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プロフィール
HN:
麻咲
年齢:
41
性別:
女性
誕生日:
1983/05/03
職業:
フリーター
趣味:
ライブ、乙女ゲーム、カラオケ
自己紹介:
好きなバンド
janne Da Arc
Angelo
犬神サーカス団
シド
Sound Schedule
PIERROT
angela
GRANRODEO
Acid Black Cherry 他
好きな乙女ゲームとひいきキャラ
アンジェリークシリーズ(チャーリー)
遙かなる時空の中でシリーズ(無印・橘友雅、2.藤原幸鷹、3.平知盛、4・サザキ)
金色のコルダシリーズ(1&2・王崎信武、3・榊大地、氷渡貴史)
ネオアンジェリーク(ジェット)
フルハウスキス(羽倉麻生)
ときめきメモリアルGSシリーズ(1・葉月珪、2・若王子貴文)
幕末恋華シリーズ(大石鍬次郎、陸奥陽之助)
花宵ロマネスク(紫陽)
Vitaminシリーズ(X→七瀬瞬、真田正輝、永田智也 Z→方丈慧、不破千聖、加賀美蘭丸)
僕と私の恋愛事情(シグルド)
ラスト・エスコート2(天祢一星)
アラビアンズ・ロスト(ロベルト=クロムウェル)
魔法使いとご主人様(セラス=ドラグーン)
危険なマイ★アイドル(日下部浩次)
ラブマジ(双薔冬也)
星空のコミックガーデン(轟木圭吾)
リトルアンカー(フェンネル=ヨーク)
暗闇の果てで君を待つ(風野太郎)
ラブΦサミット(ジャン=マリー)
妄想彼氏学園(神崎鷹也) 他
バイト先→某損保系コールセンター
janne Da Arc
Angelo
犬神サーカス団
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Sound Schedule
PIERROT
angela
GRANRODEO
Acid Black Cherry 他
好きな乙女ゲームとひいきキャラ
アンジェリークシリーズ(チャーリー)
遙かなる時空の中でシリーズ(無印・橘友雅、2.藤原幸鷹、3.平知盛、4・サザキ)
金色のコルダシリーズ(1&2・王崎信武、3・榊大地、氷渡貴史)
ネオアンジェリーク(ジェット)
フルハウスキス(羽倉麻生)
ときめきメモリアルGSシリーズ(1・葉月珪、2・若王子貴文)
幕末恋華シリーズ(大石鍬次郎、陸奥陽之助)
花宵ロマネスク(紫陽)
Vitaminシリーズ(X→七瀬瞬、真田正輝、永田智也 Z→方丈慧、不破千聖、加賀美蘭丸)
僕と私の恋愛事情(シグルド)
ラスト・エスコート2(天祢一星)
アラビアンズ・ロスト(ロベルト=クロムウェル)
魔法使いとご主人様(セラス=ドラグーン)
危険なマイ★アイドル(日下部浩次)
ラブマジ(双薔冬也)
星空のコミックガーデン(轟木圭吾)
リトルアンカー(フェンネル=ヨーク)
暗闇の果てで君を待つ(風野太郎)
ラブΦサミット(ジャン=マリー)
妄想彼氏学園(神崎鷹也) 他
バイト先→某損保系コールセンター
アクセス解析
2007/08/22 (Wed)
一次創作関連
「……どうして、今日は雪乃ではありませんの?」
その朝に日向子を迎えに来たのは、釘宮家の古株の使用人・小原(オハラ)だった。
小原はつい最近白の面積が黒の面積を追い抜いてしまった頭をかいて、言いにくそうに告げる。
「まことに急なことではございますが、本日より日向子お嬢様の送迎は私が任せられることとなりまして……」
「……雪乃に、何かあったのですか?」
「はい……とは、申しましても、けして悪いことではなく……むしろ喜ばしいことかとは思うのですが……」
「どうぞもったいぶらず、おっしゃって?」
日向子が先を促すと、小原は顔を引き締めて、改まった口調で答えた。
「昨夜、旦那様が漸様を釘宮家の正式な後継者にご指名されました」
《第8章 迷宮の果てで、もう一度 -release-》【1】
「雪乃が……釘宮の後継者……」
それは小原の言葉通りの、実に「喜ばしい」知らせだった。
雪乃は幼い頃から釘宮の後継者になるべく教育を受け、努力を重ねてきたのだ。
むしろ認められるのが、遅すぎたくらいだと日向子も思う。
だがあまりにも急な決定であった。
雪乃は年内にも公の場で正式な後継者としての襲名を行うこととなる。
年が明ければすぐに高槻の携わる事業や役職を順に引き継いでいかなければならないため、今は釘宮邸で各種手続きや最終的な打ち合わせに追われている筈だ。
もう日向子の世話にかける余裕はないし、またその必要もない。
後継者として世界中を飛び回って仕事をするようになれば、顔を合わせることすら年に数度ということになりかねない。
もう雪乃とゆっくり話をするチャンスはほとんどなくなってしまう。
心の準備のできていなかった日向子には、それは寂しすぎる現実だった。
デスクに向かい、昨日の紅朱と玄鳥への取材の件を原稿に起こそうとしても、キーボードの上に置かれた指はかろやかに動いてくれそうもなかった。
なんだか、身も心も重く感じる。
溜め息がもれる。
こんな時には決まって「どうしたの?」と声を掛けて相談に乗ってくれる美々も、今は不在だ。
まるで何かから逃れようとするかのように、前にも増して忙しく働く美々はデスクにいつかなくなっていた。
日向子はノートパソコンの傍らに置かれた携帯電話を見やった。
あんなにも頻繁にメールを送ってきていた万楼から、今日は一通も届いていない。
こちらから送ってみようかとも思ったが、もし練習に集中しているなら邪魔になってしまうかもしれない。
そう考えると出来なかった。
同じように結局話を聞けずじまいの有砂のことも気になるのだが、昨夜はだいぶ機嫌が悪そうだったので、もう少し待ってから連絡したほうがいいような気がしていた。
あまりにも筆が進まないので、日向子は原稿を書くのを諦めて、ノートパソコンを閉じる。
昨日の取材の後、ラーメン屋で食事していた際、紅朱と玄鳥は翌日も同じスタジオで二人で曲作りをすると話していた。
来たければ来てもいいとのことだったが、あまり毎日顔を出してもやりにくいのではないかと思い、遠慮してしまっていた。
そうなるとそこへ行くのも躊躇われる。
なんだか世界に一人取り残されたような孤独感を感じて、たまらなくやるせない。
ふと思う。
普段はなんとなく距離を置かれているような気がするけれど、辛くてたまらない時には、まるで全てを見透かしたようにいつも突然現れて、心を軽くしてくれる人のことを。
「そういえば蝉様は……どうしていらっしゃるのかしら?」
あの笑顔がなんだか恋しくなって、日向子は携帯電話を手に取った。
――……ちゃんと、見に来てくれとったんや……
――何ゆうてるの? 約束してんから当たり前やないの
――……ん、ああ……そう、やな。……で、どうやった?
――そらもう、めっちゃよかったで
――ホンマに……?
――お前はうちの自慢の子やな……有砂
――……有砂?
――ホンマにかっこよかったで、有砂
――……オレは、佳人やで? ……母さん
――佳、人……?
――……母さん……?
――うちには、佳人なんて子はいてへんよ
「……っ」
有砂は、無機質なデフォルト設定の着信音で目を覚ました。
今が何時なのか、いつの間に眠っていたのかもわからないが、ダイニングテーブルに突っ伏したまま夜を明かしたようだ。
目が覚めてからも有砂はしばらくそのままの姿勢でぼんやりしていた。
過去という名の夢の余韻に捕まってしまっていた。
すぐ近くでずっと、携帯電話が鳴っている。
有砂の携帯の音では、ない。
「……おい……鳴ってるで……」
半分覚醒しきっていない頭で、呼び掛ける。
「……やかましいから……はよ出ろ、アホ……」
万が一「間違えて」もいいように、全く同じ機種で全く同じ着信音に設定して、二つ使い分けている……この携帯の主。
「……蝉……?」
不意に、霞んでいた意識が覚醒する。
ゆっくりと身体を起こして、着信音の出所を探した。
すぐに判明する。それは、テーブルの脇のゴミ箱の中から響いていたのだ。
点滅するランプが、携帯を包み込むかのようかぶさったウイッグの毛束の隙間から、チカチカとオレンジ色の光を発する。
有砂はその光景を見つめて、思わず額に手を当てた。
そう。
蝉は携帯に出ることはできない。
ここにはもう、いないのだから。
「……蝉様でいらっしゃいますか? わたくしです。日向子ですわ」
長い長い呼び出しのコール音が途絶えた途端、日向子は思わず早口で告げていた。
しかし、返ってきた声は蝉のそれではなかった。
《……お嬢》
「まあ……有砂様」
《……悪かったな、オレで》
やはり有砂の声音は不機嫌そのものだ。
「いえ、そのようなつもりでは……ご気分を害されたのでしたら申し訳ございません」
《……別にええ。こっちはすでにこれ以上ないくらい気分最悪やからな……》
「あの……何か、あったのですか?」
日向子はおずおずと尋ねる。
下手な発言をすると有砂はそのまま無言で電話を切ってしまうのではないかと思った。
有砂はしばし間をおいて、溜め息を一つついて答えた。
《……蝉の奴が、出ていきよった》
「まあ、またですの? スノウ・ドームへお帰りになっておしまいですのね」
《いや……》
「携帯電話も置いて行ってしまわれたのですね。あちらは電波が入りにくいですから、必要ないのかもしれませんけれど……」
《……そやなくて》
「きっとすぐに戻られますわよ」
どうにか口を挟もうとしている有砂に気付かず、日向子は笑って告げた。
「もうすぐカウントダウンライブですもの……少なくともそれまでには必ずお帰りになりますでしょう?
heliodorが次のステップへ進むための、大切なイベントですものね」
《……それは》
「でも……」
日向子は携帯電話を握った指先にキュッと力を込める。
「……寂しい、ですね?
