慮なく受け取ると、他の四枚と合わせてぎゅっと握った。
「やった。ドリンク代、浮いた」
「円」で「縁」を買った女の子たちは、さっと彼を取り囲んだ。
「ねえねえ、《東京の》、ってことはお兄さん遠征組?? このイベ」
「どのバンド見に来たの? あたしはねぇ、3ば」
「そのチケ、Bチケ? 前のほう場所とっといてあげるから一緒に見ない? 上手側のほ」
「ねえねえ、せっかくだからメアド交換しな~い? 赤外せ」
「あの、あたし、リサ。あなたは?」
聖徳太子のアビリティは身に付けていない美少年は、唯一聞き取れた最後の質問にだけ、ゆっくりと、答えた。質問者は、最初の少女だった。
「ボクの、名前? ……万楼(マロウ)、って呼んで」
#1・【万楼 ―2006・春―】
「あれ、帰るの? リサ」
「ううん。目当てのバンド終わったから、残りは後ろで見ようかなって」
「そうなんだ」
「……万楼、ライブハウスってあんまり慣れてない?」
「初めてなんだ」
開場時間まで万楼を質問ぜめにしていた「バンギャ」たちは、前方の似たような集団の中にめいめいに潜り込んで、もう薄闇の中でなくても見分けがつきそうになかった。
一方。機材の入れ換えを行う暗転したステージを、壁に寄りかかりながら見つめる万楼の、中性的で整った横顔は、すれ違う人をいつも少し振り向かせた。
リサは少しだけ得意気に、そんな万楼の隣に立った。
「高松から来たって言ってたよね」
「うん。飛行機で」
「万楼はリッチだね。あたしは金沢から。高速バスの夜行で」
「遠征、っていうんだっけ」
「うん。当たり前みたいにうちらは使うけど、改めて言われるとなんか仰々しい言葉だよね」
「カッコいいと思うよ」
万楼はそう言って、サラサラした直毛の髪をサイドかき上げる。
長い前髪の隙間からのぞく大きな瞳は、正面からではきっと直視できないほど眩く煌めく。
「ねえところで、携帯、ホントに持ってないの?」
「持ってないんだ。携帯もパソコンも」
「不便じゃないの?」
「なぜ? 昔はそんなものなかったのに、みんな平気だったよ」
「……万楼って、だいぶ変わってるね」
「そうかな」
「うん。変」
「変かぁ」
リサの言いようにも特に気を悪くするでもなく、万楼は、
「リサは東京のバンド、詳しいのかな」
ふと話題を変えてきた。
「《heliodor(ヘリオドール)》っていうバンド、知ってる?」
「ヘリオドール?」
シャン、とステージの上でセッティング中のシンバルが鳴った。
「ボクは本当はそのバンドを探しているんだ。だけど」
万楼の大きな瞳が微かに揺れた。
「ずっと前に活動休止して、行方がわからないって言われたんだ」
溜め息を吐いて、一瞬、唇を噛む。
彼が初めて見せたうかない表情だった。
「だけど、今日のイベントに出るバンドの、サポートギターの人が、heliodorのメンバーによく似てるから見てみたら?って言われたから」
「紅朱(コウシュ)に、似てるんだよね」
「知ってるの?」
「heliodorは、有名だからね。人気あったし」
「紅朱って人が、ギタリスト?」
「紅朱はボーカルだよ。ギタボ。でも」
リサはなぜか申し訳なさそうに声をひそめた。
「私は事故に遭って死んだって聞いたけど」
「……」
万楼はリサを振り返り、緩慢な動きで首を左右した。
「それは、困る」
「困るって言われても……あ」
「どうしたの?」
「多分、あの人がそうだよ。サポートギターの人。確かに顔は紅朱そっくりだから、ネットでも話題になってる」
リサはステージの上手を指差した。
なんとはなしに、オーディエンスにも波のようなどよめきがあったようだった。
ギターのチューニングをしているのは、20代前半くらいの細身の青年だった。
黒と思われる短い髪に、一部白いメッシュを入れている。
他のメンバーと同じようなカジュアルな黒いジャケットを羽織っていた。
「ペンギンみたいだ」
万楼がボソッと評した。
「ペンギンって……」
ほどなくしてステージを照明が照らし出し、人の塊がだっと前方に押し寄せる。SEと黄色い歓声がフェードインし、そしてアウトした。
鳴り出した演奏の音に負けないように万楼は少し声のトーンをあげる。
「紅朱って人とは本当に違うの?」
「……違うと思う」
「どうして?」
「紅朱より、ずっと巧いから」
「全っ然動かない」
「終演後のドリンクカウンターは混むからね」
「覚えておくよ」
ドリンクチケットを指先でもてあそびながら、万楼は小さく笑った。
一方通行の人波に揉まれながら、渋滞するロビーで立ち往生する二人は、やはりなんとなく注目を集めている気がした。
