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プロフィール
HN:
麻咲
年齢:
41
性別:
女性
誕生日:
1983/05/03
職業:
フリーター
趣味:
ライブ、乙女ゲーム、カラオケ
自己紹介:
好きなバンド
janne Da Arc
Angelo
犬神サーカス団
シド
Sound Schedule
PIERROT
angela
GRANRODEO
Acid Black Cherry 他
好きな乙女ゲームとひいきキャラ
アンジェリークシリーズ(チャーリー)
遙かなる時空の中でシリーズ(無印・橘友雅、2.藤原幸鷹、3.平知盛、4・サザキ)
金色のコルダシリーズ(1&2・王崎信武、3・榊大地、氷渡貴史)
ネオアンジェリーク(ジェット)
フルハウスキス(羽倉麻生)
ときめきメモリアルGSシリーズ(1・葉月珪、2・若王子貴文)
幕末恋華シリーズ(大石鍬次郎、陸奥陽之助)
花宵ロマネスク(紫陽)
Vitaminシリーズ(X→七瀬瞬、真田正輝、永田智也 Z→方丈慧、不破千聖、加賀美蘭丸)
僕と私の恋愛事情(シグルド)
ラスト・エスコート2(天祢一星)
アラビアンズ・ロスト(ロベルト=クロムウェル)
魔法使いとご主人様(セラス=ドラグーン)
危険なマイ★アイドル(日下部浩次)
ラブマジ(双薔冬也)
星空のコミックガーデン(轟木圭吾)
リトルアンカー(フェンネル=ヨーク)
暗闇の果てで君を待つ(風野太郎)
ラブΦサミット(ジャン=マリー)
妄想彼氏学園(神崎鷹也) 他
バイト先→某損保系コールセンター
janne Da Arc
Angelo
犬神サーカス団
シド
Sound Schedule
PIERROT
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GRANRODEO
Acid Black Cherry 他
好きな乙女ゲームとひいきキャラ
アンジェリークシリーズ(チャーリー)
遙かなる時空の中でシリーズ(無印・橘友雅、2.藤原幸鷹、3.平知盛、4・サザキ)
金色のコルダシリーズ(1&2・王崎信武、3・榊大地、氷渡貴史)
ネオアンジェリーク(ジェット)
フルハウスキス(羽倉麻生)
ときめきメモリアルGSシリーズ(1・葉月珪、2・若王子貴文)
幕末恋華シリーズ(大石鍬次郎、陸奥陽之助)
花宵ロマネスク(紫陽)
Vitaminシリーズ(X→七瀬瞬、真田正輝、永田智也 Z→方丈慧、不破千聖、加賀美蘭丸)
僕と私の恋愛事情(シグルド)
ラスト・エスコート2(天祢一星)
アラビアンズ・ロスト(ロベルト=クロムウェル)
魔法使いとご主人様(セラス=ドラグーン)
危険なマイ★アイドル(日下部浩次)
ラブマジ(双薔冬也)
星空のコミックガーデン(轟木圭吾)
リトルアンカー(フェンネル=ヨーク)
暗闇の果てで君を待つ(風野太郎)
ラブΦサミット(ジャン=マリー)
妄想彼氏学園(神崎鷹也) 他
バイト先→某損保系コールセンター
アクセス解析
2009/01/28 (Wed)
一次創作関連
お仕事、お疲れ様♪
今日は送り迎えできなくてごめんね?
