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プロフィール
HN:
麻咲
年齢:
41
性別:
女性
誕生日:
1983/05/03
職業:
フリーター
趣味:
ライブ、乙女ゲーム、カラオケ
自己紹介:
好きなバンド
janne Da Arc
Angelo
犬神サーカス団
シド
Sound Schedule
PIERROT
angela
GRANRODEO
Acid Black Cherry 他
好きな乙女ゲームとひいきキャラ
アンジェリークシリーズ(チャーリー)
遙かなる時空の中でシリーズ(無印・橘友雅、2.藤原幸鷹、3.平知盛、4・サザキ)
金色のコルダシリーズ(1&2・王崎信武、3・榊大地、氷渡貴史)
ネオアンジェリーク(ジェット)
フルハウスキス(羽倉麻生)
ときめきメモリアルGSシリーズ(1・葉月珪、2・若王子貴文)
幕末恋華シリーズ(大石鍬次郎、陸奥陽之助)
花宵ロマネスク(紫陽)
Vitaminシリーズ(X→七瀬瞬、真田正輝、永田智也 Z→方丈慧、不破千聖、加賀美蘭丸)
僕と私の恋愛事情(シグルド)
ラスト・エスコート2(天祢一星)
アラビアンズ・ロスト(ロベルト=クロムウェル)
魔法使いとご主人様(セラス=ドラグーン)
危険なマイ★アイドル(日下部浩次)
ラブマジ(双薔冬也)
星空のコミックガーデン(轟木圭吾)
リトルアンカー(フェンネル=ヨーク)
暗闇の果てで君を待つ(風野太郎)
ラブΦサミット(ジャン=マリー)
妄想彼氏学園(神崎鷹也) 他
バイト先→某損保系コールセンター
janne Da Arc
Angelo
犬神サーカス団
シド
Sound Schedule
PIERROT
angela
GRANRODEO
Acid Black Cherry 他
好きな乙女ゲームとひいきキャラ
アンジェリークシリーズ(チャーリー)
遙かなる時空の中でシリーズ(無印・橘友雅、2.藤原幸鷹、3.平知盛、4・サザキ)
金色のコルダシリーズ(1&2・王崎信武、3・榊大地、氷渡貴史)
ネオアンジェリーク(ジェット)
フルハウスキス(羽倉麻生)
ときめきメモリアルGSシリーズ(1・葉月珪、2・若王子貴文)
幕末恋華シリーズ(大石鍬次郎、陸奥陽之助)
花宵ロマネスク(紫陽)
Vitaminシリーズ(X→七瀬瞬、真田正輝、永田智也 Z→方丈慧、不破千聖、加賀美蘭丸)
僕と私の恋愛事情(シグルド)
ラスト・エスコート2(天祢一星)
アラビアンズ・ロスト(ロベルト=クロムウェル)
魔法使いとご主人様(セラス=ドラグーン)
危険なマイ★アイドル(日下部浩次)
ラブマジ(双薔冬也)
星空のコミックガーデン(轟木圭吾)
リトルアンカー(フェンネル=ヨーク)
暗闇の果てで君を待つ(風野太郎)
ラブΦサミット(ジャン=マリー)
妄想彼氏学園(神崎鷹也) 他
バイト先→某損保系コールセンター
アクセス解析
2009/01/15 (Thu)
一次創作関連
二人は見つめていた。
右側のモニターに映っているのは「heliodor」。
日向子がこれから一生、見守っていくと決めたバンドだ。
左側に映っているのは「BLA-ICA」。
高山獅貴がその全てを賭して作り上げたバンドだ。
太陽の国と月影の国。
深紅のともしびと、漆黒のはばたき。
2つの世界を、2人は眺め、感じていた。
《第12章 君に光が射すように -Love Songs-》【4】
「……いかがです? 私のBLA-ICAは」
「……凄いと、思います」
日向子は左のモニターと左側の音に注意を向ける。
BLA-ICAは確かに凄い。
玄鳥と粋という、かつてheliodorを支えた名プレイヤーの力量は言うまでもなく、ドラムのうづみもheliodorのコピーをしていた頃より遥かに腕を上げている。
そしてボーカリストの望音の透明感のあるボーカルは、彼女の持つ独特の雰囲気と合わさって、不思議な世界を織りなしていく。
聞く者を魅了する、まるで悪魔に魔法をかけられたような、そんな歌だ。
「……けれどheliodorも負けてはいませんわ」
右側のモニター。
heliodorのステージはなにもかもBLA-ICAとは対照的だ。
BLA-ICAが妖しく人々を誘う誘蛾灯なら、heliodorは力づくで引き寄せる磁石のようだ。