「リサ、あのペンギンさんと話をするにはどうしたらいいのかな?」
「う~ん……噂だと《待ち》しても、ほとんどスルーらしいからね」
「話せないの?」
「難しいかな。でも、万楼は男の子だし、警戒されにくいから、少しくらいなら聞いてくれるかもしれないよ」
「本当に!?」
久々に明るい表情に戻った万楼に、リサも笑った。そしてそっと手を差しのべた。
「ドリンクチケット、貸して。私が引き換えるから、万楼は先に行って待ってなよ。このハコなら多分、正面に向かって右奥の入り口からメンが出入りする筈だから、そこにいるといいんじゃないかな」
「いいの?」
「ペンギンさんと話せるといいね」
「ありがとう……!!」
お互いに今日一番の笑顔を浮かべた。
万楼からリサへ、ラミ加工された小さなチケットが渡される。
「メロンソーダにして」
「OK」
「お疲れ、玄鳥(クロト)」
「お疲れ様です。今日はありがとうございました」
右手に持ったプラスチックカップに入ったビールが傾いて、危うく溢れそうなくらい深く一礼する。
「勉強させてもらいました」
「何言ってんだ、こっちはお前に食われないかハラハラもんだったぜ」
「そんな」
「だな。お前はちゃんと自分の存在感を演出しながら、メインを引き立てるコツを得てる。大したギタリストだよ」
「……褒め過ぎですって」
いきなり手放しに称賛されて、玄鳥と呼ばれた青年は照れ臭そうに白メッシュの頭をかいた。
「……なんだか、紅朱が照れてるみたいでキモイな」
「……」
それに関してはノーコメントで、玄鳥はビールを口に運んだ。
「なあ、玄鳥」
同じようにビールをあおりながら、つい先刻同じステージに上がったボーカリストは、少し改まった声で問うた。
「heliodorはまだ動かないのか?」
玄鳥は吊り気味のアーモンド型の眼をすがめた。
「まだです。肝心のベースが……」
「やっぱり、《粋(スイ)》ほどのベーシストの代わりが務まる人間はそうはいないか」
「ええ……特に、有砂(アリサ)さんがなかなか納得してくれなくて。みんな、毎日日本中を飛び回ってますよ。オレもそうするべきなのかもしれないけど、それより今はこうやって少しでも経験を積みたいと思ってます……オレは兄貴の右腕ですから」
「そう、か」
残念そうに嘆息する先輩ミュージシャンに、玄鳥はカップを握る手に少し力を込めた。
人々は暗黒の空を見上げ、ひざまずいて待望する。
再びこの空に太陽が昇ることを。
「ペンギンさん!」
玄鳥が思わず振り返ってしまったのは、あまりにも呼ばれ慣れない名前だったからだろう。
すぐ側で誰かが吹き出したのがわかった。
「あの……オレ?」
「ペンギンさん、ペンギンさん」
「ペンギンさん」を連呼するとびきりの美少年に唖然としつつも、玄鳥はコホンとベタな咳払いをした。
「あの、オレはペンギンさんじゃ……」
「ペンギンさんは、本当は紅朱さんって人なの?」
直球な問掛けをぶつける美少年は、妙に真剣な顔付きだった。
「ボクは万楼。heliodorでベースを弾くために高松から来たんだよ」
「え……? 君は」
「ある人に、頼まれたんだ。だから……」
「heliodor」の名前を出したことで、ただでも目立っていた二人は一気に周囲の視線を集めていた。
それを察した玄鳥は、とっさに万楼の手首を掴んで引き寄せた。
「君、とりあえず一緒に来て……話を聞くから」
「その人なら、例の紅朱のソックリさんとどっかに行っちゃいましたよ。私もおっかけたんだけど、撒かれちゃった~」
「そう……ですか」
リサは両手にプラスチックのコップを持ったまま、人もまばらになり始めた搬入口に立ち尽くしていた。
「万楼……ペンギンさんと話せたのかな……」
もう一度会ってメロンソーダを渡せなかったのは残念だったが、リサには不思議な予感があった。
万楼にはいつかまた会える気がする。そしてその時彼は、もしかしたら「向こう側」かもしれないと。
どうしてそう思うかと聞かれれば、それは「バンギャの勘」というやつだろうか。
カップの中でたゆたう、透き通った鮮やかな緑の液体を、迷った挙句口に持っていった。
「……少なくとも、二割はあたしのだし」
潮騒の街からやってきたその少年こそが、最後の欠片だった。
一度は完成し、そしてあっけなく瓦解してしまった「太陽の国」を再び形造るための……。
明けない夜はない。
朝日はもうすぐ、世界を照らす。
《END》
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