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プロフィール
HN:
麻咲
年齢:
41
性別:
女性
誕生日:
1983/05/03
職業:
フリーター
趣味:
ライブ、乙女ゲーム、カラオケ
自己紹介:
好きなバンド
janne Da Arc
Angelo
犬神サーカス団
シド
Sound Schedule
PIERROT
angela
GRANRODEO
Acid Black Cherry 他
好きな乙女ゲームとひいきキャラ
アンジェリークシリーズ(チャーリー)
遙かなる時空の中でシリーズ(無印・橘友雅、2.藤原幸鷹、3.平知盛、4・サザキ)
金色のコルダシリーズ(1&2・王崎信武、3・榊大地、氷渡貴史)
ネオアンジェリーク(ジェット)
フルハウスキス(羽倉麻生)
ときめきメモリアルGSシリーズ(1・葉月珪、2・若王子貴文)
幕末恋華シリーズ(大石鍬次郎、陸奥陽之助)
花宵ロマネスク(紫陽)
Vitaminシリーズ(X→七瀬瞬、真田正輝、永田智也 Z→方丈慧、不破千聖、加賀美蘭丸)
僕と私の恋愛事情(シグルド)
ラスト・エスコート2(天祢一星)
アラビアンズ・ロスト(ロベルト=クロムウェル)
魔法使いとご主人様(セラス=ドラグーン)
危険なマイ★アイドル(日下部浩次)
ラブマジ(双薔冬也)
星空のコミックガーデン(轟木圭吾)
リトルアンカー(フェンネル=ヨーク)
暗闇の果てで君を待つ(風野太郎)
ラブΦサミット(ジャン=マリー)
妄想彼氏学園(神崎鷹也) 他
バイト先→某損保系コールセンター
janne Da Arc
Angelo
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シド
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PIERROT
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GRANRODEO
Acid Black Cherry 他
好きな乙女ゲームとひいきキャラ
アンジェリークシリーズ(チャーリー)
遙かなる時空の中でシリーズ(無印・橘友雅、2.藤原幸鷹、3.平知盛、4・サザキ)
金色のコルダシリーズ(1&2・王崎信武、3・榊大地、氷渡貴史)
ネオアンジェリーク(ジェット)
フルハウスキス(羽倉麻生)
ときめきメモリアルGSシリーズ(1・葉月珪、2・若王子貴文)
幕末恋華シリーズ(大石鍬次郎、陸奥陽之助)
花宵ロマネスク(紫陽)
Vitaminシリーズ(X→七瀬瞬、真田正輝、永田智也 Z→方丈慧、不破千聖、加賀美蘭丸)
僕と私の恋愛事情(シグルド)
ラスト・エスコート2(天祢一星)
アラビアンズ・ロスト(ロベルト=クロムウェル)
魔法使いとご主人様(セラス=ドラグーン)
危険なマイ★アイドル(日下部浩次)
ラブマジ(双薔冬也)
星空のコミックガーデン(轟木圭吾)
リトルアンカー(フェンネル=ヨーク)
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ラブΦサミット(ジャン=マリー)
妄想彼氏学園(神崎鷹也) 他
バイト先→某損保系コールセンター
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「……ああ、確認してくれないか?
一昨日の夕方から深夜にかけての、関東からのメールだ。
頼んだ。よろしく。じゃあな」
携帯の終話ボタンを押した紅朱は、当然誰もいないと思って振り返った場所に、人がいたことに一瞬驚き、動揺したが、何事もなかったかのように、
「珍しく早いじゃねェか。有砂」
声をかけた。
有砂は恐らく「何か」勘付いているのだろうが、
「……ジブンが何を隠してようと別に、オレは一切興味あらへん……と、ゆうておくか」
溜め息混じりにそう言って、紅朱のさし向かいに座った。
「……わざわざ詮索して首突っ込んでも、不要な面倒事を抱えるだけやからな……ましてや、それがジブンなら尚更や。
……なあ、リーダー?」
「ああ、そりゃ賢明だな」
紅朱は今の今まで美々と繋がっていた携帯を手の中でもてあそびながら、ふっと笑った。
「……お前の好きそうな美人だけど、今はまだ紹介してやるわけにはいかねェからな」
《第4章 黒い寓話 -inferior-》【3】
玄鳥と過ごす二日目の夜。
日向子はがさがさとピアノ室にある大きな収納スペースをあさっていた。
ここにあるものの半分以上は伯爵……「高山獅貴」とゆかりあるものばかりで、元来収集癖のある日向子は少しでも関係のあるものは何でも手を出し、ここに保管していた。
今日は日がな玄鳥とリビングで過ごし、高山獅貴や、獅貴がかつて在籍していたmont suchtのDVDを見たり、CDを聞いたりしていたのだが、他にもっと玄鳥が喜ぶようなものはないかと探してみることにしたのだ。
「うふふ……明日も伯爵様のお話、たくさん伺えるかしら……?」
日向子は上機嫌だった。
玄鳥は伊達に「クリスタル会員」の肩書きを持っているわけではなく、日向子よりも遥かに知識豊富で、何よりミュージシャンとしての立場から語られる獅貴の話は日向子にはとても新鮮で、興味深いもの。
そして日向子がいくらミーハーな発言や、妄想を交えた奇妙な見識を晒そうと、玄鳥は優しく笑って聞いてくれる。
それどころか、
「そうか。ライブに来てるお客さん、ってそんなところまで見てるものなんですね……勉強になります」
と、時には日向子のファン目線に偏った話でさえ真面目に受け止めてさえくれる。
共通の趣味の話題……と言っても、二人が見ている世界は全く違い、同じことを語り合っても切口がまるで違う。
玄鳥の話を聞いていると、日向子はどんどん自分の世界が広がり、また少し伯爵に近付けたような気さえした。
それが、本当に嬉しく、楽しかったのだ。
ほとんど時を忘れて発掘作業をしていた日向子だったが、不意に欠伸をしたことで、すっかり真夜中になっていたことに気付いた。
もう零時は回っている。
「……玄鳥様……ちゃんとお休みになっていらっしゃるかしら?」
日向子は作業を中断して、ほんの少しだけ寝室を覗いてみることにした。
足音にさえも気を遣いながら、日向子は寝室のドアに歩み寄り、慎重にノブに手をかけた。
ノックして声をかけようかとも思った、眠っているところを起こしてしまうのは気の毒だ。
少しだけ様子を見るだけなら……そう思ってそっとドアを数センチ、開いた。
部屋の灯りは消えていた。だが、ベッドサイドにあるオーディオコンポから青白い光が発せられていて、それが薄闇をぼんやりと照らし出している。
その微かな光の中で、玄鳥はベッドの上に座っていた。
日向子は「玄鳥様、そろそろお休みになって下さい」と声をかけようと一瞬思い、やめた。
というより、その光景を前にして声を出すことができなかった。
ベッドに座った玄鳥は、ヘッドフォンで何か曲を聞いているらしかった。
静寂の中に響く音もれから、日向子にはそれが「mont sucht」の最初期の曲「sleepwalker」だと判別出来た。
ということは、玄鳥は今それなりの爆音で聞いているということなのだろう。
その爆音をなぞって、玄鳥は「ギターを弾いて」いた。
実際にギターを持っているわけではない。
だが、持っていることを錯覚させるほどの精密な動きで、玄鳥の指は何もない空間の、目に見えない弦を押さえ、弾く。
透明なギターがそこにあるのではないかと、日向子は思った。
見えざるギターを一心に奏でる玄鳥の表情は、今まで日向子が見たことのあるものとはまるで当てはまらないものだった。
どこをとらえているともつかない眼差しは、瞬きすら忘れているかのように一切動かず、虚空を見つめている。
玄鳥はほとんど無表情ではあったが、それ故に鬼気迫る雰囲気をかもし出していた。それでいて、妙に静かでもある。
どこか普通の人間とは思えないような、不可思議な様子だ。
日向子の頭の中に、先日の蝉の言葉がよぎった。
――確かに真面目な奴だケド、それとはまた違うかも
――なんかもう、取り憑かれちゃってま~す、ってカンジ?
集中力マックスの玄鳥見たら、多分日向子ちゃん引くと思う……怖いんだって、マジで
「取り憑かれている」という表現はまさに、今の玄鳥にぴったりとハマる。
平家の怨霊に魅入られた耳なし芳一は、多分こんなふうに琵琶を奏でていたのではないかと、日向子は思った。
ぞっとするほどに美しく、儚げで……言い知れない不安をかき立てるような。
「……玄鳥様……」
理由を説明できない涙が、日向子の頬を一滴、伝った。
「……お止めになって下さい」
考えるより先に、日向子は寝室に飛込んで、見えないネックを握る玄鳥の左手に自分の手を重ねた。
手を止めた玄鳥は、遠くを見つめるかのように動かなかった視線を、ゆっくりと日向子へとスライドさせた。
自分の姿を映し出した双眸のあまりの冷たさに、日向子は心臓を掴まれたような思いがした。
「……邪魔、しないでくれないか?」
瞳の色と同じ冷たい声。冷たい口調。
「……玄鳥様……?」
これが本当にあの玄鳥なのか、と思った。
「……邪魔だって言ってるだろ? 早く、離せよ……」
殺意にも似た強烈な敵意を剥き出した言葉に、日向子は玄鳥の左手を解放した。
玄鳥はまた何事もなかったように日向子から視線を外し、「演奏」を再開する。
「玄鳥様……わたくしのこと、お判りにならないのですか……?」
言いようのない哀しみに、また一雫、涙が落ちる。
いつもの玄鳥なら、恐らくはみっともないくらいにうろたえて、必死に日向子を泣き止ませようと頑張るだろうに、今の玄鳥はもはや日向子のことなど視界に入れてすらいないのだ。
泣いていようと、笑っていようと全く関心などありはしないというように。
「玄鳥様……」
いくら呼んでも届くことはない。
日向子は指の背で涙を拭い、それから、玄鳥のヘッドフォンにひたすら大音量の洪水を提供し続けるオーディオコンポにそっと手を伸ばし、震える指先でその電源を、落とした。
ジャカジャカともれ出していた音楽が止まり、玄鳥の動きも、止まった。
日向子はもう一度、玄鳥に静かに歩み寄り、そっとヘッドフォンを外した。
途端に、こちらも電源が落ちてしまったかのように、玄鳥は瞳を閉じてゆっくり崩れた。
「玄鳥様……!!」
倒れ込む上体を、日向子は受け止めようとしたが、受け止めきれなくて、一緒にベッドの真下の床に転がってしまった。
呆然と床に寝たまま玄鳥を抱き締めていた日向子だったが、やがて規則正しい寝息が聞こえてきたことで、少しだけ安心した。
起こさないように立ち上がり、流石にベッドに持ち上げることは無理なので、このまま布団だけでもかけてあげることにした。
柔らかい毛布をふわりとかけた瞬間、玄鳥の唇がわずかに動き、言葉を紡ぎ出した。
「……練習……しな、きゃ……」
そんな玄鳥の姿は、いっそ痛々しかった。
もしかすると、昨夜もこんなふうに彼は「練習」していたのだろうか?
そして恐らくは明日の夜も……。
日向子は、このままではいけないと思った。
一晩中こんなことをしていたら、元気になるどころかますます玄鳥は消耗してしまうに違いない。
それに、あんな玄鳥を見るのは……とても、辛い。
日向子はもう一度涙の跡を拭って、ピアノ室へと戻っていった。
「なんとなく、和食にしちゃったんですけど、大丈夫ですか?」
テーブルの上には今朝も温かい朝食が並んでいる。
白いご飯と、ネギと豆腐とワカメのみそ汁、焼き魚に、キャベツときゅうりの浅漬けと、胡麻とホウレン草のおひたし……。
日向子はそれらごしに、玄鳥の顔をじっと見つめていた。
「……日向子さん?」
玄鳥は少し困った顔を見せる。
「……そんなに見られると俺、その……」
しどろもどろなそのリアクションに、日向子は心の底から深い安心を得た。
「……よかった……いつもの玄鳥様ですわ」
「……え?」
「いいえ……なんでもありませんわ。
お食事、とても美味しいです。玄鳥様は本当に、お料理がお上手でいらっしゃいますのね?」
いきなりべた褒めされた玄鳥は思いきり照れて赤面しながら、
「母の手伝いとか、昔からよくしてましたから……結構、楽しいですよね? 料理も」
「ええ、わたくしもお料理は好きですわ」
「いいものが出来れば嬉しいし、人に食べてもらって喜んでもらえればもっと嬉しい……それに、やればやるほどど上達するでしょう?