蝉様がいらっしゃらないと……」
《……》
有砂は少しの間、沈黙した。
そして、
《……まあ、少なくとも……》
吐息の混ざったかすれた声が呟く。
《……この部屋は……オレ一人には広すぎるな……》
「後継者の指名式は二週間後、12月24日に行うことになった」
「彼」は深く頭を下げた。
「……ありがとうございます。年内に……などと身勝手な申し出を致しまして、先生には大変なご迷惑を」
「私は構わんが、お前のほうは本当に大丈夫なのか?」
革張りの椅子の肘掛けに肘をつき、頭をもたげた姿勢で、高槻は斜めに「彼」を見上げた。
「彼」は頷き、応える。
「式で披露する曲はほとんど完成しておりますので、当日までには万全の状態に致します。ご心配には及びません」
「……その話ではない」
高槻は目をすがめる。
「……本当に、軽音楽には見切りがついたのか?」
「はい」
「彼」は顔色一つ変えず、完璧な無表情で即答した。
「全てほんの一時の、気の迷いでございましたので」
「……そうか。ならばよいが」
「……それでは私は、取り急ぎ披露曲の準備に入りますので失礼致します」
「彼」はまた深く頭を下げてから、くるりと書斎から廊下へ続くドアへと踵を返した。
「漸」
その背中に高槻がもう一つ問いを投げる。
「……眼鏡はもうかけなくていいのか?」
「彼」は上体だけを軽くひねって振り返る。
「はい。もう、必要がなくなりました」
そしてもう一度会釈程度に頭を下げて、「彼」高は槻の書斎を後にした。
広い廊下を歩き、エントランスに続く吹き抜けの階段に差し掛かったところで、
「漸様……いえ、これからは若旦那様とお呼びするべきですね」
階段を下から上にやってくるところだった、小柄で白髪まじりの頭の品の良さそうな初老の男が呼び止めてきた。
「小原……例の件はお嬢様にお伝えしたか?」
「いえ……それがまだでございまして……」
「何をしている」
淡々とした口調で言い放つ。
「私は朝のうちにお伝えしろと言った筈だが?」
「……しかし若旦那様、お嬢様はお迎えが若旦那様でなかったことに落胆しておられまして……追い討ちをかけるようなことを申し上げるなど……」
「小原」
「彼」は気持ち語気を強めて小原を見下ろしながら言った。
「これからも釘宮家で働くつもりなら、私の命令には間違いなく従ってもらう」
小原は一瞬唖然としたが、元々皺の多い顔に更に皺を寄せ、目を伏せた。
「……それは、心得ておりますが……あまりにもお嬢様がお気の毒です。
若旦那様の襲名式に併せてご婚約を発表などと……何故そのようなことを旦那様に進言なされたのですか?」
「お嬢様のご婚約は先生も切望しておられたこと。お相手は先生がお選びになるのだから、家柄も人格も申し分ない男性に相違ない」
「しかしっ、あのお嬢様がそれを『はい、そうですか』と受け入れる筈がありませんでしょう?」
おしめをしている頃からこの家の令嬢を見てきた小原にはそんなことはわかりきっていることだ。
もちろん、「彼」もわかっている。
「反発して、本格的に釘宮を出奔するならそれもよしということだ」
一片の感情すら覗くことのない「彼」の瞳は、雪の結晶のように冷たく澄んで、何の曇りも存在しない。
「……どちらに転んでも、釘宮日向子をこの家から排斥出来ればそれでいい」
語る言葉には、いささかの迷いも躊躇もない。
「……何故そのような、ことを……」
小原は悲しそうに頭を左右に振った。
「……お嬢様は、若旦那様を慕っておいでです。かようなお言葉をお聞きになったら、どれほどお嘆きになるか……」
悲痛なその訴えですら、もはや「彼」を揺らすことはない。
「……それがどうした?」
オレンジのウイッグを捨てた「彼」は「蝉」ではない。
眼鏡をかけなくなった「彼」は「雪乃」でもない。
「つつがなく釘宮の全てを手にしてしまえば、もはや彼女に取り入る理由はない……むしろ目障りだ」
「釘宮漸」なのだから。
《つづく》
その朝に日向子を迎えに来たのは、釘宮家の古株の使用人・小原(オハラ)だった。
小原はつい最近白の面積が黒の面積を追い抜いてしまった頭をかいて、言いにくそうに告げる。
「まことに急なことではございますが、本日より日向子お嬢様の送迎は私が任せられることとなりまして……」
「……雪乃に、何かあったのですか?」
「はい……とは、申しましても、けして悪いことではなく……むしろ喜ばしいことかとは思うのですが……」
「どうぞもったいぶらず、おっしゃって?」
日向子が先を促すと、小原は顔を引き締めて、改まった口調で答えた。
「昨夜、旦那様が漸様を釘宮家の正式な後継者にご指名されました」
《第8章 迷宮の果てで、もう一度 -release-》【1】
「雪乃が……釘宮の後継者……」
それは小原の言葉通りの、実に「喜ばしい」知らせだった。
雪乃は幼い頃から釘宮の後継者になるべく教育を受け、努力を重ねてきたのだ。
むしろ認められるのが、遅すぎたくらいだと日向子も思う。
だがあまりにも急な決定であった。
雪乃は年内にも公の場で正式な後継者としての襲名を行うこととなる。
年が明ければすぐに高槻の携わる事業や役職を順に引き継いでいかなければならないため、今は釘宮邸で各種手続きや最終的な打ち合わせに追われている筈だ。
もう日向子の世話にかける余裕はないし、またその必要もない。
後継者として世界中を飛び回って仕事をするようになれば、顔を合わせることすら年に数度ということになりかねない。
もう雪乃とゆっくり話をするチャンスはほとんどなくなってしまう。
心の準備のできていなかった日向子には、それは寂しすぎる現実だった。
デスクに向かい、昨日の紅朱と玄鳥への取材の件を原稿に起こそうとしても、キーボードの上に置かれた指はかろやかに動いてくれそうもなかった。
なんだか、身も心も重く感じる。
溜め息がもれる。
こんな時には決まって「どうしたの?」と声を掛けて相談に乗ってくれる美々も、今は不在だ。
まるで何かから逃れようとするかのように、前にも増して忙しく働く美々はデスクにいつかなくなっていた。
日向子はノートパソコンの傍らに置かれた携帯電話を見やった。
あんなにも頻繁にメールを送ってきていた万楼から、今日は一通も届いていない。
こちらから送ってみようかとも思ったが、もし練習に集中しているなら邪魔になってしまうかもしれない。
そう考えると出来なかった。
同じように結局話を聞けずじまいの有砂のことも気になるのだが、昨夜はだいぶ機嫌が悪そうだったので、もう少し待ってから連絡したほうがいいような気がしていた。
あまりにも筆が進まないので、日向子は原稿を書くのを諦めて、ノートパソコンを閉じる。
昨日の取材の後、ラーメン屋で食事していた際、紅朱と玄鳥は翌日も同じスタジオで二人で曲作りをすると話していた。
来たければ来てもいいとのことだったが、あまり毎日顔を出してもやりにくいのではないかと思い、遠慮してしまっていた。
そうなるとそこへ行くのも躊躇われる。
なんだか世界に一人取り残されたような孤独感を感じて、たまらなくやるせない。
ふと思う。
普段はなんとなく距離を置かれているような気がするけれど、辛くてたまらない時には、まるで全てを見透かしたようにいつも突然現れて、心を軽くしてくれる人のことを。
「そういえば蝉様は……どうしていらっしゃるのかしら?」
あの笑顔がなんだか恋しくなって、日向子は携帯電話を手に取った。
――……ちゃんと、見に来てくれとったんや……
――何ゆうてるの? 約束してんから当たり前やないの
――……ん、ああ……そう、やな。……で、どうやった?
――そらもう、めっちゃよかったで
――ホンマに……?
――お前はうちの自慢の子やな……有砂
――……有砂?
――ホンマにかっこよかったで、有砂
――……オレは、佳人やで? ……母さん
――佳、人……?
――……母さん……?
――うちには、佳人なんて子はいてへんよ
「……っ」
有砂は、無機質なデフォルト設定の着信音で目を覚ました。
今が何時なのか、いつの間に眠っていたのかもわからないが、ダイニングテーブルに突っ伏したまま夜を明かしたようだ。
目が覚めてからも有砂はしばらくそのままの姿勢でぼんやりしていた。
過去という名の夢の余韻に捕まってしまっていた。
すぐ近くでずっと、携帯電話が鳴っている。
有砂の携帯の音では、ない。
「……おい……鳴ってるで……」
半分覚醒しきっていない頭で、呼び掛ける。
「……やかましいから……はよ出ろ、アホ……」
万が一「間違えて」もいいように、全く同じ機種で全く同じ着信音に設定して、二つ使い分けている……この携帯の主。
「……蝉……?」
不意に、霞んでいた意識が覚醒する。
ゆっくりと身体を起こして、着信音の出所を探した。
すぐに判明する。それは、テーブルの脇のゴミ箱の中から響いていたのだ。
点滅するランプが、携帯を包み込むかのようかぶさったウイッグの毛束の隙間から、チカチカとオレンジ色の光を発する。
有砂はその光景を見つめて、思わず額に手を当てた。
そう。
蝉は携帯に出ることはできない。
ここにはもう、いないのだから。
「……蝉様でいらっしゃいますか? わたくしです。日向子ですわ」
長い長い呼び出しのコール音が途絶えた途端、日向子は思わず早口で告げていた。
しかし、返ってきた声は蝉のそれではなかった。
《……お嬢》
「まあ……有砂様」
《……悪かったな、オレで》
やはり有砂の声音は不機嫌そのものだ。
「いえ、そのようなつもりでは……ご気分を害されたのでしたら申し訳ございません」
《……別にええ。こっちはすでにこれ以上ないくらい気分最悪やからな……》
「あの……何か、あったのですか?」
日向子はおずおずと尋ねる。
下手な発言をすると有砂はそのまま無言で電話を切ってしまうのではないかと思った。
有砂はしばし間をおいて、溜め息を一つついて答えた。
《……蝉の奴が、出ていきよった》
「まあ、またですの? スノウ・ドームへお帰りになっておしまいですのね」
《いや……》
「携帯電話も置いて行ってしまわれたのですね。あちらは電波が入りにくいですから、必要ないのかもしれませんけれど……」
《……そやなくて》
「きっとすぐに戻られますわよ」
どうにか口を挟もうとしている有砂に気付かず、日向子は笑って告げた。
「もうすぐカウントダウンライブですもの……少なくともそれまでには必ずお帰りになりますでしょう?
heliodorが次のステップへ進むための、大切なイベントですものね」
《……それは》
「でも……」
日向子は携帯電話を握った指先にキュッと力を込める。
「……寂しい、ですね?