……うんうん、みんなバッチリ絶好調だよ。今度のライブ楽しみにしててねー。
……うん、で、あのさ、今度の日曜日なんだけど……もし何も予定がなかったらちょっと付き合ってくれない、かな……。
……スノウ・ドーム。
キミにはあんまりイイ思い出がない場所かもしれないんだケドね。
……ホント!? 良かった。ありがと……日向子ちゃん。
《終章 雪色の願い・オレンジの想い ―As You Like It―》
「まあ……随分綺麗になりましたね」
「うん、びっくりでしょ? まだまだ改修工事真っ最中なんだけどね」
蝉の大切な実家・《スノウ・ドーム》は今、生まれ変わりつつある。
長きに渡る経営難で老朽化していた建物や設備は、もうすぐ完全にリニューアルする。
施設の子どもたちは一時的にバラバラに別の施設に預けられているが、春を迎える頃にはまた騒がしい声や足音、そして笑顔がここに溢れ返る。
今日は作業が休みということもあって、2人の他には誰もいない。
ところどころシートで覆われ、仕材が積まれた建物の中を、2人はのんびり歩いていた。
「これもうづみちゃんのおかげなんだよね!」
周りがあまりにも静かなので、蝉の声は、よく響く。
「《BLA-ICA》の契約金……前金だけでもびっくりするくらい高額だったみたいだからさ。
おまけに、すごく割のいい副業までゲットしちゃってさ」
「割のいい副業、ですか?」
「……あれ、聞いてなかった? モデルだよ、モデル」
「モデル……というとまさか、有砂様の……」
「ビンゴ」
日向子にとっては《スノウ・ドーム》より、よほどいい思い出のない人物……沢城秀人がやはり関わっているようだった。
「婚約は解消したけど、よっちんのオヤジさんはうづみちゃんのこと、かなり気に入ってるっぽいからね~……売り込んだらあっさり契約してくれたって言ってた」
「……あの、大丈夫なのでしょうか」
「大丈夫大丈夫、うづみちゃんしっかりしてるし……すぐにバイトなんか必要なくなるだろうし」
それには日向子も大きく頷いた。
《BLA-ICA》は、すぐにも人気を獲得して、ヒットチャートを駆け抜けるに違いない。
もちろん《heliodor》も負けてはいないが。
蝉は更に言葉を続ける。
「モデルでもアシスタントでも同じ金額で契約するって言われたらしいんだけど、モデル選んだところがうづみちゃんらしいってゆーか……」
「え?」
「楽器のパート選びと一緒……絶対よっちんに対抗したいんだと思うよ」
苦笑いする蝉。
ことあるごとに有砂をライバル視するといううづみ……その理由は、実際のところ蝉にもわかっているのだろう。
うづみは蝉を愛している。他の「家族」たちが注ぐ愛情とは別の意味で。
わかっているからこそ、呟く。
「……あの子は、いい子だから。必ず幸せになれるよ。おれなんかの力を借りなくてもね」
暗に物語っていた。
その想いには、自分は応えられないと。
もしかするとうづみにもすでにそう伝えたのかもしれない。
それが《BLA-ICA》加入……蝉との前向きな決別に繋がったとしたら、とても自然な理由だ。
蝉はうづみの想いには応えられなかった。
何故だろう。
日向子は考える。
誰か他に、彼には想う人がいるのだろうか……。
「ここ、入ろ」
微妙な空気を打ち消すように蝉が、ひとつの部屋の前で立ち止まる。
「ここは……」
「覚えてた?」
「ええ!」
この場所ならよく覚えている。
蝉と連弾した「遊戯室」だ。
蝉が扉を開け、中に一歩踏み込むと、すぐにあるものが目に入る。
すでにすっかり改修されて、様変わりした部屋の中に変わらず鎮座する古びたピアノ。
日向子はなんだか嬉しくなって、小走りでピアノに近づいた。
「……お久しぶり、ですわね」
傷だらけのそれを優しく撫でる。
「……これだけはそのままにしといて、っておれが頼んだんだよ」
「思い出の品ですものね」
「そう、始まりの場所」
2色の鍵盤と共に過ごしてきた、彼の駆け足の青春。
全てはここから始まったのだ。
「……ちょっと、弾こっか。また一緒にさ」
「ええ、喜んで」
以前そうしたのと同じように日向子が椅子に座り、その後ろに立った蝉が手を伸ばして鍵盤を辿る。
曲も同じだ。
「手のひらを太陽に」。蝉が初めて覚えた曲。
素朴な音で、日向子にとってもどこか懐かしいメロディを奏でる。
しかし日向子の心中は、前にこの曲を弾いた時とは微妙に違っていた。
あの時はただ楽しいだけだったのだ。
今は違う。