そういう意味だと、ギター弾くのと似てるかもしれないですね」
「ギター」という言葉に、日向子は魚の身をほぐしていた箸を一瞬休めた。
「……玄鳥様、ギターお好きでいらっしゃいますのね」
「え? まあ、それはそうですよ。ギタリストですから」
「……どうしてギターを始められたのですか?」
日向子の問いに玄鳥は一瞬不思議そうな顔をしていたが、
「ああ、取材ですね」
そう解釈して、納得したように笑った。
「ギターは、兄貴が弾いてたから俺も始めようと思ったんです」
「紅朱様が……空手の時と同じですのね?」
「はい。……俺が何か始める時は大体いつもそうなんです。子どもの時からずっとそんな感じで。
兄貴にはしょっちゅう怒られてましたね。『なんでもかんでも俺の真似してんじゃねェよ』って」
二人のやりとりがすんなり想像できて、日向子は思わずくすっと笑ってしまった。
「紅朱様を慕っていらっしゃいますのね?」
「えっと……慕ってる、って表現は何か今更気持ち悪いですけど……すごい人だってことはわかってるし、認めてますよ」
なんとはなしに気まずそうな顔をしながら、それでも玄鳥は自信を持っている様子で言った。
「……多分……世界中で一番、兄貴のすごさを理解してるのは俺だと思いますよ」
《つづく》
一昨日の夕方から深夜にかけての、関東からのメールだ。
頼んだ。よろしく。じゃあな」
携帯の終話ボタンを押した紅朱は、当然誰もいないと思って振り返った場所に、人がいたことに一瞬驚き、動揺したが、何事もなかったかのように、
「珍しく早いじゃねェか。有砂」
声をかけた。
有砂は恐らく「何か」勘付いているのだろうが、
「……ジブンが何を隠してようと別に、オレは一切興味あらへん……と、ゆうておくか」
溜め息混じりにそう言って、紅朱のさし向かいに座った。
「……わざわざ詮索して首突っ込んでも、不要な面倒事を抱えるだけやからな……ましてや、それがジブンなら尚更や。
……なあ、リーダー?」
「ああ、そりゃ賢明だな」
紅朱は今の今まで美々と繋がっていた携帯を手の中でもてあそびながら、ふっと笑った。
「……お前の好きそうな美人だけど、今はまだ紹介してやるわけにはいかねェからな」
《第4章 黒い寓話 -inferior-》【3】
玄鳥と過ごす二日目の夜。
日向子はがさがさとピアノ室にある大きな収納スペースをあさっていた。
ここにあるものの半分以上は伯爵……「高山獅貴」とゆかりあるものばかりで、元来収集癖のある日向子は少しでも関係のあるものは何でも手を出し、ここに保管していた。
今日は日がな玄鳥とリビングで過ごし、高山獅貴や、獅貴がかつて在籍していたmont suchtのDVDを見たり、CDを聞いたりしていたのだが、他にもっと玄鳥が喜ぶようなものはないかと探してみることにしたのだ。
「うふふ……明日も伯爵様のお話、たくさん伺えるかしら……?」
日向子は上機嫌だった。
玄鳥は伊達に「クリスタル会員」の肩書きを持っているわけではなく、日向子よりも遥かに知識豊富で、何よりミュージシャンとしての立場から語られる獅貴の話は日向子にはとても新鮮で、興味深いもの。
そして日向子がいくらミーハーな発言や、妄想を交えた奇妙な見識を晒そうと、玄鳥は優しく笑って聞いてくれる。
それどころか、
「そうか。ライブに来てるお客さん、ってそんなところまで見てるものなんですね……勉強になります」
と、時には日向子のファン目線に偏った話でさえ真面目に受け止めてさえくれる。
共通の趣味の話題……と言っても、二人が見ている世界は全く違い、同じことを語り合っても切口がまるで違う。
玄鳥の話を聞いていると、日向子はどんどん自分の世界が広がり、また少し伯爵に近付けたような気さえした。
それが、本当に嬉しく、楽しかったのだ。
ほとんど時を忘れて発掘作業をしていた日向子だったが、不意に欠伸をしたことで、すっかり真夜中になっていたことに気付いた。
もう零時は回っている。
「……玄鳥様……ちゃんとお休みになっていらっしゃるかしら?」
日向子は作業を中断して、ほんの少しだけ寝室を覗いてみることにした。
足音にさえも気を遣いながら、日向子は寝室のドアに歩み寄り、慎重にノブに手をかけた。
ノックして声をかけようかとも思った、眠っているところを起こしてしまうのは気の毒だ。
少しだけ様子を見るだけなら……そう思ってそっとドアを数センチ、開いた。
部屋の灯りは消えていた。だが、ベッドサイドにあるオーディオコンポから青白い光が発せられていて、それが薄闇をぼんやりと照らし出している。
その微かな光の中で、玄鳥はベッドの上に座っていた。
日向子は「玄鳥様、そろそろお休みになって下さい」と声をかけようと一瞬思い、やめた。
というより、その光景を前にして声を出すことができなかった。
ベッドに座った玄鳥は、ヘッドフォンで何か曲を聞いているらしかった。
静寂の中に響く音もれから、日向子にはそれが「mont sucht」の最初期の曲「sleepwalker」だと判別出来た。
ということは、玄鳥は今それなりの爆音で聞いているということなのだろう。
その爆音をなぞって、玄鳥は「ギターを弾いて」いた。
実際にギターを持っているわけではない。
だが、持っていることを錯覚させるほどの精密な動きで、玄鳥の指は何もない空間の、目に見えない弦を押さえ、弾く。
透明なギターがそこにあるのではないかと、日向子は思った。
見えざるギターを一心に奏でる玄鳥の表情は、今まで日向子が見たことのあるものとはまるで当てはまらないものだった。
どこをとらえているともつかない眼差しは、瞬きすら忘れているかのように一切動かず、虚空を見つめている。
玄鳥はほとんど無表情ではあったが、それ故に鬼気迫る雰囲気をかもし出していた。それでいて、妙に静かでもある。
どこか普通の人間とは思えないような、不可思議な様子だ。
日向子の頭の中に、先日の蝉の言葉がよぎった。
――確かに真面目な奴だケド、それとはまた違うかも
――なんかもう、取り憑かれちゃってま~す、ってカンジ?
集中力マックスの玄鳥見たら、多分日向子ちゃん引くと思う……怖いんだって、マジで
「取り憑かれている」という表現はまさに、今の玄鳥にぴったりとハマる。
平家の怨霊に魅入られた耳なし芳一は、多分こんなふうに琵琶を奏でていたのではないかと、日向子は思った。
ぞっとするほどに美しく、儚げで……言い知れない不安をかき立てるような。
「……玄鳥様……」
理由を説明できない涙が、日向子の頬を一滴、伝った。
「……お止めになって下さい」
考えるより先に、日向子は寝室に飛込んで、見えないネックを握る玄鳥の左手に自分の手を重ねた。
手を止めた玄鳥は、遠くを見つめるかのように動かなかった視線を、ゆっくりと日向子へとスライドさせた。
自分の姿を映し出した双眸のあまりの冷たさに、日向子は心臓を掴まれたような思いがした。
「……邪魔、しないでくれないか?」
瞳の色と同じ冷たい声。冷たい口調。
「……玄鳥様……?」
これが本当にあの玄鳥なのか、と思った。
「……邪魔だって言ってるだろ? 早く、離せよ……」
殺意にも似た強烈な敵意を剥き出した言葉に、日向子は玄鳥の左手を解放した。
玄鳥はまた何事もなかったように日向子から視線を外し、「演奏」を再開する。
「玄鳥様……わたくしのこと、お判りにならないのですか……?」
言いようのない哀しみに、また一雫、涙が落ちる。
いつもの玄鳥なら、恐らくはみっともないくらいにうろたえて、必死に日向子を泣き止ませようと頑張るだろうに、今の玄鳥はもはや日向子のことなど視界に入れてすらいないのだ。
泣いていようと、笑っていようと全く関心などありはしないというように。
「玄鳥様……」
いくら呼んでも届くことはない。
日向子は指の背で涙を拭い、それから、玄鳥のヘッドフォンにひたすら大音量の洪水を提供し続けるオーディオコンポにそっと手を伸ばし、震える指先でその電源を、落とした。
ジャカジャカともれ出していた音楽が止まり、玄鳥の動きも、止まった。
日向子はもう一度、玄鳥に静かに歩み寄り、そっとヘッドフォンを外した。
途端に、こちらも電源が落ちてしまったかのように、玄鳥は瞳を閉じてゆっくり崩れた。
「玄鳥様……!!」
倒れ込む上体を、日向子は受け止めようとしたが、受け止めきれなくて、一緒にベッドの真下の床に転がってしまった。
呆然と床に寝たまま玄鳥を抱き締めていた日向子だったが、やがて規則正しい寝息が聞こえてきたことで、少しだけ安心した。
起こさないように立ち上がり、流石にベッドに持ち上げることは無理なので、このまま布団だけでもかけてあげることにした。
柔らかい毛布をふわりとかけた瞬間、玄鳥の唇がわずかに動き、言葉を紡ぎ出した。
「……練習……しな、きゃ……」
そんな玄鳥の姿は、いっそ痛々しかった。
もしかすると、昨夜もこんなふうに彼は「練習」していたのだろうか?
そして恐らくは明日の夜も……。
日向子は、このままではいけないと思った。
一晩中こんなことをしていたら、元気になるどころかますます玄鳥は消耗してしまうに違いない。
それに、あんな玄鳥を見るのは……とても、辛い。
日向子はもう一度涙の跡を拭って、ピアノ室へと戻っていった。
「なんとなく、和食にしちゃったんですけど、大丈夫ですか?」
テーブルの上には今朝も温かい朝食が並んでいる。
白いご飯と、ネギと豆腐とワカメのみそ汁、焼き魚に、キャベツときゅうりの浅漬けと、胡麻とホウレン草のおひたし……。
日向子はそれらごしに、玄鳥の顔をじっと見つめていた。
「……日向子さん?」
玄鳥は少し困った顔を見せる。
「……そんなに見られると俺、その……」
しどろもどろなそのリアクションに、日向子は心の底から深い安心を得た。
「……よかった……いつもの玄鳥様ですわ」
「……え?」
「いいえ……なんでもありませんわ。
お食事、とても美味しいです。玄鳥様は本当に、お料理がお上手でいらっしゃいますのね?」
いきなりべた褒めされた玄鳥は思いきり照れて赤面しながら、
「母の手伝いとか、昔からよくしてましたから……結構、楽しいですよね? 料理も」
「ええ、わたくしもお料理は好きですわ」
「いいものが出来れば嬉しいし、人に食べてもらって喜んでもらえればもっと嬉しい……それに、やればやるほどど上達するでしょう?
そういう意味だと、ギター弾くのと似てるかもしれないですね」
「ギター」という言葉に、日向子は魚の身をほぐしていた箸を一瞬休めた。
「……玄鳥様、ギターお好きでいらっしゃいますのね」
「え? まあ、それはそうですよ。ギタリストですから」
「……どうしてギターを始められたのですか?」
日向子の問いに玄鳥は一瞬不思議そうな顔をしていたが、
「ああ、取材ですね」
そう解釈して、納得したように笑った。
「ギターは、兄貴が弾いてたから俺も始めようと思ったんです」
「紅朱様が……空手の時と同じですのね?」
「はい。……俺が何か始める時は大体いつもそうなんです。子どもの時からずっとそんな感じで。
兄貴にはしょっちゅう怒られてましたね。『なんでもかんでも俺の真似してんじゃねェよ』って」
二人のやりとりがすんなり想像できて、日向子は思わずくすっと笑ってしまった。
「紅朱様を慕っていらっしゃいますのね?」
「えっと……慕ってる、って表現は何か今更気持ち悪いですけど……すごい人だってことはわかってるし、認めてますよ」
なんとはなしに気まずそうな顔をしながら、それでも玄鳥は自信を持っている様子で言った。
「……多分……世界中で一番、兄貴のすごさを理解してるのは俺だと思いますよ」
《つづく》
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ほぼ五時間立ちっぱなしの疲労で、昨日は久々にえらい早い時間に寝てしまった。笑。
アニサマ行ってきたよ。一曲目から奥井さんと水樹奈々嬢の「輪舞-revolution-」で嬉しかった。
「ありがとう、私のために!」と思ったよ。笑。
一番テンション上がったのは、サイラバが「特捜戦隊デカレンジャー」やってくれた時だけど。笑。
アリプロの「勇挟青春謳」も聞けたー!!
しかもちゃんとポン刀抜いて唄ってくれるとは。
MCの「皆さんもどうせこんな暗い青春を送っていることでしょうが」がちょっとツボった。笑。
水樹奈々嬢(ゴスロリ風)と手を繋いでステージに出た時の、「こうして並んでいると、まるで人さらいみたい」もウケたけど。笑笑。
アリカ姉さんは、キリトの匂いがする。汗。
イベント自体は、うちの人曰く年々微妙になってるらしいんだけど、私はこの3曲が聞けただけでも満足かな。
シークレットゲスト(?)の高橋洋子さんの「魂のルフラン」→「残酷な天使のテーゼ」のメドレーもびっくりしたし、是非どっちかだけでもフルで聞きたかったなぁ。
不満があるとすればやっぱり1アーティスト平均2曲はいくらなんでも少ない。
3曲あれば、新曲とマニアックな曲と定番曲……っていう感じでいけるのに、2曲って……。
女性ボーカルの似た雰囲気のアーティストが多かったのもちょっとね……バランスがね……。
そんな大きいお友達の見るアニメの唄ばっかやられても、私にはよくわかんないしね。
とりあえず来年はメドレーコーナーだけは復活させて頂きたいもんです。萌より燃がほしいのだよ、私は。
アニサマ行ってきたよ。一曲目から奥井さんと水樹奈々嬢の「輪舞-revolution-」で嬉しかった。
「ありがとう、私のために!」と思ったよ。笑。
一番テンション上がったのは、サイラバが「特捜戦隊デカレンジャー」やってくれた時だけど。笑。
アリプロの「勇挟青春謳」も聞けたー!!