蝉様がいらっしゃらないと……」
《……》
有砂は少しの間、沈黙した。
そして、
《……まあ、少なくとも……》
吐息の混ざったかすれた声が呟く。
《……この部屋は……オレ一人には広すぎるな……》
「後継者の指名式は二週間後、12月24日に行うことになった」
「彼」は深く頭を下げた。
「……ありがとうございます。年内に……などと身勝手な申し出を致しまして、先生には大変なご迷惑を」
「私は構わんが、お前のほうは本当に大丈夫なのか?」
革張りの椅子の肘掛けに肘をつき、頭をもたげた姿勢で、高槻は斜めに「彼」を見上げた。
「彼」は頷き、応える。
「式で披露する曲はほとんど完成しておりますので、当日までには万全の状態に致します。ご心配には及びません」
「……その話ではない」
高槻は目をすがめる。
「……本当に、軽音楽には見切りがついたのか?」
「はい」
「彼」は顔色一つ変えず、完璧な無表情で即答した。
「全てほんの一時の、気の迷いでございましたので」
「……そうか。ならばよいが」
「……それでは私は、取り急ぎ披露曲の準備に入りますので失礼致します」
「彼」はまた深く頭を下げてから、くるりと書斎から廊下へ続くドアへと踵を返した。
「漸」
その背中に高槻がもう一つ問いを投げる。
「……眼鏡はもうかけなくていいのか?」
「彼」は上体だけを軽くひねって振り返る。
「はい。もう、必要がなくなりました」
そしてもう一度会釈程度に頭を下げて、「彼」高は槻の書斎を後にした。
広い廊下を歩き、エントランスに続く吹き抜けの階段に差し掛かったところで、
「漸様……いえ、これからは若旦那様とお呼びするべきですね」
階段を下から上にやってくるところだった、小柄で白髪まじりの頭の品の良さそうな初老の男が呼び止めてきた。
「小原……例の件はお嬢様にお伝えしたか?」
「いえ……それがまだでございまして……」
「何をしている」
淡々とした口調で言い放つ。
「私は朝のうちにお伝えしろと言った筈だが?」
「……しかし若旦那様、お嬢様はお迎えが若旦那様でなかったことに落胆しておられまして……追い討ちをかけるようなことを申し上げるなど……」
「小原」
「彼」は気持ち語気を強めて小原を見下ろしながら言った。
「これからも釘宮家で働くつもりなら、私の命令には間違いなく従ってもらう」
小原は一瞬唖然としたが、元々皺の多い顔に更に皺を寄せ、目を伏せた。
「……それは、心得ておりますが……あまりにもお嬢様がお気の毒です。
若旦那様の襲名式に併せてご婚約を発表などと……何故そのようなことを旦那様に進言なされたのですか?」
「お嬢様のご婚約は先生も切望しておられたこと。お相手は先生がお選びになるのだから、家柄も人格も申し分ない男性に相違ない」
「しかしっ、あのお嬢様がそれを『はい、そうですか』と受け入れる筈がありませんでしょう?」
おしめをしている頃からこの家の令嬢を見てきた小原にはそんなことはわかりきっていることだ。
もちろん、「彼」もわかっている。
「反発して、本格的に釘宮を出奔するならそれもよしということだ」
一片の感情すら覗くことのない「彼」の瞳は、雪の結晶のように冷たく澄んで、何の曇りも存在しない。
「……どちらに転んでも、釘宮日向子をこの家から排斥出来ればそれでいい」
語る言葉には、いささかの迷いも躊躇もない。
「……何故そのような、ことを……」
小原は悲しそうに頭を左右に振った。
「……お嬢様は、若旦那様を慕っておいでです。かようなお言葉をお聞きになったら、どれほどお嘆きになるか……」
悲痛なその訴えですら、もはや「彼」を揺らすことはない。
「……それがどうした?」
オレンジのウイッグを捨てた「彼」は「蝉」ではない。
眼鏡をかけなくなった「彼」は「雪乃」でもない。
「つつがなく釘宮の全てを手にしてしまえば、もはや彼女に取り入る理由はない……むしろ目障りだ」
「釘宮漸」なのだから。
《つづく》
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2007/08/18 (Sat)
新作乙女ゲーム
どうやら「DEAR My SUN!!」って一応恋愛要素もあるらしいわ。
まあ、それがメインのゲームじゃないから、おまけ的な感じなんじゃないかとは思うんだけど。
ヒロインの協力者である、大工さんやら警察官やらと恋愛モードがあるらしい。
まあ、誰にも責められる筋合いはないけど、それって一応やっぱ不倫になるんですか?? 汗。
失踪して半年経ったら離婚手続きは出来るんだっけ??
このゲームの場合10年以上旦那が帰って来ないんだから、現実的に考えて再婚はまあ、ありだとは思う。
でも私は古いタイプの人間なんで、そういうの、ちょっと不義理な感じがしちゃうのよね。
まあこどもたちがそれでいいって言うなら、いいんだけどさあ。
それで経済的に安定したら、旦那の実家に預けた子め引き取れるもんね。
ただ、他のキャラはともかく神楽はどうなんだ……引きこもりのネットゲーマーと再婚して本当にいいのか? 爆。
それともちょっといい雰囲気になるけど、旦那が帰って来たらモトサヤとか……?
それは不倫より嫌だな。笑。
そしてMELODYとポンちゃんがオトせるのかが気になる……あと義弟(旦那の弟)オトしたいんだけどダメっすか!?(めっちゃ不義理やん)
まあ、それがメインのゲームじゃないから、おまけ的な感じなんじゃないかとは思うんだけど。
ヒロインの協力者である、大工さんやら警察官やらと恋愛モードがあるらしい。
まあ、誰にも責められる筋合いはないけど、それって一応やっぱ不倫になるんですか?? 汗。
失踪して半年経ったら離婚手続きは出来るんだっけ??
このゲームの場合10年以上旦那が帰って来ないんだから、現実的に考えて再婚はまあ、ありだとは思う。
でも私は古いタイプの人間なんで、そういうの、ちょっと不義理な感じがしちゃうのよね。
まあこどもたちがそれでいいって言うなら、いいんだけどさあ。
それで経済的に安定したら、旦那の実家に預けた子め引き取れるもんね。
ただ、他のキャラはともかく神楽はどうなんだ……引きこもりのネットゲーマーと再婚して本当にいいのか? 爆。
それともちょっといい雰囲気になるけど、旦那が帰って来たらモトサヤとか……?
それは不倫より嫌だな。笑。
そしてMELODYとポンちゃんがオトせるのかが気になる……あと義弟(旦那の弟)オトしたいんだけどダメっすか!?(めっちゃ不義理やん)
2007/08/17 (Fri)
新作乙女ゲーム
ムスコ育成シミュレーション「DEAR My SUN!!~ムスコ★育成★狂騒曲(カプリッチョ)~」が。
D3Pの乙女ゲームブランド「トゥインクルデート」では初めて非恋愛モノということで、スルー確定かと思ってたんだけどね。
開発がヒューネックスでVitamin Xと一緒んとこで、今回もOPムービーがすごく好きなのよね。
Vitamin Xのダサカッコいい路線とはまたひと味違って、とにかく可愛い~って感じ。
双子が歌ってる主題歌も好きです。V6っぽいと思う。笑。
そして限定版ジャケットのママのほっぺに両サイドからチューしてる双子が超可愛くて、購買意欲をそそられる。
ストーリーはだいたいこんな感じ↓
普通の女子大生のヒロインが、変わり者考古学の教授と恋に落ちる。
が、教授はなにげにいいとこのボンボンだったため、結婚を猛反対される。
そんな矢先にヒロインが妊娠したため、二人は駆け落ち、結婚。双子の男子を出産する。
しかし旦那がある日突然遺跡を調査するために旅に出てしまい、音信不通に。
ヒロインは気丈に女手1つで子供を育てて旦那の帰りを待つことを決意するも、経済的に余裕がないため、双子のうちどちらかを旦那の実家に預けなくてはならなくなってしまう。
旦那は帰らない、可愛い我が子と離れ離れ……そんな状況を乗り越えて、ヒロインは立派に子育てすることができるか??
……って感じなので、いきなり冒頭から双子の雷斗(ママ似)、風斗(パパ似)のどっちかを選ばなきゃならんのですよ。
あの限定版ジャケイラ見せておいてどっちか選べと!?
なんてシビアなんだ……。汗。
まあベストエンディングになればまた四人で暮らせるんだろうけどね。
選んだほうの子を18歳まで育てるんだけど、嫌味な金持ち一家が絡んできたり、近所のお兄さんたちが力貸してくれたり、旦那の実家と揉めたりなんなりと、6chの昼ドラみたいなシナリオが展開される模様。笑。
似たような設定で8chの昼ドラみたいになっちゃったのがうちの小説の双子ですがね。爆。
育て方によって中学生以降の息子の性格が、3タイプに分岐するんだが、何故かタイプごとに声まで変わるらしい。どういうこっちゃ。笑。
雷斗は、熱血・真面目・クール。
風斗は、優しい・甘え・爽やか。
私の本命は(ムスコ相手に本命て……)伊藤健太郎さん演じるクール雷斗。
一見クールなのに本当はママ大好き。不器用ながら一生懸命ママを守ってくれるわけですよ。萌……。
主題歌歌ってるのは、確か熱血雷斗と爽やか風斗だったと思う。
しかし、パパはとんでもない人だよなあ。
ガキ二人もこさえといて、旅に出て行方不明って。
デキ婚自体をを批判すると、自分を否定することになりかねないが(笑)、まあ、困った大人ですわ。
そういえばVitamin XのT6のキャラソンもとうとう出るのよね。
タイトルからして超気になるのは二階堂先生の「仙人掌哀歌(サボテンエレジー)」です。笑。
サボテン=自分、みたいなことなんだろうなあ。
D3Pの乙女ゲームブランド「トゥインクルデート」では初めて非恋愛モノということで、スルー確定かと思ってたんだけどね。
開発がヒューネックスでVitamin Xと一緒んとこで、今回もOPムービーがすごく好きなのよね。
Vitamin Xのダサカッコいい路線とはまたひと味違って、とにかく可愛い~って感じ。
双子が歌ってる主題歌も好きです。V6っぽいと思う。笑。
そして限定版ジャケットのママのほっぺに両サイドからチューしてる双子が超可愛くて、購買意欲をそそられる。
ストーリーはだいたいこんな感じ↓
普通の女子大生のヒロインが、変わり者考古学の教授と恋に落ちる。
が、教授はなにげにいいとこのボンボンだったため、結婚を猛反対される。
そんな矢先にヒロインが妊娠したため、二人は駆け落ち、結婚。双子の男子を出産する。
しかし旦那がある日突然遺跡を調査するために旅に出てしまい、音信不通に。
ヒロインは気丈に女手1つで子供を育てて旦那の帰りを待つことを決意するも、経済的に余裕がないため、双子のうちどちらかを旦那の実家に預けなくてはならなくなってしまう。
旦那は帰らない、可愛い我が子と離れ離れ……そんな状況を乗り越えて、ヒロインは立派に子育てすることができるか??
……って感じなので、いきなり冒頭から双子の雷斗(ママ似)、風斗(パパ似)のどっちかを選ばなきゃならんのですよ。
あの限定版ジャケイラ見せておいてどっちか選べと!?