ほとばしる熱と、力強い旋律……単純に言えばほとんど女性のみで構成されたBLA-ICAより、男性バンドのheliodorのほうがダイナミックに感じられる……ということかもしれない。
だがそれが強力な磁力を発揮するまでに至るのは、heliodorの四人が本物の実力を持っている証だろう。
高山獅貴は、ロゼのスパークリングワインを傾けながら、呟いた。
「もちろん……わかっています。heliodorは素晴らしい」
別段皮肉で言っているわけでもなく、本心からの言葉のようだった。
「私がこんなことを言うのは意外かな」
「……ええ、少しだけ」
日向子が素直に答えると、伯爵は小さく笑った。
「《玄鳥》というギタリストをここまで育てたのは間違いなく《heliodor》ですよ……私は、《浅川綾》に人並以上の特別な才能があったとは思っていない」
「……え?」
いよいよ耳を疑う言葉をつきつけられ、日向子は高山獅貴を凝視した。
「ですが……玄鳥様は伯爵様と鳳蝶様の……」
「父親が名ピアニストなら娘も名ピアニストになれるとは限らない……だろう?」
「それは……」
「才能のある者同士を掛け合わせたら、更なる才能が生まれる……そんなくだらない夢物語をいい大人が本当に信じるわけがない。
……死を前にした人間は別だったがね」
日向子はすっかり唖然とし、言葉を失っていた。
玄鳥は、不治の病に犯された天才ギタリストの才能を引き継がせるために作った子ども……紅朱はそう信じていたし、伯爵自身も肯定していた筈だった。
「……俺は信じてなどいなかったんだよ、レディ。
気休めでもいい。夢を見せたいと思っただけだ。無念を抱いて死ぬのではなく、最期の瞬間まで希望を持って強く生きてくれればそれでよかった」
日向子の目には、冷え冷えとした氷の眼差しが微かに揺らいで見えた。
「鳳蝶だって本気で信じていたわけでもないのかもしれない……ただ何も残さず消えていくのが口惜しかったんだろう」
「……それが、玄鳥様の出生の……真の理由ですか?」
「エゴであることに変わりはないだろうがね」
確かにそれは普通ではないし、勝手な都合には変わりないかもしれない。
しかし遥かに人間らしい、情のある理由に思われる。
恋愛という意味合いではないにしろ、高山獅貴という男がいかに自らのパートナーを愛し、大切にしていたかを伺わせた。
「……なぜ今までそのことを隠しておられたのですか?
10年前、もしも玄鳥様を引き取りたいと考えていらっしゃったのなら、本当の理由を話したほうが浅川のご家族を説得しやすかった筈……」
それは以前から引っ掛かっていたことだった。
本気で玄鳥を引き取るつもりがあったのなら、それらしい理由を並べて説得するべきなのに、伯爵はそうしなかったのだ。
まるでわざと紅朱の神経を逆撫でるような言動で挑発した。
「まさか……」
最後に玄鳥とした会話が日向子の脳裏に蘇る。
「わざと……そうしたのですか? あなたも……?」
玄鳥がわざと事を荒だてるやり方を選んでバンドを抜けたように。
高山獅貴は小さく笑った。
「……先程も言った通りです。《heliodor》こそが《浅川綾》……《玄鳥》をここまでのプレイヤーに成長させた」
玄鳥はいつも紅朱の背中を追い掛けてきた。
いつまで経っても追い付くことができず、越えることができない……一番近くにいる、最大のライバル。
紅朱と一緒にいたからこそ、玄鳥は成長したのだ。
「……そして、紅朱様は伯爵様への強い対抗心を秘めて成長した……あなたに負けないために、強くあるためにと……」
「その結果、《heliodor》という素晴らしい力を持ったバンドが生まれた。
《BLA-ICA》がより高く飛翔するために、これほど相応しいライバルはいない」
「ライバル」……その言葉を口にした刹那、高山獅貴の瞳に確かな熱を見た。
「鳳蝶は何よりもそれを求めていたが、俺では力及ばなかった……それは早すぎた死、以上の不幸だった……」
面影を重ね合わせるように薄く細められた眼差しは、真っ直ぐに玄鳥を見つめていた。
「生まれてすぐに生涯のライバルと出逢った彼は、とても幸運だ」
日向子もまた、視線を追うように2つのモニターを見つめた。
曖昧になっていく。
どこまでが策謀で、どこまでが偶然なのか。
彼らを繋ぐ糸は様々な思惑、様々な願いに結びつき、誰も予想しなかったような運命を描き出していた。
しかしこれは、彼らの望みが結実した、ひとつの結果なのかもしれない。
遅かれ早かれ、避けることのできなかったイニシエーション。