綺麗な蝉の指の動きや、時々触れてしまう彼の腕、斜め上で見下ろす笑顔、そんなものが気になって仕方がない。
蝉のことが、気になってしまう……。
「……日向子ちゃん?」
「え? ……あ」
気が付いたら鍵盤の上で、手が止まってしまっていた。
「どうしたの?」
なんとなく、言い訳を探す。
「いえ……少し、指先が冷たくなってしまって」
「……そっか。暖房ついてないからね、ココ。気づかなくてゴメンね」
不意にさりげなく。
本当にさりげなく。
日向子の両手が温もりに包まれた。
「あ……」
背中から、肩越しに伸ばされた蝉の手が、日向子の手をくるんでいた。
「……おれの手はあったかいでしょ?」
頭の上で蝉の声がする。
死角なので、どんな顔をしているのか日向子には見えない。
「……キミとまたここで、ピアノが弾けて嬉しかった。
……たとえこれが最後になっても悔いはないって思うよ」
「最後、って……」
「……別におれが消えてなくなるワケじゃないよ、でも……2人でこんなふうに過ごせるのは最後になっちゃうかもしれない」
日向子の小さな手を包んだ、蝉の大きな手が何故か微かに震えているように感じられた。
「……ねえ、今からキミに大切な話をしようと思うんだ」
「大切な、話……?」
「そう、大切な話……だから、話す前にひとつだけ、キミに選んでほしい」
蝉の手がギュッと日向子の手を握りしめる。
「……このまま話を続けていいなら、キミは右手をちょっと上げる」
「……はい」
「……大切な話を、もう1人のおれの言葉で聞きたいなら左手を上げる。……簡単でしょ?」
もう1人のおれ……それは言うまでもなく、「雪乃」のことだ。
ずっと日向子のとても身近にいた人物。大切な、家族。
「蝉」と「雪乃」は同一人物の別の呼び名だ。
別に本当に二重人格なわけでもなく、ただ時と場合に合わせて話し方や、態度を意図的に切り替えているに過ぎない。
彼の秘密を知ってからは、日向子もそれに合わせて呼び方や、接し方を変えている……まるで、ごっこ遊びをしているようで、客観的に見れば滑稽なのかもしれない。
それでも彼が、「蝉」という名前を捨てなかったことが嬉しかった。
「雪乃」という役割を続けてくれていることが嬉しかった。
「蝉」と「雪乃」……どちらも失いたくないと思う。
「……さあ、選んでよ」
彼は促す。
彼が「大切な話」をする……正直、どちらの言葉でも構わない。
けれど、彼がどちらかを選んでくれと、そう言うのであれば……。
日向子はゆっくりと、蝉の手ごと右手を持ち上げた。
「……わかった。じゃあ、このまま話すからね」
日向子の左手を解放し、右手は握ったまま。
そのまま、今度は背中を包み込むようにして、蝉は後ろから日向子を抱きしめた。
「……好きだよ……日向子ちゃん」
耳元で囁かれる、「大切な話」。
「……いつから、なんてよくわからないケド、キミのことが誰よりも大切になってた。
大好きなキミの願いならなんでもおれが叶えてあげる……ピアノしかできない男だけど、必ずキミを幸せにしてみせるよ。だから……」
右の頬に、唇が触れる。
「おれのカノジョになって下さい」
それが彼の「大切な話」。
とても彼らしい、愛の告白。
それは日向子が、ずっと待ち望んでいた言葉だった。
伯爵から卒業したあの日から、温めていた想いを受け止めてくれる愛しい言葉。
「……わたくしで、よろしいのですか?」
「……キミじゃないと、イヤなんだってば」
「……わかりました」
日向子は少し首を右にひねって、愛しい人の顔を真っ直ぐに見つめた。
「わたくしを、あなたの彼女にして下さい」
日向子の答えを受けて、少し緊張していた彼の顔にじんわりと安堵の色が浮かんだ。
「……カノジョ、だったらいいのかな? 今度はそこに、キスしても」
左手の人差し指で、日向子の唇に触れる。
日向子ははにかんだ笑みを浮かべて、ゆっくりと首を縦に振った。
ようやく唇を重ね合う瞬間、重なったままの右手は、どちらからともなく求め合うように指を絡め合った……。
《スノウ・ドーム》を出た2人は、生まれ変わって新しい季節を迎えようとしている、その場所を外からもう一度眺めていた。
この場所が新しくなるように、2人の関係も新しいものに変わっていく。
変わらないものをその中に秘めたままに。
蝉は大きく伸びをしながら、口を開いた。
「あー、折角カノジョが出来たケド、超前途多難!」
「そうですか??」
「だってよりによって恩師の娘に手を出しちゃってるわけじゃん?