なんてシビアなんだ……。汗。
まあベストエンディングになればまた四人で暮らせるんだろうけどね。
選んだほうの子を18歳まで育てるんだけど、嫌味な金持ち一家が絡んできたり、近所のお兄さんたちが力貸してくれたり、旦那の実家と揉めたりなんなりと、6chの昼ドラみたいなシナリオが展開される模様。笑。
似たような設定で8chの昼ドラみたいになっちゃったのがうちの小説の双子ですがね。爆。
育て方によって中学生以降の息子の性格が、3タイプに分岐するんだが、何故かタイプごとに声まで変わるらしい。どういうこっちゃ。笑。
雷斗は、熱血・真面目・クール。
風斗は、優しい・甘え・爽やか。
私の本命は(ムスコ相手に本命て……)伊藤健太郎さん演じるクール雷斗。
一見クールなのに本当はママ大好き。不器用ながら一生懸命ママを守ってくれるわけですよ。萌……。
主題歌歌ってるのは、確か熱血雷斗と爽やか風斗だったと思う。
しかし、パパはとんでもない人だよなあ。
ガキ二人もこさえといて、旅に出て行方不明って。
デキ婚自体をを批判すると、自分を否定することになりかねないが(笑)、まあ、困った大人ですわ。
そういえばVitamin XのT6のキャラソンもとうとう出るのよね。
タイトルからして超気になるのは二階堂先生の「仙人掌哀歌(サボテンエレジー)」です。笑。
サボテン=自分、みたいなことなんだろうなあ。
2007/08/17 (Fri)
一次創作関連
「太陽の国」を読んでなくても読んだ気になれるストーリーダイジェスト
各章を800字程度でまとめています。
最初から読むのが面倒なご新規さんはもちろん、常連さんもざっくり内容を思い出すのにご利用下さい。
各章を800字程度でまとめています。
最初から読むのが面倒なご新規さんはもちろん、常連さんもざっくり内容を思い出すのにご利用下さい。
2007/08/16 (Thu)
Janne Da Arc周辺
買ってきたどー。
今聞いてるけど、やっぱりka-yuが唄ってるってのが……不思議だ。汗。
歌詞カード見辛いよね。歌詞カード見れても全英語詞だからわかんないけどさ。笑。
昔、少女革命ウテナの関連CDで歌詞カードが黒い紙に黒いインクっていうのがあって、光で透かしながら必死に読んだのを思い出すな。
不親切過ぎて逆に面白かったよ。
とりあえずもう、ka-yuの半裸バックショットはちょっとすさまじ過ぎるよね。だってもう隙間がないよ? 泣。
どんだけ増やしたら気が済むんだろう……この人。
肝心の曲のほうは、当たり前だけどバリバリka-yu曲っスわ。直球、直球。
もともとジャンヌの中で一番正統派な人だと思うんだけど、まさにそういう感じがした。
かっこいいんだけど、6曲全部ka-yu曲なんでちょっとね、たまに変な曲が聞きたくなるのがジャンナーの性かしら。kiyo曲が恋しい。笑。
ああ、流しっぱなしにしとくとおまけにベースソロが入ってるのか。ちょっとびっくりした。笑笑。
PVも非常にかっこいい。かっこいいが……案外ka-yuも一人だと華がないもんだな。
ka-yuは主役ばりに目立つけど、主役にはなれない気がする。笑。
狙ってシンプルにしてるせいもあるんだろうけどね。
ちなみにPVが2パターン入ってるのけど、私は2のほうがライブ映像的に仕上げてあって好き。
まあでもka-yuソロツアーは見送りかなあ……youちゃんもなあ……。
この秋は行くとしたらシドかも。やっぱシドは一回行っときたいわ。
今聞いてるけど、やっぱりka-yuが唄ってるってのが……不思議だ。汗。
歌詞カード見辛いよね。歌詞カード見れても全英語詞だからわかんないけどさ。笑。
昔、少女革命ウテナの関連CDで歌詞カードが黒い紙に黒いインクっていうのがあって、光で透かしながら必死に読んだのを思い出すな。
不親切過ぎて逆に面白かったよ。
とりあえずもう、ka-yuの半裸バックショットはちょっとすさまじ過ぎるよね。だってもう隙間がないよ? 泣。
どんだけ増やしたら気が済むんだろう……この人。
肝心の曲のほうは、当たり前だけどバリバリka-yu曲っスわ。直球、直球。
もともとジャンヌの中で一番正統派な人だと思うんだけど、まさにそういう感じがした。
かっこいいんだけど、6曲全部ka-yu曲なんでちょっとね、たまに変な曲が聞きたくなるのがジャンナーの性かしら。kiyo曲が恋しい。笑。
ああ、流しっぱなしにしとくとおまけにベースソロが入ってるのか。ちょっとびっくりした。笑笑。
PVも非常にかっこいい。かっこいいが……案外ka-yuも一人だと華がないもんだな。
ka-yuは主役ばりに目立つけど、主役にはなれない気がする。笑。
狙ってシンプルにしてるせいもあるんだろうけどね。
ちなみにPVが2パターン入ってるのけど、私は2のほうがライブ映像的に仕上げてあって好き。
まあでもka-yuソロツアーは見送りかなあ……youちゃんもなあ……。
この秋は行くとしたらシドかも。やっぱシドは一回行っときたいわ。
2007/08/15 (Wed)
一次創作関連
第7章終了~。
今回は今までになく悩みまくって、かなり苦労して書いたのですが、いかがだったでしょうか。
6章までは一人のキャラクターをメインにして書けばよかっただけだったんだけど、7章からほとんど群像劇に近い形になっていて、同時多発的に事件が起きるのでね。
特にこの7章は顕著なんで、偏らないように、わかりにくくならないように、最低でも1シーンは各メンバーが日向子と絡むようにとか……。
パズルゲームのようだ。汗。
ぶっちゃけ自制しないと有砂の出番が勝手に増えてしまうんです。爆。
【1】は、ここだけ見るとどうでもよさそうな万楼の「ジェラシー」発言が肝だったり。
座る位置とかって考えちゃいません?
私はああやって三人で四人がけの椅子に座る時はなるべく先に座ります。
うっかり三人目になっちゃうとどっち座っていいか悩むんだよね~。
私だけか??
有砂が作者の趣味に走ったコスプレ(笑)をさせられているけれど、きまぐれストロベリーカフェしかり、Vitamin Xしかり、ソムリエエプロンは乙女の必殺アイテムですなあ。
カフェエプロンでもギャルソンエプロンでもなく、ソムリエエプロンで!!(落ち着け、マニア)
【2】は久々に劇中詞登場。
「Melting Snow」はここから3話に跨って鍵となる曲。
浅川兄弟が生まれたのは雪国新潟で、粋と紅朱が出会ってheliodorが誕生したのも初雪の夜、蝉と有砂が出会ったのは「スノウ・ドーム」、蝉には「雪乃」という名前もある……色々な部分に引っ掛けてのタイトルであり、詞となっております。
【3】、万楼の回想第1弾。
そして紅朱と日向子がちょっとイチャイチャしてますが、相変わらず甘い雰囲気にはならないのよね~。
【4】で蝉が作中にて二回目の家出。笑。
今回はガチ家出です。
この章の蝉は独りでひたすら悩んでるんでかなり痛々しい感じ。
そしてこっからますます痛々しいことになります……。
玄鳥は別な意味で痛々しいと思うけとね。
【5】、万楼の回想第2弾。
やっぱり万楼のほうがはるかに玄鳥よりは大人だったみたいですな。笑。
そして名前だけは出てきていた有砂パパが登場。
最初はもうちょっと病的な雰囲気の人にしようかと思ったんだけど、花宵ロマネスクの宝生紫陽と被っても面白くないので、結構テンションの高いおじさまに。
この人はなにげに後々重要な役割を果たすことになります……。
そして作者は密かに、萌えています。笑。
第8章では、2つの事象が終局に向かいますが、また別な問題が浮上か……?
ご意見ご感想、随時お待ちしてますので、今後ともよろしくお願い致します。
今回は今までになく悩みまくって、かなり苦労して書いたのですが、いかがだったでしょうか。
6章までは一人のキャラクターをメインにして書けばよかっただけだったんだけど、7章からほとんど群像劇に近い形になっていて、同時多発的に事件が起きるのでね。
特にこの7章は顕著なんで、偏らないように、わかりにくくならないように、最低でも1シーンは各メンバーが日向子と絡むようにとか……。
パズルゲームのようだ。汗。
ぶっちゃけ自制しないと有砂の出番が勝手に増えてしまうんです。爆。
【1】は、ここだけ見るとどうでもよさそうな万楼の「ジェラシー」発言が肝だったり。
座る位置とかって考えちゃいません?
私はああやって三人で四人がけの椅子に座る時はなるべく先に座ります。
うっかり三人目になっちゃうとどっち座っていいか悩むんだよね~。
私だけか??
有砂が作者の趣味に走ったコスプレ(笑)をさせられているけれど、きまぐれストロベリーカフェしかり、Vitamin Xしかり、ソムリエエプロンは乙女の必殺アイテムですなあ。
カフェエプロンでもギャルソンエプロンでもなく、ソムリエエプロンで!!(落ち着け、マニア)
【2】は久々に劇中詞登場。
「Melting Snow」はここから3話に跨って鍵となる曲。
浅川兄弟が生まれたのは雪国新潟で、粋と紅朱が出会ってheliodorが誕生したのも初雪の夜、蝉と有砂が出会ったのは「スノウ・ドーム」、蝉には「雪乃」という名前もある……色々な部分に引っ掛けてのタイトルであり、詞となっております。
【3】、万楼の回想第1弾。
そして紅朱と日向子がちょっとイチャイチャしてますが、相変わらず甘い雰囲気にはならないのよね~。
【4】で蝉が作中にて二回目の家出。笑。
今回はガチ家出です。
この章の蝉は独りでひたすら悩んでるんでかなり痛々しい感じ。
そしてこっからますます痛々しいことになります……。
玄鳥は別な意味で痛々しいと思うけとね。
【5】、万楼の回想第2弾。
やっぱり万楼のほうがはるかに玄鳥よりは大人だったみたいですな。笑。
そして名前だけは出てきていた有砂パパが登場。
最初はもうちょっと病的な雰囲気の人にしようかと思ったんだけど、花宵ロマネスクの宝生紫陽と被っても面白くないので、結構テンションの高いおじさまに。
この人はなにげに後々重要な役割を果たすことになります……。
そして作者は密かに、萌えています。笑。
第8章では、2つの事象が終局に向かいますが、また別な問題が浮上か……?