ふと、タイミングを合わせたように2つのバンドの音がほぼ同時に止んだ。
ライブの演奏時間は公平に全く同じに決められている。
あと一曲。残り時間からすればそれが限界だろう。
そうこれは、どちらのバンドにとっても最後のMC。
今まで演奏に時間を割くためにほとんどMCらしいMCはなかったが、ここでもあまり長くは話せないだろう。
右のモニターの中。
マイクスタンドに片手を乗せて、まるで瞑想するように、しばし目を閉じていた紅朱が、その目を開き、やがてゆっくり口を開いた。
『……弾きながら唄うってのは疲れるな』
感触を試すようにギターのネックを握る。
『けど、やってよかった……俺にはやっぱり、このバンドは捨てられないってことがよくわかったからな。
それに……どうしても唄いたかった唄があるからさ。
できれば5人で演奏したかったが……でも、この曲を作ったのは玄鳥だからな。
たとえここにはいなくても、俺たちの生み出すメロディの中には、いつだってあいつがいる』
左側のモニターの中。
『……望音ちゃん、一言だけいいかな』
『……どうぞ』
淡々と最後の曲を紹介しようとした望音を遮って、上手に立つ玄鳥がマイクを通して話し始めた。
『……俺は、《heliodor》というバンドを捨てて、たくさんの人を裏切りました……一番悲しませたくなかった人にも悲しい想いをさせてしまった。
選んだ道に悔いはないけど、ただひとつの心残りは……あの曲を……最後に作った曲を聴かせることができなかったことでした。
だから……メンバーのみんなに手伝ってもらって、最後にその心残りを、晴らしたいと思う』
紅朱が告げる。
『最後の曲……聞いてほしい』
玄鳥が言葉を紡ぐ。
『今夜だけ……この曲を弾かせてほしい』
2人の声が同時にその曲の名を言う。
『《LOVE SONG》』
同じ、曲!? ……日向子は思わず息を呑んだ。
ほとんど同時に始まったイントロに、覚えのあるフレーズを見つけた。
これはいつか2人が作っていた曲……幻になったheliodorのデビュー曲だ。
封印されそうになっていたその曲を今、演奏しているのだ。
《heliodor》と《BLA-ICA》が……。
《出会った頃のこと
まだ覚えているなら
なるべく早く
忘れてほしい
僕はとても弱くて
その癖に取り繕って
あまりにも必死で
恥ずかしいから
君は忘れていい
かわりに僕が
あますことなく
胸に
君がくれた雪解けの後
春はすぐそこまで来ていて
3つ目の季節
生まれ変わった僕から
優しい愛の唄を
君に光が射すように
明日は隣に
いられなくても
とめどなく 届け》
《heliodor》と《BLA-ICA》。
2つのバンドの決戦は、優しく伸びやかなラブバラードで静かに幕を下ろした。
それぞれに最高のパフォーマンスを見せた2つのバンド、そしてそれを見届けた証人たちは、決戦の舞台となった2つのライブハウスの前に集まっていた。
すでに一般の客は去り、スタッフも去り、完全に人払いされたそこは静寂に包まれている。
客数の集計はすでに完了し、その結果はもう高山獅貴、そして日向子には知らされている。
「……そろそろ発表したらどうだ?」
紅朱は、高山獅貴を軽く睨み付ける。
相変わらず敵意に満ちた眼差しではあったが、満足のいくライブの後のためかどことなくすっきりしたような雰囲気がある。
それは他のメンバーも同様で、《heliodor》《BLA-ICA》いずれも、わずかな高揚感を残しつつも、全てやりきったというような落ち着いた顔が並んでいる。
「では……発表は、彼女から」
高山獅貴は静かに微笑し、促すように日向子に目で合図をした。
全員に視線が注がれ、同じように全員の顔を眺めながら、日向子は、
「はい……発表します」
震えそうになる声。
労るように、傍らに立つ美々が、日向子の背にそっと手を当てる。
「……頑張って」
親友からの励ましに頷き、日向子は大きく深呼吸した。
そして……戦いの結果を告げる。
「僅差ですが……勝者は、《BLA-ICA》です」
はっと息を飲む声が同時にいくつか聞こえた。
「……負け、たの?」
万楼が呆然と呟く。
「……そんな……!」
狼狽する蝉の横で、有砂は無言のまま舌打ちをする。
紅朱もまた、無言で足元に視線を落としている。その表情は伺い知れない。
一方の《BLA-ICA》も、その反応はさまざまだった。
全く顔色を変えない望音。
どこか複雑な表情で蝉を見つめるうづみ。