しかもちゃんとポン刀抜いて唄ってくれるとは。
MCの「皆さんもどうせこんな暗い青春を送っていることでしょうが」がちょっとツボった。笑。
水樹奈々嬢(ゴスロリ風)と手を繋いでステージに出た時の、「こうして並んでいると、まるで人さらいみたい」もウケたけど。笑笑。
アリカ姉さんは、キリトの匂いがする。汗。
イベント自体は、うちの人曰く年々微妙になってるらしいんだけど、私はこの3曲が聞けただけでも満足かな。
シークレットゲスト(?)の高橋洋子さんの「魂のルフラン」→「残酷な天使のテーゼ」のメドレーもびっくりしたし、是非どっちかだけでもフルで聞きたかったなぁ。
不満があるとすればやっぱり1アーティスト平均2曲はいくらなんでも少ない。
3曲あれば、新曲とマニアックな曲と定番曲……っていう感じでいけるのに、2曲って……。
女性ボーカルの似た雰囲気のアーティストが多かったのもちょっとね……バランスがね……。
そんな大きいお友達の見るアニメの唄ばっかやられても、私にはよくわかんないしね。
とりあえず来年はメドレーコーナーだけは復活させて頂きたいもんです。萌より燃がほしいのだよ、私は。


「日向子さん……こんな時間にどうしたんですか?」
「申し訳ありません……玄鳥様、わたくし今夜はなんだか眠れませんの……」
「そうですか……実は俺もなんです」
「まあ……玄鳥様もですの……?」
「壁一枚隔てた部屋にあなたがいるんだと思うと、胸がドキドキして……」
「……わたくしも、同じ気持ちですの」
「……日向子さん……!」
「……玄鳥様……! がばぁっ、ぶちゅー……ってそんなのマジで絶対無理っ!! ありえなーい!!」
「ぶちゅー!? がばぁっはまだしもぶちゅー!? そんなことになったらボクはもう玄鳥と口きかない!!」
「おれはそんな、よっちんみたいなハレンチな子に育てた覚えはないぞっ玄鳥!!」
「あんなに真面目でいい子だった玄鳥が……有砂2号に……ううう」
「いや、今ならまだやり直せるっ! 玄鳥! 怒らないから戻っておいでっ、おれたちのところへ!!」
「玄鳥ーーっ!! カムバーック!!」
「……で? 救急車と霊柩車、どっちに乗りたいんや?」
《第4章 黒い寓話 -inferior-》【2】
外野がファミレスで半狂乱で騒いでいた頃。
当の玄鳥は実際、眠れない夜を過ごしていた。
しかしそれは、周りが想像するほど色っぽい理由からではなかった。
「まあ、玄鳥様」
日向子が後ろから声をかけると、玄鳥は、ドアノブにかけていた手を引っ込めて、ぎくっとばかりに肩を揺らして振り返った。
「あっ……」
「お出掛けになってはいけませんわ」
「いや……あの、一回だけ、ちょっと自宅に……」
「そうは参りませんわ。
紅朱様からは、この3日間、玄鳥様もわたくしも一歩も部屋から出ないように、誰が来ても部屋に入れないように、と申し使っておりますのよ」
「そんな無茶な……」
ほとんど過剰と思われる紅朱からの命令に、玄鳥は頭を押さえた。
「3日後は次のライブの当日じゃないか……兄貴はそれまで練習するなって言うのかよ……」
玄鳥が夜更けにこっそり玄関へ向かった理由は、やはり帰宅してギターの練習をするためのようだった。
「いけませんわ……まだお倒れになってから半日も経っておりませんのに」
「倒れた……って、ただの睡眠不足と疲労ですよ。ライブを途中退場したのは俺の責任だし、申し訳ないと思ってます。
だからこそ練習を積んで次のライブでは失敗を取り返さないと。
それに日向子さんだってお仕事があるんじゃ……」
「いいえ、編集長様の許可を頂いて『玄鳥様に3日間密着取材』ということになっていますので」
「密着……ですか」
「密着です」
「密着……」
「あの……お顔が赤いですわ」
「えっ、いや……別に変な意味ではなくてっ」
玄鳥は自らを落ち着けようとするかのようにふーっと息を吐いて、ぱしぱし、と自分の頬を叩いた。
「……確かに、たまにはいいのかもしれませんね。ギターから離れて気分転換っていうのも……」
今だけ。
この3日間だけ。
ギターのことは忘れよう。
日向子と過ごせる時間を大切にしよう。
少なくともその時の玄鳥は本心からそう思っていた。
「これで少なくとも3日は、安全だろう。
外部との接触もないし、何かあった時はあいつが日向子を守れる」
紅朱はふっと口の端を持ち上げた。
「時間稼ぎにゃ十分だ」
「ご協力ありがとうございます……紅朱さん」
「まあ、まさに棚からボタモチってやつだがな」
コーラが入ったグラスをあおる紅朱に、連れの女は深く頭を下げた。
「本当に……ありがとうございます」
深夜、カフェからバーに切り変わったいつものあの店のカウンター。
肩を並べる二人は、どちらもここの常連で、どちらも日向子と縁の深い二人だったが、あまりに意外な取り合わせだった。
一人は紅朱。
そして、もう一人は……美々だった。
「でもいいんですか? 他の皆さんには説明しなくて……特に玄鳥さんは知っていたほうがいいんじゃ……」
「綾は隠し事がこの銀河系で一番ヘタクソな奴だ……いくら日向子でも何か感じちまうかもしれねェ。
日向子には知らせたくねェから、あんたは俺に相談してきたんだろ?」
「そうですね……出来ることなら日向子には知られたくないです。
わざわざ怖い思いや不快な思い、することないですから……」
「俺も同じだ。だから秘密がバレるリスクは極力小さくしたい」
沈んだ表情でうつむく美々に、紅朱も笑みを打ち消して真剣な顔付きになった。
「……まだ届いてんのか? 例のメール」
「はい……1000通、2000通って数が毎日……送信先は違っても内容はほとんど同じ。
非会員制のネットカフェや公共の施設のパソコンを使ったりしてるみたいで……集団でやってることは間違いないですけど、どれだけの人間が関わってるのか特定もできません」
紅朱は不愉快そうに、いささか手荒にグラスをテーブルを叩き付けるように置いた。
「こそこそと……卑怯者が。
『森久保日向子』をheliodor企画の担当から外してください。
外さなければ蓮芳出版の雑誌はもう二度と買いません……か。
ふざけたことぬかしやがる。あいつが何かしたってのかよ」
「1通、2通なら無視できてもこれだけの数じゃ……編集長も黙殺できないかもって言ってます。
早くなんとかしないと……日向子は降ろされます」
紅朱はやり場のない苛立ちを持てあましたように、拳を握り締めた。
「……んな馬鹿な話が許されるわけねェだろっ」
美々は、沈んだ顔付きのままで、それでもほんの少し微笑んだ。
「日向子のために、そんなに怒ってくださるんですね……」
「……俺はheliodorのリーダーとして、日向子を高く買ってるんだ。あいつは思った以上に変わった奴のようだからな」
「……誉めて、下さってるんですよね?」
「ああ。すごいんだ、あの女」
紅朱は皮肉を言ったつもりは欠片もなかった。
「あいつの取材を受ける前と受けた後で、メンバーの顔が全然違うのはなんでだろうな……三人とも邪魔な荷物を一個、手放したような顔してやがる。あるいは……日向子がそれを背負うのを手伝ってやってんのかもな」
紅朱は普段あまり人には見せないような、穏やかな優しい微笑を浮かべた。
「あいつはそのうち……俺や綾の荷物も、半分持ってくれんのかな……?」
――綾くんはすごいね! また100点だね
――浅川がいてくれれば体育祭もうちのクラスがぶっちぎりだよな?
――お前、高校でも生徒会長やってんの? 流石だよなぁ。
――浅川くん、復学してはくれないか? 君程の逸材は学部中見渡しても二人といないだろうよ。
――今のheliodorの要は、ギターの玄鳥だな。あいつはマジで半端なく巧い!
――紅朱じゃなくてよかったぜ。お前みたいな勝ち目のない完璧な弟がいたんじゃ、兄貴として肩身狭すぎるもんな~?
「……違……う……」
夢現で呟いた、自分の声で玄鳥は目を覚ました。
意識が戻ってからも、垂れ流されるように独り言が口をついた。
「……違う……ちがう……」
無意識に、ぎゅっと両手の拳を握り締めた。
「……俺は……まだ……勝ててない……」
毛布がずるずるとベッドの下に落ちて溜る。
「練習……しなきゃ」
ダイニングテーブルに朝食が並んでいる。
ピーナッツバターを塗ったトースト、半熟なハムエッグ、トマトを添えたグリーンサラダ、それに野菜がたっぷりの温かいスープ。
「お口に合いますでしょうか?」
日向子は、あのクリーム色のフリルエプロンをつけて、紅茶の準備をしながら玄鳥に尋ねた。
「はい……おいしいです。朝から日向子さんの手料理が食べられるなんて、俺、幸せ者ですよね……」
玄鳥は実際、言葉通りとても嬉しそうではあったが、
「お顔の色、あまりよろしくありませんわ」
日向子は心配になった。
「いや、平気ですよ……昨夜もあれからちゃんとすぐに寝たんです……」
そうは言いながら、玄鳥は完全に欠伸を噛み殺しながらトーストをかじっている。
「枕が合わなくていらっしゃるのでは?」
「そんな、とんでもないです……日向子さんこそ、俺が寝室に居座っちゃってるから、ピアノ室で来客用の簡易ベッドで寝てるんでしょう?
今夜はもう交代にしませんか??」
「いいえ、わたくしは今のままで構いません。伯爵様のタペストリーを眺めながら就寝するのもなかなか素敵ですのよ」
「あはは……日向子さんらしいですね……」
玄鳥はなんとも複雑な顔をしながらもとりあえず笑っておくことにしたようだ。
「じゃあせめて明日の朝食は俺に作らせて下さい。それこそお口に合うかわかりませんけどね」
「まあ、よろしいんですの?」
「はい……もちろん」
初々しくも和やかな雰囲気に包まれる食卓。
だがそれを打ち破ろうとするかのように、インターフォンのお呼びがかかる。
「まあ……こんな時間に来るのはきっと雪乃ですわ」
日向子はいたって呑気にモニターに映し出される訪問者を確認しに行き、そして、一気に顔色を変えた。
「まあ、大変……!」
「どうしたんですか? 雪乃さんじゃなかったんですか?」
「いえ雪乃ですわ……でも一人ではありませんの」
日向子は玄鳥を、とてもとても困惑した瞳で見つめた。
「……お父様が、一緒ですの」
「おとっ……っ、ゲホッ」
玄鳥は思わずパンくずを喉につまらせ、目を白黒させる。
「応答がございません。お部屋にはいらっしゃらないのでしょう」
「こんな朝早くから……か?」
「お仕事の都合で早くお出掛けになることも最近では特に珍しくはございませんので」
「……ならば、出直そう。戻るぞ、漸」
「……はい。先生」
いかにも気難しそうな初老の男はしかつめらしい顔をしながら、踵を返し、連れの先に立ってマンションを後にする。
連れの眼鏡の青年は、気付かれないように密かな声音で「今回だけですよ、お嬢様」と呟いて、少しだけインターフォンのカメラに向けて会釈程度の礼をして、それに続いた。
「……大丈夫、どうやら諦めてお帰りになったみたい」
「よかったんですか? お父さんに居留守なんか使って……とか言ったところで、今部屋に入って来られたら確実に俺は殺されると思いますけど……」
「今はどなたも入らせないお約束ですもの、仕方ありませんわ」
軽い罪悪感を覚えたのは確かだったが、日向子は降りきるように言った。
「そうでした……早く紅茶をご用意しなくてはいけませんわね?」
《つづく》
「申し訳ありません……玄鳥様、わたくし今夜はなんだか眠れませんの……」
「そうですか……実は俺もなんです」
「まあ……玄鳥様もですの……?」
「壁一枚隔てた部屋にあなたがいるんだと思うと、胸がドキドキして……」
「……わたくしも、同じ気持ちですの」
「……日向子さん……!」
「……玄鳥様……! がばぁっ、ぶちゅー……ってそんなのマジで絶対無理っ!! ありえなーい!!」
「ぶちゅー!? がばぁっはまだしもぶちゅー!? そんなことになったらボクはもう玄鳥と口きかない!!」
「おれはそんな、よっちんみたいなハレンチな子に育てた覚えはないぞっ玄鳥!!」
「あんなに真面目でいい子だった玄鳥が……有砂2号に……ううう」
「いや、今ならまだやり直せるっ! 玄鳥! 怒らないから戻っておいでっ、おれたちのところへ!!」
「玄鳥ーーっ!! カムバーック!!」
「……で? 救急車と霊柩車、どっちに乗りたいんや?」
《第4章 黒い寓話 -inferior-》【2】
外野がファミレスで半狂乱で騒いでいた頃。
当の玄鳥は実際、眠れない夜を過ごしていた。
しかしそれは、周りが想像するほど色っぽい理由からではなかった。
「まあ、玄鳥様」
日向子が後ろから声をかけると、玄鳥は、ドアノブにかけていた手を引っ込めて、ぎくっとばかりに肩を揺らして振り返った。
「あっ……」
「お出掛けになってはいけませんわ」
「いや……あの、一回だけ、ちょっと自宅に……」
「そうは参りませんわ。
紅朱様からは、この3日間、玄鳥様もわたくしも一歩も部屋から出ないように、誰が来ても部屋に入れないように、と申し使っておりますのよ」
「そんな無茶な……」
ほとんど過剰と思われる紅朱からの命令に、玄鳥は頭を押さえた。
「3日後は次のライブの当日じゃないか……兄貴はそれまで練習するなって言うのかよ……」
玄鳥が夜更けにこっそり玄関へ向かった理由は、やはり帰宅してギターの練習をするためのようだった。
「いけませんわ……まだお倒れになってから半日も経っておりませんのに」
「倒れた……って、ただの睡眠不足と疲労ですよ。ライブを途中退場したのは俺の責任だし、申し訳ないと思ってます。
だからこそ練習を積んで次のライブでは失敗を取り返さないと。
それに日向子さんだってお仕事があるんじゃ……」
「いいえ、編集長様の許可を頂いて『玄鳥様に3日間密着取材』ということになっていますので」
「密着……ですか」
「密着です」
「密着……」
「あの……お顔が赤いですわ」
「えっ、いや……別に変な意味ではなくてっ」
玄鳥は自らを落ち着けようとするかのようにふーっと息を吐いて、ぱしぱし、と自分の頬を叩いた。
「……確かに、たまにはいいのかもしれませんね。ギターから離れて気分転換っていうのも……」
今だけ。
この3日間だけ。
ギターのことは忘れよう。
日向子と過ごせる時間を大切にしよう。
少なくともその時の玄鳥は本心からそう思っていた。
「これで少なくとも3日は、安全だろう。
外部との接触もないし、何かあった時はあいつが日向子を守れる」
紅朱はふっと口の端を持ち上げた。
「時間稼ぎにゃ十分だ」
「ご協力ありがとうございます……紅朱さん」
「まあ、まさに棚からボタモチってやつだがな」
コーラが入ったグラスをあおる紅朱に、連れの女は深く頭を下げた。
「本当に……ありがとうございます」
深夜、カフェからバーに切り変わったいつものあの店のカウンター。
肩を並べる二人は、どちらもここの常連で、どちらも日向子と縁の深い二人だったが、あまりに意外な取り合わせだった。
一人は紅朱。
そして、もう一人は……美々だった。
「でもいいんですか? 他の皆さんには説明しなくて……特に玄鳥さんは知っていたほうがいいんじゃ……」
「綾は隠し事がこの銀河系で一番ヘタクソな奴だ……いくら日向子でも何か感じちまうかもしれねェ。
日向子には知らせたくねェから、あんたは俺に相談してきたんだろ?」
「そうですね……出来ることなら日向子には知られたくないです。
わざわざ怖い思いや不快な思い、することないですから……」
「俺も同じだ。だから秘密がバレるリスクは極力小さくしたい」
沈んだ表情でうつむく美々に、紅朱も笑みを打ち消して真剣な顔付きになった。
「……まだ届いてんのか? 例のメール」
「はい……1000通、2000通って数が毎日……送信先は違っても内容はほとんど同じ。
非会員制のネットカフェや公共の施設のパソコンを使ったりしてるみたいで……集団でやってることは間違いないですけど、どれだけの人間が関わってるのか特定もできません」
紅朱は不愉快そうに、いささか手荒にグラスをテーブルを叩き付けるように置いた。
「こそこそと……卑怯者が。
『森久保日向子』をheliodor企画の担当から外してください。
外さなければ蓮芳出版の雑誌はもう二度と買いません……か。
ふざけたことぬかしやがる。あいつが何かしたってのかよ」
「1通、2通なら無視できてもこれだけの数じゃ……編集長も黙殺できないかもって言ってます。
早くなんとかしないと……日向子は降ろされます」
紅朱はやり場のない苛立ちを持てあましたように、拳を握り締めた。
「……んな馬鹿な話が許されるわけねェだろっ」
美々は、沈んだ顔付きのままで、それでもほんの少し微笑んだ。
「日向子のために、そんなに怒ってくださるんですね……」
「……俺はheliodorのリーダーとして、日向子を高く買ってるんだ。あいつは思った以上に変わった奴のようだからな」
「……誉めて、下さってるんですよね?」
「ああ。すごいんだ、あの女」
紅朱は皮肉を言ったつもりは欠片もなかった。
「あいつの取材を受ける前と受けた後で、メンバーの顔が全然違うのはなんでだろうな……三人とも邪魔な荷物を一個、手放したような顔してやがる。あるいは……日向子がそれを背負うのを手伝ってやってんのかもな」
紅朱は普段あまり人には見せないような、穏やかな優しい微笑を浮かべた。
「あいつはそのうち……俺や綾の荷物も、半分持ってくれんのかな……?」
――綾くんはすごいね! また100点だね
――浅川がいてくれれば体育祭もうちのクラスがぶっちぎりだよな?