ご意見ご感想、随時お待ちしてますので、今後ともよろしくお願い致します。
2007/08/15 (Wed)
一次創作関連
「どうしても、行くの?」
「ああ」
あまりにもあっさりとした返事。
「だけど万楼がいなくなったら、ボクはまた独りぼっちになるよ」
「男の癖に情けない顔をするな……響平」
犬や猫を撫でつけるようにがしがしと頭を撫でてくる。
「お前は東京へ行け。heliodorはきっと、お前を必要とする筈だ」
「heliodorなんか……嫌いだよ」
ふつふつ、と自分の内側から見覚えのない感情が沸き上がってくる。
「万楼がこの街を去るのも、heliodorの為でしょう?」
「違うな……私自身の為だ」
「じゃあ、万楼にとって……heliodorは、過去?」
つきつけた問いに、彼女は黙ったままどこか悲しそうに笑う。
「側にいても……万楼の心はいつも遠くにある……ボクを、見てくれてない」
「響平、私は」
もうたくさんだ。
無我夢中ですがるように、細く締まった腰を抱き締めた。
「……どうしても行くなら、最後に抱かせてよ。
今夜だけ、ボクのものになって」
《第7章 秒読みを始めた世界 -knotty-》【5】
「……今の……何?」
両腕にリアルに蘇ってくる感触。
その光景は、ただの白昼夢ではないと、全身の感覚が訴えている。
ベースを抱えたまま、万楼は呆然としていた。
「……ボクは……?」
照明を落とした薄暗い部屋の中で、「Melting snow」のせつないメロディだけがエンドレスで流れていた。
「日向子の奴、なんか急いでたな」
「……うん」
「有砂からの電話となんか関係あんのかな……」
「……」
ラーメン屋を出てすぐに日向子と別れた浅川兄弟は、スタジオの駐車場へと向かっていた。
「……兄貴」
突然玄鳥が立ち止まった。
「なんだ?」
紅朱もまた、立ち止まる。
そしてようやく自分を見つめる玄鳥の瞳に宿る思い詰めたような感情を察した。
「……綾?」
玄鳥は紅朱を睨むようにして口を開いた。
「兄貴は日向子さんをどう思ってる?」
「どう……って、いい奴だと思ってるぞ?」
「女性としてどう思うかって聞いてるんだよ」
「あ? 女性として? なんだよ、それ」
玄鳥はじれったそうに語気を荒げる。
「彼女を恋愛対象として見てるかってことだよ!」
紅朱はあまりの勢いに不覚にも圧倒されていた。
即答しない兄に痺れをきらしたように、玄鳥はついに言い放った。
「俺は、日向子さんが好きだよ……初めて彼女の手に触れた……あの瞬間から、ずっと、ずっとバカみたいに恋焦がれて……彼女だけを見てきたんだ」
往来で大声で口にするには、通常ちょっとためらわれるような台詞を真剣に口にしながら、玄鳥は一歩踏み込み、唖然としている紅朱の両肩をぐっと掴んだ。
「兄貴はどうなんだよ!? そういうつもりじゃないんだったら、頼むから俺の邪魔をしないでくれ」
「邪魔……って……」
肩に食い込む指の力の強さに、紅朱は玄鳥がいかに本気かを文字通り痛いほど思い知らされていた。
「悪ィ……全然、知らなかった。お前……日向子に、惚れてたんだな」
自分で告白したことだというのに、玄鳥は微かに顔を赤らめてうつむき、紅朱から手を引いた。
「……うん」
紅朱はしばしそんな玄鳥を見つめていたが、ややあって小さく溜め息をついた。
「……いいんじゃないか」
「え?」
顔を上げた玄鳥に、苦笑して見せる。
「お前はしっかりし過ぎてっから、案外日向子みたいに抜けてる奴が合うかもしれねェな」
「……兄貴……」
驚きで玄鳥の瞳がまんまるになる。
「応援してくれるのか? 俺のこと……」
「バカ……当たり前だろうが、俺はお前の兄貴だぞ」
瞬間、玄鳥は感激と安堵がミックスされた半分泣きそうな笑顔で、
「……兄貴っ!!」
「うあっ」
いきなり紅朱を思いきり抱き締めてきた。
「ありがとう! 兄貴っ!!」
「なっ、離せバカ野郎! 見られまくってんだろうが!!」
あまつさえ玄鳥の腕にちょうどよくすっぽり収まってしまう自分の体型を疎みながら、紅朱は必死に逃れ出た。
「……ったく、大袈裟なんだよ、お前は」
「ごめん……けど、俺はもしかして兄貴も日向子さんのこと気になってたらどうしようかって思ってたからさ……」
「……あのなぁ、んなこと……」
ふと。
紅朱の頭の中に、日向子が現れる。
微笑んだ日向子。
涙を浮かべた日向子。
すねた顔。
恥じらう顔。
鳥のさえずるような澄んだ声。
触れた時の髪や肌の柔らかさ。
真っ直ぐに見つめてくる大きな瞳。
「……あるわけ、ねェだろ」
そうだ。
意識したことなどなかった。
これまでは一度も。
そしてこれからも……?
正体のはっきりしないもやもやを胸の真ん中に感じながらも、紅朱は玄鳥に笑ってみせる。
「あ、そういや心配すんなよ。このことは他の奴らにはちゃんと黙っててやるからな」
「あの……すごく言いにくいんだけどさ。知らなかったのって……兄貴だけだよ?」
「あ?」
日向子は有砂を待っていた。
電話で、バイトが終わり次第そのまま真っ直ぐ迎えに来るから適当に時間を潰しているようにと言われていたので、12月を彩るイルミネーションを眺めながら、ふらふらと意味もなく街をぶらつく。
有砂のほうから連絡をしてくること自体が珍しく、しかもその内容が「話したいことがあるから付き合ってほしい」……だ。
声音が少し弱々しく聞こえたのは、バイト疲れのせいだけだったのか。
何かあったのだろうか。日向子は不安を感じていた。
「有砂様……」
名前を呟いた瞬間、日向子のすぐ横でふいに停車した車があった。
「有砂様?」
振り返ったがそれは有砂の車ではなかった。
艶やかなボディの薔薇色のフェラーリ。
「……やっぱり、水無子に似てる」
わずかに開いたウインドウから声が聞こえた。
男性の声だ。
「水無子……?」
日向子はその名を聞き留めて、目をしばたかせた。
「わたくしの母が水無子ですけれど……」
「母っ? ほんならキミ、水無子の娘なん? えっ、ホンマに!?」
早口の関西弁がまくし立てたかと思うと、少々乱暴に運転席側のドアが開け放たれた。
「そら生き写しも無理ないか、高槻センセーの遺伝子は一体どこいってもたんやー?」
車から降りたのは、黒いロングコートを着た、背の高い、一見年齢不祥な男性だった。
雰囲気から恐らく日向子より10以上は年上であろうとは思われたが。
だがそれよりも、日向子は彼の着ているコートのほうに気をとられていた。
よく覚えている。
別れ際に、伯爵がまとっていたあのコートと全く同じデザインだ。
「あの……どなた様ですか?」
男性は、日向子を見下ろして楽しそうに笑う。
「僕なー、キミのママの昔の彼氏やねん」
「えっ?」
「ああ、ええね。その驚いた顔とかホンマそっくりやわ」
遠慮もなく伸ばされた左手のいくつものシルバーで飾られた五指が、日向子の右頬に触れる。
「実に、そそるね」
ダンッ、と突然鈍い音が辺りに響いた。
日向子と男性は同時に振り返り、
「まあ……っ」
「なぁっ……!!」
同時に叫び、顔色を変えた。
「ちょっ、オマエはなんちゅーことをっ、先月納車したばっかやねんぞ!?」
「……あんたこそ年甲斐もなく恥さらしな真似せんといてくれへんか?」
有砂だった。
日向子には先刻から展開があまりに急過ぎて、何が起きているのか整理しきれなかったが、どうやら先刻の音は、有砂がフェラーリのバンパーを蹴り上げた音だったようだ。
「お嬢」
「は、はい」
「危ないからこっち来とき」
「はあ……」
日向子はよくわからないまま、ひょこひょこと有砂の側に寄っていった。
「なんや、キミは佳人のタレやったん?」
「たれ?? あの、有砂様のお知り合いですか?」
有砂は不機嫌そうに舌打ちした。
「いや、思いっきり赤の他人や。ほっといて行くで、お嬢」
日向子の手首を掴んでとっとと歩き出そうとする有砂だったが、
「こーら、パパにそんな口聞いたらあかんやろ? 誰のおかげでそんな大きなった思てんねや」
「……パパ?」
「少なくともあんたのおかげやないやろ、クソ親父」
「おや、じ……?」
日向子は目を見開いて、有砂と男性を見比べた。
そうだ。
コートにばかり気を取られていたが、よく見れば男性のルックスは、ほとんど有砂の「未来予想図」のようだ。
「あの……あなたが、沢城秀人さん……?」
男性は微笑む。
「うん、そうやで♪ ちなみにキミの名前は?」
「あの……日向子、です」
「日向子か。カワイイ名前やんか~、キミにぴったりやん」
軽い口調で評しながら、
「はい、あげる」
差し出してきたのは名刺だった。
「僕のアトリエの住所、書いてあるからいつでも遊びに来てくれてええよ♪」
「はあ……」
「アホか、受け取らんでええって」
有砂はイライラした様子で日向子の手首を引っ張る。
「ほら、行くで」
「あっ……はい」
引きずられるようにして有砂に連行されながらも、日向子は少しだけ後ろを振り返った。
秀人は微笑を浮かべたままヒラヒラと手を振っていた。
日向子は軽く会釈だけを返して有砂に視線をスライドさせた。
静かな怒りをたぎらせている様子だ。
声をかけるのをためらってしまう。
日向子は受け取った名刺をとりあえずコートのポケットにしまいこんだ。
あの人が沢城秀人。
有砂や、美々や、菊人の実の父親。
「……驚いたやろ?」
有砂が口を開いた。
「……あれでもそこそこええ年やねんで。半世紀近く生きてもあんな調子や……昔からちっとも変わらへん。恥ずかしい奴や……」
日向子には秀人が見た目より遥かに年齢を重ねていることよりも、秀人が話に聞いてイメージしていたほど悪い人に見えなかったことのほうが意外だった。
だがけして、良い人に見えたというわけではない。
感じたのは、善悪の境界の曖昧な、子供のような危うさだ。
確かにあの人は、危険な人なのだろうと日向子は感じていた。
「お嬢」
「はい」
「間違ってもあのクソ親父と二人っきりで会ったりしたらあかんからな」
「はい、あの……有砂様、ところで今日は何を」
「今日はもうええ……気ィ削がれたから、ジブンをマンションまで送ったら帰るわ」
「……そう、ですか」
とても残念なことだ。
だが、今日は、ということは日を改めてまた話してくれるということだ。
日向子は頷いた。
「わかりました。またいつでもお話し下さいね?」
今一番会いたくない男と遭遇してしまったことにより、バイトの疲労感が一気に10倍に膨れ上がったようで、身も心も重く感じながら有砂は帰宅した。
いい加減深い時間となっていたが、蝉のバイクがないようだった。
蝉が釘宮やスノウ・ドームの事情で遅くなることはよくあるが、いつも必ず帰宅連絡をよこしてくる。
何か、引っ掛かるものを感じた。
そしてそれが杞憂ではないことを、有砂はダイニングルームで、知った。
顔に似合わず達者な文字で記されたあまりにも短い、伝言。
「……あのアホ……」
有砂は奥歯を噛んで、ぐしゃっ、とメモ握り潰した。
『よっちんへ
今までありがとう
おれはやっぱり
釘宮漸、として
生きていくことにします
勝手でごめん
heliodorと
あの娘をよろしくね』
《第8章へつづく》
「ああ」
あまりにもあっさりとした返事。
「だけど万楼がいなくなったら、ボクはまた独りぼっちになるよ」
「男の癖に情けない顔をするな……響平」
犬や猫を撫でつけるようにがしがしと頭を撫でてくる。
「お前は東京へ行け。heliodorはきっと、お前を必要とする筈だ」
「heliodorなんか……嫌いだよ」
ふつふつ、と自分の内側から見覚えのない感情が沸き上がってくる。
「万楼がこの街を去るのも、heliodorの為でしょう?」
「違うな……私自身の為だ」
「じゃあ、万楼にとって……heliodorは、過去?」
つきつけた問いに、彼女は黙ったままどこか悲しそうに笑う。