おれ、ひょっとしたら先生にぶん殴られちゃうんじゃないかなぁ」
「お父様は厳しい方ですけれど、暴力を振るうことはないと思いますわ」
「わかんないじゃん、日向子ちゃん、お屋敷に彼氏連れて来たことなんて……あったか。ははは……」
蝉が言っているのは有砂のことだろう。
なんだか笑顔がひきつっている。
「あー!!なんか思い出したらメラメラしてきた!!」
「め、メラメラですか?」
「そうだよ、思い出してみたら何かっていうと、みんなしておれのお姫様に馴れ馴れしくしてくれちゃってさー。
最初に絶対に手は出すなって釘刺したのに……おれの話なんて無視じゃんっ。もうっっ!!」
「ぜ、蝉様……落ち着いて、きゃっ!?」
蝉はいきなり日向子の身体をひょいっと抱き上げてしまう。
いわゆるお姫様抱っこ、と呼ばれる状態だ。
「もう二度と他のヤツになんか触らせないぞ!
親友だろうと仲間だろうとぜーったいに!!」
「あの、あの~」
「よーし、帰ろう! 早速お屋敷に直行して先生に結婚の許しをもらわなくっちゃ!!」
「け、結婚て……」
「殴られても蹴られても、ぜーったい許可してもらうからねっ」
「……ふふ、もう蝉様ったら」
どんな形でもいい。
どんな順番でもいい。
2人が一緒にいられれば、どんな未来でもハッピーエンドになる。
《END》
今日は送り迎えできなくてごめんね?
……うんうん、みんなバッチリ絶好調だよ。今度のライブ楽しみにしててねー。
……うん、で、あのさ、今度の日曜日なんだけど……もし何も予定がなかったらちょっと付き合ってくれない、かな……。
……スノウ・ドーム。
キミにはあんまりイイ思い出がない場所かもしれないんだケドね。
……ホント!? 良かった。ありがと……日向子ちゃん。
《終章 雪色の願い・オレンジの想い ―As You Like It―》
「まあ……随分綺麗になりましたね」
「うん、びっくりでしょ? まだまだ改修工事真っ最中なんだけどね」
蝉の大切な実家・《スノウ・ドーム》は今、生まれ変わりつつある。
長きに渡る経営難で老朽化していた建物や設備は、もうすぐ完全にリニューアルする。
施設の子どもたちは一時的にバラバラに別の施設に預けられているが、春を迎える頃にはまた騒がしい声や足音、そして笑顔がここに溢れ返る。
今日は作業が休みということもあって、2人の他には誰もいない。
ところどころシートで覆われ、仕材が積まれた建物の中を、2人はのんびり歩いていた。
「これもうづみちゃんのおかげなんだよね!」
周りがあまりにも静かなので、蝉の声は、よく響く。
「《BLA-ICA》の契約金……前金だけでもびっくりするくらい高額だったみたいだからさ。
おまけに、すごく割のいい副業までゲットしちゃってさ」
「割のいい副業、ですか?」
「……あれ、聞いてなかった? モデルだよ、モデル」
「モデル……というとまさか、有砂様の……」
「ビンゴ」
日向子にとっては《スノウ・ドーム》より、よほどいい思い出のない人物……沢城秀人がやはり関わっているようだった。
「婚約は解消したけど、よっちんのオヤジさんはうづみちゃんのこと、かなり気に入ってるっぽいからね~……売り込んだらあっさり契約してくれたって言ってた」
「……あの、大丈夫なのでしょうか」
「大丈夫大丈夫、うづみちゃんしっかりしてるし……すぐにバイトなんか必要なくなるだろうし」
それには日向子も大きく頷いた。
《BLA-ICA》は、すぐにも人気を獲得して、ヒットチャートを駆け抜けるに違いない。
もちろん《heliodor》も負けてはいないが。
蝉は更に言葉を続ける。
「モデルでもアシスタントでも同じ金額で契約するって言われたらしいんだけど、モデル選んだところがうづみちゃんらしいってゆーか……」