――お前、高校でも生徒会長やってんの? 流石だよなぁ。
――浅川くん、復学してはくれないか? 君程の逸材は学部中見渡しても二人といないだろうよ。
――今のheliodorの要は、ギターの玄鳥だな。あいつはマジで半端なく巧い!
――紅朱じゃなくてよかったぜ。お前みたいな勝ち目のない完璧な弟がいたんじゃ、兄貴として肩身狭すぎるもんな~?
「……違……う……」
夢現で呟いた、自分の声で玄鳥は目を覚ました。
意識が戻ってからも、垂れ流されるように独り言が口をついた。
「……違う……ちがう……」
無意識に、ぎゅっと両手の拳を握り締めた。
「……俺は……まだ……勝ててない……」
毛布がずるずるとベッドの下に落ちて溜る。
「練習……しなきゃ」
ダイニングテーブルに朝食が並んでいる。
ピーナッツバターを塗ったトースト、半熟なハムエッグ、トマトを添えたグリーンサラダ、それに野菜がたっぷりの温かいスープ。
「お口に合いますでしょうか?」
日向子は、あのクリーム色のフリルエプロンをつけて、紅茶の準備をしながら玄鳥に尋ねた。
「はい……おいしいです。朝から日向子さんの手料理が食べられるなんて、俺、幸せ者ですよね……」
玄鳥は実際、言葉通りとても嬉しそうではあったが、
「お顔の色、あまりよろしくありませんわ」
日向子は心配になった。
「いや、平気ですよ……昨夜もあれからちゃんとすぐに寝たんです……」
そうは言いながら、玄鳥は完全に欠伸を噛み殺しながらトーストをかじっている。
「枕が合わなくていらっしゃるのでは?」
「そんな、とんでもないです……日向子さんこそ、俺が寝室に居座っちゃってるから、ピアノ室で来客用の簡易ベッドで寝てるんでしょう?
今夜はもう交代にしませんか??」
「いいえ、わたくしは今のままで構いません。伯爵様のタペストリーを眺めながら就寝するのもなかなか素敵ですのよ」
「あはは……日向子さんらしいですね……」
玄鳥はなんとも複雑な顔をしながらもとりあえず笑っておくことにしたようだ。
「じゃあせめて明日の朝食は俺に作らせて下さい。それこそお口に合うかわかりませんけどね」
「まあ、よろしいんですの?」
「はい……もちろん」
初々しくも和やかな雰囲気に包まれる食卓。
だがそれを打ち破ろうとするかのように、インターフォンのお呼びがかかる。
「まあ……こんな時間に来るのはきっと雪乃ですわ」
日向子はいたって呑気にモニターに映し出される訪問者を確認しに行き、そして、一気に顔色を変えた。
「まあ、大変……!」
「どうしたんですか? 雪乃さんじゃなかったんですか?」
「いえ雪乃ですわ……でも一人ではありませんの」
日向子は玄鳥を、とてもとても困惑した瞳で見つめた。
「……お父様が、一緒ですの」
「おとっ……っ、ゲホッ」
玄鳥は思わずパンくずを喉につまらせ、目を白黒させる。
「応答がございません。お部屋にはいらっしゃらないのでしょう」
「こんな朝早くから……か?」
「お仕事の都合で早くお出掛けになることも最近では特に珍しくはございませんので」
「……ならば、出直そう。戻るぞ、漸」
「……はい。先生」
いかにも気難しそうな初老の男はしかつめらしい顔をしながら、踵を返し、連れの先に立ってマンションを後にする。
連れの眼鏡の青年は、気付かれないように密かな声音で「今回だけですよ、お嬢様」と呟いて、少しだけインターフォンのカメラに向けて会釈程度の礼をして、それに続いた。
「……大丈夫、どうやら諦めてお帰りになったみたい」
「よかったんですか? お父さんに居留守なんか使って……とか言ったところで、今部屋に入って来られたら確実に俺は殺されると思いますけど……」
「今はどなたも入らせないお約束ですもの、仕方ありませんわ」
軽い罪悪感を覚えたのは確かだったが、日向子は降りきるように言った。
「そうでした……早く紅茶をご用意しなくてはいけませんわね?」
《つづく》


ブロガーの麻咲が朝風呂に入りながら朝からブログを書いてる、まあいろんな意味で「あさぶろ」だよね。
湯船につかりながら携帯いじるのはハイリスクなんだけどやめらんないのよね。
だって暇じゃん。笑。
昨日は「B'sLOG」を久々に買って読んでたんだけど、なかなか乙女ゲー業界も混沌としてきたね。
ヒロインが人形師で攻略対象は生きた人形(ゴシック調)……ローゼンメイデンか??
ヒロインがネトゲヲタクで、彼氏がいるにも関わらずネット世界での恋愛に明け暮れる…….hackか??
現代と過去を行き来することのできるヒロインが、美形な男子と時を越えた恋と戦いを繰り広げる……犬夜叉??
真ん中一本はそのヒロイン彼氏持ちに激しく引っ掛かるからあまり引かれない。
あとのは気にはなるけど、地雷メーカー・オト●イトだから様子見。
絵と声につられて買って内容が薄い……っていうのは嫌なんで。
映像クオリティとキャストとモチーフは神なのに、シナリオがついてかないオト●イトって、なんかハリウッド映画みたいだよね。笑。
っつーかどれもこれもキャラデザとか作風がビジュアル系過ぎて笑えるんだが……中世ものだらけだしな。これも時代の流れなんかね~。
私が気になるのはね~、筆頭は幕末恋華・花柳剣士伝。
三樹三郎が注目キャラ。死なないのわかってる安心感+弟属性ね。
鍬次郎ももちろん気になるが、いろんな意味で怖くもあるかな。
それからPCから移植される「アラビアン・ロスト」は非常に注目中。
中世和風中世中世和風っていう(笑)昨今の乙女ゲーム界で、アラビアンっていうのがまずいいよね。
そしてヒロインが王女にして盗賊で、攻略対象も悪党しかいないという素晴らしい潔さ。笑。
気になるキャラクターは主人公の幼馴染みのタイロン。見るからに硬派です。
巷で流行の「お嬢」呼びですよ(うちにも一人 笑)。小西ボイスで。キャー。
「お嬢」呼びって地獄少女で流行ったんだろうけど、その前に、「ぼくとわたしの恋愛事情」の男主人公がイーヴリンをすでに「お嬢」呼びしてて、地味に萌えてたな~(主人公に萌えてどうする)。
逆に新作がPCで出るフルハウスキス。
理由はどうもエロいからみたいです。爆。
私的にはあの微エロな世界観が好きだから、あんまりあけすけにエロに走られると萎える危険が……。
家政婦パートないらしいし、これはもう別ゲーム??
九条陸がオトせるらしい。……お前、出世し過ぎじゃないの。笑。
フルハウスキスの個人的なネックは麻生好き過ぎて他を攻略する気がまったく起きないところだな。笑。
湯船につかりながら携帯いじるのはハイリスクなんだけどやめらんないのよね。
だって暇じゃん。笑。
昨日は「B'sLOG」を久々に買って読んでたんだけど、なかなか乙女ゲー業界も混沌としてきたね。
ヒロインが人形師で攻略対象は生きた人形(ゴシック調)……ローゼンメイデンか??
ヒロインがネトゲヲタクで、彼氏がいるにも関わらずネット世界での恋愛に明け暮れる…….hackか??
現代と過去を行き来することのできるヒロインが、美形な男子と時を越えた恋と戦いを繰り広げる……犬夜叉??
真ん中一本はそのヒロイン彼氏持ちに激しく引っ掛かるからあまり引かれない。
あとのは気にはなるけど、地雷メーカー・オト●イトだから様子見。
絵と声につられて買って内容が薄い……っていうのは嫌なんで。
映像クオリティとキャストとモチーフは神なのに、シナリオがついてかないオト●イトって、なんかハリウッド映画みたいだよね。笑。
っつーかどれもこれもキャラデザとか作風がビジュアル系過ぎて笑えるんだが……中世ものだらけだしな。これも時代の流れなんかね~。
私が気になるのはね~、筆頭は幕末恋華・花柳剣士伝。
三樹三郎が注目キャラ。死なないのわかってる安心感+弟属性ね。
鍬次郎ももちろん気になるが、いろんな意味で怖くもあるかな。
それからPCから移植される「アラビアン・ロスト」は非常に注目中。
中世和風中世中世和風っていう(笑)昨今の乙女ゲーム界で、アラビアンっていうのがまずいいよね。
そしてヒロインが王女にして盗賊で、攻略対象も悪党しかいないという素晴らしい潔さ。笑。
気になるキャラクターは主人公の幼馴染みのタイロン。見るからに硬派です。
巷で流行の「お嬢」呼びですよ(うちにも一人 笑)。小西ボイスで。キャー。
「お嬢」呼びって地獄少女で流行ったんだろうけど、その前に、「ぼくとわたしの恋愛事情」の男主人公がイーヴリンをすでに「お嬢」呼びしてて、地味に萌えてたな~(主人公に萌えてどうする)。
逆に新作がPCで出るフルハウスキス。
理由はどうもエロいからみたいです。爆。
私的にはあの微エロな世界観が好きだから、あんまりあけすけにエロに走られると萎える危険が……。
家政婦パートないらしいし、これはもう別ゲーム??
九条陸がオトせるらしい。……お前、出世し過ぎじゃないの。笑。
フルハウスキスの個人的なネックは麻生好き過ぎて他を攻略する気がまったく起きないところだな。笑。


「まあ」
今日のイベント会場まであと100メートルといったところで、日向子は思わず足を止めた。
歩道の真ん中にちょこんと猫がたたずんでいる。
黒い仔猫だ。
まだ生まれて何ヵ月といったところか?