「側にいても……万楼の心はいつも遠くにある……ボクを、見てくれてない」
「響平、私は」
もうたくさんだ。
無我夢中ですがるように、細く締まった腰を抱き締めた。
「……どうしても行くなら、最後に抱かせてよ。
今夜だけ、ボクのものになって」
《第7章 秒読みを始めた世界 -knotty-》【5】
「……今の……何?」
両腕にリアルに蘇ってくる感触。
その光景は、ただの白昼夢ではないと、全身の感覚が訴えている。
ベースを抱えたまま、万楼は呆然としていた。
「……ボクは……?」
照明を落とした薄暗い部屋の中で、「Melting snow」のせつないメロディだけがエンドレスで流れていた。
「日向子の奴、なんか急いでたな」
「……うん」
「有砂からの電話となんか関係あんのかな……」
「……」
ラーメン屋を出てすぐに日向子と別れた浅川兄弟は、スタジオの駐車場へと向かっていた。
「……兄貴」
突然玄鳥が立ち止まった。
「なんだ?」
紅朱もまた、立ち止まる。
そしてようやく自分を見つめる玄鳥の瞳に宿る思い詰めたような感情を察した。
「……綾?」
玄鳥は紅朱を睨むようにして口を開いた。
「兄貴は日向子さんをどう思ってる?」
「どう……って、いい奴だと思ってるぞ?」
「女性としてどう思うかって聞いてるんだよ」
「あ? 女性として? なんだよ、それ」
玄鳥はじれったそうに語気を荒げる。
「彼女を恋愛対象として見てるかってことだよ!」
紅朱はあまりの勢いに不覚にも圧倒されていた。
即答しない兄に痺れをきらしたように、玄鳥はついに言い放った。
「俺は、日向子さんが好きだよ……初めて彼女の手に触れた……あの瞬間から、ずっと、ずっとバカみたいに恋焦がれて……彼女だけを見てきたんだ」
往来で大声で口にするには、通常ちょっとためらわれるような台詞を真剣に口にしながら、玄鳥は一歩踏み込み、唖然としている紅朱の両肩をぐっと掴んだ。
「兄貴はどうなんだよ!? そういうつもりじゃないんだったら、頼むから俺の邪魔をしないでくれ」
「邪魔……って……」
肩に食い込む指の力の強さに、紅朱は玄鳥がいかに本気かを文字通り痛いほど思い知らされていた。
「悪ィ……全然、知らなかった。お前……日向子に、惚れてたんだな」
自分で告白したことだというのに、玄鳥は微かに顔を赤らめてうつむき、紅朱から手を引いた。
「……うん」
紅朱はしばしそんな玄鳥を見つめていたが、ややあって小さく溜め息をついた。
「……いいんじゃないか」
「え?」
顔を上げた玄鳥に、苦笑して見せる。
「お前はしっかりし過ぎてっから、案外日向子みたいに抜けてる奴が合うかもしれねェな」
「……兄貴……」
驚きで玄鳥の瞳がまんまるになる。
「応援してくれるのか? 俺のこと……」
「バカ……当たり前だろうが、俺はお前の兄貴だぞ」
瞬間、玄鳥は感激と安堵がミックスされた半分泣きそうな笑顔で、
「……兄貴っ!!」
「うあっ」
いきなり紅朱を思いきり抱き締めてきた。
「ありがとう! 兄貴っ!!」
「なっ、離せバカ野郎! 見られまくってんだろうが!!」
あまつさえ玄鳥の腕にちょうどよくすっぽり収まってしまう自分の体型を疎みながら、紅朱は必死に逃れ出た。
「……ったく、大袈裟なんだよ、お前は」
「ごめん……けど、俺はもしかして兄貴も日向子さんのこと気になってたらどうしようかって思ってたからさ……」
「……あのなぁ、んなこと……」
ふと。
紅朱の頭の中に、日向子が現れる。
微笑んだ日向子。
涙を浮かべた日向子。
すねた顔。
恥じらう顔。
鳥のさえずるような澄んだ声。
触れた時の髪や肌の柔らかさ。
真っ直ぐに見つめてくる大きな瞳。
「……あるわけ、ねェだろ」
そうだ。
意識したことなどなかった。
これまでは一度も。
そしてこれからも……?
正体のはっきりしないもやもやを胸の真ん中に感じながらも、紅朱は玄鳥に笑ってみせる。
「あ、そういや心配すんなよ。このことは他の奴らにはちゃんと黙っててやるからな」
「あの……すごく言いにくいんだけどさ。知らなかったのって……兄貴だけだよ?」
「あ?」
日向子は有砂を待っていた。
電話で、バイトが終わり次第そのまま真っ直ぐ迎えに来るから適当に時間を潰しているようにと言われていたので、12月を彩るイルミネーションを眺めながら、ふらふらと意味もなく街をぶらつく。
有砂のほうから連絡をしてくること自体が珍しく、しかもその内容が「話したいことがあるから付き合ってほしい」……だ。
声音が少し弱々しく聞こえたのは、バイト疲れのせいだけだったのか。
何かあったのだろうか。日向子は不安を感じていた。
「有砂様……」
名前を呟いた瞬間、日向子のすぐ横でふいに停車した車があった。
「有砂様?」
振り返ったがそれは有砂の車ではなかった。
艶やかなボディの薔薇色のフェラーリ。
「……やっぱり、水無子に似てる」
わずかに開いたウインドウから声が聞こえた。
男性の声だ。
「水無子……?」
日向子はその名を聞き留めて、目をしばたかせた。
「わたくしの母が水無子ですけれど……」
「母っ? ほんならキミ、水無子の娘なん? えっ、ホンマに!?」
早口の関西弁がまくし立てたかと思うと、少々乱暴に運転席側のドアが開け放たれた。
「そら生き写しも無理ないか、高槻センセーの遺伝子は一体どこいってもたんやー?」
車から降りたのは、黒いロングコートを着た、背の高い、一見年齢不祥な男性だった。
雰囲気から恐らく日向子より10以上は年上であろうとは思われたが。
だがそれよりも、日向子は彼の着ているコートのほうに気をとられていた。
よく覚えている。
別れ際に、伯爵がまとっていたあのコートと全く同じデザインだ。
「あの……どなた様ですか?」
男性は、日向子を見下ろして楽しそうに笑う。
「僕なー、キミのママの昔の彼氏やねん」
「えっ?」
「ああ、ええね。その驚いた顔とかホンマそっくりやわ」
遠慮もなく伸ばされた左手のいくつものシルバーで飾られた五指が、日向子の右頬に触れる。
「実に、そそるね」
ダンッ、と突然鈍い音が辺りに響いた。
日向子と男性は同時に振り返り、
「まあ……っ」
「なぁっ……!!」
同時に叫び、顔色を変えた。
「ちょっ、オマエはなんちゅーことをっ、先月納車したばっかやねんぞ!?」
「……あんたこそ年甲斐もなく恥さらしな真似せんといてくれへんか?」
有砂だった。
日向子には先刻から展開があまりに急過ぎて、何が起きているのか整理しきれなかったが、どうやら先刻の音は、有砂がフェラーリのバンパーを蹴り上げた音だったようだ。
「お嬢」
「は、はい」
「危ないからこっち来とき」
「はあ……」
日向子はよくわからないまま、ひょこひょこと有砂の側に寄っていった。
「なんや、キミは佳人のタレやったん?」
「たれ?? あの、有砂様のお知り合いですか?」
有砂は不機嫌そうに舌打ちした。
「いや、思いっきり赤の他人や。ほっといて行くで、お嬢」
日向子の手首を掴んでとっとと歩き出そうとする有砂だったが、
「こーら、パパにそんな口聞いたらあかんやろ? 誰のおかげでそんな大きなった思てんねや」
「……パパ?」
「少なくともあんたのおかげやないやろ、クソ親父」
「おや、じ……?」
日向子は目を見開いて、有砂と男性を見比べた。
そうだ。
コートにばかり気を取られていたが、よく見れば男性のルックスは、ほとんど有砂の「未来予想図」のようだ。
「あの……あなたが、沢城秀人さん……?」
男性は微笑む。
「うん、そうやで♪ ちなみにキミの名前は?」
「あの……日向子、です」
「日向子か。カワイイ名前やんか~、キミにぴったりやん」
軽い口調で評しながら、
「はい、あげる」
差し出してきたのは名刺だった。
「僕のアトリエの住所、書いてあるからいつでも遊びに来てくれてええよ♪」
「はあ……」
「アホか、受け取らんでええって」
有砂はイライラした様子で日向子の手首を引っ張る。
「ほら、行くで」
「あっ……はい」
引きずられるようにして有砂に連行されながらも、日向子は少しだけ後ろを振り返った。
秀人は微笑を浮かべたままヒラヒラと手を振っていた。
日向子は軽く会釈だけを返して有砂に視線をスライドさせた。
静かな怒りをたぎらせている様子だ。
声をかけるのをためらってしまう。
日向子は受け取った名刺をとりあえずコートのポケットにしまいこんだ。
あの人が沢城秀人。
有砂や、美々や、菊人の実の父親。
「……驚いたやろ?」
有砂が口を開いた。
「……あれでもそこそこええ年やねんで。半世紀近く生きてもあんな調子や……昔からちっとも変わらへん。恥ずかしい奴や……」
日向子には秀人が見た目より遥かに年齢を重ねていることよりも、秀人が話に聞いてイメージしていたほど悪い人に見えなかったことのほうが意外だった。
だがけして、良い人に見えたというわけではない。
感じたのは、善悪の境界の曖昧な、子供のような危うさだ。
確かにあの人は、危険な人なのだろうと日向子は感じていた。
「お嬢」
「はい」
「間違ってもあのクソ親父と二人っきりで会ったりしたらあかんからな」
「はい、あの……有砂様、ところで今日は何を」
「今日はもうええ……気ィ削がれたから、ジブンをマンションまで送ったら帰るわ」
「……そう、ですか」
とても残念なことだ。
だが、今日は、ということは日を改めてまた話してくれるということだ。
日向子は頷いた。
「わかりました。またいつでもお話し下さいね?」
今一番会いたくない男と遭遇してしまったことにより、バイトの疲労感が一気に10倍に膨れ上がったようで、身も心も重く感じながら有砂は帰宅した。
いい加減深い時間となっていたが、蝉のバイクがないようだった。
蝉が釘宮やスノウ・ドームの事情で遅くなることはよくあるが、いつも必ず帰宅連絡をよこしてくる。
何か、引っ掛かるものを感じた。
そしてそれが杞憂ではないことを、有砂はダイニングルームで、知った。
顔に似合わず達者な文字で記されたあまりにも短い、伝言。
「……あのアホ……」
有砂は奥歯を噛んで、ぐしゃっ、とメモ握り潰した。
『よっちんへ
今までありがとう
おれはやっぱり
釘宮漸、として
生きていくことにします
勝手でごめん
heliodorと
あの娘をよろしくね』
《第8章へつづく》
2007/08/14 (Tue)
一次創作関連
約束の駅前広場のベンチ。
「ごめんごめん、ちょっと遅刻だね」
いつも通りの笑顔で小走りに美々が駆け寄ってくる。
「いいえ、わたくしも今来たばかりですわ」
「そっか。どこ行く?」
「そうですわね……先月行ったエスニックのお店などはいかがですか?」
「いいね、そうしよう」
美々があまりにもいつもと変わらないことに、日向子は少しの安堵と大きな違和感を感じた。
先に立って歩き出した背中にそっと問掛けるべく口を開く。
「……美々お姉さま? あの」
「日向子」
振り返らずに、美々は告げた。
「……写真、返さなくていいよ」
「え?」
予想もしない言葉だった。
「あんたにあげる。捨ててくれて、いいから」
振り返った美々はやはり、微笑んでいた。
痛々しいまでに明るい笑顔で。
「過去なんか、もういらない」
《第7章 秒読みを始めた世界 -knotty-》【4】
「よっちん……それ、ツッコミ待ち?」
「は? ……っ」
有砂は完全に巣のリアクションで、手にしていたものを洗面台の上に投げるように置いた。
それはどう見ても洗顔フォームで、蝉が声をかけなければ確実に有砂はそれを歯ブラシにつけて口に入れていたに違いない。
「間違えたの?」
「……うるさい」
先だってと真逆の状況に、蝉は苦笑し、有砂は気まずそうに目をそらした。
「疲れてんじゃん? 仕事、大変なんでしょ?」
「……そうやな」
有砂はあっさり肯定した。
ということは他に何か理由があるんだろうな、と蝉は思った。
聞いてやるべきだろうか?