粋は、優しく見守るような目でもう一人のメンバーを見ていた。
もう一人のメンバー、玄鳥は呆けたような顔で立ち尽くしている。
いつものようにシュバルツを肩に乗せ、撫でながら、望音が淡々と言葉を発する。
「……勝ったんですって。喜んだら? リーダー」
「……勝った? 兄貴に……俺、が??」
どうやらまだ完全に状況を把握できていないらしい。
勝者とは思えない戸惑った顔を見せる玄鳥に、望音が更に何かを言おうとした刹那、
「そうだ……俺の、負けだ」
先に口を開いたのは、顔を上げた紅朱だった。
「兄貴……」
別々の道を選んで離れた兄弟が、久々に目と目を合わせ、言葉を交わした瞬間だった。
《つづく》
右側のモニターに映っているのは「heliodor」。
日向子がこれから一生、見守っていくと決めたバンドだ。
左側に映っているのは「BLA-ICA」。
高山獅貴がその全てを賭して作り上げたバンドだ。
太陽の国と月影の国。
深紅のともしびと、漆黒のはばたき。
2つの世界を、2人は眺め、感じていた。
《第12章 君に光が射すように -Love Songs-》【4】
「……いかがです? 私のBLA-ICAは」
「……凄いと、思います」
日向子は左のモニターと左側の音に注意を向ける。
BLA-ICAは確かに凄い。
玄鳥と粋という、かつてheliodorを支えた名プレイヤーの力量は言うまでもなく、ドラムのうづみもheliodorのコピーをしていた頃より遥かに腕を上げている。
そしてボーカリストの望音の透明感のあるボーカルは、彼女の持つ独特の雰囲気と合わさって、不思議な世界を織りなしていく。
聞く者を魅了する、まるで悪魔に魔法をかけられたような、そんな歌だ。
「……けれどheliodorも負けてはいませんわ」
右側のモニター。
heliodorのステージはなにもかもBLA-ICAとは対照的だ。
BLA-ICAが妖しく人々を誘う誘蛾灯なら、heliodorは力づくで引き寄せる磁石のようだ。
ほとばしる熱と、力強い旋律……単純に言えばほとんど女性のみで構成されたBLA-ICAより、男性バンドのheliodorのほうがダイナミックに感じられる……ということかもしれない。
だがそれが強力な磁力を発揮するまでに至るのは、heliodorの四人が本物の実力を持っている証だろう。
高山獅貴は、ロゼのスパークリングワインを傾けながら、呟いた。
「もちろん……わかっています。heliodorは素晴らしい」
別段皮肉で言っているわけでもなく、本心からの言葉のようだった。
「私がこんなことを言うのは意外かな」
「……ええ、少しだけ」
日向子が素直に答えると、伯爵は小さく笑った。
「《玄鳥》というギタリストをここまで育てたのは間違いなく《heliodor》ですよ……私は、《浅川綾》に人並以上の特別な才能があったとは思っていない」
「……え?」
いよいよ耳を疑う言葉をつきつけられ、日向子は高山獅貴を凝視した。
「ですが……玄鳥様は伯爵様と鳳蝶様の……」
「父親が名ピアニストなら娘も名ピアニストになれるとは限らない……だろう?」
「それは……」
「才能のある者同士を掛け合わせたら、更なる才能が生まれる……そんなくだらない夢物語をいい大人が本当に信じるわけがない。
……死を前にした人間は別だったがね」
日向子はすっかり唖然とし、言葉を失っていた。
玄鳥は、不治の病に犯された天才ギタリストの才能を引き継がせるために作った子ども……紅朱はそう信じていたし、伯爵自身も肯定していた筈だった。
「……俺は信じてなどいなかったんだよ、レディ。
気休めでもいい。夢を見せたいと思っただけだ。無念を抱いて死ぬのではなく、最期の瞬間まで希望を持って強く生きてくれればそれでよかった」
日向子の目には、冷え冷えとした氷の眼差しが微かに揺らいで見えた。
「鳳蝶だって本気で信じていたわけでもないのかもしれない……ただ何も残さず消えていくのが口惜しかったんだろう」
「……それが、玄鳥様の出生の……真の理由ですか?」
「エゴであることに変わりはないだろうがね」
確かにそれは普通ではないし、勝手な都合には変わりないかもしれない。
しかし遥かに人間らしい、情のある理由に思われる。
恋愛という意味合いではないにしろ、高山獅貴という男がいかに自らのパートナーを愛し、大切にしていたかを伺わせた。
「……なぜ今までそのことを隠しておられたのですか?