お行儀よく座って、大きな金色の瞳でじっと日向子を見ている。
「なんて可愛らしい……」
日向子が近付いても逃げようとはしない。
「あら首輪をしていますのね……?」
しゃがんで手を伸ばして銀色の首輪を確認しようとした時、
「その子、私のよ」
後ろから声。
氷と氷がぶつかり合ったような、澄んで凛とした声だった。
振り返ると、日向子と同じか少し年下くらいの少女が立っていた。
ゴシックロリータで全身を包んだ、サラサラした直毛の真っ黒な長い髪が印象的な美人だった。
瞳の色も吸い込まれそうな漆黒で、本当に血が通っているのか怪しいほど真っ白な肌との対比が美しい。
日向子は少女に笑いかけ、抱き上げた仔猫を差し出した。
「可愛らしい仔猫ちゃんですのね?」
美少女は無表情で猫を受けとると、
「シュバルツは仔猫ちゃんじゃないわ」
美しい声で言う。
「黒豹のベビィなの」
「黒豹……??」
日向子は、少女の手の中で嬉しそうにじゃれついている黒い生き物を思わず見た。
「だったら、凄いわよね」
「はあ」
少女は「シュバルツ」を抱いて、ポカンとしている日向子の横をすり抜けていった。
「……ただの例え話よ」
《第4章 黒い寓話 -inferior-》【1】
熱狂のステージは中盤に差し掛かっていた。
《せめて 聞いてくれ
甘い台詞じゃないが
親愛なる君のために
愛を込めたとっておきさ》
日向子は少し身体を揺すってリズムを取りながら、いつものように、メンバーひとりひとりの姿を目で追っていく。
紅朱は今日も絶好調だ。
《聞きわけもなく
まくしたてるDarlin'
どんな顔であやまれば
許してくれるんでしょうか?》
有砂はいつも通り、とても安定している。
《出来ないものは 出来ないと
言い切る僕のスタンスを
怠慢だと君は責めるけど
果たせない約束は
君とはしない》
スノウ・ドームの一件以来しばらくは不調そうだった万楼も、だいぶ持ち直して見える。
《要求をつきつける前に
不可解な君の素顔を
特定するヒントを
僕に投げておくれ》
サビのあたまで少し走ってしまって、蝉が舌を出して笑う。日向子もつられて笑う。
《僕の話を最後まで
聞いてくれたらわかるだろう
秒針が三度回るまで
何も言わずに待っていて》
Aサビの後はすかさず8小節のギターソロ、日向子はステージ上手の玄鳥を見やった。
その瞬間、まるでタイミングを合わせたように玄鳥と目が合った。
「あ」という顔をした玄鳥は、すぐにそれを微笑に転じた……のだが。
「……?」
日向子はその微笑に妙な違和感と不安を覚えた。
その正体はすぐに判明する。
ソロの最初の二小節が鳴った直後、玄鳥のギターの4弦がバチッと弾けるように切れて、それを合図としたかのように玄鳥の身体は突如として、崩れた。
「……玄鳥様……!?」
会場は騒然となり、上手前方を中心にいくつもの悲鳴が上がる。
よろめくように前傾姿勢でバランスを失った玄鳥は、声を上げることもなく、そのままギターをかばうような格好で膝を折って、その場に倒れた。
ほとんど間を空けず、紅朱が邪魔だとばかりに蹴倒したマイクスタンドが倒れ、転がって、キン、とマイクがこめかみに突き刺さる悲鳴を上げた。
「綾……っ!!」
ステージ上であるにも関わらず、実名で呼び掛けながら、紅朱は誰より早く玄鳥に駆け寄った。
「綾っ!!」
「紅朱、落ち着いて!」
「むやみに動かさないほうがいいと思うな」
玄鳥を抱き起こそうとした紅朱を、蝉と万楼が慌てて制する。
有砂は冷静に、スタッフに向けてスティックを軽く下向きに三度、振った。
『照明を、落とせ』
暗転した暗闇の中で止まない悲鳴に包まれながら、日向子もまた大きな不安にさいなまれていた。
「玄鳥様……どうなさったの……??」
「……ん……」
左側頭部がズキズキと痛む。
外傷によるものではなく、内側から響く痛みだ。
それは、なじみの鈍痛。
それに耐えながら、玄鳥はゆっくりと目を開けていく。
柔らかい光が網膜にさしこんでくる。
そして鼓膜は、
「まあ、お気付きになりまして?」
一番心地好く響く声を捕まえた。
「……あ」
一気に目を開いて、ほとんど反射的に身体を起こそうとした。
「……うっ」
苦痛が鋭さを増して襲いかかり、目の前の景色が揺れる。
「いけませんわ、まだ起き上がらないで寝ていらして下さい」
玄鳥はそのまま柔らかいベッドに再び身を沈めた。
ベッド?
玄鳥はそこに引っ掛かりを覚えた。
玄鳥の部屋は和室で、寝具はベッドではなく布団だ。
ということは、少なくともここは玄鳥の部屋ではないのだ。
では一体、ここはどこだろう??
「もうすぐお食事が出来ますから、横になったまま待っていらして下さい」
「……は、はい?」
玄鳥はその光景に、愕然とし、何度も瞬きを繰り返し、何度も目をこすった。
夢か?
いや、夢なら痛みは感じない筈だ。
ならば現実なのか?
これは。
クリーム色のフリルのついたエプロンをまとった日向子が、料理用のミトンをはめた手を頬に当ててにっこり微笑んでいる。
「おじや……お好きですか?」
状況は全く飲み込めない。
飲み込めないが……。
「だ……大好きです!!」
元気よく返事し過ぎてまた頭が痛かったが、そんなことはどうでもよかった。
エプロン日向子は安心したように笑う。
「まあ、お顔の色……随分よくなられて」
顔色がいいどころか、耳まで赤くなっているに違いない自分をかなり恥ずかしく思いつつ、玄鳥は恐る恐る問掛けた。
「あの……日向子さん……ここはもしかして……」
「はい、わたくしの部屋です」
「……あの……ってことは今俺が寝ているのは……」
「わたくしの寝室のベッドです」
「……えっ……ええっ!?」
「……あの、やはり返ってご迷惑だったでしょうか?」
「……いや……あの……なんていうか……そういうわけじゃなくて……その」
客観的に観察したら哀れなくらい完全なパニック状態を起こしている玄鳥に、日向子は心配そうに近付いてきた。
「……どういたしましょう。お顔がどんどん赤くなって。もしや熱がおありなのでは……?」
日向子はベッドサイドに身をかがめて、ミトンを外した手を玄鳥の額にぴたっと当てた。
「……っ……」
「やはり少しお熱いような……」
「ひっ……日向子さんっ……」
近いです。
近すぎます。
もう言葉が声にならない。
至近距離で見つめてくる愛くるしい瞳に、玄鳥はもはやだんだんと混乱を通りこして釘付けになっていた。
「玄鳥様……?」
そして、心配そうに自分の名前をつむぐ唇にも……。
「あ……」
玄鳥は甘く痺れるような感覚に捕まったまま、うっとりと目を細めた。
「日向子さん……」
と。その時。
「おい日向子! 鍋噴いてたから火止めたぞ?」
かなり乱暴にドアが開け放たれて、とてもよく知っている顔が現れた。
「まあ紅朱様、申し訳ありません。わたくしったら……」
日向子は立ち上がるなり、ミトンをはめ直しながらとてとてとキッチンに走って行った。
玄鳥はそれを呆然と見送り、それから部屋に残った人物を見やった。
「なんだ綾、結構平気そうじゃねェか」
呑気な口調で評する実兄に、忘れていた左側頭部の痛みが一気に蘇った気がした。
「そうか……またこのパターンか……」
ライブ中に昏倒した玄鳥が、日向子のマンションで目を覚ますまでの空白の時間はこうだった。
結局メンバーの手で楽屋まで運ばれた玄鳥は、完全に意識を手放しており、顔色は蒼白だった。
駆け付けた日向子まで青ざめてしまったほどに。
しかし、最初あれだけ取り乱していた紅朱も、他のメンバーたちも意外と冷静な態度だった。
「……いつか倒れるんじゃないかと思ったよ」
と万楼が呟く。
「最近かなり無理してたっぽいしね~?」
蝉が溜め息まじりでそう言うと、その傍らで有砂が呆れ顔で口を開く。
「……マッド・ギタリストめ」
日向子は思わず誰にともなく尋ねた。
「玄鳥様……そんなにご無理をなさっていたのでしょうか?」
「ああ。当人も自覚してなかったろうがな」
代表するかのように紅朱が答えた。
「綾はバンドマンのくせに、普段やたら早寝早起きだし、三度のメシもきっちり摂って、規則正しい生活してやがる。
それが一旦練習や作曲活動にのめりこむと、文字通り寝食忘れて熱中しちまうとこがあってな」
「まあ、真面目な玄鳥様らしいですわね……」
日向子がそう言うと、
「確かに真面目な奴だケド、それとはまた違うかも」
蝉が苦笑いする。
「なんかもう、取り憑かれちゃってま~す、ってカンジ?
集中力マックスの玄鳥見たら、多分日向子ちゃん引くと思う……怖いんだって、マジで」
随分大袈裟な物言いだと日向子は思ったが、誰一人それを否定する者もフォローする者もなく、一様に「なんか今怖いもの思い出しちゃった」という顔をしていた。
紅朱は嘆息する。
「近頃は別件でも頭の痛い問題があって、対策を練ったりしてたしな……そんな時くらい他は手ェ抜きゃいいんだが……言っても聞かねェんだよ、このバカ」
紅朱は少し苛立って見えた。
「こんなことになっても、起きたら普通に練習し始めそうだよね、玄鳥」
万楼が苦笑いをしながら言うと、有砂は、
「いっそしばらくギター触れない環境に隔離したらどうや?」
涼しい顔でわりと過激な提案を投げかける。
「ああ、案外そりゃいいかもな」
紅朱は意外なほどあっさりとその提案を採用した。
「誰か3日くらいこいつ引き取れ」
「ボクのところは無理だよ。狭いから」
万楼が真っ先にそう主張し、
「……これ以上やかましいんが増えるなんて冗談やない」
「……ってことなんで、うちもちょっとな~……紅朱んとこ連れてけばイイじゃん? 可愛い弟なんだから」
同居コンビも難色を示した。
紅朱はきっぱりと
「嫌なこった。面倒くせェ」
情け容赦もなく拒否した。
「俺の生活習慣に朝から晩までダメ出ししやがるに決まってる」
結局全員が引き取りたがらないのでは、仕方がないかと思ったせつな……。
「ではわたくしの部屋に来て頂きましょうか?」
日向子が当たり前のように口にした言葉に、一同騒然となった。
「こっこら! 日向子ちゃん! きみは女の子なんだから簡単に男を部屋に泊めちゃダメっ!! 絶対ダメ!!」
「うん。ボクもあんまりよくないと思うよ……お姉さん」
蝉と万楼はかなり真剣に反対し、有砂でさえも、
「……本気か?」
と眉根を寄せた。
だが紅朱だけは、
「いや、いいんじゃないか」
ためらいもなく賛同した。
「女が相手ならわがまま言わずおとなしくするだろうし……日向子んとこのマンションは確か結構広かったよな?」
「はい、全く問題ありません」
「大アリだよ!!」
綺麗にハモる蝉と万楼、有砂の溜め息もすっかり無視して、日向子と玄鳥の三日間同棲生活がここに大決定した。
「綾を頼むな? 日向子」
「はい! わたくしにお任せ下さい」
《つづく》
今日のイベント会場まであと100メートルといったところで、日向子は思わず足を止めた。
歩道の真ん中にちょこんと猫がたたずんでいる。
黒い仔猫だ。
まだ生まれて何ヵ月といったところか?
お行儀よく座って、大きな金色の瞳でじっと日向子を見ている。
「なんて可愛らしい……」
日向子が近付いても逃げようとはしない。
「あら首輪をしていますのね……?」
しゃがんで手を伸ばして銀色の首輪を確認しようとした時、
「その子、私のよ」
後ろから声。
氷と氷がぶつかり合ったような、澄んで凛とした声だった。
振り返ると、日向子と同じか少し年下くらいの少女が立っていた。
ゴシックロリータで全身を包んだ、サラサラした直毛の真っ黒な長い髪が印象的な美人だった。
瞳の色も吸い込まれそうな漆黒で、本当に血が通っているのか怪しいほど真っ白な肌との対比が美しい。
日向子は少女に笑いかけ、抱き上げた仔猫を差し出した。
「可愛らしい仔猫ちゃんですのね?」
美少女は無表情で猫を受けとると、
「シュバルツは仔猫ちゃんじゃないわ」
美しい声で言う。
「黒豹のベビィなの」
「黒豹……??」
日向子は、少女の手の中で嬉しそうにじゃれついている黒い生き物を思わず見た。
「だったら、凄いわよね」
「はあ」
少女は「シュバルツ」を抱いて、ポカンとしている日向子の横をすり抜けていった。
「……ただの例え話よ」
《第4章 黒い寓話 -inferior-》【1】
熱狂のステージは中盤に差し掛かっていた。
《せめて 聞いてくれ
甘い台詞じゃないが
親愛なる君のために
愛を込めたとっておきさ》
日向子は少し身体を揺すってリズムを取りながら、いつものように、メンバーひとりひとりの姿を目で追っていく。
紅朱は今日も絶好調だ。
《聞きわけもなく
まくしたてるDarlin'
どんな顔であやまれば
許してくれるんでしょうか?》
有砂はいつも通り、とても安定している。
《出来ないものは 出来ないと
言い切る僕のスタンスを
怠慢だと君は責めるけど
果たせない約束は
君とはしない》
スノウ・ドームの一件以来しばらくは不調そうだった万楼も、だいぶ持ち直して見える。
《要求をつきつける前に
不可解な君の素顔を
特定するヒントを
僕に投げておくれ》
サビのあたまで少し走ってしまって、蝉が舌を出して笑う。日向子もつられて笑う。
《僕の話を最後まで
聞いてくれたらわかるだろう
秒針が三度回るまで
何も言わずに待っていて》
Aサビの後はすかさず8小節のギターソロ、日向子はステージ上手の玄鳥を見やった。
その瞬間、まるでタイミングを合わせたように玄鳥と目が合った。
「あ」という顔をした玄鳥は、すぐにそれを微笑に転じた……のだが。
「……?」
日向子はその微笑に妙な違和感と不安を覚えた。
その正体はすぐに判明する。
ソロの最初の二小節が鳴った直後、玄鳥のギターの4弦がバチッと弾けるように切れて、それを合図としたかのように玄鳥の身体は突如として、崩れた。
「……玄鳥様……!?」
会場は騒然となり、上手前方を中心にいくつもの悲鳴が上がる。
よろめくように前傾姿勢でバランスを失った玄鳥は、声を上げることもなく、そのままギターをかばうような格好で膝を折って、その場に倒れた。
ほとんど間を空けず、紅朱が邪魔だとばかりに蹴倒したマイクスタンドが倒れ、転がって、キン、とマイクがこめかみに突き刺さる悲鳴を上げた。
「綾……っ!!」
ステージ上であるにも関わらず、実名で呼び掛けながら、紅朱は誰より早く玄鳥に駆け寄った。
「綾っ!!」
「紅朱、落ち着いて!」
「むやみに動かさないほうがいいと思うな」
玄鳥を抱き起こそうとした紅朱を、蝉と万楼が慌てて制する。
有砂は冷静に、スタッフに向けてスティックを軽く下向きに三度、振った。
『照明を、落とせ』
暗転した暗闇の中で止まない悲鳴に包まれながら、日向子もまた大きな不安にさいなまれていた。
「玄鳥様……どうなさったの……??」
「……ん……」
左側頭部がズキズキと痛む。
外傷によるものではなく、内側から響く痛みだ。
それは、なじみの鈍痛。
それに耐えながら、玄鳥はゆっくりと目を開けていく。
柔らかい光が網膜にさしこんでくる。
そして鼓膜は、
「まあ、お気付きになりまして?」
一番心地好く響く声を捕まえた。
「……あ」
一気に目を開いて、ほとんど反射的に身体を起こそうとした。
「……うっ」
苦痛が鋭さを増して襲いかかり、目の前の景色が揺れる。
「いけませんわ、まだ起き上がらないで寝ていらして下さい」
玄鳥はそのまま柔らかいベッドに再び身を沈めた。
ベッド?