聞いても答えてくれないかもしれないが。
「よっちん、あのさ……もし何かあったんならさ、相談……してくれていいよ?」
「……別に」
反応は予想通りだった。
相変わらず蝉の親友は、他人に甘えることがどこまでも苦手だ。
だが蝉はわかっていた。
今はもう、自分が必死になる必要はないということを。
「じゃあ……日向子ちゃんに聞いてもらいなよ」
「……別に、何もないゆうてるやろ」
「うん、わかった、わかった。おやすみ」
蝉はそれ以上何も聞かずに自室へ戻った。
灯りをつけることもなくベッドに無造作に身体を倒して、天井を見上げる。
「だよね……きっとおれは、手を貸さないほうがいい……」
シャワールームから漏れ聞こえてくる水音をBGMに瞼を閉じた。
「……だって……これからはもう……」
最大にひねったシャワーを頭から全身に浴びながら、有砂はきつく目を閉じ、うつむいていた。
歪に痕を残す胸元に、右の手を当てる。
「……っ」
傷痕に爪を立てて、ぎりぎりとつき立てる。
えぐれた肌ににじんだ赤い液体は、豪雨のようなシャワーの水流にすぐに洗い流されていく。
「……さ……」
呟いた名前もかき消され、ともに排水口へと吸い込まれた。
どこにも帰る場所のなくなってしまった写真を手帳にはさみ、バッグにしまう。
無意識に、溜め息をつく。
「……お姉さま……」
美々にとってそれが最良の選択ならば、仕方ない。
日向子は何度も自分にそう言い聞かせているが、心は少しも晴れてくれなかった。
そもそも、美々は昨夜までは確かに写真を取り戻したがっていたのだ。
それが土壇場になって「いらない」などと言い出したのは何故か?
理由があるに違いない。
だが美々はその理由を教えてはくれなかった。
今は無理でもいつかは……そう願って静観するしかないのかもしれない。
その時がくるまで大切に写真を保管しようと心に決めた。
「さて、お仕事ですわ」
気合いを入れて、スタジオのドアをくぐる。
「おはようございます!」
精一杯元気に挨拶すると、
「あ、おはようございます」
「おお、来たな」
今日の取材の相手である浅川兄弟が待ちかねていたというように日向子を迎え入れる。
今日は二人だけで新曲の製作ということで、その合間にカウントダウンライブと製作中の楽曲についてのインタビューを行うことになっていた。
「新曲というのは、カウントダウンで発表する曲なのですか?」
「いや、発表はもうちょっと後だな……桜が咲くまでにはってとこか」
「まあ随分先ですのね」
驚く日向子に、玄鳥が後ろ手に差し出したとっておきのプレゼントを満を持して差し出すような顔で告げる。
「今度の曲がおそらく、heliodorのインディーズデビュー曲になります」
「インディーズデビュー……CDになるのですか!?」
「かねてから声をかけて頂いていたインディーズレーベルの方と、3月リリースの予定で話を進めているところなんです」
それはheliodorにとって初の音源制作ということだ。
もともと彼等ほどのレベルのバンドが未だにCDはおろかデモテープのひとつも世に発表していないというのは極めて珍しいことだった。
ファンはもちろんのこと、業界的にも長く待ちわびた決断だ。
「新生heliodorが活動開始して丁度2年だ。頃合いだと思ってな」
以前美々に聞いた話によれば、heliodorには、デビューの話が一度持ち上がっていたという。
だが粋の脱退に伴う活動休止で立ち消えとなった。
恐らくはあの曲、「Melting snow」がそうなのではないか。
それを日向子が問うと、紅朱は首を縦にした。
「俺にとっても思い入れのある曲なんだ、あれは……出来れば音源として発表したかった。
だが新生heliodorが、昔のメンバーの曲でデビューするわけにはいかねェだろ。
だから、カウントダウンライブで演奏して供養することにしたんだ」
紅朱がかの曲を演奏することにしたのは、実に前向きな趣向からだったのだ。
日向子は感心していた。
「新曲は一体どのような曲になるのですか?」
身を乗り出す日向子に、兄弟は顔を見合わせて笑った。
「それはまだ内緒です」
「ま、曲が完成すんのをいい子で待ってろよ」
「まあ」
日向子はわざとらしく怒ったような顔をして見せた。
「お二人とも意地悪ですのね」
すぐに笑ってしまったが。
紅朱と、玄鳥と。
3人で微笑みを交していると、心の支えが少しとれて楽になるような気がした。
「さてと……なんか腹減ったな。そろそろメシ行くか?」
紅朱の言葉に時計を見やると、いつの間にか19時を回ろうとしていた。
「日向子さんも一緒に行きますよね?」
玄鳥の問掛けに日向子はもちろん満開の笑顔で答えた。
「はい、もちろんですわ。ご一緒させて下さいませ」
3人で過ごす、穏やかな安らぎに満ちた時間。
それがこの日を境に失われてしまうことを、今はまだ誰も知らない。
何度も書き直した手紙は、書き直す度にシンプルなものになっていった。
言い訳をくどくど書き列ねてもなんにもならないような気がした。
「これで、いいか」
最終的には本当に短いメッセージとなってしまったそれを、蝉はダイニングのテーブルに置いた。
「……少しは……」
かすれた声で呟く。
「……寂しがるかな……」
ふっと苦笑する。
あまりにも図々しい願望だと思った。
蝉はうつむきながら、テーブル脇のゴミ箱を覗いた。
今しがた蝉自身がそこへ葬った品が恨めしげに蝉を見上げていた。
オレンジ色のウイッグ。
ジャラジャラとストラップのついた携帯電話。
その他こんな小さなゴミ箱には入りきらないほとんどの私物をこの部屋に置き去りにするのだ。
「……ごめんね……」
バイクの鍵や財布以外、ほとんど手ぶらに近い状態で、蝉は部屋を出た。
部屋の鍵をしっかり閉めると、しばらく握り締めていたその鍵をドアポストから、ストン、と落とす。
「……っ……」
早足で歩き出す。
「……紅朱……」
涙が滲む。
「……玄鳥……」
視界がぼやける。
「……万楼……」
胸が詰まる。
「……よっちん……」
息が苦しい。
「……日向子ちゃんっ……」
痛い。
「さよなら」
「……え?」
急に日向子は立ち止まり、後ろを振り返った。
「どうかしましたか?」
心配そうに玄鳥が声を掛ける。
少し先を歩いていた紅朱も立ち止まった。
「いえ……なんとなく、どなたかに呼ばれたような気がしたのですけれど……」
キョロキョロ見渡したが、知人らしき者は全く見当たらない。
「気のせい……かしら?」
その時、タイミングを合わせたかのように日向子の携帯が振動した。
「あら……万楼様かしら?」
携帯に着信=万楼、といった図式が脳内に確立されつつある日向子の様子に、傍らの玄鳥は少し複雑な顔をしたが、
「まあ、珍しいですわ。有砂様からお電話なんて」
有砂からと判明していよいよ渋い顔をした。
一方紅朱は、
「少し店がこむ時間だから、俺と綾で先に行って席を取る。お前は電話が終わってからゆっくり来いよ」
と気遣いを見せ、日向子もそれを承知した。
実は二人の電話の内容が気になって仕方ない玄鳥も、やむをえず兄について先に歩き出した。
「なんで怒ってんだ? お前」
自分のグラスを引き寄せながら、紅朱が問う。
当然のように紅朱がチョイスしたラーメン屋で、テーブル席を何とか確保した兄弟は対面に座っていた。
玄鳥はお冷やを一気飲みして空のグラスをどん、とテーブルに置いた。
振動で、テーブルの真ん中で待ち惚ける3杯目が、その水面をふるふる震わせた。
「やっぱり俺、有砂さんのことは信用できない」
「脈絡なく不穏当なこと言ってんじゃねェよ。うっかり日向子が聞いたら確実にしょげるぞ」
「……ごめん。けど」
玄鳥は険しい顔で目を伏せる。
「あの人はやっぱり、女性に対していい加減で冷た過ぎると思う。
昨日だって、ただならない雰囲気の女の人が声を掛けてきてて……多分、過去に関係のあった女性なんだろうけど……それを、あんな言い方して」
「どんな言い方だか知らねェが、あいつのそういうところは昔からだろ。
最近はマシんなったほうじゃねェか。今更何カリカリしてんだ」
「っ、それは日向子さんがっ」
「わたくしが?」
「えっ」
いつの間にかテーブル横に立っていた日向子が興味深そうに玄鳥を大きな瞳で見つめていた。
「わたくしが、どうなさいましたの?」
「いや……なんでもないんで。その、どうぞ……座って下さい」
日向子は不思議そうに玄鳥を見つめていたが、促されるままに……座った。
「……あ」
玄鳥は少し目を見開いて、短く声をもらした。
日向子は自然に、とても自然に座った。
紅朱の隣の席に。
「ん? どうかしたか?」
品書きを見ながら呑気に問掛ける紅朱は、おそらく何も特別な感想は抱いていない。
だが玄鳥の頭の中には、先日の万楼の言葉がまざまざと蘇っていた。
――無意識なあたりが更にジェラシーだなあ
「……本当、だよな……」
「はい? 何か、おっしゃいましたか?」
「綾、お前も早く注文決めろよ」
どこまでも無邪気な二人に、玄鳥は追い詰められていた。
《つづく》
「ごめんごめん、ちょっと遅刻だね」
いつも通りの笑顔で小走りに美々が駆け寄ってくる。
「いいえ、わたくしも今来たばかりですわ」
「そっか。どこ行く?」
「そうですわね……先月行ったエスニックのお店などはいかがですか?」
「いいね、そうしよう」
美々があまりにもいつもと変わらないことに、日向子は少しの安堵と大きな違和感を感じた。
先に立って歩き出した背中にそっと問掛けるべく口を開く。
「……美々お姉さま? あの」
「日向子」
振り返らずに、美々は告げた。
「……写真、返さなくていいよ」
「え?」
予想もしない言葉だった。
「あんたにあげる。捨ててくれて、いいから」
振り返った美々はやはり、微笑んでいた。
痛々しいまでに明るい笑顔で。
「過去なんか、もういらない」
《第7章 秒読みを始めた世界 -knotty-》【4】
「よっちん……それ、ツッコミ待ち?」
「は? ……っ」
有砂は完全に巣のリアクションで、手にしていたものを洗面台の上に投げるように置いた。
それはどう見ても洗顔フォームで、蝉が声をかけなければ確実に有砂はそれを歯ブラシにつけて口に入れていたに違いない。
「間違えたの?」
「……うるさい」
先だってと真逆の状況に、蝉は苦笑し、有砂は気まずそうに目をそらした。
「疲れてんじゃん? 仕事、大変なんでしょ?」
「……そうやな」
有砂はあっさり肯定した。
ということは他に何か理由があるんだろうな、と蝉は思った。
聞いてやるべきだろうか?