「え?」
「楽器のパート選びと一緒……絶対よっちんに対抗したいんだと思うよ」
苦笑いする蝉。
ことあるごとに有砂をライバル視するといううづみ……その理由は、実際のところ蝉にもわかっているのだろう。
うづみは蝉を愛している。他の「家族」たちが注ぐ愛情とは別の意味で。
わかっているからこそ、呟く。
「……あの子は、いい子だから。必ず幸せになれるよ。おれなんかの力を借りなくてもね」
暗に物語っていた。
その想いには、自分は応えられないと。
もしかするとうづみにもすでにそう伝えたのかもしれない。
それが《BLA-ICA》加入……蝉との前向きな決別に繋がったとしたら、とても自然な理由だ。
蝉はうづみの想いには応えられなかった。
何故だろう。
日向子は考える。
誰か他に、彼には想う人がいるのだろうか……。
「ここ、入ろ」
微妙な空気を打ち消すように蝉が、ひとつの部屋の前で立ち止まる。
「ここは……」
「覚えてた?」
「ええ!」
この場所ならよく覚えている。
蝉と連弾した「遊戯室」だ。
蝉が扉を開け、中に一歩踏み込むと、すぐにあるものが目に入る。
すでにすっかり改修されて、様変わりした部屋の中に変わらず鎮座する古びたピアノ。
日向子はなんだか嬉しくなって、小走りでピアノに近づいた。
「……お久しぶり、ですわね」
傷だらけのそれを優しく撫でる。
「……これだけはそのままにしといて、っておれが頼んだんだよ」
「思い出の品ですものね」
「そう、始まりの場所」
2色の鍵盤と共に過ごしてきた、彼の駆け足の青春。
全てはここから始まったのだ。
「……ちょっと、弾こっか。また一緒にさ」
「ええ、喜んで」
以前そうしたのと同じように日向子が椅子に座り、その後ろに立った蝉が手を伸ばして鍵盤を辿る。
曲も同じだ。
「手のひらを太陽に」。蝉が初めて覚えた曲。
素朴な音で、日向子にとってもどこか懐かしいメロディを奏でる。
しかし日向子の心中は、前にこの曲を弾いた時とは微妙に違っていた。
あの時はただ楽しいだけだったのだ。
今は違う。
綺麗な蝉の指の動きや、時々触れてしまう彼の腕、斜め上で見下ろす笑顔、そんなものが気になって仕方がない。
蝉のことが、気になってしまう……。
「……日向子ちゃん?」
「え? ……あ」
気が付いたら鍵盤の上で、手が止まってしまっていた。
「どうしたの?」
なんとなく、言い訳を探す。
「いえ……少し、指先が冷たくなってしまって」
「……そっか。暖房ついてないからね、ココ。気づかなくてゴメンね」
不意にさりげなく。
本当にさりげなく。
日向子の両手が温もりに包まれた。
「あ……」
背中から、肩越しに伸ばされた蝉の手が、日向子の手をくるんでいた。
「……おれの手はあったかいでしょ?」
頭の上で蝉の声がする。
死角なので、どんな顔をしているのか日向子には見えない。
「……キミとまたここで、ピアノが弾けて嬉しかった。
……たとえこれが最後になっても悔いはないって思うよ」
「最後、って……」
「……別におれが消えてなくなるワケじゃないよ、でも……2人でこんなふうに過ごせるのは最後になっちゃうかもしれない」
日向子の小さな手を包んだ、蝉の大きな手が何故か微かに震えているように感じられた。
「……ねえ、今からキミに大切な話をしようと思うんだ」
「大切な、話……?」
「そう、大切な話……だから、話す前にひとつだけ、キミに選んでほしい」
蝉の手がギュッと日向子の手を握りしめる。
「……このまま話を続けていいなら、キミは右手をちょっと上げる」
「……はい」
「……大切な話を、もう1人のおれの言葉で聞きたいなら左手を上げる。……簡単でしょ?」
もう1人のおれ……それは言うまでもなく、「雪乃」のことだ。