玄鳥はそこに引っ掛かりを覚えた。
玄鳥の部屋は和室で、寝具はベッドではなく布団だ。
ということは、少なくともここは玄鳥の部屋ではないのだ。
では一体、ここはどこだろう??
「もうすぐお食事が出来ますから、横になったまま待っていらして下さい」
「……は、はい?」
玄鳥はその光景に、愕然とし、何度も瞬きを繰り返し、何度も目をこすった。
夢か?
いや、夢なら痛みは感じない筈だ。
ならば現実なのか?
これは。
クリーム色のフリルのついたエプロンをまとった日向子が、料理用のミトンをはめた手を頬に当ててにっこり微笑んでいる。
「おじや……お好きですか?」
状況は全く飲み込めない。
飲み込めないが……。
「だ……大好きです!!」
元気よく返事し過ぎてまた頭が痛かったが、そんなことはどうでもよかった。
エプロン日向子は安心したように笑う。
「まあ、お顔の色……随分よくなられて」
顔色がいいどころか、耳まで赤くなっているに違いない自分をかなり恥ずかしく思いつつ、玄鳥は恐る恐る問掛けた。
「あの……日向子さん……ここはもしかして……」
「はい、わたくしの部屋です」
「……あの……ってことは今俺が寝ているのは……」
「わたくしの寝室のベッドです」
「……えっ……ええっ!?」
「……あの、やはり返ってご迷惑だったでしょうか?」
「……いや……あの……なんていうか……そういうわけじゃなくて……その」
客観的に観察したら哀れなくらい完全なパニック状態を起こしている玄鳥に、日向子は心配そうに近付いてきた。
「……どういたしましょう。お顔がどんどん赤くなって。もしや熱がおありなのでは……?」
日向子はベッドサイドに身をかがめて、ミトンを外した手を玄鳥の額にぴたっと当てた。
「……っ……」
「やはり少しお熱いような……」
「ひっ……日向子さんっ……」
近いです。
近すぎます。
もう言葉が声にならない。
至近距離で見つめてくる愛くるしい瞳に、玄鳥はもはやだんだんと混乱を通りこして釘付けになっていた。
「玄鳥様……?」
そして、心配そうに自分の名前をつむぐ唇にも……。
「あ……」
玄鳥は甘く痺れるような感覚に捕まったまま、うっとりと目を細めた。
「日向子さん……」
と。その時。
「おい日向子! 鍋噴いてたから火止めたぞ?」
かなり乱暴にドアが開け放たれて、とてもよく知っている顔が現れた。
「まあ紅朱様、申し訳ありません。わたくしったら……」
日向子は立ち上がるなり、ミトンをはめ直しながらとてとてとキッチンに走って行った。
玄鳥はそれを呆然と見送り、それから部屋に残った人物を見やった。
「なんだ綾、結構平気そうじゃねェか」
呑気な口調で評する実兄に、忘れていた左側頭部の痛みが一気に蘇った気がした。
「そうか……またこのパターンか……」
ライブ中に昏倒した玄鳥が、日向子のマンションで目を覚ますまでの空白の時間はこうだった。
結局メンバーの手で楽屋まで運ばれた玄鳥は、完全に意識を手放しており、顔色は蒼白だった。
駆け付けた日向子まで青ざめてしまったほどに。
しかし、最初あれだけ取り乱していた紅朱も、他のメンバーたちも意外と冷静な態度だった。
「……いつか倒れるんじゃないかと思ったよ」
と万楼が呟く。
「最近かなり無理してたっぽいしね~?」
蝉が溜め息まじりでそう言うと、その傍らで有砂が呆れ顔で口を開く。
「……マッド・ギタリストめ」
日向子は思わず誰にともなく尋ねた。
「玄鳥様……そんなにご無理をなさっていたのでしょうか?」
「ああ。当人も自覚してなかったろうがな」
代表するかのように紅朱が答えた。
「綾はバンドマンのくせに、普段やたら早寝早起きだし、三度のメシもきっちり摂って、規則正しい生活してやがる。
それが一旦練習や作曲活動にのめりこむと、文字通り寝食忘れて熱中しちまうとこがあってな」
「まあ、真面目な玄鳥様らしいですわね……」
日向子がそう言うと、
「確かに真面目な奴だケド、それとはまた違うかも」
蝉が苦笑いする。
「なんかもう、取り憑かれちゃってま~す、ってカンジ?
集中力マックスの玄鳥見たら、多分日向子ちゃん引くと思う……怖いんだって、マジで」
随分大袈裟な物言いだと日向子は思ったが、誰一人それを否定する者もフォローする者もなく、一様に「なんか今怖いもの思い出しちゃった」という顔をしていた。
紅朱は嘆息する。
「近頃は別件でも頭の痛い問題があって、対策を練ったりしてたしな……そんな時くらい他は手ェ抜きゃいいんだが……言っても聞かねェんだよ、このバカ」
紅朱は少し苛立って見えた。
「こんなことになっても、起きたら普通に練習し始めそうだよね、玄鳥」
万楼が苦笑いをしながら言うと、有砂は、
「いっそしばらくギター触れない環境に隔離したらどうや?」
涼しい顔でわりと過激な提案を投げかける。
「ああ、案外そりゃいいかもな」
紅朱は意外なほどあっさりとその提案を採用した。
「誰か3日くらいこいつ引き取れ」
「ボクのところは無理だよ。狭いから」
万楼が真っ先にそう主張し、
「……これ以上やかましいんが増えるなんて冗談やない」
「……ってことなんで、うちもちょっとな~……紅朱んとこ連れてけばイイじゃん? 可愛い弟なんだから」
同居コンビも難色を示した。
紅朱はきっぱりと
「嫌なこった。面倒くせェ」
情け容赦もなく拒否した。
「俺の生活習慣に朝から晩までダメ出ししやがるに決まってる」
結局全員が引き取りたがらないのでは、仕方がないかと思ったせつな……。
「ではわたくしの部屋に来て頂きましょうか?」
日向子が当たり前のように口にした言葉に、一同騒然となった。
「こっこら! 日向子ちゃん! きみは女の子なんだから簡単に男を部屋に泊めちゃダメっ!! 絶対ダメ!!」
「うん。ボクもあんまりよくないと思うよ……お姉さん」
蝉と万楼はかなり真剣に反対し、有砂でさえも、
「……本気か?」
と眉根を寄せた。
だが紅朱だけは、
「いや、いいんじゃないか」
ためらいもなく賛同した。
「女が相手ならわがまま言わずおとなしくするだろうし……日向子んとこのマンションは確か結構広かったよな?」
「はい、全く問題ありません」
「大アリだよ!!」
綺麗にハモる蝉と万楼、有砂の溜め息もすっかり無視して、日向子と玄鳥の三日間同棲生活がここに大決定した。
「綾を頼むな? 日向子」
「はい! わたくしにお任せ下さい」
《つづく》


Acid Black Cherry代々木フリーライブの携帯会員優先エリアが急遽ご用意できなくなりました、というメールがきた。
あの……意味がわからないんだが。
FC先行も申し込んでるから、そっちが取れてりゃ一応問題ないんだけど、だからって「はい、そうですか」と言うにはお粗末過ぎるよなぁ。
当選メール到着後ってのも問題だけど、仮に前だったとしてもひどいよね。
例えばサポートメンバーのファンでわざわざ携帯サイト入って応募した人だっていっぱいいるだろ。
応募から発表までに月跨いでるから630円とられてるわけだよ。
馬鹿馬鹿しい。
この場合悪いのはyasuではないんだが、心象的にyasuの株が下がったことは間違いない。
ただでも今めちゃめちゃ叩かれてんだからさ~。
叩かれても仕方ないと思うけどさ。汗。
相変わらずAcid Black Cherryの活動には気に入らないところが多い。
毎回サポメン変えるのはソロ活動だから全然オッケーなんだけどね、私の中でもやもやしてるが、デビュー曲の収録ミュージシャン(発表済)と、PV出演ミュージシャンが違うらしいってところ(今のところまだ「coming soon」)。
わざわざ枠を設けて発表するからにはそこそこ名の通った方々なんだよねぇ??
音源は音源、PVはPVでサポメンのファンに商売しようって魂胆なんだろ。
毎度ながら、なんて商売のうまい事務所なんだろうね。
待ち詫びてきたファンに何も言わずに、こそこそこそこそ小箱でシークレットやって、いよいよ大々的にフリーライブやります、って段になってもファンの期待をあっさり裏切り、金だけはとってくって……悪気がないとしても最悪じゃないか??
少なくとも私は腹立つが。
もうジャンヌのソロは全部どうでもいいかも……。
あの……意味がわからないんだが。
FC先行も申し込んでるから、そっちが取れてりゃ一応問題ないんだけど、だからって「はい、そうですか」と言うにはお粗末過ぎるよなぁ。
当選メール到着後ってのも問題だけど、仮に前だったとしてもひどいよね。
例えばサポートメンバーのファンでわざわざ携帯サイト入って応募した人だっていっぱいいるだろ。
応募から発表までに月跨いでるから630円とられてるわけだよ。
馬鹿馬鹿しい。
この場合悪いのはyasuではないんだが、心象的にyasuの株が下がったことは間違いない。
ただでも今めちゃめちゃ叩かれてんだからさ~。
叩かれても仕方ないと思うけどさ。汗。
相変わらずAcid Black Cherryの活動には気に入らないところが多い。
毎回サポメン変えるのはソロ活動だから全然オッケーなんだけどね、私の中でもやもやしてるが、デビュー曲の収録ミュージシャン(発表済)と、PV出演ミュージシャンが違うらしいってところ(今のところまだ「coming soon」)。
わざわざ枠を設けて発表するからにはそこそこ名の通った方々なんだよねぇ??
音源は音源、PVはPVでサポメンのファンに商売しようって魂胆なんだろ。
毎度ながら、なんて商売のうまい事務所なんだろうね。
待ち詫びてきたファンに何も言わずに、こそこそこそこそ小箱でシークレットやって、いよいよ大々的にフリーライブやります、って段になってもファンの期待をあっさり裏切り、金だけはとってくって……悪気がないとしても最悪じゃないか??
少なくとも私は腹立つが。
もうジャンヌのソロは全部どうでもいいかも……。


第3章はいかがでしたか??
今回はメインの男が非常によく喋る奴なので、結構詰め込んじゃったなぁ……という印象。
読みにくかったらごめんなさい。
蝉という男の設定は、もともと昔日本テレビでやってた「仔犬のワルツ」っていう変なドラマ(本当に変なドラマだった)から引っ張ってきたもの。
あれは設定は面白そうなのに、サスペンスがやりたいのか、感動ものなのか、恋愛ものなのか、実はブラックコメディなのか……よくわかんないままグダグダに終わっちゃったので、残念だった。笑。
ヒロインの相手役がまさに、ピアノの才能を見込まれて施設から名門一家に引き取られた……という設定だった。
ちなみに紅朱の、「バンドのメンバーで恋人だった女に失踪された」という設定は「WITH LOVE」というドラマから。笑。
このドラマは大好きだったなぁ。ベタドラマかと思うほどベタな展開連続だが、それがたまらん。
今もリピート放送は必ずチェックするし。
このドラマのヒロインは銀行のお客様係なので、相手役の男を仕事のクセで「長谷川様」と呼んで「様、っていうのやめてくんない?」とかなんとかツッコまれたりなんかしてて、そんなヒロインに激しく萌えていた。笑。
日向子がメンバーを様づけで呼ぶ設定はそっからなのよね~。
メールのやりとりを通してのプラトニックラブがテーマだったので、結局最終回に到るまでコンセプトを貫き、主役の二人がクライマックスですら抱き締め合うだけで、キスすらしなかったところがまたよくてねぇ(しみじみ)。
まあ、懐ドラ話はこのへんにして、またいつものように振り返るとしますか。
【1】。今回浅川兄弟が出るのここだけ。笑。
「D-unite」というものが出てきたけど、私はmixiとか一応やってんのに関わらず、ファンコミュニティみたいなもんが実はあまり好きではなく、生理的になんか苦手……。
何故かと聞かれるとうまく説明できないが、なんか怖い……。
その怖さを誇張したのが「粛清会議」。笑。
最後のほうで有砂が、蝉を「中途半端やな」と言ってますな。
書いてる時はなんとも思わないんだけど、読み返すとさぁ……このフレーズが、「ちゃらんぽらん」のツッコミの人が言う「ちゅぅぅとはんぱやなぁぁ」っていう、ギャグを連想させて自ウケした。笑。
関西弁でクールに喋らすのって実は結構大変なのよね。
言語自体がクールとは言い難い(ごめんなさい。関西の人ごめんなさい。超ごめんなさい)。
有砂は一応大阪生まれ、東京育ちだから、あんまりコテコテになんないようにしてるんだけど。
【2】でスノウ・ドーム三人娘登場。
うづみ、いづみ、ちづみ、頭文字を並べると「ういち」→「ウイッチ」→「魔女」。
三人とも実は魔女っ子だったという。
ちなみに担当パートの通り、いづみは万楼ファン、ちづみは紅朱ファンという設定。
うづみは言わずもがなだけど、蝉命。
なぜか有砂をライバル視してた……ってそりゃ、幼心にゼン兄寝とられるかと思ったんだろ。爆。
【3】ではかなり蝉の事情や内面に踏み込んでみた。
日向子と蝉が連弾するシーンはずっと出したかったんで出せてよかった~。
【4】は蝉から雪乃に華麗に(?)スイッチングする救助シーン。
ダイブした時にウイッグ取れちゃってるわけなんだけど、幸い日向子も万楼も普通の状態じゃなかったからバレてはない。
人口呼吸しようかどうしよいか悩んだのよね。やりたかったね。笑。
だから「もしかして、今、した?」という描写をしてあるんだけど、「日向子の初キスは本命のためにとっといてあげたい」という人は自力で呼吸を回復したと判断して下さい。笑。
【5】は1シーンが短いんで読みづらいかも??