聞いても答えてくれないかもしれないが。
「よっちん、あのさ……もし何かあったんならさ、相談……してくれていいよ?」
「……別に」
反応は予想通りだった。
相変わらず蝉の親友は、他人に甘えることがどこまでも苦手だ。
だが蝉はわかっていた。
今はもう、自分が必死になる必要はないということを。
「じゃあ……日向子ちゃんに聞いてもらいなよ」
「……別に、何もないゆうてるやろ」
「うん、わかった、わかった。おやすみ」
蝉はそれ以上何も聞かずに自室へ戻った。
灯りをつけることもなくベッドに無造作に身体を倒して、天井を見上げる。
「だよね……きっとおれは、手を貸さないほうがいい……」
シャワールームから漏れ聞こえてくる水音をBGMに瞼を閉じた。
「……だって……これからはもう……」
最大にひねったシャワーを頭から全身に浴びながら、有砂はきつく目を閉じ、うつむいていた。
歪に痕を残す胸元に、右の手を当てる。
「……っ」
傷痕に爪を立てて、ぎりぎりとつき立てる。
えぐれた肌ににじんだ赤い液体は、豪雨のようなシャワーの水流にすぐに洗い流されていく。
「……さ……」
呟いた名前もかき消され、ともに排水口へと吸い込まれた。
どこにも帰る場所のなくなってしまった写真を手帳にはさみ、バッグにしまう。
無意識に、溜め息をつく。
「……お姉さま……」
美々にとってそれが最良の選択ならば、仕方ない。
日向子は何度も自分にそう言い聞かせているが、心は少しも晴れてくれなかった。
そもそも、美々は昨夜までは確かに写真を取り戻したがっていたのだ。
それが土壇場になって「いらない」などと言い出したのは何故か?
理由があるに違いない。
だが美々はその理由を教えてはくれなかった。
今は無理でもいつかは……そう願って静観するしかないのかもしれない。
その時がくるまで大切に写真を保管しようと心に決めた。
「さて、お仕事ですわ」
気合いを入れて、スタジオのドアをくぐる。
「おはようございます!」
精一杯元気に挨拶すると、
「あ、おはようございます」
「おお、来たな」
今日の取材の相手である浅川兄弟が待ちかねていたというように日向子を迎え入れる。
今日は二人だけで新曲の製作ということで、その合間にカウントダウンライブと製作中の楽曲についてのインタビューを行うことになっていた。
「新曲というのは、カウントダウンで発表する曲なのですか?」
「いや、発表はもうちょっと後だな……桜が咲くまでにはってとこか」
「まあ随分先ですのね」
驚く日向子に、玄鳥が後ろ手に差し出したとっておきのプレゼントを満を持して差し出すような顔で告げる。
「今度の曲がおそらく、heliodorのインディーズデビュー曲になります」
「インディーズデビュー……CDになるのですか!?」
「かねてから声をかけて頂いていたインディーズレーベルの方と、3月リリースの予定で話を進めているところなんです」
それはheliodorにとって初の音源制作ということだ。
もともと彼等ほどのレベルのバンドが未だにCDはおろかデモテープのひとつも世に発表していないというのは極めて珍しいことだった。
ファンはもちろんのこと、業界的にも長く待ちわびた決断だ。
「新生heliodorが活動開始して丁度2年だ。頃合いだと思ってな」
以前美々に聞いた話によれば、heliodorには、デビューの話が一度持ち上がっていたという。
だが粋の脱退に伴う活動休止で立ち消えとなった。
恐らくはあの曲、「Melting snow」がそうなのではないか。
それを日向子が問うと、紅朱は首を縦にした。
「俺にとっても思い入れのある曲なんだ、あれは……出来れば音源として発表したかった。
だが新生heliodorが、昔のメンバーの曲でデビューするわけにはいかねェだろ。
だから、カウントダウンライブで演奏して供養することにしたんだ」
紅朱がかの曲を演奏することにしたのは、実に前向きな趣向からだったのだ。
日向子は感心していた。
「新曲は一体どのような曲になるのですか?」
身を乗り出す日向子に、兄弟は顔を見合わせて笑った。
「それはまだ内緒です」
「ま、曲が完成すんのをいい子で待ってろよ」
「まあ」
日向子はわざとらしく怒ったような顔をして見せた。
「お二人とも意地悪ですのね」
すぐに笑ってしまったが。
紅朱と、玄鳥と。
3人で微笑みを交していると、心の支えが少しとれて楽になるような気がした。
「さてと……なんか腹減ったな。そろそろメシ行くか?」
紅朱の言葉に時計を見やると、いつの間にか19時を回ろうとしていた。
「日向子さんも一緒に行きますよね?」
玄鳥の問掛けに日向子はもちろん満開の笑顔で答えた。
「はい、もちろんですわ。ご一緒させて下さいませ」
3人で過ごす、穏やかな安らぎに満ちた時間。
それがこの日を境に失われてしまうことを、今はまだ誰も知らない。
何度も書き直した手紙は、書き直す度にシンプルなものになっていった。
言い訳をくどくど書き列ねてもなんにもならないような気がした。
「これで、いいか」
最終的には本当に短いメッセージとなってしまったそれを、蝉はダイニングのテーブルに置いた。
「……少しは……」
かすれた声で呟く。
「……寂しがるかな……」
ふっと苦笑する。
あまりにも図々しい願望だと思った。
蝉はうつむきながら、テーブル脇のゴミ箱を覗いた。
今しがた蝉自身がそこへ葬った品が恨めしげに蝉を見上げていた。
オレンジ色のウイッグ。
ジャラジャラとストラップのついた携帯電話。
その他こんな小さなゴミ箱には入りきらないほとんどの私物をこの部屋に置き去りにするのだ。
「……ごめんね……」
バイクの鍵や財布以外、ほとんど手ぶらに近い状態で、蝉は部屋を出た。
部屋の鍵をしっかり閉めると、しばらく握り締めていたその鍵をドアポストから、ストン、と落とす。
「……っ……」
早足で歩き出す。
「……紅朱……」
涙が滲む。
「……玄鳥……」
視界がぼやける。
「……万楼……」
胸が詰まる。
「……よっちん……」
息が苦しい。
「……日向子ちゃんっ……」
痛い。
「さよなら」
「……え?」
急に日向子は立ち止まり、後ろを振り返った。
「どうかしましたか?」
心配そうに玄鳥が声を掛ける。
少し先を歩いていた紅朱も立ち止まった。
「いえ……なんとなく、どなたかに呼ばれたような気がしたのですけれど……」
キョロキョロ見渡したが、知人らしき者は全く見当たらない。
「気のせい……かしら?」
その時、タイミングを合わせたかのように日向子の携帯が振動した。
「あら……万楼様かしら?」
携帯に着信=万楼、といった図式が脳内に確立されつつある日向子の様子に、傍らの玄鳥は少し複雑な顔をしたが、
「まあ、珍しいですわ。有砂様からお電話なんて」
有砂からと判明していよいよ渋い顔をした。
一方紅朱は、
「少し店がこむ時間だから、俺と綾で先に行って席を取る。お前は電話が終わってからゆっくり来いよ」
と気遣いを見せ、日向子もそれを承知した。
実は二人の電話の内容が気になって仕方ない玄鳥も、やむをえず兄について先に歩き出した。
「なんで怒ってんだ? お前」
自分のグラスを引き寄せながら、紅朱が問う。
当然のように紅朱がチョイスしたラーメン屋で、テーブル席を何とか確保した兄弟は対面に座っていた。
玄鳥はお冷やを一気飲みして空のグラスをどん、とテーブルに置いた。
振動で、テーブルの真ん中で待ち惚ける3杯目が、その水面をふるふる震わせた。
「やっぱり俺、有砂さんのことは信用できない」
「脈絡なく不穏当なこと言ってんじゃねェよ。うっかり日向子が聞いたら確実にしょげるぞ」
「……ごめん。けど」
玄鳥は険しい顔で目を伏せる。
「あの人はやっぱり、女性に対していい加減で冷た過ぎると思う。
昨日だって、ただならない雰囲気の女の人が声を掛けてきてて……多分、過去に関係のあった女性なんだろうけど……それを、あんな言い方して」
「どんな言い方だか知らねェが、あいつのそういうところは昔からだろ。
最近はマシんなったほうじゃねェか。今更何カリカリしてんだ」
「っ、それは日向子さんがっ」
「わたくしが?」
「えっ」
いつの間にかテーブル横に立っていた日向子が興味深そうに玄鳥を大きな瞳で見つめていた。
「わたくしが、どうなさいましたの?」
「いや……なんでもないんで。その、どうぞ……座って下さい」
日向子は不思議そうに玄鳥を見つめていたが、促されるままに……座った。
「……あ」
玄鳥は少し目を見開いて、短く声をもらした。
日向子は自然に、とても自然に座った。
紅朱の隣の席に。
「ん? どうかしたか?」
品書きを見ながら呑気に問掛ける紅朱は、おそらく何も特別な感想は抱いていない。
だが玄鳥の頭の中には、先日の万楼の言葉がまざまざと蘇っていた。
――無意識なあたりが更にジェラシーだなあ
「……本当、だよな……」
「はい? 何か、おっしゃいましたか?」
「綾、お前も早く注文決めろよ」
どこまでも無邪気な二人に、玄鳥は追い詰められていた。
《つづく》