ずっと日向子のとても身近にいた人物。大切な、家族。
「蝉」と「雪乃」は同一人物の別の呼び名だ。
別に本当に二重人格なわけでもなく、ただ時と場合に合わせて話し方や、態度を意図的に切り替えているに過ぎない。
彼の秘密を知ってからは、日向子もそれに合わせて呼び方や、接し方を変えている……まるで、ごっこ遊びをしているようで、客観的に見れば滑稽なのかもしれない。
それでも彼が、「蝉」という名前を捨てなかったことが嬉しかった。
「雪乃」という役割を続けてくれていることが嬉しかった。
「蝉」と「雪乃」……どちらも失いたくないと思う。
「……さあ、選んでよ」
彼は促す。
彼が「大切な話」をする……正直、どちらの言葉でも構わない。
けれど、彼がどちらかを選んでくれと、そう言うのであれば……。
日向子はゆっくりと、蝉の手ごと右手を持ち上げた。
「……わかった。じゃあ、このまま話すからね」
日向子の左手を解放し、右手は握ったまま。
そのまま、今度は背中を包み込むようにして、蝉は後ろから日向子を抱きしめた。
「……好きだよ……日向子ちゃん」
耳元で囁かれる、「大切な話」。
「……いつから、なんてよくわからないケド、キミのことが誰よりも大切になってた。
大好きなキミの願いならなんでもおれが叶えてあげる……ピアノしかできない男だけど、必ずキミを幸せにしてみせるよ。だから……」
右の頬に、唇が触れる。
「おれのカノジョになって下さい」
それが彼の「大切な話」。
とても彼らしい、愛の告白。
それは日向子が、ずっと待ち望んでいた言葉だった。
伯爵から卒業したあの日から、温めていた想いを受け止めてくれる愛しい言葉。
「……わたくしで、よろしいのですか?」
「……キミじゃないと、イヤなんだってば」
「……わかりました」
日向子は少し首を右にひねって、愛しい人の顔を真っ直ぐに見つめた。
「わたくしを、あなたの彼女にして下さい」
日向子の答えを受けて、少し緊張していた彼の顔にじんわりと安堵の色が浮かんだ。
「……カノジョ、だったらいいのかな? 今度はそこに、キスしても」
左手の人差し指で、日向子の唇に触れる。
日向子ははにかんだ笑みを浮かべて、ゆっくりと首を縦に振った。
ようやく唇を重ね合う瞬間、重なったままの右手は、どちらからともなく求め合うように指を絡め合った……。
《スノウ・ドーム》を出た2人は、生まれ変わって新しい季節を迎えようとしている、その場所を外からもう一度眺めていた。
この場所が新しくなるように、2人の関係も新しいものに変わっていく。
変わらないものをその中に秘めたままに。
蝉は大きく伸びをしながら、口を開いた。
「あー、折角カノジョが出来たケド、超前途多難!」
「そうですか??」
「だってよりによって恩師の娘に手を出しちゃってるわけじゃん?
おれ、ひょっとしたら先生にぶん殴られちゃうんじゃないかなぁ」
「お父様は厳しい方ですけれど、暴力を振るうことはないと思いますわ」
「わかんないじゃん、日向子ちゃん、お屋敷に彼氏連れて来たことなんて……あったか。ははは……」
蝉が言っているのは有砂のことだろう。
なんだか笑顔がひきつっている。
「あー!!なんか思い出したらメラメラしてきた!!」
「め、メラメラですか?」
「そうだよ、思い出してみたら何かっていうと、みんなしておれのお姫様に馴れ馴れしくしてくれちゃってさー。
最初に絶対に手は出すなって釘刺したのに……おれの話なんて無視じゃんっ。もうっっ!!」
「ぜ、蝉様……落ち着いて、きゃっ!?」
蝉はいきなり日向子の身体をひょいっと抱き上げてしまう。
いわゆるお姫様抱っこ、と呼ばれる状態だ。
「もう二度と他のヤツになんか触らせないぞ!