次第に気持ちが変化しつつある万楼と、どうやらちょっぴりツンデレ疑惑な有砂、むしろヤンデレなうづみといづみ(爆)、そんなこととは知らずに幸せそうな蝉と日向子。
悲喜こもごも。
一番悲しいのは出番がない浅川兄弟だっつーの。
次からガンガン目立つ予定ではあるけど。
個人的にうづみちゃんとか、前回の薔子さんとか結構好きなんで、ゲームなら蝉や有砂と結ばれるルート作ってあげたいんだけど……どうなんだろうね。
それって乙女的に萎え??
さてもさても、次回は玄鳥メインです。
頑張れ次男坊……!!
ご意見ご感想お待ちしてます~☆
今回はメインの男が非常によく喋る奴なので、結構詰め込んじゃったなぁ……という印象。
読みにくかったらごめんなさい。
蝉という男の設定は、もともと昔日本テレビでやってた「仔犬のワルツ」っていう変なドラマ(本当に変なドラマだった)から引っ張ってきたもの。
あれは設定は面白そうなのに、サスペンスがやりたいのか、感動ものなのか、恋愛ものなのか、実はブラックコメディなのか……よくわかんないままグダグダに終わっちゃったので、残念だった。笑。
ヒロインの相手役がまさに、ピアノの才能を見込まれて施設から名門一家に引き取られた……という設定だった。
ちなみに紅朱の、「バンドのメンバーで恋人だった女に失踪された」という設定は「WITH LOVE」というドラマから。笑。
このドラマは大好きだったなぁ。ベタドラマかと思うほどベタな展開連続だが、それがたまらん。
今もリピート放送は必ずチェックするし。
このドラマのヒロインは銀行のお客様係なので、相手役の男を仕事のクセで「長谷川様」と呼んで「様、っていうのやめてくんない?」とかなんとかツッコまれたりなんかしてて、そんなヒロインに激しく萌えていた。笑。
日向子がメンバーを様づけで呼ぶ設定はそっからなのよね~。
メールのやりとりを通してのプラトニックラブがテーマだったので、結局最終回に到るまでコンセプトを貫き、主役の二人がクライマックスですら抱き締め合うだけで、キスすらしなかったところがまたよくてねぇ(しみじみ)。
まあ、懐ドラ話はこのへんにして、またいつものように振り返るとしますか。
【1】。今回浅川兄弟が出るのここだけ。笑。
「D-unite」というものが出てきたけど、私はmixiとか一応やってんのに関わらず、ファンコミュニティみたいなもんが実はあまり好きではなく、生理的になんか苦手……。
何故かと聞かれるとうまく説明できないが、なんか怖い……。
その怖さを誇張したのが「粛清会議」。笑。
最後のほうで有砂が、蝉を「中途半端やな」と言ってますな。
書いてる時はなんとも思わないんだけど、読み返すとさぁ……このフレーズが、「ちゃらんぽらん」のツッコミの人が言う「ちゅぅぅとはんぱやなぁぁ」っていう、ギャグを連想させて自ウケした。笑。
関西弁でクールに喋らすのって実は結構大変なのよね。
言語自体がクールとは言い難い(ごめんなさい。関西の人ごめんなさい。超ごめんなさい)。
有砂は一応大阪生まれ、東京育ちだから、あんまりコテコテになんないようにしてるんだけど。
【2】でスノウ・ドーム三人娘登場。
うづみ、いづみ、ちづみ、頭文字を並べると「ういち」→「ウイッチ」→「魔女」。
三人とも実は魔女っ子だったという。
ちなみに担当パートの通り、いづみは万楼ファン、ちづみは紅朱ファンという設定。
うづみは言わずもがなだけど、蝉命。
なぜか有砂をライバル視してた……ってそりゃ、幼心にゼン兄寝とられるかと思ったんだろ。爆。
【3】ではかなり蝉の事情や内面に踏み込んでみた。
日向子と蝉が連弾するシーンはずっと出したかったんで出せてよかった~。
【4】は蝉から雪乃に華麗に(?)スイッチングする救助シーン。
ダイブした時にウイッグ取れちゃってるわけなんだけど、幸い日向子も万楼も普通の状態じゃなかったからバレてはない。
人口呼吸しようかどうしよいか悩んだのよね。やりたかったね。笑。
だから「もしかして、今、した?」という描写をしてあるんだけど、「日向子の初キスは本命のためにとっといてあげたい」という人は自力で呼吸を回復したと判断して下さい。笑。
【5】は1シーンが短いんで読みづらいかも??
次第に気持ちが変化しつつある万楼と、どうやらちょっぴりツンデレ疑惑な有砂、むしろヤンデレなうづみといづみ(爆)、そんなこととは知らずに幸せそうな蝉と日向子。
悲喜こもごも。
一番悲しいのは出番がない浅川兄弟だっつーの。
次からガンガン目立つ予定ではあるけど。
個人的にうづみちゃんとか、前回の薔子さんとか結構好きなんで、ゲームなら蝉や有砂と結ばれるルート作ってあげたいんだけど……どうなんだろうね。
それって乙女的に萎え??
さてもさても、次回は玄鳥メインです。
頑張れ次男坊……!!
ご意見ご感想お待ちしてます~☆


「……万楼様?」
「……」
「あの」
「……」
憂い顔の美少年は首を横に振った。
「ごめん。今のボクに優しくしないで」
「……」
来る時よりも閑散とした、ローカル線の車内は、とても静かだった。
一番端の席に座って、銀色のポールに頭を預けた万楼はほとんど口を開かなかった。
ただ時折、呟くようにこんな独り言を吐き捨てるばかりだ。
「……最悪だ。……ボクは、最悪だ……」
日向子はただその隣に座って、見つめていることしかできなかった。
《第3章 林檎には罪を 口付けには罰を -impatience-》【5】
「あ、おかえり……」
外から部屋の灯りを確認して、いることはわかっていたのだが、ひょこっと自室から顔を出した蝉を見て、有砂は鼻で笑った。
「……また、随分早いお帰りやな。一泊二日て、中坊でももう少し頑張るんちゃうか」
「だって二日も家空けたら、よっちん寂しくて泣いちゃうかなぁって」
「……もっかい叩き出したろうか」
「冗談だってば~」
有砂は鬱陶しそうに蝉を睨んで、それから、
「で?」
短く問いかけた。
その不親切なクエスチョンの意味を察して、蝉は答えた。
「おれはスノウ・ドームが大好きだった……ケド、今はheliodorも負けないくらい大切だし……どっちもおれの家族みたいなものだと思う。
それともう一人……おれのこと、家族って言ってくれるあの子のことも……」
蝉は目を細めて、大切な笑顔を思い浮かべる。
「今はもう、『釘宮』と切り離しても守りたいと思ってるから」
「……で?」
有砂は再度繰り返した。
蝉は小さく頷く。
「中途半端はしない。全部本気で、命がけで守るよ。……だから、heliodorのために日向子ちゃんを危ない目に遭わすのはやっぱりヤだ」
そして有砂が何か言う前に、続ける。
「あーっと……代替案はまだ特にナイんだケドさぁ……マジで超真剣に考えてっからー、ちょっと待ってくんない? ……ダメ?」
ぱちんと顔の前で掌を合わせて「お願ーい」とやりながら、恐る恐る有砂の顔を覗き込む蝉。
有砂は溜め息をつく。
「……下手の考え休むに似たり」
「うわっ、何それっ……おれの努力をあっさり否定ですか~!?」
「アホが無理してどうなるもんでもないやろ……そういうことは得意な人間に任せとけばええ、ゆーことや。
幸いうちのバンドには頭脳明晰な参謀がおるからな……そろそろ何か言ってくるやろ」
蝉が「そっか」、と短く呟いて、ある意味ほっとしたような、拍子抜けしたような顔をしていると、有砂は更にこう続けた。
「守りたい、と思う人間が自分だけやと思って油断せんことや……。
お前の大事なもんを、お前と同じくらい大事にしたい奴も中にはいてる」
「……じゃあね」
最寄り駅で先に降りようとした万楼の色白な手首を日向子は、とっさに掴んだ。
万楼は、
「……優しくしないでってば」
うつむいて呟いた。
日向子は慎重に言葉を選んで語りかける。
「万楼様……わたくしを助けることができなかったことを気になさっているのなら……」
「ごめん……次会う時には普通に戻っておくから。今日はこのままバイバイにして」
日向子は仕方なく手を離し、万楼はしまりかけたドアをくぐって電車を降りてしまった。
窓から心配そうに見つめる日向子を連れて電車が行ってしまうまで、万楼はホームにたたずんでいた。
そして電車が見えなくなると同時に、万楼はしゃがみこんだ。
「最悪だ……蝉がいなかったらお姉さん死んでたかもしれないのに……」
苦しそうにギュッと目をつぶって呟いた。
「……頭の中が蝉へのヤキモチでいっぱいなんて最悪だよ……!」
大きな鏡の前で少女がたたずんでいた。
彼女の普段の服装からは想像も難しいような、まるで商売女のような露出の高い黒いワンピースを着ている。
長い黒髪にはゆるゆるとウエーブがかかっていて、今しがたほどいた三編みのクセがしっかりと残っている。
鏡の前で少女は少しずつ、自分を着替えていく。
眼鏡をコンタクトに変えて、化粧っけのなかった顔に彩りをのせていく。
完成する頃には、鏡の前には少女はいなかった。
彼女は十分に成熟した身体と色香を持つ大人の女だった。
「……いづみ。私、ちゃんと綺麗?」
「うん……うづ姉は誰よりも綺麗だよ」
何故か寂しそうに微笑んで、制服姿の快活そうな女子高生は、敬愛する「姉」にファーのコートをかけた。
「……でも私が何をしているか知られたら、ゼン兄に嫌われちゃうね」
「うづ姉……」
「でもいい、私は嫌われてもいい。ゼン兄が自分のやりたいことを好きなように出来るようになるんだったら、私はそれ以上なんにも望まない」
華やかに着飾ったうづみは、迷いのない目で鏡の中の自分を見つめた。
「ちづみは私を白雪姫と呼んでくれたけど……悪魔と契った私はもう、魔女でしかないわね」
「うづ姉!」
いづみはうづみにすがりつくようにして抱きついた。
「大丈夫……何があっても味方だからね」
「……ありがとう。もう行かなきゃ……そろそろあの人が迎えに来る」
「……よりによって、あんな人と……本気で結婚するつもりなの?」
訴えるような目で見つめるいづみに、うづみは微笑んだ。
「他になかったから。スノウ・ドームを救済できるだけの資本力がある知り合いなんて」
うづみは化粧台の引き出しから、小さな黒い箱を取り出した。
開くと中には、複雑な細工で林檎の意匠をあしらった、シルバーのリングがある。
「ああいう人だから、取り入るのも難しくなかったしね」
箱の蓋を開いたところには、やはりシルバーでメッセージが記されている。
《Dear my SNOW-WHITE
From H.SAWASHIRO》
契約の証を左手の薬指にはめた「魔女」は、全ての罪を背負って今夜も安息の森を出て行った。
「お迎えが遅くなって申し訳ございません……お嬢様」
車から降りて恭しく礼をする雪乃を、日向子は黙ってじっと見つめた。
「……お嬢様?」
「……ごめんなさい。なんでもないの」
日向子はちらり、と自分の手首を見つめ、小さく溜め息をついた後車に乗り込んだ。
あれが雪乃だったと考えるにはあまりにも現実離れしている。
流石の日向子も、きっと夢を見ていたのだろうと思い始めていた。
「……お顔の色が優れないようにお見受けしますが、何かございましたか?」
運転席からの問掛けに、日向子は少し動揺した。
あんな危険なことがあったと勘付かれたら、散々怒られて父に告げ口されてしまうかもしれない。
「な……何も、何もありませんでしたわよ!」
「左様でございますか……では私の考えすぎということなのでしょう」
雪乃があまりあっけなく引き下がったので、日向子は少し驚いた。
雪乃は静かな口調で続けた。
「昨夜見た夢が気にかかっていたのやもしれません」
「……夢?」
「お嬢様が湖に落ちる夢です」
「……えっ」
驚いて、日向子は言葉を失った。
「慌てて水に入ってお助け致しましたが、ご無事を確認できるまでは生きた心地が致しませんでした」
「雪乃……」
今日の雪乃は、お説教以外では無口な彼にしては珍しく、少々饒舌なようだった。
「目が覚めた後も、あれはまことに夢だったかと疑いを抱いてしまうほど生々しい夢だったもので、よもやお嬢様の身に何かあったのではないかと心配しておりましたので」
その言葉を聞いて、日向子はなんとなく胸がいっぱいになった気がした。
「……わたくしも、そのような夢を見たような気がしますわ」
思わずくすくすと笑ってしまう。
「夢の中でまで雪乃は仕事熱心ですのね……あんまり無理はなさらないで」
「お嬢様こそ夢の中でまで無茶をなさらないで下さい。どれだけ心配させれば気がお済みですか」
「……ええ、ごめんなさい」
今度は日向子があっさりと引き下がり、雪乃を少し驚かせた。
日向子は少し間をおいて、
「この間、雪乃にわたくしの送迎を他の方に代行してもらってはどうかと相談したことがあったでしょう?」
「……はい」
「誰かに頼まれたと雪乃は思ったみたいですけれど、本当はわたくしがお願いしたのよ」
「……お嬢様が、ですか?」
「わたくしのこと、雪乃の負担になっているのではと思っていたから……。
ちょうど今お仕事を探している方がいらっしゃったのでお願いしてみたの」
日向子はさながら悪戯に失敗した子どものように笑っている。
「実はその方にも断られてしまったのですけれど」