10年前、もしも玄鳥様を引き取りたいと考えていらっしゃったのなら、本当の理由を話したほうが浅川のご家族を説得しやすかった筈……」
それは以前から引っ掛かっていたことだった。
本気で玄鳥を引き取るつもりがあったのなら、それらしい理由を並べて説得するべきなのに、伯爵はそうしなかったのだ。
まるでわざと紅朱の神経を逆撫でるような言動で挑発した。
「まさか……」
最後に玄鳥とした会話が日向子の脳裏に蘇る。
「わざと……そうしたのですか? あなたも……?」
玄鳥がわざと事を荒だてるやり方を選んでバンドを抜けたように。
高山獅貴は小さく笑った。
「……先程も言った通りです。《heliodor》こそが《浅川綾》……《玄鳥》をここまでのプレイヤーに成長させた」
玄鳥はいつも紅朱の背中を追い掛けてきた。
いつまで経っても追い付くことができず、越えることができない……一番近くにいる、最大のライバル。
紅朱と一緒にいたからこそ、玄鳥は成長したのだ。
「……そして、紅朱様は伯爵様への強い対抗心を秘めて成長した……あなたに負けないために、強くあるためにと……」
「その結果、《heliodor》という素晴らしい力を持ったバンドが生まれた。
《BLA-ICA》がより高く飛翔するために、これほど相応しいライバルはいない」
「ライバル」……その言葉を口にした刹那、高山獅貴の瞳に確かな熱を見た。
「鳳蝶は何よりもそれを求めていたが、俺では力及ばなかった……それは早すぎた死、以上の不幸だった……」
面影を重ね合わせるように薄く細められた眼差しは、真っ直ぐに玄鳥を見つめていた。
「生まれてすぐに生涯のライバルと出逢った彼は、とても幸運だ」
日向子もまた、視線を追うように2つのモニターを見つめた。
曖昧になっていく。
どこまでが策謀で、どこまでが偶然なのか。
彼らを繋ぐ糸は様々な思惑、様々な願いに結びつき、誰も予想しなかったような運命を描き出していた。
しかしこれは、彼らの望みが結実した、ひとつの結果なのかもしれない。
遅かれ早かれ、避けることのできなかったイニシエーション。
ふと、タイミングを合わせたように2つのバンドの音がほぼ同時に止んだ。
ライブの演奏時間は公平に全く同じに決められている。
あと一曲。残り時間からすればそれが限界だろう。
そうこれは、どちらのバンドにとっても最後のMC。
今まで演奏に時間を割くためにほとんどMCらしいMCはなかったが、ここでもあまり長くは話せないだろう。
右のモニターの中。
マイクスタンドに片手を乗せて、まるで瞑想するように、しばし目を閉じていた紅朱が、その目を開き、やがてゆっくり口を開いた。
『……弾きながら唄うってのは疲れるな』
感触を試すようにギターのネックを握る。
『けど、やってよかった……俺にはやっぱり、このバンドは捨てられないってことがよくわかったからな。
それに……どうしても唄いたかった唄があるからさ。
できれば5人で演奏したかったが……でも、この曲を作ったのは玄鳥だからな。
たとえここにはいなくても、俺たちの生み出すメロディの中には、いつだってあいつがいる』
左側のモニターの中。
『……望音ちゃん、一言だけいいかな』
『……どうぞ』
淡々と最後の曲を紹介しようとした望音を遮って、上手に立つ玄鳥がマイクを通して話し始めた。
『……俺は、《heliodor》というバンドを捨てて、たくさんの人を裏切りました……一番悲しませたくなかった人にも悲しい想いをさせてしまった。
選んだ道に悔いはないけど、ただひとつの心残りは……あの曲を……最後に作った曲を聴かせることができなかったことでした。
だから……メンバーのみんなに手伝ってもらって、最後にその心残りを、晴らしたいと思う』