親友だろうと仲間だろうとぜーったいに!!」
「あの、あの~」
「よーし、帰ろう! 早速お屋敷に直行して先生に結婚の許しをもらわなくっちゃ!!」
「け、結婚て……」
「殴られても蹴られても、ぜーったい許可してもらうからねっ」
「……ふふ、もう蝉様ったら」
どんな形でもいい。
どんな順番でもいい。
2人が一緒にいられれば、どんな未来でもハッピーエンドになる。
《END》
「……さあ、選んでよ」
彼は促す。
彼が「大切な話」をする……正直、どちらの言葉でも構わない。
けれど、彼がどちらかを選んでくれと、そう言うのであれば……。
日向子はゆっくりと、蝉の手ごと左手を持ち上げた。
「……わかった。じゃあ、ちょっと待って」
日向子の右手を解放し、左手は握ったまま。
日向子のすぐ後ろで、カチャカチャ音がしていた。
彼は右手だけで器用にウィッグを外し、眼鏡をかけているのだろう。
「……お待たせ、致しました」
同じ声の筈なのに、全く違って聞こえる落ち着いた口調。
「雪乃……」
自然にその呼び方が口をつく。
左手は日向子の手を取ったままで、雪乃は日向子の左側に身を移し、大仰な身振りでそこにひざまずいた。
日向子の左手を優しく引き寄せて、その甲に口付ける。
「……ずっと恋焦がれておりました。
もし許されるならば、あなたの心をこの私に預けて頂けないでしょうか……」
女神の審判を待つように、彼はその目を閉じる。
「あなただけに、生涯変わらない愛を捧げます」
それが彼の「大切な話」。
とても彼らしい、愛の告白。
それは日向子が、ずっと待ち望んでいた言葉だった。
伯爵から卒業したあの日から、温めていた想いを受け止めてくれる愛しい言葉。
「……いてくれるのね、私の側に、ずっと」
「……あなたの望む限り」
「……わかりました」
日向子は頷き、愛しい人の顔を真っ直ぐに見つめた。
「わたくしの心は、あなたに預けます」
日向子の答えを受けて、雪乃はゆっくりとその目を開いた。
「……ありがとうございます」
そして、甲のほうを上にしていた日向子の左手を、おもむろに裏返した。
「……ご存知ですか? ヨーロッパの社交界では、最愛の方にダンスを申し込むときは、手の甲ではなく、手のひらにキスをするということを」
「手のひらに……?」
「これから踊る方は、社交辞令の挨拶ではなく、特別な方なのだと……印を示すために」
そして日向子の手のひらに、今、その印が降りる。
これから始まる長い長いワルツを、ともに踊るパートナーから。
《スノウ・ドーム》を出た2人は、生まれ変わって新しい季節を迎えようとしている、その場所を外からもう一度眺めていた。
この場所が新しくなるように、2人の関係も新しいものに変わっていく。
変わらないものをその中に秘めたままに。
感傷に浸る雪乃をしばらく見つめていた日向子だったが、ふと悪戯心が沸き起こる。
「雪乃!」
「……はい、お嬢さ……なっ、何を」
期待通り、雪乃はギョッとしていた。
無防備だった彼の腕に、そっと自分の細い腕を絡める。
「恋人同士ですもの、このくらいするのは普通ではなくて?」
「……それは、そうですが。しかし、お嬢様」
「まあ、誓いを交わした相手を《お嬢様》などと呼ぶのはおかしいですわ。
……日向子ちゃん、とでも呼んではどう?」
雪乃は気の毒になるくらい顔を真っ赤にしている。
「……それは、私の役割ではありませんから」
「ふふ、そうだったわね」
雪乃はひとつ咳払いをして、何とか気を取り直して日向子を見つめた。
「……私は、あなたのお気に召すまま……望まれる形の愛を示しましょう。
あなた次第で、何色にも染まることができますから……」
日向子はそれに微笑み、また沸き起こる悪戯心に任せて、彼の眼鏡に手を伸ばした……。