「……断られた……のですか?」
「ええ、自分には荷が重いからと。
もし雪乃もそのほうがいいと思っているならもう一度お願いするつもりでしたけれど、多分また断られてしまったのではないかしら。
確か……わたくしのようなややこしい女の面倒を好んで見たがる物好きは、大変貴重だから大事にするように、というようなこともおっしゃっていましたわ」
「……」
「雪乃?」
「……それは……また随分な物言いをする方がいたものですね」
日向子をいつも通り送り届けた雪乃は、眼鏡を外すと、思いきりシートを後ろに倒して寝そべって伸びをした。
「……あ~っ……危なかった……今日という今日は超ヤバかった……」
いつ感情が氾濫して仮面にヒビが入ってしまうか気が気ではなかった。
「……あの子って……あんな可愛かったっけ……?」
もしかしたらこっそり口許がにやけてしまってたのではないかと思うくらいに。
「あいつもあいつだし~……まったく、ややこしい性格してんのどっちよ……」
「雪乃」モードをオフにして、車の天井を見上げながら、思う存分蝉は笑った。
笑って、笑って、気が済むと、ゆっくりシートを起こした。
携帯を、グローブボックスの中のプライベート用携帯と持ち換える際、蝉はラミネートのケースに入った古い写真を一緒に引っ張り出した。
小さなピアノの前で撮った、いかにもヤンチャそうな明るい笑顔の少年と、それを見守る優しそうな年輩の男性の写真。
蝉はそれを懐かしそうに見つめながら、囁くように言った。
「……お義父さん……おれ今かなり、生きてて良かったって思う……マジで、そう思うよ」
灯りもつけない真っ暗な部屋の中で、パソコンのモニターだけが光を放っている。
「絶対に……あなただけを不幸にはしないからね」
涙ぐんだような声と、カタカタとキーを叩く音が闇の中に溶けていく。
「それに……あの女だけ幸せになんてさせてたまるもんか」
渦を巻く負の感情とは裏腹な、無機質な文字が打ち出される。
《同士諸君
己の立場を利用して
heliodorに接近し
メンバーに必要以上に
干渉する傾向にある
危険人物を特定した
蓮芳出版の記者
「森久保 日向子」の
粛清をここに提案する》
「……これで、いいんだ……」
暗い微笑を浮かべて、少女は最後に自らの肩書きと名を、そこに記した。
《D-unite 会長 イヅミ》
今新たなる危機が、日向子に迫ろうとしていた。
《第4章へつづく》
「……」
「あの」
「……」
憂い顔の美少年は首を横に振った。
「ごめん。今のボクに優しくしないで」
「……」
来る時よりも閑散とした、ローカル線の車内は、とても静かだった。
一番端の席に座って、銀色のポールに頭を預けた万楼はほとんど口を開かなかった。
ただ時折、呟くようにこんな独り言を吐き捨てるばかりだ。
「……最悪だ。……ボクは、最悪だ……」
日向子はただその隣に座って、見つめていることしかできなかった。
《第3章 林檎には罪を 口付けには罰を -impatience-》【5】
「あ、おかえり……」
外から部屋の灯りを確認して、いることはわかっていたのだが、ひょこっと自室から顔を出した蝉を見て、有砂は鼻で笑った。
「……また、随分早いお帰りやな。一泊二日て、中坊でももう少し頑張るんちゃうか」
「だって二日も家空けたら、よっちん寂しくて泣いちゃうかなぁって」
「……もっかい叩き出したろうか」
「冗談だってば~」
有砂は鬱陶しそうに蝉を睨んで、それから、
「で?」
短く問いかけた。
その不親切なクエスチョンの意味を察して、蝉は答えた。
「おれはスノウ・ドームが大好きだった……ケド、今はheliodorも負けないくらい大切だし……どっちもおれの家族みたいなものだと思う。
それともう一人……おれのこと、家族って言ってくれるあの子のことも……」
蝉は目を細めて、大切な笑顔を思い浮かべる。
「今はもう、『釘宮』と切り離しても守りたいと思ってるから」
「……で?」
有砂は再度繰り返した。
蝉は小さく頷く。
「中途半端はしない。全部本気で、命がけで守るよ。……だから、heliodorのために日向子ちゃんを危ない目に遭わすのはやっぱりヤだ」
そして有砂が何か言う前に、続ける。
「あーっと……代替案はまだ特にナイんだケドさぁ……マジで超真剣に考えてっからー、ちょっと待ってくんない? ……ダメ?」
ぱちんと顔の前で掌を合わせて「お願ーい」とやりながら、恐る恐る有砂の顔を覗き込む蝉。
有砂は溜め息をつく。
「……下手の考え休むに似たり」
「うわっ、何それっ……おれの努力をあっさり否定ですか~!?」
「アホが無理してどうなるもんでもないやろ……そういうことは得意な人間に任せとけばええ、ゆーことや。
幸いうちのバンドには頭脳明晰な参謀がおるからな……そろそろ何か言ってくるやろ」
蝉が「そっか」、と短く呟いて、ある意味ほっとしたような、拍子抜けしたような顔をしていると、有砂は更にこう続けた。
「守りたい、と思う人間が自分だけやと思って油断せんことや……。
お前の大事なもんを、お前と同じくらい大事にしたい奴も中にはいてる」
「……じゃあね」
最寄り駅で先に降りようとした万楼の色白な手首を日向子は、とっさに掴んだ。
万楼は、
「……優しくしないでってば」
うつむいて呟いた。
日向子は慎重に言葉を選んで語りかける。
「万楼様……わたくしを助けることができなかったことを気になさっているのなら……」
「ごめん……次会う時には普通に戻っておくから。今日はこのままバイバイにして」
日向子は仕方なく手を離し、万楼はしまりかけたドアをくぐって電車を降りてしまった。
窓から心配そうに見つめる日向子を連れて電車が行ってしまうまで、万楼はホームにたたずんでいた。
そして電車が見えなくなると同時に、万楼はしゃがみこんだ。
「最悪だ……蝉がいなかったらお姉さん死んでたかもしれないのに……」
苦しそうにギュッと目をつぶって呟いた。
「……頭の中が蝉へのヤキモチでいっぱいなんて最悪だよ……!」
大きな鏡の前で少女がたたずんでいた。
彼女の普段の服装からは想像も難しいような、まるで商売女のような露出の高い黒いワンピースを着ている。
長い黒髪にはゆるゆるとウエーブがかかっていて、今しがたほどいた三編みのクセがしっかりと残っている。
鏡の前で少女は少しずつ、自分を着替えていく。
眼鏡をコンタクトに変えて、化粧っけのなかった顔に彩りをのせていく。
完成する頃には、鏡の前には少女はいなかった。
彼女は十分に成熟した身体と色香を持つ大人の女だった。
「……いづみ。私、ちゃんと綺麗?」
「うん……うづ姉は誰よりも綺麗だよ」
何故か寂しそうに微笑んで、制服姿の快活そうな女子高生は、敬愛する「姉」にファーのコートをかけた。
「……でも私が何をしているか知られたら、ゼン兄に嫌われちゃうね」
「うづ姉……」
「でもいい、私は嫌われてもいい。ゼン兄が自分のやりたいことを好きなように出来るようになるんだったら、私はそれ以上なんにも望まない」
華やかに着飾ったうづみは、迷いのない目で鏡の中の自分を見つめた。
「ちづみは私を白雪姫と呼んでくれたけど……悪魔と契った私はもう、魔女でしかないわね」
「うづ姉!」
いづみはうづみにすがりつくようにして抱きついた。
「大丈夫……何があっても味方だからね」
「……ありがとう。もう行かなきゃ……そろそろあの人が迎えに来る」
「……よりによって、あんな人と……本気で結婚するつもりなの?」
訴えるような目で見つめるいづみに、うづみは微笑んだ。
「他になかったから。スノウ・ドームを救済できるだけの資本力がある知り合いなんて」
うづみは化粧台の引き出しから、小さな黒い箱を取り出した。
開くと中には、複雑な細工で林檎の意匠をあしらった、シルバーのリングがある。
「ああいう人だから、取り入るのも難しくなかったしね」
箱の蓋を開いたところには、やはりシルバーでメッセージが記されている。
《Dear my SNOW-WHITE
From H.SAWASHIRO》
契約の証を左手の薬指にはめた「魔女」は、全ての罪を背負って今夜も安息の森を出て行った。
「お迎えが遅くなって申し訳ございません……お嬢様」
車から降りて恭しく礼をする雪乃を、日向子は黙ってじっと見つめた。
「……お嬢様?」
「……ごめんなさい。なんでもないの」
日向子はちらり、と自分の手首を見つめ、小さく溜め息をついた後車に乗り込んだ。
あれが雪乃だったと考えるにはあまりにも現実離れしている。
流石の日向子も、きっと夢を見ていたのだろうと思い始めていた。
「……お顔の色が優れないようにお見受けしますが、何かございましたか?」
運転席からの問掛けに、日向子は少し動揺した。
あんな危険なことがあったと勘付かれたら、散々怒られて父に告げ口されてしまうかもしれない。
「な……何も、何もありませんでしたわよ!」
「左様でございますか……では私の考えすぎということなのでしょう」
雪乃があまりあっけなく引き下がったので、日向子は少し驚いた。
雪乃は静かな口調で続けた。
「昨夜見た夢が気にかかっていたのやもしれません」
「……夢?」
「お嬢様が湖に落ちる夢です」
「……えっ」
驚いて、日向子は言葉を失った。
「慌てて水に入ってお助け致しましたが、ご無事を確認できるまでは生きた心地が致しませんでした」
「雪乃……」
今日の雪乃は、お説教以外では無口な彼にしては珍しく、少々饒舌なようだった。
「目が覚めた後も、あれはまことに夢だったかと疑いを抱いてしまうほど生々しい夢だったもので、よもやお嬢様の身に何かあったのではないかと心配しておりましたので」
その言葉を聞いて、日向子はなんとなく胸がいっぱいになった気がした。
「……わたくしも、そのような夢を見たような気がしますわ」
思わずくすくすと笑ってしまう。
「夢の中でまで雪乃は仕事熱心ですのね……あんまり無理はなさらないで」
「お嬢様こそ夢の中でまで無茶をなさらないで下さい。どれだけ心配させれば気がお済みですか」
「……ええ、ごめんなさい」
今度は日向子があっさりと引き下がり、雪乃を少し驚かせた。
日向子は少し間をおいて、
「この間、雪乃にわたくしの送迎を他の方に代行してもらってはどうかと相談したことがあったでしょう?」
「……はい」
「誰かに頼まれたと雪乃は思ったみたいですけれど、本当はわたくしがお願いしたのよ」
「……お嬢様が、ですか?」
「わたくしのこと、雪乃の負担になっているのではと思っていたから……。
ちょうど今お仕事を探している方がいらっしゃったのでお願いしてみたの」
日向子はさながら悪戯に失敗した子どものように笑っている。
「実はその方にも断られてしまったのですけれど」
「……断られた……のですか?」
「ええ、自分には荷が重いからと。
もし雪乃もそのほうがいいと思っているならもう一度お願いするつもりでしたけれど、多分また断られてしまったのではないかしら。
確か……わたくしのようなややこしい女の面倒を好んで見たがる物好きは、大変貴重だから大事にするように、というようなこともおっしゃっていましたわ」
「……」
「雪乃?」
「……それは……また随分な物言いをする方がいたものですね」
日向子をいつも通り送り届けた雪乃は、眼鏡を外すと、思いきりシートを後ろに倒して寝そべって伸びをした。
「……あ~っ……危なかった……今日という今日は超ヤバかった……」
いつ感情が氾濫して仮面にヒビが入ってしまうか気が気ではなかった。
「……あの子って……あんな可愛かったっけ……?」
もしかしたらこっそり口許がにやけてしまってたのではないかと思うくらいに。
「あいつもあいつだし~……まったく、ややこしい性格してんのどっちよ……」
「雪乃」モードをオフにして、車の天井を見上げながら、思う存分蝉は笑った。
笑って、笑って、気が済むと、ゆっくりシートを起こした。
携帯を、グローブボックスの中のプライベート用携帯と持ち換える際、蝉はラミネートのケースに入った古い写真を一緒に引っ張り出した。
小さなピアノの前で撮った、いかにもヤンチャそうな明るい笑顔の少年と、それを見守る優しそうな年輩の男性の写真。
蝉はそれを懐かしそうに見つめながら、囁くように言った。
「……お義父さん……おれ今かなり、生きてて良かったって思う……マジで、そう思うよ」
灯りもつけない真っ暗な部屋の中で、パソコンのモニターだけが光を放っている。
「絶対に……あなただけを不幸にはしないからね」
涙ぐんだような声と、カタカタとキーを叩く音が闇の中に溶けていく。
「それに……あの女だけ幸せになんてさせてたまるもんか」
渦を巻く負の感情とは裏腹な、無機質な文字が打ち出される。
《同士諸君
己の立場を利用して
heliodorに接近し
メンバーに必要以上に
干渉する傾向にある
危険人物を特定した
蓮芳出版の記者
「森久保 日向子」の
粛清をここに提案する》
「……これで、いいんだ……」
暗い微笑を浮かべて、少女は最後に自らの肩書きと名を、そこに記した。
《D-unite 会長 イヅミ》
今新たなる危機が、日向子に迫ろうとしていた。
《第4章へつづく》