紅朱が告げる。
『最後の曲……聞いてほしい』
玄鳥が言葉を紡ぐ。
『今夜だけ……この曲を弾かせてほしい』
2人の声が同時にその曲の名を言う。
『《LOVE SONG》』
同じ、曲!? ……日向子は思わず息を呑んだ。
ほとんど同時に始まったイントロに、覚えのあるフレーズを見つけた。
これはいつか2人が作っていた曲……幻になったheliodorのデビュー曲だ。
封印されそうになっていたその曲を今、演奏しているのだ。
《heliodor》と《BLA-ICA》が……。
《出会った頃のこと
まだ覚えているなら
なるべく早く
忘れてほしい
僕はとても弱くて
その癖に取り繕って
あまりにも必死で
恥ずかしいから
君は忘れていい
かわりに僕が
あますことなく
胸に
君がくれた雪解けの後
春はすぐそこまで来ていて
3つ目の季節
生まれ変わった僕から
優しい愛の唄を
君に光が射すように
明日は隣に
いられなくても
とめどなく 届け》
《heliodor》と《BLA-ICA》。
2つのバンドの決戦は、優しく伸びやかなラブバラードで静かに幕を下ろした。
それぞれに最高のパフォーマンスを見せた2つのバンド、そしてそれを見届けた証人たちは、決戦の舞台となった2つのライブハウスの前に集まっていた。
すでに一般の客は去り、スタッフも去り、完全に人払いされたそこは静寂に包まれている。
客数の集計はすでに完了し、その結果はもう高山獅貴、そして日向子には知らされている。
「……そろそろ発表したらどうだ?」
紅朱は、高山獅貴を軽く睨み付ける。
相変わらず敵意に満ちた眼差しではあったが、満足のいくライブの後のためかどことなくすっきりしたような雰囲気がある。
それは他のメンバーも同様で、《heliodor》《BLA-ICA》いずれも、わずかな高揚感を残しつつも、全てやりきったというような落ち着いた顔が並んでいる。
「では……発表は、彼女から」
高山獅貴は静かに微笑し、促すように日向子に目で合図をした。
全員に視線が注がれ、同じように全員の顔を眺めながら、日向子は、
「はい……発表します」
震えそうになる声。
労るように、傍らに立つ美々が、日向子の背にそっと手を当てる。
「……頑張って」
親友からの励ましに頷き、日向子は大きく深呼吸した。
そして……戦いの結果を告げる。
「僅差ですが……勝者は、《BLA-ICA》です」
はっと息を飲む声が同時にいくつか聞こえた。
「……負け、たの?」
万楼が呆然と呟く。
「……そんな……!」
狼狽する蝉の横で、有砂は無言のまま舌打ちをする。
紅朱もまた、無言で足元に視線を落としている。その表情は伺い知れない。
一方の《BLA-ICA》も、その反応はさまざまだった。
全く顔色を変えない望音。
どこか複雑な表情で蝉を見つめるうづみ。
粋は、優しく見守るような目でもう一人のメンバーを見ていた。
もう一人のメンバー、玄鳥は呆けたような顔で立ち尽くしている。
いつものようにシュバルツを肩に乗せ、撫でながら、望音が淡々と言葉を発する。
「……勝ったんですって。喜んだら? リーダー」
「……勝った? 兄貴に……俺、が??」
どうやらまだ完全に状況を把握できていないらしい。
勝者とは思えない戸惑った顔を見せる玄鳥に、望音が更に何かを言おうとした刹那、
「そうだ……俺の、負けだ」
先に口を開いたのは、顔を上げた紅朱だった。
「兄貴……」
別々の道を選んで離れた兄弟が、久々に目と目を合わせ、言葉を交わした瞬間だった。
《つづく》
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