どんな形でもいい。
どんな順番でもいい。
2人が一緒にいられれば、どんな未来でもハッピーエンドになる。
《END》
彼は促す。
彼が「大切な話」をする……正直、どちらの言葉でも構わない。
けれど、彼がどちらかを選んでくれと、そう言うのであれば……。
日向子はゆっくりと、蝉の手ごと左手を持ち上げた。
「……わかった。じゃあ、ちょっと待って」
日向子の右手を解放し、左手は握ったまま。
日向子のすぐ後ろで、カチャカチャ音がしていた。
彼は右手だけで器用にウィッグを外し、眼鏡をかけているのだろう。
「……お待たせ、致しました」
同じ声の筈なのに、全く違って聞こえる落ち着いた口調。
「雪乃……」
自然にその呼び方が口をつく。
左手は日向子の手を取ったままで、雪乃は日向子の左側に身を移し、大仰な身振りでそこにひざまずいた。
日向子の左手を優しく引き寄せて、その甲に口付ける。
「……ずっと恋焦がれておりました。
もし許されるならば、あなたの心をこの私に預けて頂けないでしょうか……」
女神の審判を待つように、彼はその目を閉じる。
「あなただけに、生涯変わらない愛を捧げます」
それが彼の「大切な話」。
とても彼らしい、愛の告白。
それは日向子が、ずっと待ち望んでいた言葉だった。
伯爵から卒業したあの日から、温めていた想いを受け止めてくれる愛しい言葉。
「……いてくれるのね、私の側に、ずっと」
「……あなたの望む限り」
「……わかりました」
日向子は頷き、愛しい人の顔を真っ直ぐに見つめた。
「わたくしの心は、あなたに預けます」
日向子の答えを受けて、雪乃はゆっくりとその目を開いた。
「……ありがとうございます」
そして、甲のほうを上にしていた日向子の左手を、おもむろに裏返した。
「……ご存知ですか? ヨーロッパの社交界では、最愛の方にダンスを申し込むときは、手の甲ではなく、手のひらにキスをするということを」
「手のひらに……?」
「これから踊る方は、社交辞令の挨拶ではなく、特別な方なのだと……印を示すために」
そして日向子の手のひらに、今、その印が降りる。
これから始まる長い長いワルツを、ともに踊るパートナーから。
《スノウ・ドーム》を出た2人は、生まれ変わって新しい季節を迎えようとしている、その場所を外からもう一度眺めていた。
この場所が新しくなるように、2人の関係も新しいものに変わっていく。
変わらないものをその中に秘めたままに。
感傷に浸る雪乃をしばらく見つめていた日向子だったが、ふと悪戯心が沸き起こる。
「雪乃!」
「……はい、お嬢さ……なっ、何を」
期待通り、雪乃はギョッとしていた。
無防備だった彼の腕に、そっと自分の細い腕を絡める。
「恋人同士ですもの、このくらいするのは普通ではなくて?」
「……それは、そうですが。しかし、お嬢様」
「まあ、誓いを交わした相手を《お嬢様》などと呼ぶのはおかしいですわ。
……日向子ちゃん、とでも呼んではどう?」
雪乃は気の毒になるくらい顔を真っ赤にしている。
「……それは、私の役割ではありませんから」
「ふふ、そうだったわね」
雪乃はひとつ咳払いをして、何とか気を取り直して日向子を見つめた。
「……私は、あなたのお気に召すまま……望まれる形の愛を示しましょう。
あなた次第で、何色にも染まることができますから……」
日向子はそれに微笑み、また沸き起こる悪戯心に任せて、彼の眼鏡に手を伸ばした……。
どんな形でもいい。
どんな順番でもいい。
2人が一緒にいられれば、どんな未来でもハッピーエンドになる。
《END》
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